視覚に障害がある人も映画館で楽しめる! 映画「夜明けのすべて」

24/04/12まで

Nらじ

放送日:2024/04/05

#インタビュー#映画・ドラマ

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本や映画、イベントなど誰もが楽しめるコンテンツをお伝えする「みんなのエンタメ」。今回は映画「夜明けのすべて」をご紹介します。この作品には「音声ガイド」がついていて、視覚に障害がある人でも映画館で映画を楽しむことができます。音声ガイドで映画がどのように聞こえるのか、普及のためには何が大切か、音声ガイドを作成する会社の代表、山上庄子さんにお話をうかがいます。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子キャスター)

【出演者】
山上:山上庄子さん(Parabla株式会社代表)

音声ガイドアプリで映画を楽しむには

柴田:
この映画は、上白石萌音さん演じる“藤沢さん”が月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなります。そして松村北斗さん演じる“山添君”はパニック障害を抱えています。そんな生きづらさを抱えた二人が前に進む姿を描いた作品です。

杉田:
映画館で見ました。最初はお互いの病気のことがわからず衝突してしまう二人が、相手の病気を知ることでお互いに理解しあっていく話です。若い二人がとてもさわやかで、それがすごく印象的でした。
今、私のような視覚に障害がある人でも映画館で映画を楽しめる「音声ガイド」というものがあります。テレビでいう副音声の解説放送版のような、映像を解説してくれるイメージです。いつも私はお世話になっているのですが、まずは音声ガイドの使い方を教えて下さい。

山上:
映画館で音声ガイドを使っていただく場合には、スマホのアプリケーションを使う形式がスタンダードになっています。事前に無料のアプリをダウンロードして、ご自身が見たい映画の音声ガイドのデータも一緒にダウンロードしていただきます。
スマホを持って映画館に行ってアプリを立ち上げると待機音声が流れてきますので、その状態で映画が始まるのを待っていただきます。映画が始まると自動的にその作品の上映に合わせて、イヤホンから音声ガイドが流れてくる仕組みです。

実際に映画の1シーンを音声ガイドで聞いてみると

柴田:
お話をうかがうと、どう聞こえてくるか気になると思いますので、ご紹介します。
今からお聞きいただくのは「夜明けのすべて」の1シーンです。職場で仕事中、藤沢さんがPMSの症状によって、山添君のある行動をきっかけに怒りをぶつけてしまうシーンです。最初にはっきり聞こえてくるのが音声ガイド。うしろで流れるやや低い音が映画本編ということです。聴いてみましょう。


夜明けのすべて「藤沢さんが山添くんに怒るシーン」(1分7秒)

音声ガイド:
藤沢が、顕微鏡をのぞき、検品作業。
―――
具合が悪そうな顔。
台の横を山添が、ペットボトルを持って歩いていく。
炭酸水を1本作業台に置いて座る。もう1本のふたを開ける。
藤沢が反応、目を閉じ、顔をしかめる。
―――
山添がペットボトルのふたを開ける。
藤沢が足を止める。

藤沢:
「炭酸飲むのやめてほしいんだけど。」

音声ガイド:
山添が驚いて振り返る。

藤沢:
「炭酸。」

音声ガイド:
藤沢の背後、平西がファイルを手に様子を見る。

山添:
「え…。」

藤沢:
「え、じゃなくて!」

音声ガイド:
平西がそっと離れる。

藤沢:
「その音すごく耳につくし。水ばっか飲んでないでちゃんと働いて!」

音声ガイド:
山添が小さくうなずく。

藤沢:
「え…わ、私、おかしいこと言ってる? 言ってないよね?」

平西:
「一緒に倉庫来て」

音声ガイド:
平西が山添を連れ出す。

藤沢:
「まだ話終わってません! お客さん来てるのに挨拶もしないの? ねえ!」

住川:
「向こうで休憩しようか。」

藤沢:
「ねえ! 逃げないで! ねえ逃げないで!」

住川:
「行こう。いいから行こう。」

音声ガイド:
住川が藤沢に寄り添う。

藤沢:
「私おかしいですか?」

住川:
「全然おかしくない。」

藤沢:
「おかしいこと言ってますか?」

住川:
「言ってない、言ってない。」

藤沢:
「なんでみんな…」


柴田:
これは…。私、この作品見てないけれど、場面がもう目に浮かんできますね。

杉田:
最初の方は会話がないシーンだったので、解説がないと分からないですよね。

導入のきっかけ

杉田:
この音声ガイド、聴覚障害の方には字幕ガイドというものも映画館にはありますけれど、導入されたのはいつ頃ですか。

山上:
大きなきっかけになったのは2016年の障害者差別解消法です。映画業界でも進めていきましょうという機運が高まりました。字幕や音声ガイドを、作るだけではなく、提供する方法としてアプリケーションが必要になってくる、ということで、邦画を中心にバリアフリー版の映画が少しずつ増えてきたという経緯があります。

まだまだ少ない音声ガイド付き映画・普及の課題は?

杉田:
今、対応する映画はどのくらいの本数あるのですか?

山上:
(ガイド付きの映画は)だいたい年間、現在ですと約100本以上は対応している状況だと思います。

杉田:
なるほど。でも、私も「これ見たいな」と思っても音声ガイドが付いてない映画ってやっぱり多いんですけれども、課題は?

山上:
そうですね、今、日本国内で映画作品は年間1,200本ぐらい公開されていまして、およそ半分の600本ぐらいが日本映画で、残り半分が洋画、海外の映画になります。視覚に障害がない人たちは1,200本から好きな映画を選んで見ているという状況を考えると、1割程度の対応本数というのは少ないと思います。どうしても洋画の対応というのがなかなか進んでないことが大きな課題かなと思います。

杉田:
外国映画で音声ガイドが付いているものってまだ…。

山上:
まだ本当に少ないですね。

広がっていくために必要なのは当事者と映画制作者の声 実は杉田デスクも…

杉田:
(4月から民間事業者へ、障害がある人に対する合理的配慮も義務付けられたが)こういう法律ができることによって課題が解決に向かっていくと思われますか?

山上:
もちろん法律によって少しずつ進んでいくのですが、どちらかというと私は、音声ガイド対応の作品を見た当事者の方々の声や、映画を制作した制作側の方々の声の積み重ねで広がっていくものと感じています。

杉田:
法律を作ったから広がっていく、ということよりも…。

山上:
そうですね、少しずつでも実態として映画館に足を運ぶ方々が出てきているということが大きいと思います。

杉田:
実は私、この映画を映画館で観る前に一度見ているのです。この音声ガイドが、視覚障害のある人たちにちゃんと伝わるかをチェックする「モニター会」というものがあって、それに参加していたのです。そこで三宅唱監督とこの音声ガイドの説明が正しいかどうか、かなり建設的対話をやりましたよ。ビルが建つぐらいやりました!

山上:
ふふふ(笑)。音声ガイドを作る時に必ず、モニター検討会をやっています。ユーザーの方々である当事者・視覚障害の方々にとってわかりやすいかどうか、ということと共に、やっぱり映画は作品なので映画を作っている監督ご自身にしっかりと監修していただけると、本当に安心して作品のガイドを作ることができるので、検討会をやるようにしているのです。杉田さんにもいつもお世話になってます!

杉田:
いやいやいやそんなことないんですけど、そういう『ニーズを把握してもらう』というのはすごく大事なことだと思います。

「音声ガイドあるから一緒に行こう!」 みんなが好きな時に映画を楽しむ未来を目指して

柴田:
メッセージもXで早速届いています。
映画の音声ガイドよくできてるなー。冒頭の読み上げを、あの速度で聞ける人なら十分ついていけそう。
ですとか、
映画の場合、聴覚障害と視覚障害のどちらでも対応できるようになっていますよね。
そして
さまざまな音声ガイド、当事者ファーストという目線が良いですね。

今までよりも少しずつ余暇の生活範囲が広がっていくように願っています。映画の世界に身を委ねる快感が楽しみです。
という投稿もいただきました。

杉田:
山上さん、手応えがあるんじゃないですか?

山上:
うれしいですね。映画ってエンターテインメントなので、当たり前のこととして皆さん好きな時にふらっと映画館に来て、映画を見られる、ということを目指してやってきているので、まだまだ第一歩だと思いますが着々と進めていきたいです。

杉田:
どうしても、出るのがおっくうになっちゃったりすることがあると思うけれど、そういう人たちに「いやこれ音声ガイドあるから一緒に行こうよ」ってね、晴眼者、目の見える人たちが誘ってくれたりしたらとてもすてきだと思いますね。

柴田:
映画の音声ガイドを制作する、パラブラ株式会社代表、山上庄子さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

山上:
ありがとうございました。


【放送】
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