“触って”楽しむ 国立民族学博物館

24/04/19まで

Nらじ

放送日:2024/04/12

#インタビュー

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障害がある人もない人も、若い人も高齢者も、みんなで楽しめるコンテンツを紹介する「みんなのエンタメ」。今回は大阪にある「国立民族学博物館」をご紹介します。杉田ニュースデスクもスタジオを飛び出して実際に行ってきました。文化人類学者で、「ユニバーサル・ミュージアム」=「誰でも楽しめる博物館」の実践的研究に取り組み、“触る”ことをテーマにした展覧会を企画している国立民族学博物館・教授の広瀬浩二郎さんにお話を伺います。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子 アナウンサー)

【出演者】
広瀬:広瀬浩二郎さん(国立民族学博物館・教授)

“触る”博物館

柴田:
最初に、広瀬さんのプロフィールをご紹介します。
広瀬さんは、幼い頃から視力が弱く、盲学校に入学。13歳の時に視力を失い、卒業後は京都大学大学院に進学しました。国立民族学博物館には20年以上にわたって勤務。“触る”文化、「“触”文化論」を専門に研究していらっしゃいます。

柴田:
杉田さんは、今回実際に国立民族学博物館に行かれてみていかがでしたか?

杉田:
広い館内で世界旅行をしたような気分になりました。多くの博物館は展示物がガラスケースに入っていて、それを遠くから見るというようなところが一般的だと思うのですが、この国立民族学博物館は実際に“触れる”という「露出展示」が特徴でして、私、実物大のモアイ像に抱きついてしまいました。
広瀬さん、この露出展示が1つの特徴ということなんですね。

広瀬:
これは、ただ触れるということよりも、やはりものの迫力、大きさや形状を含めてリアルに感じてもらおうということなんです。杉田さんが言ってくださったように、世界中の生活用具や道具などを展示する博物館なのですが、ものをダイレクトに感じてもらうということで、なるべくガラスケースなしに感じてもらおうということがコンセプトになっています。

杉田:
触ると劣化してしまうのではないか、と心配になりますが…。

広瀬:
そうですね。もともと生活の中で使っていた道具なので触りたい、触った方がわかるところというのはあるのですが、おっしゃるように博物館の場合、やはり「保存」と「活用」という部分があって、触ることによって劣化してしまうということが“触る”ということを進めていくときに問題になるわけですが、優しく丁寧にきれいな手で触るという意識が徹底すると、ものの魅力、“触る”ということがもっと広がるのではないかなと思います。

杉田ニュースデスクが“触る博物館”を体験!

杉田:
私も広瀬さんのご案内でたくさん“触って”きました。その音声を聞いていただければと思います。まずは、箱の中に手を入れて何があるかを当てるというものです。

《“触る博物館”を体験① 「ペルーのタイヤ製サンダル」》

広瀬:
ここに箱がありまして、両手を入れてもらって中に何が入っているか触ってみてください。

杉田:
何があるかな、はい、ありました!

広瀬:
何でしょうか。

杉田:
サンダルですね、これ。

広瀬:
早いですね。

杉田:
サンダル…、サンダルはわかりますが…。

広瀬:
そう、履物です。素材がおもしろいのです。何でできているでしょうかね?

杉田:
すごくね、弾力があるんですよ。ゴムですね。重さがしっかりしています。

広瀬:
裏を見てください。

杉田:
裏、裏…、溝が入っていますね。縦に溝が入っていますね。

広瀬:
これが特徴です。

杉田:
…タイヤだ!

広瀬:
よくわかりました。これはいわゆる古タイヤを再利用してリサイクルして作っているもので、「ペルーのサンダル」です。

杉田:
ペルーの人は実際これ使っているのですか。

広瀬:
タイヤは、僕らも子供の頃遊んだりしましたが、丈夫なのでバケツを作ったり、こうやってサンダルを作ったりして結構、日常で使っているようです。ひんやりしているから夏でも気持ちよさそうですね。

杉田:
これ気に入ったからって、持っていってしまう人はいないのですか?

広瀬:
持って帰らないでください(笑)。


柴田:
「ペルーのサンダル」を触ってきたのですか。

杉田:
しっかりしていましたね。履いてみたかったですね。

柴田:
まだまだ体験していますよね。

杉田:
続いては、チベット仏教を信仰している人たちが使っている、ちょっと変わった宗教道具です。


《“触る博物館”を体験② 「マニ車」》

広瀬:
次にご紹介するのは“ものぐさグッズ”だと思うのですが、ここの博物館では非常に人気があるもので、チベット仏教圏などで使われている「マニ車(ぐるま)」です。木の柄があるので、そこを持ってもらって。上部が丸い、円柱形になっていて、車になっているので、柄を持って車の部分を回します。ちょっと回してもらっていいですか…。

(回す音)

杉田:
回りました、回りました。

広瀬:
これ何かというと、仏教圏には膨大なお経があるわけです。それを読むのは大変なので、これを1回グルッと回したら、お経を読んだことになる。

(回す音)

広瀬:
わりと都合のいい考え方ですけれど。

杉田:
これでもう6回くらいお経を読みました。ご利益はありますかね?

広瀬:
どうでしょうか…、あると思います。


柴田:
実に楽しそう!

杉田:
現地に飛んでいってしまったような、そんな気がしてしまいますね。

“触る”展示に込めた思い

柴田:
広瀬さんが、この“触る”展示に力を入れてこられた理由というのはどうしてでしょうか?

広瀬:
博物館に就職して20年経つのですが、大きく2つあると思います。
僕自身が視覚障害者なので、博物館は見学=見て学ぶということがありますけれど、やはり目の見えない人、見えにくい人というのは、なかなか博物館や美術館に行く機会がまだまだ少ない。せっかく当事者として働いているのだから、そういう今まで博物館と縁がなかった人に来てもらいたいなって思うのが第一です。
もうひとつは、目の見える人にとってどうなのだろうと考えたときに、先ほど杉田さんが説明してくださったように、ブラックボックスに手を入れるということは、実は「視覚」はすごく便利で、見えてしまうとわかった気になるのですが実際はわかっていない。たとえば、先ほどのサンダルや「マニ車」にしても、やはり自分で手に取ってみて「マニ車」だったら回してみてわかることというのはたくさんあるわけですよね。でも見える人は見てわかった気になって、「じゃあ次に行こう」という感じになっているので、むしろ目が見えている人たちにも触る、体感する楽しさや奥深さを伝えたいという2つの思いを持ってずっと取り組んでいます。

柴田:
そうしたことを意識されたのはいつごろからですか?

広瀬:
僕は中学校から視力がだんだん下がってきて盲学校に行ったのですが、今でもすごくやはり自分の原点だなと思うのは、盲学校の授業で点字を覚えるということもあったのですが、生物の授業などで、いわゆる自然観察、植物の葉っぱや光、花を観察するということがあったのですが、改めてこう触ってみたときに、葉っぱの裏と表で全然感触が違うのだとか、葉脈の微妙な感じとか、湿った葉っぱとカラッとした葉っぱ、それから花も毎週観察を続けていると、先週堅かった葉っぱが柔らかくなっているとか…。そういう自然の変化、命というものを触って感じた時に、これは目が見える見えないに関係なく、やはり触らないとわからないことがたくさんあって、自分はたまたま目が見えなくなったから、触って世界を知るということを始めたわけですけれど、これはすごく楽しいし、意味のあることなのだな、というのを感じたのが中学の時。それが、自分がいま活動している原点かなと思いますね。

「ユニバーサル・ミュージアム」が伝えたいこと

杉田:
先日の広瀬さんのお話で非常に印象深かったのが、“触るのは手だけではない”のであって、たとえば、座った時に座布団を感じるのはお尻だとか、肩が触れれば肩だとか、「触る」というのはすごい感覚なのだというお話が、すごく印象的でした。

広瀬:
今、「ユニバーサル・ミュージアム」=「誰もが楽しめる博物館」ということを掲げて、全国で展覧会やワークショップをする活動をしているのですが、そのなかで「ユニバーサル」といった時に、一番僕が大事にしていることが“触る”ということ。
それは杉田さんがおっしゃるように、僕は「ユニバーサル」というのはいろいろ感覚を使う人たちが自由に交流できる場所だと思うのですけれど、そのなかで「触覚」というのは全身に分布していますし、手で触るということを考えたときに、手を伸ばして触る。「視覚」と「聴覚」は、入ってくる情報をキャッチする、受動的になりがちですけれど、「触覚」は能動的。全身を使うということで、誰もが楽しめるっていうところにいちばん近い、よい入り口になるのではないかと思っています。
「触角」という字を書く時に「角(つの)」、「虫の角」という。これは本当に、人間がもともと動物と同じように、全身の「触覚」を持っていたのですけれど、それが近代以降の時代にだんだん「目」に偏ってしまって、ラジオに出していただいたのは本当にありがたいのですけれど、「視覚」もいいけれど、もっともっと「視覚」以外の感覚、全身に分布している「触覚センサー」を使ってみようよというのが、僕が考える「ユニバーサル」ということなんです。

柴田:
国立民族学博物館・教授の広瀬浩二郎さんに伺いました。ありがとうございました。

みんなの声

リスナーのみなさんから感想をいただきました。

“触って楽しむ博物館”、初めて知りました。いろいろな工夫がされていて、聴いているだけで楽しそうですね。触ってみて初めてわかることがありそうで、体験してみたくなりました。できればそこでたくさんの人と出会い交流もしたいです。

触らないとわからない文化ってありますよね。

杉田:
私、触る博物館で視野が広がった気がします。広瀬さんのお話もとても魅力的でしたね。

柴田:
杉田さんの楽しそうな様子から、博物館がこういうふうに広がっていることはいいなと思いました。これからも、いろんなところに行ってくださいね。


【放送】
2024/04/12 「Nらじ」

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