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24/04/19まで

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ここからは世の中に流れている話題のなかから、杉田ニュースデスクがみんなに伝えたいニュースを取り上げる「みんなのニュース」。今回は「選挙のバリアフリー」についてです。

【出演者】
杉田:杉田 淳 ニュースデスク
柴田:柴田祐規子アナウンサー


柴田:
杉田さんは「Nらじ」金曜日のキャスターですが、所属は「選挙プロジェクト」ですから専門ですよね。

杉田:
前回、私は緑内障の進行によって政治の第一線での取材を諦めたというお話をさせていただきましたが、その後も記者の仕事は周囲の配慮を受けながら続けています。それが「選挙プロジェクト」というところです。今月行われる注目の選挙、衆議院の3つの補欠選挙も私の担当ということになります。
そして、今回取り上げる「選挙のバリアフリー」というのは、私が中心となって取り組んでいる「みんなの選挙」というプロジェクトでやっていることなんです。
「選挙のバリアフリー」というと、柴田さんはどんな選挙に関しての“バリア”を思いつきますか?

柴田:
ものすごく身近な例で申し訳ないのですが、私の家のそばの投票所はちょっと坂を上った小学校なんですね。去年亡くなった両親は、いつも投票日になると朝一番に夫婦そろって坂を上って投票に行っていたのですが、足が悪くなってからは行くことを諦めてしまったのです。そういうちょっとした、それまではなんとも思っていなかったことが急に“バリア”として感じられました。

杉田:
健康な人では気付かないようなことが、突然に。そういうことはありますよね。
そのほか、こんな制度があるのを知っていますか? さまざまな事情で投票用紙に文字が書けないという方がいらっしゃいますよね。そういった方は投票所でどうすればいいでしょう?

柴田:
どうするのでしょうね。

杉田:
投票所の職員やスタッフの人に投票先を伝えて、代わりに書いてもらって投票することができるんです。これは「代理投票」という制度です。こうした制度を知っているかどうかだけで、選挙が近いものになったり、遠いものになったりしますよね。私たちにはそういう役に立つ情報を発信していこうというプロジェクトを行っているんです。

柴田:
今回はその「選挙のバリアフリー」を3つにわけて紹介するのですね。

杉田:
ひとつは【移動の壁】です。
たとえば私のように視覚障害があったり足が不自由だったりすると、投票所までたどり着くのが大変だということがありますよね。
2つめは【投票所の中の壁】です。
これは結構私は耳にするのですが、例えば投票所にある「台」です。簡易式で組み立て式なので軽い材料で作られています。

柴田:
急に作ったもので、下の地面が安定していないとちょっとガタガタする…。

杉田:
「ガタガタするので書きにくい」というような声を結構聞きます。実は投票所ではそういう人のために硬くてどっしりした机を用意するなどしています。
また、段差の問題も当然あります。さらに言えば、精神障害の方はふだん行き慣れない場所で見知らぬ人たちが大勢いるところに行くと、落ち着かなくなってしまうという声も私たちはよく聞いています。
そして3つめの壁が【情報の壁】。
これは、「誰に投票するかの情報が得られない」という壁なのですが、たとえば「印刷物が読めません」とか、「街頭演説で手話通訳をつけてほしい」などのことです。また知的障害の方には「選挙の意味をしっかり伝えてほしい」というような声を親御さんなどからもよく聞きます。

柴田:
あらためてこうして振り返ってみると、いろいろな困りごとを抱えている方がいるのだな、ということに気づきます。

杉田:
NHKでは去年の春、全国に1741あるすべての市区町村の選挙管理委員会を対象に、どれぐらい受け入れ態勢が整っているかということをアンケート調査しました。それによりますと「障害のある方への対応マニュアルを作っているか?」と聞いたところ、「作っている」と答えた自治体は18%でした。

柴田:
うーん…。

杉田:
また「説明会や研修を行っているか?」という質問に対しても、「行っている」と答えた自治体は30%だったということです。

柴田:
そういう数字を聞くと、まだ万全の態勢というわけではなさそうですね。

杉田:
非常に進んでいる自治体もあるんです。東京都の狛江市が代表例ですが、そういったところがある一方、なかなかそこに追いついていないなど自治体間の格差が非常に大きな問題だと思っています。

柴田:
進んでいるところは進んでいるけれども、そうではないところもあると。

杉田:
進んでいるところでも投票所によって対応が微妙に違っていたりなどありえますので、そのあたりも課題だと思います。

柴田:
今月行われる衆議院の補欠選挙のうちのひとつを紹介してください。

杉田:
島根1区の補欠選挙が行われる松江市役所では、先日、投票所の事務責任者を対象にした説明会が行われました。そこで紹介されたのは「今回の選挙から初めて『コミュニケーションボード』というものを投票所に用意します」という内容でした。この「コミュニケーションボード」とは、聴覚障害などがある人が、ボードに描かれたイラストを指などでさすことで意思のやり取りができるというものです。

柴田:
今、私の手元にその画面をプリントアウトしたものがあります。たとえば「投票所入場券がありません」というイラスト入りのところを指さすと、その答えとして「確認します」ということばも入っています。使い方としては自分が困りごとのところを指さすと…。

杉田:
投票所の人がアンサーの答えのところを指さして、やり取りが成立します。

柴田:
この「コミュニケーションボード」の導入については、地元の障害者の団体も歓迎しているようですね。

杉田:
その団体からコメントをいただいています。

柴田:
ご紹介しましょう。島根県ろうあ連盟の理事で、聴覚に障害のある青木万里さんからです。
「これまで、耳が聞こえないことを伝えても口頭で説明され続け何回も悔しい思いをしたことがあるが、これがあれば安心して投票できるようになると思う」とコメントされています。

杉田:
これまでの困難さを感じさせるコメントですよね。

柴田:
「聴覚に障害がある」ということを伝えているのに、ということですものね。

杉田:
「コミュニケーションボード」は福祉の現場では「指さしボード」などと言われて、一般的なものなのですが、なかなか普及が進んでいないところがあります。ただし、これは厚紙一枚あればできるものです。お金をかけなくてもできる対策なので、このあたりは普及が急がれると思います。

柴田:
それからさまざまな壁のなかで、私たちは情報を伝える仕事をしていますから、【情報の壁】があるということはちょっと気になるところです。

杉田:
これについては、私は大きな選挙のときに、知的障害の人にどうやってわかりやすく選挙のニュースを伝えるかという企画をテレビの特集番組で取材しました。

このなかで、知的障害の人たちに「選挙に行っていますか?」というふうに話を聞くと「ふだんの選挙のニュースや政治のニュースは難しくてわからないから投票所に行く気にならないよ」と、半ば諦めたような反応を聞きまして、非常に胸に刺さりました。

柴田:
たとえば、「有権者」や「公約」、「争点」など、ふだんの会話で出ないことばが使われますよね。

杉田:
そういうことばを私たちは当たり前のようにニュースでは使っています。こういったことを、どうやってわかりやすく伝えていくかというのはすごく大事だと思います。
そこで、先月行われた熊本県知事選挙のときに、誰でもわかるような記事を書いてみようと思って私が書いた記事を特設サイトに載せています。その原稿を柴田さん、紹介してもらえますか。

柴田:
わかりました。
「熊本県の知事を決める選挙が行われます。熊本県でいま一番ニュースになっていること! それは、半導体を作る巨大な工場ができることです。半導体って知っていますか? スマートフォンやパソコン、自動車、電子レンジ…。私たちの身の回りにある、さまざまなものに入っています。今の生活に欠かせない半導体。台湾にある世界的なメーカーが熊本県に新しく巨大な工場を作っています。」
…まだ途中ですよね?

杉田:
原稿はまだ続くのです。この先「半導体の工場が作り出す光と影」というようなことを書いていて、「それで、この選挙での議論が注目されますよ」という感じで締めています。いかがですか?

柴田:
つまり、これを読むと、誰に投票すればいいのか考える材料になるということですね。

杉田:
そうです。私はこの取り組みのなかですごく鮮明に覚えている言葉があります。知的障害のある方の親御さんから「知的障害のある人にわかる原稿というのは、誰にでもわかる原稿なのです。だからそういう記事をNHKは出してください」ということを言われて、その取り組みを続けているのです。このような、誰にでもわかる、誰にとっても必要な情報を出して伝えていくというのを「情報保障」といいます。「安全保障」「社会保障」などの「保障」ということばを使っています。情報があふれ返る今の時代だからこそ、必要な情報をきちんと届けるということを、私も自覚しなければと思っています。

柴田:
ここまで【移動の壁】【投票所の壁】【情報の壁】の3つの壁についてお話ししてきましたが、もうひとつ【壁】があるそうですね。

杉田:
4つめの壁があると私は感じています。それが【法律の壁】というものです。これまではお話してきたことは、いまある制度の中でどうやったらうまくいくかということの対策を考えてきたわけですが、実はそもそも「公職選挙法」という法律の枠のなかで決まっている制度自体に壁があるのではないか、変えてほしいという意見が、投票の現場でも結構聞かれるのです。

柴田:
たとえば?

杉田:
最初にお話しした「代理投票」という制度はあります。もちろん、投票所の人に伝えて投票してもらうということですが、その人が投票の秘密を守るのは当たり前ですが、やはり「第三者に投票先を知られるのは嫌だ」「家族ではだめなのですか?」という話をよく聞きます。
また、郵便によって投票できる「郵便投票」という制度があるのですが、実は日本では非常に厳しく制限されています。

柴田:
条件があるのですね?

杉田:
「要介護5」といった非常に厳しい条件があります。「足がなかなか動かないのに認めてもらえない」という声などが出ています。なぜそういう制度になっているかというと、戦後まもない頃この「郵便投票」は認められたのですが、投票用紙が横流しされるという事件がありました。それによって、かなり大きく制限されることになったのです。しかし時代背景もだいぶ変わっています。チェックの方法もいろいろあると思いますので、そういったことは検討されてもいいと思います。実際、総務省の研究会で「緩和したほうがよい」という答申も出ているのですが、まだ法律の改正には至っていないという状況です。

柴田:
ここまで聞いていると、障害があるということだけに限らない話ですね。

杉田:
高齢の方だったり、病気になった方だったり、誰もが投票の壁を感じるということは、身近にあることなのではないかと思います。また「誰に投票したらいいかわからない」ということは、世代を超えた問題ではないかとも思います。最近「投票率が低い」というニュースはもう当たり前のように聞かれますが、ただこれは「行けるけれども行かない」という人だけの問題ではなくて、「行きたくても行けない」という人がいるということをぜひ知っていただきたいと思います。そして何よりもそのような人たちこそが政治の力を必要としていると私は感じています。


みなさんから寄せられたメッセージ、質問をご紹介します。

お母さんを車いすに乗せて投票所に行ったら職員さんに連れて行かれました。私が代理で書くつもりだったのにびっくりしました。

柴田:
「代理投票」を知らないとちょっとびっくりされたのかもしれませんね。

投票所に行ったときにどうしたらいいのか、困っていそうな方がいるのですが、そのときはどうすればいいのか、手助けをしてもいいものなんですか?

杉田:
どんなお困りごとがあるかにもよるとは思います。まず、投票所に人ってちゃんといますので、「あの方、お困りのようですよ」と声をかけてもらうのが一番いいでしょうか。

柴田:
つなぐっていうことをするということですね。

杉田:
それが、一番近道かもしれませんね。

選挙の新聞の内容をCDにして送ってくれるのだけれども、選挙の前日くらいに届くので、すでに不在者投票をしたあとで、なかなか候補者の主張がわからない、ということがありました。

杉田:
おそらくCDに音声で内容が含まれているというものだと思うんですけれど、日本の選挙って選挙期間が短いというのも、また非常に問題点として指摘されています。だからぎりぎりになってしまうのですね。

柴田:
じっくり考えて選びたいと思っていてもっていうことですね。

杉田:
政策を知って考えるには、ある程度時間かかりますからね。

柴田:
ここまで「みんなのニュース」でした。


【放送】
2024/04/12 「Nらじ」

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