「合理的配慮」ってなんですか?

24/04/12まで

Nらじ

放送日:2024/04/05

#インタビュー#政治

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世の中にある問題をみんなの問題として考えていく「みんなのニュース」。今回は「合理的配慮」です。障害者差別解消法が改正され、4月1日から障害のある人への合理的配慮の提供が、民間の事業者にも義務化されました。視覚に障害がある杉田淳ニュースデスクが、NHKで長年「ハートネットTV」などの福祉番組を担当してきた海老沢真チーフディレクターとこの問題について考えます。(聞き手:杉田 淳 ニュースデスク・柴田 祐規子キャスター)

【出演者】
海老沢:海老沢真(NHK「ハートネットTV」チーフディレクター)

「合理的配慮」の「義務化」とは?

杉田:
まず、「合理的配慮」を言葉で説明するとどういうことになりますか?

海老沢:
非常にざっくりになりますが、やっぱり今の社会ってまだまだ障害のある人が世の中でいろいろな壁にぶつかることがあると思います。壁にぶつかって困った時に、周りの人がその壁を乗り越えるために無理のない範囲で行うサポート、これを「合理的配慮」といいます。
なかなかイメージしづらいと思いますので、ちょっと杉田さんの力を借りて具体的にできればと…。例えば杉田さんがランチを食べに飲食店に行った時、何か困りごとにぶつかることはありますか?

杉田:
1人で行くっていう前提ですよね? たくさんあります!
・お店の近くまでは行けても、お店の入り口がわからない。
・行列ができていると、列の最後がどこかわからない。
・お店の入り口で“紙に名前を書いてください”っていう所がありますよね。あれが難しいですね。
・そしてお店の中に入ります。席に移動する、トイレに行く、その誘導の部分も難しさがあります。
・そして注文ですね。私は「おすすめは?」と言って、店員さんとのコミュニケーションで選んだりするのですが、最近は二次元コードとかタブレットで注文するお店がすごく増えていますね。一人ではやったことないんですよ。誰かと一緒にいる時しかできない。
・あと、まだ1度も体験したことないですけど、配膳ロボット! 今あるみたいですね。配膳ロボットが登場したら、私、食事できるんでしょうか、とちょっと不安になったりします…。

海老沢:
本当にいっぱい出てきましたね。ごはん食べに行くだけでこんなにも!
バリアフリーが進んでも、まだまだこんなに壁があるのだなって改めて思います。そうした壁を解消するために、事業者の方にもちょっとお手伝いいただきたい、というのが今回の「合理的配慮の義務化」なのです。
杉田さんの困りごとについて、どんな合理的配慮ができるだろうと考えてみますと、例えば
・入り口で名前を書いて並ぶのが難しい時は店の方が代筆をする。並ぶのが難しいなら、通路の邪魔にならないところに立って待っていてもらって、順番が来たら声をかける。これが1つの合理的配慮です。
・注文を二次元コードでするのが難しいということでしたら、店の方にメニューを読んでもらうとか代わりに操作してもらうとかですね。
そういった無理のない範囲でのサポートで、ランチに行く可能性もグッと高まるのではないかと思います。

杉田:
そういう意味では、今でもコミュニケーションの中でやってもらえたりすることですね。

海老沢:
そうです。合理的配慮って、新しい事にみんなで取り組まなければいけない、ということではなくて、その多くはすでにやられていることだと思っていいと思います。
ただお店によって差もありましたので、できる範囲のことはみんなでやるようにしましょう、というのが今回の改正の意味ということになります。

柴田:
今月から義務化ということは、これまではやらなくても良かったということですか?

海老沢:
これまでは「努力義務」という形だったんです。法律の文章で言いますと、「合理的配慮をするよう努めなければならない」という文章だったのが「合理的配慮をしなければならない」と変わりました。より明確になった、強くなったということです。

柴田:
罰則はあるのですか?

海老沢:
実は罰則は具体的には決まっていません。ただ国や自治体が、事業者に報告を求めたり、あるいは指導監督したりする権限などもありますので、行政指導の対象になってくることになります。

どこまでやればいいの? 「合理的」の範囲 ①“本来の業務に付随するものかどうか”

杉田:
方向性は良いと思うのですが、お店側もどこまで要望に応えられるのか、難しいのではないですか?

海老沢:
決して、障害のある方が求めることを何でもやってください、というわけではありません。例えば、障害のある方がレストランに来られて、食事の介助をしてほしいと求めた場合、対応すべきか。どう思いますか?

杉田:
食事の介助となると、ずっと付き添ってもらわなくちゃいけないですから、なかなか難しいという気はします。

柴田:
やっぱり食事の介助は簡単にできることではないですよね。

海老沢:
政府のリーフレットによると、この場合は「介助を断ってもいい」となっています。理由は、“合理的配慮の範囲”というのが“本来の業務に付随するもの”となっているからです。つまり、レストランで本来の業務というと、“お客さんの注文に応えて食事を出す”ということです。
先ほどの、並んでレストランに入る、とか、メニューから好きなものを選ぶのは本来のレストランの業務に付随することですが、食事の介助はそうではない。だからそこまでは対応しなくてもよいということになります。

どこまでやればいいの? 「合理的」の範囲 ②“店側の負担が重くなりすぎないところまで”

杉田:
“本来の業務に付随するもの”であっても、お店によっては、負担が重くて対応できないこともあるのではないですか?

海老沢:
実はこれも法律の文章では「負担が重すぎないときは合理的な配慮をしなければならない」と書かれています。
逆に言いますと、合理的配慮とは“お店側の負担が重くなりすぎない範囲”で提供するものということなのです。
どういう事が負担の重さになるかというと、人手が足りないという人的な制約、あるいはお金がかかるような場合がありますが、個別具体的に、ケースに合わせて考えなければならないと、決められています。

杉田:
お店と一口に言っても、全国チェーンの大きな店から家族だけでやっているお店もありますから、ケースバイケースでないと難しいですね。

海老沢:
そこで大事になってくるのが「建設的対話」。障害のある人と事業者とが、お互いの状況を尊重しながら話し合って、何ができるか落としどころを見つけていくことです。

障害のある人と事業者との「建設的対話」

杉田:
「歩み寄り」という感じですかね。

海老沢:
そうですね。
例えば、視覚障害のある方が混雑している時間にスーパーマーケットに来たとします。本人は店員に買い物に付き添ってほしいと求めた。でもお店側は忙しくて余裕がない。この時に、杉田さんならどう建設的対話を進めますか?

杉田:
実際には、私みたいな視覚に障害がある人が、混んだ店で店員さんをつかまえることは大変なんですが…。つかまえることができたと仮定したら…。うーん…。出直しますかね。

海老沢:
その時に、もしできたら「今度いつ来たらいいですか?」と聞くのはいかがでしょうか。

杉田:
それはすごく、前向きになれますね。

海老沢:
実はこれが建設的対話の始まりです。
例えば、お店側が「ちょっと待っていただければ大丈夫ですよ」とか「明日だったら」とかですね、ここで対話をして、杉田さんの時間に余裕があって、明日出直してサポートが受けられ好きなものが買えたら、これが“建設的対話によって行われた合理的配慮”ということになるわけです。
政府のリーフレットには、お店側が必要なものをメモして取っておき、好きな時間に来てもらってそれを渡す、こんなこともありだ、と書いています。“これをやれば正解”ということではなく、ケースバイケースで、その時の障害のある方の事情とお店側の事情をすり合わせて、落としどころを見つけていく、というプロセスが大事だと思います。

杉田:
もし、お店側が建設的対話に乗ってこなかったら、というのが当事者としては心配です。

海老沢:
建設的な対話を拒否した場合は、「合理的配慮の提供義務違反」ととられる可能性が高いです。ですから事業者側は、その時難しいのであれば事情を説明して改めて話し合いの場を持つなど、できる限りの対応をしていただけたらと思います。

柴田:
でも、建設的対話の経験がないと、私がもし事業者だったら、迷ってしまうかもしれません。

海老沢:
基本は「相手が求めていることは何か」を聞くということ、そして「自分は何ができるのだろう」と考えることなのですが、ここでちょっと注意していただきたいことがあります。建設的対話にはNGワードがあるのです。

NGワードは「前例がありません。」「もし、何かあったら、」

海老沢:
政府のガイドラインに示されている、できるだけできるこれは使わないでくださいというNGワードの1つは
「前例がありません。」
ケースバイケースで行われるものですので、そのつどそのつど、考えていくことが建設的対話なのです。前例がないということは、建設的対話や合理的配慮を断る理由にはなりません。
もう1つは「もし、何かあったら、」です。抽象的なリスクだけでは断る理由にはならない、ということになっていますので、これも使わずに話し合いをしていただけたらと思います。

合理的配慮をめぐるSNS上の対立

杉田:
この合理的配慮の問題をめぐっては、SNS上で激しい対立が起きることがたまにありますね。その中でとても気になる意見があって、それは「障害者はずるい」という書き込みです。海老沢さんはどう考えますか?

海老沢:
「ずるい」という言葉には、障害者だけ得をしている、優遇されているという思いがあるのかなと感じます。しかしひとつ理解していただきたいのは、合理的配慮というのはマイナスの状況にあるものをゼロに戻すという考え方だということなのです。安く物を買うとか、より良い物を提供してもらうということではありません。マイナスの状況をゼロに戻して、同じように社会に参加できることを目指すものだということです。

杉田:
実際、私も目が見えにくくなっていくと、それまで当たり前のようにできたことができなくなったりするんですね。ゼロの状態がマイナスになっていくということを日々実感するような日常があります。それをゼロに戻して、ほかの人と同じようにスタートラインに立てたら、社会参加する機会が得られたら、と願う心情をぜひ多くの人に分かってほしいと思います。

柴田:
そして、相談窓口も新たにできたそうですね。

海老沢:
法律改正を受けて、政府にワンストップの相談窓口ができました。
名称は「つなぐ窓口」で、電話とメールで相談を受け付けています。
「つなぐ窓口」 電話番号が0120-262-701
メールがinfo@mail.sabekai-tsunagu.go.jpです。
受付時間は祝日と年末年始を除く、午前10時から午後5時までとなっています。

エンドコーナー

柴田:
みなさんからメッセージを寄せていただきましたよ。

合理的配慮って難しいですよね。法律で義務化したり、罰則規定を設けたりしないと変わっていかないかも、というのは何だか悲しい感じがします。

私の場合、銀行などで預金の預け入れや引き出しの際に、小銭が伴うと、自動預払機が対応していないので、窓口の方が伝票などを書いてくださっています。

杉田:
視覚障害者の私を助けてくれるのは、“デジタル技術”と“人”だと思っているんです。
音声読み上げみたいな“技術”も自分を助けてくれる。だけどそれだけではやっぱり困ることは出てくるんで、その時には周りの人に助けてもらう、それがすごく大事だと思います。

合理的配慮については、杉田さんのおっしゃることやお気持ちに深く共感しております。私もタッチパネルの画面が非常に見えづらくて苦戦しております。お話にもありましたが、飲食店での注文はとてもハードルが高いのです。でも周囲の力を得ながらの挑戦を続けていきます。励みになりました。

杉田:
建設的対話ですね!

私は声で困りごとのある方のお役に立てるような仕事をしたいです。きっとできるはず。

杉田:
ありますね。例えば、視覚障害者からのテレビ電話を受けて、その画像を見ながらその文字はこう書いてありますよ、あるいは、駅はあっちですよ、と説明する、そんなサービスもあったりするので、声で助けることはできると思います!

柴田:
それから 無理のない範囲でって大事だよという投稿もいただきました。
たくさんのメッセージをありがとうございました。


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