反貧困犬猫部~ペットと困窮する飼い主を支援~

NHKジャーナル

放送日:2023/12/14

#インタビュー#どうぶつ

NHKジャーナルの“流浪のコーナー”「わんにゃんジャーナル」では、ペットと人の関係についてお伝えしています。
今回は、ペットと貧困について考えます。コロナ禍や物価高騰の影響で、住んでいる場所を出ることを余儀なくされる人がいます。もし、その人がペットを飼っていたら…。ペットと人を、ともに支援する取り組みについて紹介します。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク・打越裕樹キャスター・結野亜希キャスター)

【出演者】
室:室由美子ディレクター

反貧困犬猫部とは

――貧困に陥ってしまったペットと人の支援を行っている団体があるんですか。

室:
今回、私が取材したのは、東京・新宿区を拠点にする一般社団法人「反貧困ネットワーク」です。この団体は、2007年から、生活困窮者や路上生活者の支援、そして相談などに当たってきました。
団体が支援を行ったケースは2020年には300件余りでしたが、徐々に増えて、去年はおよそ640件に上っています。

――かなり大変な状況です。その中にペットに関する相談もあったということでしょうか。

室:
そうなんです。
コロナ禍のさなかの2020年5月、「反貧困ネットワーク」の事務局長、瀬戸大作(せと・だいさく)さんのもとに、ある女性からSOSが寄せられました。

半貧困ネットワーク事務局長 瀬戸大作さん

瀬戸さん:
ある都内のコインランドリーから、家がないという女性から連絡が入りました。そのときに高齢のチワワもいるということでした。駆けつけてみると、女性は所持金が全くなく、コインランドリーのところで寝泊まりしていた。犬も連れていました。

室:
女性は、コロナ禍で家賃を払えず、家を出ざるをえなかったそうです。細々と仕事は続けていましたが、賃金を受け取れるのは翌月以降だということでした。瀬戸さんが駆けつけたとき、女性も犬も、ほとんど何も食べていなかったそうです。当時、瀬戸さんの団体では、女性が犬と一緒に暮らせる「シェルター」を確保していませんでした。このため、急きょ、ほかの団体と連携し、なんとか1人と1匹が一緒に過ごせる場所を見つけることができました。
瀬戸さんは、この件をきっかけに、人とペットが一緒に暮らすための取り組みを行う「反貧困犬猫部」を立ち上げることになったそうです。

反貧困犬猫部の活動

――「反貧困犬猫部」の活動とは、どのようなものですか。

室:
まずは、「犬猫部」の活動資金を確保するため、「犬猫基金」を作りました。寄付を募ると、それまでの支援者とは別に、動物好きの人からも支援金が寄せられました。それを基金として活用しています。
次に、課題だったシェルターを、20部屋、確保しました。貧困状態に陥った人が、犬や猫などと一緒に泊まることができます。一時的にここで生活してもらい、その間に団体が、支援を受ける人の生活保護の申請や、仕事探しなどをサポートします。また、理解のある不動産業者と連携して、ペットと一緒に暮らせるアパートなども探します。

炊き出しに並ぶ人たち

寄せられるSOS

――具体的には、どのような人たちを支援してきたんでしょうか。

室:
20代から60代まで。単身の方が多いそうです。ことしは女性からの相談が多く、7対3ぐらいの割合でしたが、理由についてはよく分からないと瀬戸さんは話します。仕事を失った人だけでなく、パートナーから暴力などを振るわれ、ペットと一緒に自宅を飛び出した人を支援するケースもあったそうです。
支援した人の中には、犬を連れたまま路上生活をしていた50代の女性がいました。

瀬戸さん:
この女性の場合は、通りかかった市民から連絡を受けました。『野宿している女性がいて、ワンちゃんがいると、助けてあげてほしい』ということでした。突然、仕事を切られ、新宿西口や、都庁のところで寝泊まりしていました。
印象的だったのは、路上生活をしている人たちが、自分たちも食べるものがないのに、ワンちゃんに食べ物を運んでくれた、優しくしてくれたことでした。

新宿 東京都庁付近

室:
中には、“犬や猫以外”のペットを飼っていたケースもありました。

瀬戸さん:
トラックのドライバーをしていたという50代の女性は、仕事がなくなり、家賃を滞納してしまったということでした。家を出ざるをえず、多摩川の河川敷にテントを張って、鳩とチャボと一緒に暮らしていました。少し大変ではありましたが、なんとか、鳩とチャボと一緒に暮らせる部屋を見つけることができました。

――ペットと離れるぐらいなら、河川敷で暮らすという選択をしたのかもしれませんね。

室:
そうですね。
ほかにも、犬の飼い主が、突然、長期入院を余儀なくされたケースがありました。病院では飼えないので、本人の了解を得たうえで、瀬戸さんたちが犬を引き取りました。SNSで呼びかけて新たな家族を見つけることもできました。

反貧困犬猫部で里親を探した犬

ペットを飼うのはぜいたくなのか

――もともとは、貧困に苦しんでいる人たち。そんな生活をしているのに、ペットを飼うなんてぜいたくじゃないかという見方をする人もいるのではないかと感じたのですが…

室:
そうした声は、確かに寄せられているそうです。
また、生活保護の申請のために自治体の窓口に行ったところ、ペットは処分するように言われたケースもあったということです。ただ、決められた生活保護費をやりくりしながら、動物を飼うことに問題はないはずです。
生活保護を受けている人がペットを飼うことは、法律で禁止されているわけではありません。瀬戸さんは、ペットは、孤独な人の支えになる存在だと訴えています。

瀬戸さん:
孤独な人は増えています。周囲の人間に何回も裏切られたという人もいます。そうしたなかで、ワンちゃんやネコちゃんが、その人をどれだけ励ましてくれる存在なのかということを考えてほしいと思います。
ワンちゃん、ネコちゃんが一緒にいることで生きていける、その力を持てるということはすごく大切で、そのことについて、僕はしっかりと伝えたいと思っているんです。

――コロナ禍や物価高、生活が苦しい人にとっては厳しい状況が続いていますね。

室:
孤独で貧困な状態が長く続くと、精神的に不安定になり、なかには精神疾患を発症する人もいるといいます。ただ、瀬戸さんは、こうした問題は、決してひと事ではなく、誰もが、ふとしたきっかけで仕事を失ったり、家族を失ったりすることがあると指摘しています。

瀬戸さん:
貧困の問題と言うのは、ひと事ではなくて、自分自身がいつ苦しい状態になるかわからない。何かあったときに助け合う社会になってほしいし、ペットの命についても、ちゃんと大切にされる社会であってほしいと思っています。

支援について考えてみてほしい

――支援は順調に進んでいるんですか。

室:
コロナ禍が落ち着いて、「もう大丈夫だろう」と考える人も多いためか、「反貧困犬猫部」に寄せられる寄付の額は減ってきているそうです。もちろん、海外の紛争などで支援を必要とする人たちもいて、そちらに目を向けることも大切です。ただ、一方で、こうした活動にも関心を持ってもらえれば、うれしく思います。

新宿 東京都庁付近

番組に寄せられたメッセージ

  • 子どものころから、わが家にはずっと犬が一緒にいました。一緒に成長し、生きてきました。簡単に手放せるわけはありません。
  • 生活保護を受けるのに、ペットという家族を処分しろとか…なんというか、行き場のない憤りを覚えてしまいます。
  • 突然、仕事がなくなり、自分が住む家もなくなる。本当につらい状況かと思います。ラジオを聞いて、せめてペットとの暮らしは守ってあげたいと思いました。反貧困犬猫部の瀬戸さん、とても優しい方だと思いました。少しですが、寄付させていただきます。
  • 私は訪問営業マンですが、ペットと一緒に暮らす1人暮らしの方には、ほぼ毎日、出会います。ペットは飼い主に支えられ、また飼い主はペットに支えられる暮らしを、貧困だからと言う理由で否定してしまってよいのでしょうか? 私はペットを飼うことだって「基本的人権」の1つだと思います。
  • ペットも大切な命。社会の理解が進めばよいのですが。
  • 犬や猫は人間の気持ちに寄り添ってくれます。飼い主が幸せになれば、ペットも同じような気持ちになります。
    少しでも前向きになれるようサポートできる社会になってほしいと思います。
  • ペットは大切な家族ですから。このような支援はこれからもぜひ続けてほしいです。

【わんにゃんジャーナル】
ペットや動物は、私たちの家族といっても過言ではない存在です。
動物に関する話題や知っておきたいことについてポッドキャストなどでも配信しています。

詳しくはこちら


【放送】
2023/12/14 「NHKジャーナル」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます