深呼吸って奥が深い? ~完全呼吸法~

23/12/12まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/07/26

#医療・健康#カラダのハナシ#ココロのハナシ

健やかな暮らしのヒントをお送りする「からだの知恵袋」。心の健康をテーマに、リラックスやリフレッシュにつながる瞑想(めいそう)法をご紹介しています。
今回のテーマは深呼吸。意識的に深く呼吸する心がけについて、放送内容を短くまとめておさらいします。
禅僧で医師の川野泰周(かわの・たいしゅう)さんに話を伺いました。(聞き手:齊藤佳奈ディレクター)

川野泰周さん

【出演者】
川野:川野泰周さん(林香寺住職、精神科・心療内科医)

呼吸が「浅く」なっている?

――きょうのテーマは深呼吸ということなんですけれども、改めて、なぜこの話題を?

川野:
はい。新型コロナウイルス感染症の流行以来、私たちの暮らしにはマスクがより密接に関わるようになりましたね。緩やかになったとはいえ、マスクをすべき場所と思ったところではするという意識があると思います。そして、長らく続いたマスク生活で指摘されているのが「浅い呼吸」なんです。マスクの下では息苦しさから呼吸の回数が増え、その分、1回1回が浅くなるということです。医療現場では、「浅呼吸(せんこきゅう)」と言います。

――「深い」の反対で「浅い」ということですね。

浅い呼吸が招く不調

川野:
この浅呼吸、実はいろいろと心身の不調を招く要因になることもあるんです。
例えば、浅い呼吸では肺が本来持っている換気能力を使い切ることができないため、体全体への酸素供給が低下しがちです。酸素は細胞のエネルギー生成に必要不可欠ですから、その供給が不十分になると、慢性的な疲労感や集中力の低下などの問題が生じる可能性があるのです。
また、浅呼吸はストレスや不安と関連しています。もちろん、心理的なストレスや不安が強いために呼吸が浅く速くなることもありますが、逆に浅呼吸自体が心身にストレスを与え、不安を引き起こす可能性も考えられます。さらに怖いことに、長期間に渡る浅呼吸が、心臓や血管系の疾患リスクを高める可能性も指摘されています。呼吸が浅いと体全体に十分な酸素供給ができないことは先ほどお話しましたが、そうなると心臓は酸素を全身に送り届けるためによりハードに働こうとするため、血圧の上昇を招いたり、心臓自体への負担が増加したりするリスクがあるのです。

――深いか、浅いか、でそこまで体に影響があるのですね。

川野:
そのほかにも、免疫系の低下や肩こり、腰痛の原因になる可能性もあるとされています。近年では、長時間テレワーク環境でデスクワークを続ける人も増えていますから、姿勢が丸まって横隔膜を動きづらくさせ、ますます浅呼吸が深刻化していると言えるでしょう。

――生活習慣の見直しを含め、これは意識的に呼吸を深くしたくなりますね。

「お経」で発声してみよう

川野:
そこで、僧侶としての私の立場からお勧めしたいのは、「お経を詠む」という習慣です。もちろんお経というのは、本来ブッダの教えを学び伝えるという役割、歴代の祖師(そし)たちへの敬意や信仰の表現としての役割、あるいは死者の魂を弔うといった役割を持っています。

――ですね。軽々しくやっちゃっていいのかな…?

川野:
でも、禅の修行においては、それらの役割に加えて、お経には一心に声を出すことに意識を集中させる、いわばマインドフルネスの瞑想としての役割や、心身を活発な状態に調える役割を持っていると、私は考えています。
私が鎌倉にある建長寺の修行道場「建長僧堂」で経験させていただいた修行生活においても、坐禅を重んじる禅の実践の場でありながら、朝起きて最初に行う修行は坐禅ではなく、本堂での「朝のお勤め」、つまり大きな声で読経をすることでした。約1時間、冬でも汗ばむくらいに一生懸命に声を出して全員でお経を詠むことによって、心身は活性化され、また新たな一日を精一杯生きようと自覚することができました。

大きな声を出すには、たくさん息を吸い込まないとなりません。つまり、お経を唱えること自体が、安定した深い呼吸をもたらし、心身を調える実践法になっているのかもしれません。

――なにか、私たちが詠んでも差し支えないお経ってあるんですか?

川野:
そうですね。禅宗の考え方では、一般の方が詠んではいけないお経、というのは規定されていないと思います。ただ、どなたにも簡単に詠めるお経に「四弘誓願文(しぐせいがんもん)」という、短い4つのフレーズでできたお経があります。詠んでみますね。

衆生無辺誓願度(しゅじょうむへん せいがんど)
煩悩無盡誓願断(ぼんのうむじん せいがんだん)
法門無量誓願学(ほうもんむりょう せいがんがく)
仏道無上誓願成(ぶつどうむじょう せいがんじょう)

悩み苦しむ人は限り無いけれど、誓って救おうと願います
煩悩は尽きることないけれど、誓って断ち切ろうと願います
教えは計り知れぬほどあるけれど、誓って学んでゆこうと願います
仏道はこの上ないものだけれど、誓って成し遂げんと願います

これは禅宗だけでなく、日本のいろいろな宗派のお坊さんに大切にされているお経で、「菩薩」、つまり自ら修行をしながらも、困っている人、苦しんでいる人を助けようともする、尊い生き方を説いたお経なんです。私も日頃のご法要などで最後に締めくくりのお経として上げさせていただくことが多くございます。皆さんにも、1日の始まり、あるいは、お休み前のひと時などに、声に出して詠んでいただけたらと思っています。

ヨガの世界の呼吸法

川野:
さて、さまざまな心身の調整法を古くから伝えてきた、「ヨガ」(あるいは「ヨーガ」)の世界でも呼吸法は非常に大事にされています。
ヨガの世界では呼吸法のことを「プラナヤマ」あるいは「プラーナーヤーマ」と呼びます。自らの生命エネルギーを調えるという意味だそうですが、近年では科学的な検証が進んで、実際にこうした呼吸法がストレス緩和、集中力の向上、精神面の安定、さらには心肺機能の向上や高血圧に対する効能などが確認されています。
きょうは、そんなヨガの呼吸法の中から、「完全呼吸法」という実践法をご紹介します。完全呼吸法とは、腹式呼吸、胸式呼吸、そして鎖骨呼吸という3種類の呼吸を全て取り入れた深い呼吸で、心身を洗い清める効果があるとされています。

実践「完全呼吸法」

「腹式呼吸」・「胸式呼吸(肋骨や肺を意識して行う呼吸)」・「鎖骨呼吸(肩を上下させる呼吸)」の3つの呼吸法をつなげて行う呼吸法。それぞれを感じやすくするために、両手をお腹、胸に当てて行ってもよいでしょう。
(♪BGM:広橋真紀子「静けさの彼方で」)

姿勢:
床やいす、ソファーなどに楽に座って、軽く背筋を伸ばして姿勢を調えます。

息を吸う…「お腹」→「胸」→「肩」の順に:
・まず一度、鼻から深く息を吐きます。
 最後まで息を吐き切るために、おへそを引き込むようにお腹をへこませます。
・お腹の力を緩めて息を吸います。(お腹を自然に膨らませるイメージ)
・今度は、胸にも空気を入れていきます。(胸を広げながら息を吸い続けます)
・さらに両方の肩が少し上がる程度にまで、深く息を吸い込みます。

息を吐く…「肩」→「胸」→「お腹」の順に:
・今度は息を解放していきます。ゆっくりと肩を引き下げるように息を吐きます。
・そのまま吐き続けて胸をしぼませていきます。
・下腹部の力を緩めながらさらに吐いて、体の空気をしぼりだすようにお腹をへこませます。

これを何回か繰り返しましょう。

川野:
いかがですか?

――目が覚めました…。

川野:
この完全呼吸法は、いわば「とっても丁寧に行う深呼吸」です。肺の機能を存分に使って酸素をしっかり取り込むことができますから、細胞の活性化、血行促進、基礎代謝の向上、脳活動の活性化、自律神経機能の調整、リラクゼーション、質の良い睡眠、そして疲労回復など、非常に多くの心身への効果が期待できるんですね。

――では、目が覚めたっていうのはなかなかいい反応ですね。

川野:
そうですね、しっかり実践できた証拠だと思いますね。

最後は元気の出る禅語

川野:
「活潑潑地(活発発地)」、「かっぱつぱっち」という、おもしろい響きの禅語があります。これは臨済宗の礎を築いた臨済禅師が記した「臨済録」という書物に登場する、禅の境地を示した言葉とされています。
生きがよく、ピチピチと躍り跳ねる魚の様子を表現しているとされ、禅僧のハツラツとして元気に満ちあふれたはたらきの様を示しています。
しっかりと声を出し、深く呼吸する。そんな習慣を日々の生活に取り入れて、皆さんにも是非、「活潑潑地」をご自身の心と体で表現していただければ嬉しく思います。

――ありがとうございました。


【放送】
2023/07/26 「ラジオ深夜便」

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