命にかかわる“誤嚥性肺炎” どう防ぐ!?

Nらじ

放送日:2023/07/21

#インタビュー#医療・健康#カラダのハナシ

今回のテーマは、「誤嚥(ごえん)性肺炎」です。「誤嚥」とは、食べ物や唾液が、誤って空気の通り道である気道(気管)に入ることをいいます。この誤嚥がきっかけとなって細菌が肺に入って炎症を起こすのが、誤嚥性肺炎です。日本人の死因で4番目に多いのが肺炎なのですが、そのうちの7割~8割は誤嚥性肺炎だと言われていています。特に、後期高齢者の肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎との報告もあります。この誤嚥性肺炎の原因と対策、そして予防法についてお伝えします。(聞き手:眞下貴アナウンサー、黒崎瞳キャスター)

【出演者】
奥仲:奥仲哲弥さん(国際医療福祉大学医学部教授)

「誤嚥性肺炎」とは

――「誤嚥性肺炎」は、どのようにして起きるのでしょうか?

奥仲:
私たちは「食べ物を口の中でかみ砕き、舌を使って口の奥に送り込んで飲み込む」といった流れで、食事をしています。この時、口の奥の天井のやわらかい部分(軟口蓋)が上がって、口から鼻への通路をふさいで、同時に気管のふたになる「喉頭蓋」も閉じます。これによって、口の中のものが、鼻や気管に入り込むことなく、食道から胃へと送り込むことができるのです。

しかし、こうした一連の動作が緩慢になったり、タイミングがずれたりすることで、しっかりと飲み込むことができずに、本来食道に入るべきものが気管に入ってしまうのが「誤嚥」です。その誤嚥したものと一緒に、細菌が肺に入って炎症が起きるのが「誤嚥性肺炎」です。

“むせる”“せきこむ”は、大事な防御反応

――食事中にむせることがある人は、誤嚥性肺炎のリスクがあるということなのでしょうか?

奥仲:
誤嚥すると、すべて誤嚥性肺炎になってしまうわけではありません。誤嚥をしても、せきやたんなどで吐き出すことができたり、免疫力が高まっていたりすれば、肺炎を生じるリスクは少なくなります。ですから、「むせる」「せきこむ」という症状は、気管に入りかけた(もしくは入ってしまった)異物を出そうとする、とても大事な防御反応です。力強くむせる(せきこむ)ことで、誤嚥による肺炎を防ぎます。

しかし、ご高齢の方は、食べ物を飲み込む「嚥下(えんげ)機能」が低下したり、筋力が弱まったりすることによって、うまくせきができなくなる場合があって、誤嚥性肺炎のリスクが高くなってしまうのです。

――食べ物を飲み込む機能が低下していないか、チェックする方法はあるのでしょうか?

奥仲:
たとえば簡単な方法としては、「口の中に何も含まない状態で、唾液を飲み込む」という動作を、30秒間で何回できるかを測ることで、チェックできます。正面を向いてのどを触り、「のどぼとけ」が上下に動いているかどうかを確認し、飲み込みの回数を判断します。30秒間に3回以上、飲み込む動作があれば正常です。2回以下であれば嚥下能力が低下している、つまり「誤嚥」の危険性が高い可能性があります。

口の体操で、“オーラルフレイル”を予防

――嚥下機能の低下を 予防する方法はあるでしょうか?

奥仲:
口の体操をすると飲み込む力が鍛えられ、嚥下機能の低下を予防することができます。一緒にやってみましょう。

  •  ① まずは「口の開閉」です。「あ~」と、ゆっくり大きく口を開ける。
  •  ② 次にしっかり口を閉じて、奥歯を噛みしめ、口の両端に力を入れ「ん~」。これを3回行う。
  •  ③ つづいては「くちびるの体操」。「う~」と口をとがらせる。次に「い~」と横に引いて、上下の歯が見えるようにします。これも3回行う。
  •  ④ 最後に「舌(べろ)の体操」です。口を大きく開けて、舌をできるだけ長く出す。次に上唇をなめる。さらに口の両端をなめる。最後に唇を閉じて、舌で上下の歯の並びの外側をなぞりながらなめる。唾液が出てきたら、意識して飲み込む。これも3回行う。

食べるために必要な口の機能が低下していくことを、「オーラルフレイル」といいます。いま紹介した口の体操をすることで、食べ物などを飲み込む一連の動きがスムーズになって、オーラルフレイルの予防につながります。

就寝中の“唾液の誤嚥”にも注意

――食事中の誤嚥以外に、誤嚥性肺炎にならないために、気をつけることはありますか?

奥仲:
誤嚥性肺炎の原因は、食事中の食べものによる誤嚥だけではありません。食事中以外にも「唾液の誤嚥」が誤嚥性肺炎につながります。しかも、頻度として多いのは「食事中の食べものの誤嚥」よりも、「食事中以外の唾液の誤嚥」、特に「就寝中の唾液の誤嚥」によるケースなんです。

就寝中は、元気な若者でもごく少量の唾液を誤嚥しています。高齢者はさらに高い頻度で、多くの唾液を誤嚥しています。これを「むせない誤嚥」「気が付かない誤嚥」ということから、「不顕性(ふけんせい)誤嚥」と呼んでいます。 唾液1ミリリットルに、およそ1億個の細菌が含まれていると言われています。それをダイレクトに肺に誤嚥することで、誤嚥性肺炎を発症してしまうわけなのです。

――そうした不顕性の誤嚥を予防するには?

奥仲:
「就寝中に自分のせきで目覚めてしまう方」や「朝起きたときに、たんの絡みが多い方」「風邪や尿路感染などの症状が無いのに、頻繁に熱が出る方」は、就寝中に不顕性誤嚥をしている可能性が高いので、誤嚥性肺炎には注意が必要です。

不顕性誤嚥の具体的な対策としては、就寝前に入念な歯磨きを行い、口の中の細菌を減らすことが重要です。また、寝るときの姿勢を横向き(側臥位(そくがい))にすることでも、唾液の誤嚥のリスクを減らすことができます。
高齢者だけでなく、喫煙者や中年期の生活習慣病の方々も免疫力が落ちているため、誤嚥性肺炎になるリスクがあります。十分、注意するようにしてください。

――きょうは、ありがとうございました。


【放送】
2023/07/21 「Nらじ」

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