アフロ記者 みんな笑顔! ご近所を大切にする街ポートランド

23/05/20まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/04/13

#アフロ記者#ライフスタイル#ワールド

暮らしを豊かにする達人たちに話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。今回は、アメリカのポートランドより。2週間旅行して気がついた、街の人が笑顔な理由とは? (聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

人が幸せになれば自分も幸せになる

――稲垣さん、こんばんは。

稲垣: こん……こんばんは。

――日本では「こんばんは」なんですが、実は、稲垣さんは今、アメリカにいらっしゃる。

稲垣: そうなんです。「令和つれづれ草」初のスペシャル編ということで。海外中継、ただ電話しているだけですけど(笑)。旅行で、アメリカのオレゴン州・ポートランドというところへ来ておりまして、だいたい2週間くらい旅行して、あした帰るんです。

――では、もう2週間近く過ごされていたのですね。ちなみに、今の時刻は?

稲垣: 今は朝の7時です。こっちは朝が遅くて、6時ぐらいにならないと明るくならないのですが、ちょうど明るくなってきたころですね。

今、滞在先からお電話をしておりまして、滞在先といっても、ホテルではなくて。私は、最近、海外に行くときは「民泊」でずっと滞在して、東京と同じように自炊して、昼はカフェ行って、原稿を書いて……という日本と同じ生活をして、帰ってくるパターンなんです。レストランは1軒も行かず、観光も全然せず、という旅行です。今回の滞在先が、芝生がある一軒家。映画でしか見たことなかったんですが、そういうお家の地下部分を間借りしておりまして。

――地下ですか。

稲垣: 半地下ですね。窓が上のほうにあるんですけど、半地下にスペースがあって。大きくて広いんですよ。寝室だけで、私の東京の家より広い。すごい家なんです。あと、もう1つスペシャルなのが、目の前に、グランドピアノがあります。これは弾き放題で。

――半地下でグランドピアノが弾けるようになっている。

稲垣: 日本だと、防音の観点からそうなんですが、たぶん、それと関係なく広いから。

――どんなピアノなんですか?

稲垣: スタインウェイですね。

――すごいですね!

稲垣: しかも100年前のスタインウェイで。家主さんのおばあさまが、1930年代くらいのコンサートピアニストだったそうです。その方の持ち物だったらしいです。それを弾き放題なのは、とんでもなく幸せな環境でして。

――そのピアノが目の前に。

稲垣: 本当は、ここで1曲弾きたいところなんですけど……(笑)。朝早くて、弾くのは8時から、というルールがあって。非常に残念ながら。

――残念ですね……。

稲垣: 本人は全然弾きたくないので、ほっとしていますけど(笑)。このような環境の中で、電話をしております。
きょうはせっかくなので、ポートランドの話をしようと思うんです。

――どうして、ポートランドに行こうと思ったのか、聞きたいです。

稲垣: 実は私、アメリカすら来たことなくて「人生初アメリカ」なんです。ニューヨークとか、いろいろメジャーなところがある中で、なぜ、ポートランドなのかというと、ずっとあこがれの場所でして。アメリカって、私の浅いイメージでは、車社会とか、大量生産・大量消費みたいなイメージなんですが、ポートランドは、ちょっとに変わっていて、歩き、あるいは自転車で暮らせる街づくりをずっとやっている場所なんです。地元の方も、地元資本の小さいお店で、買い物を意図的にやっていたり、農産物も地産地消をずいぶん前から取り組んでいるという、言ったらアメリカっぽくない街なんです。これは「ご近所を大切にする街」とも言えるじゃないですか?

――徒歩と自転車で暮らせる街、というのは、稲垣さんのふだんやっている生活と近いですね。

稲垣: ここでもよくお話している、東京でやっている暮らしと目指しているものが同じで。ここに旅行に来て滞在して、いつもと同じような生活をしていたら、もしかして、東京の今の私の暮らしと同じように、顔見知りが増えたりして、旅行者とはいえ、温かく暮らせるんじゃないかなという妄想があって、1回来てみたいと、ずっと思っていました。そして、やっとコロナが落ち着いてきたので、行こうと。また、ピアノがある部屋を見つけちゃったのもあって。

――ちょうどすごくいい部屋があって。

稲垣: それで来てみたんです。

――実際に行ってみて、どんな印象ですか?

稲垣: 妄想が実現した通りで、今も毎日、近くのカフェに通って、朝に原稿を書いているのですが、店の人も顔を覚えていて、帰りがけに手を振ってくれたりとか、最近は「どこから来たの?」と、常連さんがよく会話なさっているのですが、私もその常連さんっぽいような感じで、全然できない英語で、一生懸命会話をするみたいな。午後は、図書館が近くにあるので、そこで仕事をしているのですが、司書の方も、私を見ると小さく手を振ってくれたりとか、本当フレンドリーなんですね。

――稲垣さん、大人気ですね。

稲垣: 私が人気というか、たぶん、そういう文化なんだと思うんですね。東京で、近くの豆腐屋さんや米屋さんに行っていると、だんだん知り合いになって、ちょっと雑談する感じとまったく一緒だなって思って。あと、それだけじゃなくて、道ですれ違う方も、皆さん、絶対にニッコリしてくれるんですね。

――いい街ですね。

稲垣: 「ハロー」とか、「きょうはいい天気だよね」とか、「気をつけて行ってきてね」とか、全然知らない人なんですけど、必ず声をかけてくれるんです。東京で暮らしているところは、おじいちゃん・おばあちゃんが主なんですが、「行ってらっしゃい」とか、「こんにちは」と言われるのと一緒だなって、こんなところ、アメリカにもあるんだなって思い、大変幸せです。

ただ、何でこんな奇跡のような街があるのかって、思うじゃないですか? もちろん2週間しかいないので、解明したわけではないですが、自然にこうなっているわけではないな、と感じることが多くて。普通のお家とか、普通の喫茶店とかに看板があるんですね。何が書かれているかというと、日本でも有名になった「ブラック・ライヴズ・マター」の看板がたくさん出ているんです。それだけじゃなくて、「互いに愛を持ちましょう」「いつでも頼ってくださいね」「私は、ホームレスの人の味方です」とか、お店だと「どんな人種の人も、どんな肌の色の人も、どんな国の人も、どんな障害がある人も歓迎します」みたいな。「ここに来れば、あなたは安全です」みたいな貼り紙があるんですよ。

皆さんが、意図的にそういう街づくりをしようとしていることが、よく分かるんですね。私、それを見て、すごく教えられたのですが、日本でも街おこしがありますが、日本の街おこしは「名物を作ろう」とか「産業を誘致しましょう」みたいな経済の話だと思うんですけど、ポートランドはそうじゃなくて、街づくりの第一歩が「弱い人を応援しよう」ということなんですね。実際、かけ声だけじゃなくて、私も英語ができないし、マゴマゴしているし、弱い人だと思うんですけど、すごく助けてもらえるんですね。マゴマゴしていると、優先してくれたりとか、おつりを分かりやすく数えてくれたりとか、見守られている感じがあって。私だけじゃなくて、ホームレスっぽい人もいるんですけど、その人たちに、すごくみんな親切なんですよ。いつも行くカフェでも、同じホームレスの人がいつも来ていて、普通だと迷惑っぽくする場合もあると思うのですが、店の子も大歓迎で、「きょうも元気?」とか声をかけてて。

――看板に書いてあることを、本当に実践している。

稲垣: だから、ホームレスの人も元気で。私もよく挨拶されて。私もですけど、そうやって優しくされていると、弱い人も、元気になってきて笑顔になるじゃないですか? だから、みんな笑顔なんですよ。自分が幸せになるだけじゃなくて、人が幸せになれば、自分も自動的に幸せになるみたいな、そういう哲学みたいなのを教えられて、なるほどと思ったお話です。

――稲垣さんがよくお話してくださった「孤独」は、自分の心の中にあって、向こうから歩いてくる人のことを受け入れようという気持ちでいれば、孤独じゃなくなりますよね。

稲垣: 「自分が優しくしてもらえることを待っている」だけじゃなくて、「自分から弱っている人を元気にしてあげると、自分が元気になる」という法則を実践しているというか、街全体がそうやっていて、奇跡のような場所ですね。

――私も行ってみたくなりました。

稲垣: ポートランドは、すごい衝撃を受けますね。本当にアメリカだな、というのもありますよね。ムーブメントとしてみんな頑張ってやる感じが、やせても枯れても、アメリカの強さなんだなと思いました。

――2週間、ポートランドに行かれてよかったですね。

稲垣: そうですね。ただ、毎日雨ですけどね。しかも、寒いんですよね。

――そんな中でも、笑顔があふれているのはうれしいですよね。

稲垣: だからかもしれないですね。厳しい環境だから、助け合うのがあるのかもしれません。

――ポートランド朝7時台の稲垣さんと、電話をつないで話を伺いました。次回は日本からになりますね。

稲垣: 日本の深夜のお電話で、またお会いしたいと思います。

【放送】
2023/04/13 ラジオ深夜便「ライフスタイル 令和つれづれ草」 稲垣えみ子さん(元新聞記者)

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