発見・治療が難しい『すい臓がん』の検査・手術のいま

Nらじ

放送日:2023/11/24

#インタビュー#医療・健康

生涯を通して、日本人の2人に1人ががんになることはよく知られています。ただ同じ「がん」でも、部位によって生存率に大きな差があります。最も予後がよいとされるのは、「前立腺がん」で、5年生存率は99.1%です。
しかし、「すい臓がん」の場合は、5年生存率は8.5%と非常に低く、1年間で、およそ3万8,000人の方が亡くなっていて、近年、我が国では「すい臓がん」の患者数や死亡者数が増加傾向にあります。
今回は、治りにくい「がん」の代表とされる「すい臓がん」について、いったいどのような病気なのか? また最新の「すい臓がん」治療は、どのようなものなのかお伝えします。(聞き手:黒崎瞳キャスター)

【出演者】
奥仲:奥仲哲弥さん(国際医療福祉大学医学部教授)

早期発見が難しく、転移しやすい「すい臓がん」

黒崎:
いろいろながんがある中で、「すい臓がん」の生存率が低いのは、なぜでしょうか?

奥仲:
「すい臓」というのは、長さおよそ15センチ、重さ60~90gと比較的小さな臓器で、柔らかく、薄い皮膜に覆われています。胃の後ろ側、つまり背中側に位置していて、十二指腸・小腸・大腸・肝臓・胆のう・脾臓(ひぞう)などに囲まれているため、「すい臓」が「がん」になりますと、「がん」が薄い皮膜を破って、周りにある臓器や血管、リンパ節などに転移しやすいのです。
また、「すい臓がん」は、初期の段階では症状がほとんどあらわれません。そのため、早期発見が非常に難しいのです。そうしたことから、1年前の人間ドックでは「異常なし」とされた人が、その1年後に、「すい臓がん」で手遅れの状態になっていたという、悲しい経過をたどる事態も、ときどき生じることがあるんです。

早期発見の重要なポイントは「糖尿病」

黒崎:
どのような人が、「すい臓がん」に、注意した方がいいのでしょうか。

奥仲:
「すい臓がん」の発生を高める主なリスクとして、「糖尿病」、「慢性膵炎(すいえん)」、「膵(すい)のう胞」、「肥満」、「喫煙」、「大量の飲酒」などが挙げられます。
このうち、「すい臓がん」を早期発見するための重要なポイントとなるのが「糖尿病」なんです。すい臓は、血糖値をコントロールするインスリンを分泌しています。しかし「すい臓がん」が発生すると、インスリンの分泌が弱まり、血糖が急に高くなることがあります。ですから、「すい臓がん」の発症は、「糖尿病」の発症の2年以内に多く、「糖尿病」の人が「すい臓がん」になる確率は、「糖尿病」でない人のおよそ2倍とも言われています。また、家族に「すい臓がん」になった人がいる方は、注意が必要です。実は、日本では「家族性すい臓がん」の登録制度が、2013年に開始されています。第一近親者である「親」、「兄弟姉妹」、「子ども」に、2人以上の「すい臓がん」の人がいる場合、発症リスクが6倍~7倍と高くなりますので、定期的な検査をおすすめします。

「腹部エコー検査」などで早期発見につながることも

黒崎:
「すい臓がん」の検査は、どのようなことをするのでしょうか?

奥仲:
「すい臓がん」は、一般的な検査では見つかりにくいがんですが、いわゆるクリニックなどでも、日常的に行われている「腹部エコー検査」で見つかる場合もあります。腫瘍自体は、エコーでとらえるのが難しいのですが、腫瘍ができると、すい臓内の管・「すい管」が詰まってしまって、その末しょうが拡がってしまうんです。その拡張した「すい管」をエコーで捉えて、「すい臓がん」の早期発見につながることがあるのです。また、採血で測定できる「アミラーゼ」や「リパーゼ」などの消化酵素の値や、「腫瘍マーカー」というものを定期的に測定することで、発見につながる場合もあります。
さらに精密な検査としては、造影剤を使った「腹部CT」や、「MRCP」という特殊なMRI検査があります。実は、私は、4年前に人間ドックで、消化酵素の「アミラーゼ」の値が急上昇していることがわかりました。その時、「すい臓がん」かもしれないという思いがよぎりました。
そこで、その特殊なMRI検査である「MRCP」を受けることにしました。その結果、幸い異常はなかったのですが、この検査には40分以上も時間がかかり、MRI検査を受ける狭い空間に閉じ込められ、検査を受けている間中、キンキンカンカンという音がしますし、お腹を撮影するために、息を40秒から1分間止める必要もありますので、大変な検査だなと思いました。
「すい臓がん」の一番確実な検査方法は、内視鏡の先に超音波機器が接続された「超音波内視鏡検査」と、患部の一部を採取して顕微鏡などで詳しく調べる「生体検査」です。しかしながら、これらの検査には、高度なスキルが必要なため、検査ができる医師や施設が限られているのが難点です。

手術は難易度が高く 合併症の恐れも

黒崎:
いろいろな検査を複合的に受けるというのが、早期発見につながるかもしれませんね。検査をして「すい臓がん」が見つかった場合には、手術ということになるのでしょうか?

奥仲:
「すい臓がん」は、病期が1期、最近では2期まで手術をするようになってきました。「すい臓がん」の手術で多いのが、「膵頭(すいとう)十二指腸切除術」です。この「膵頭十二指腸切除術」では、「膵頭部(すい臓のふくらんだ部分)」だけでなく、「胆管」、「胆嚢」、「十二指腸」、「胃」、「小腸」の一部も切除しなければなりません。さらに、周囲の「リンパ節」や「血管」も、一緒に切除する場合もあります。それらの切り離した臓器を何か所もつなぎ合わせるという、これは吻合(ふんごう)というんですけれども、これを行って範囲が大きく複雑な手術となるため、消化器の手術の中でも、難易度が非常に高いとされています。

黒崎:
患者さんの負担も大きそうですね。

奥仲:
合併症の発生も少なくありません。最も重大な合併症の1つが「すい臓」と「腸」のつなぎ目、吻合部(ふんごうぶ)というんですが、そこから「膵液(すいえき)」が漏れる「膵液漏(すいえきろう)」です。「膵液」は最も強力な消化液で、我々が食べた肉などのたんぱく質や脂肪を分解してしまいますので、仮に漏れた場合には、自分の臓器も溶かしてしまう恐れがあるんです。したがって、この「膵液漏」は、命に関わる場合もあります。「膵液漏」は、外科医がどんなに慎重に、丁寧につなぎ合わせても起こりうる合併症で、開腹手術の「膵頭十二指腸切除術」における発生率は、一般的に10%から20%前後とも言われています。

手術前後で使われる「抗がん剤」

黒崎:
「すい臓がん」に対しては、まず、予防ということを考えて、生活習慣などを見直すことが大切だと思いますが、それと同時に、今後の医療技術の進展にも期待したいところです。こちらは、どのような状況なのでしょうか。

奥仲:
「がん」が臓器などの表面にとどまっている「上皮内がん」という状態で見つかった場合、これはステージ0期の「すい臓がん」なんですが、5年生存率は90%を超えるとの報告もあります。やはり早期診断の重要性は「すい臓がん」も、他の「がん」と同じです。
また、近年「抗がん剤」をはじめとする化学療法の進歩があり「すい臓がん」の手術の前に、まず「抗がん剤」や「放射線治療」で「がん」の勢いを抑えて、周囲に広がる「がん」の根の部分を叩いておくことによって、手術後に治癒する確率が格段に向上してきました。実はこれまで「抗がん剤」は、主に手術後の再発予防に使われてきましたが、手術前に使うことで、治療の成績が上がってきたのです。
また、手術の難しい「すい臓がん」ですが、2020年4月に、「手術支援ロボット」による「膵頭十二指腸切除術」が、新たに保険適用となりました。繊細な操作が可能なロボット支援手術の導入で、安全で確実な手術が可能になりつつあるのも朗報です。

黒崎:
国際医療福祉大学医学部教授の奥仲哲弥さんに、今回は、「すい臓がん」について教えていただきました。ありがとうございました。

奥仲:
ありがとうございました。

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【放送】
2023/11/24 「Nらじ」

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