みんなでファクトチェック 第2回 選挙と偽情報

24/04/19まで

Nらじ

放送日:2024/04/12

#インタビュー#政治

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今、社会にあふれるさまざまな“偽情報”にどのように向き合うのか。いわば“偽情報の歩き方”をみんなで考える「みんなでファクトチェック」。ネットワーク報道部の足立義則デスクとお伝えします。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子 アナウンサー)

【出演者】
足立:足立義則デスク(ネットワーク報道部)

「選挙と“偽情報”」をみんなで考えよう

足立:
杉田さんは「みんなのニュース」で選挙の取り組みについて解説されていましたが、選挙報道の業務にたずさわって、どのくらいですか?

杉田:
NHKに入ってからずっと選挙の取材をしていますからね。31年くらいですね。

足立:
そんなに! 長いですね。
あえて聞きますが、選挙報道の魅力ややりがいというのは何ですか?

杉田:
やはり、その時その時に、人の気持ちが表れる、そこではないですかね。

足立:
選挙になると本当にみんな一生懸命ですよね。

杉田:
熱くなりますよね。

足立:
政党ももちろん、私たち有権者もそうですよね。

杉田:
ですから、今、低い投票率というのは、それはそこに気持ちが表れているともいえますよね。

足立:
そうした、さまざまな人の思いがこもっている選挙の「公正さ」や「公平性」にかかわってくる話である、「選挙と偽情報」について、今回は考えたいと思います。

高い関心が寄せられる「選挙の“偽情”」

足立:
選挙に関する偽情報は、大きく分けると二つあると思っています。
ひとつは「立候補者」や「政党」に関する偽情報。もうひとつは「選挙自体」の有効性についての偽情報です。
この「選挙自体」ということでは、先月行われた熊本県知事選挙でも、まだ開票作業が始まっていない午後8時に、テレビやネットで候補の当選確実が伝えられたことについて、「これ不正開票だよ」という内容が、XやSNSでかなりいわれました。
NHKも午後8時に当選確実を伝えていましたが、このこと自体を杉田さんは特に疑問には感じませんよね。

杉田:
NHKの方針としては、出口調査や事前の情勢取材などを総合的に判断して当選確実を打ち出していて、独自の判断として打ち出しているということです。

足立:
NHKは放送の中で、出口調査や事前の情勢取材などを総合的に分析して「当選確実」の判断をしたというように説明しています。
XなどSNSで盛り上がった批判の内容は、開票が始まっていない段階で「当選確実」を打つということは、先に選挙の結果がわかっていて、さらに結果が操作されているのではないか、という主張だと思われます。これについてかなり関心が高くて、熊本県知事選挙について不正選挙だというように主張するXのいくつかの投稿の閲覧回数は、合わせて2,500万回にもなっています。

杉田:
すごい数ですね。

足立:
もちろんこのなかには、信じている人、信じてない人、両方いらっしゃると思うのですが、かなり関心は高かったということは言えます。「不正開票」というだけではなくて、これまでも、票を数えて分類する機械に不正があるという主張もよく見られます。

杉田:
「自動読み取り機」というのがあるのですよね。

足立:
そうした点について、杉田さんは日本の選挙をどう見ていますか?

杉田:
ほかの国と比べますと、私が見る限りではかなり公正性は担保されているのではないかなとは思います。時々、信頼を損なうような事件はありますけれどもね。たとえば、投票用紙。任期期間中はきっちり保管されて、そこに「封印」というのがされて、許可がなければ絶対に開けてはいけない。開けると「封印破棄罪」に問われるというようなところまで、きちんと書いてあります。

杉田:
きちんと鍵のかかるところに保管されているということです。ですから、調べ直そうと思えば調べ直せる。紙に書いていますしね。あとで検証もできます。

足立:
選挙に関わっている人たちからすると、どうしてそんなことを? どうしてそんな主張が? と思われるかもしれませんが、こうした不正選挙に関する“偽情報”は、ときに非常に深刻な事態を招くことがあります。
その典型的な例というのが、2020年のアメリカ大統領選挙です。この選挙の最中に当時のトランプ大統領への票が不正に破棄された、投票用紙が道路に捨てられているように見える写真が拡散して、「これは不正選挙だ」ということがかなり言われました。結果として、「トランプ氏が敗北した」ことに対して不満を持った支持者らが、連邦議会議事堂に乱入して警察官を含む5人が死亡という歴史に残る事件になりました。
ですから詳しい人は、選挙の不正はなかなかないだろうという陰謀論ではないか、と取り合わないかもしれませんが、ここにやはり断絶が生じると、片方ではSNSなどに結びついた意見が不満を加速させて、取り返しのつかない事態に発展する。これは難しいところですよね。

杉田:
私たちも、そうした意見があるということには警戒していかなくてはいけないということですね。

足立:
もうひとつ注意しなければいけない偽情報は、立候補した「個人」や「政党」などに関するものです。これは、かなり個別具体的な内容のものも多くて、たとえばおととし行われた沖縄県知事選挙では、候補者が外国の特定の勢力と結び付いているといって、日本の新聞記事のリンクを紹介した。一見すると勘違いしてしまうような内容なのですが、実際にリンクをたどって先の記事の全文を見ても、そうした記述は全くない。よく見ればわかるのですけれども、それが拡散してしまうのですね。

柴田:
思い込んでいると、そのような間違った判断をする、ということなんですね。

足立:
選挙のときは特に注意したほうがよいと思うのですけれども、自分の支持している人や信じたいものに近い情報に目が行きがちになります。これは「確証バイアス」といいますが、自分の考えと同じであれば、元の情報をあまりよく読まなくても、間違った情報でも信じてしまいやすい。これがさらに進行すると、個別の情報は間違いかもしれないけれども、大筋で行動自体は正しいのだから支持する、ということにもなりかねない危うさがあります。
ただし、杉田さんもご存じだと思いますが、注意しないといけないのは、日本の公職選挙法では「虚偽事項公表罪」というものがありまして、当選させない目的で候補者に関する誤った情報を流した場合、罰金などを科すと定めています。名誉の棄損や業務の妨害があった場合は、それは罪に問われます。

杉田:
気を付けなくてはいけないですよね。

事態を深刻化させる「生成AI」

足立:
またさらに事態を深刻にしているのが、急速な技術の進歩精製AIによる偽の動画や音声、画像です。特に音声では、ことし1月に、アメリカのニューハンプシャー州でバイデン大統領によく似た音声で、予備選挙で投票しないよう呼びかける電話が、複数の住民にかかってきたことが明らかになっています。これもAIを使って作り出されたとみられているのです。

杉田:
やはり音声のほうが作りやすいってことになりますか?

足立:
今、本当に音声の技術というのは、本物と偽物の聞き分けが難しいレベルにまでなっています。一方で、このような選挙の偽情報については、定量的な調査というものがまだ十分にされていないところがありますので、実際の投票行動にどれだけ影響があるのかというのは、実ははっきりとわかっていないところはあります。ただ、先ほどお話ししたアメリカ大統領選挙のあとの「議会議事堂襲撃事件」という深刻な例もありましたので、私たちメディアの報道も大事です。
課題としては、偽情報と、それをファクトチェックして打ち消す情報を比べると、やはり偽情報のほうが拡散力が強いこと。これは各社の調査結果もあります。さらに、選挙というのは期間が限られていますよね。

杉田:
そうですね。

足立:
今回の衆議院選挙、補欠選挙でも選挙期間は12日間ですから、正しい情報が拡散する前に投票を迎えてしまうのではないかという課題もあります。

伝え方の透明性を高めることが対策に

足立:
メディアの側で申し上げますと、選挙の報道というのは候補者ごとに極端な差が出ないように、できるだけ公平に伝えたいと私たちも思っています。
ファクトチェックをする場合に、ある候補のファクトチェックばかりに偏ってしまわないか、ここにも注意する必要があります。
そうしたことを考えて、今回の“偽情報社会の歩き方”としては、特に選挙期間中は、偽情報、候補者や選挙に関する偽情報が増えがちであるということを知ること、そして選挙中は、情報をSNSなどでシェアする、ということには、特に慎重になった方がよいということを、お伝えしたいと思います。
そしてキーワードは、「ああ、やっぱり」ということだと思います。「ああ、やっぱり」と思う内容のものには特に注意して、できるだけ自分と反対の意見、反対する政党、公約などの意見を積極的に収集するようにしたほうがよいかなと思います。
私たちメディア、伝える側にとっても、「みんなの選挙」のように、複雑な問題を誰にでもわかりやすく伝えていくこと、また当確の仕組みや伝え方の透明性をさらに高めていくことが、結果として偽情報の対策にもなるのではないかと思います。


【放送】
2024/04/12 「Nらじ」

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