瀬戸内海のごみ問題 その背景は…(広島)

24/04/02まで

NHKジャーナル

放送日:2024/03/26

#ローカル#広島県#インタビュー#環境

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波が穏やかで海岸線が美しい瀬戸内の海。しかし、足元に目を向けると特徴的な形をしたごみがあちこちに散らばっていました。その正体は? 広島放送局の河畑達子(かわばた・ひろこ)アナウンサーが取材しました。

謎の“細長いパイプ”

河畑:
去年、G7サミットが開かれた広島。日本三景のひとつ「宮島」にある「厳島神社」では穏やかな瀬戸内の海とそこにそびえる大鳥居をバックに各国首脳陣が記念撮影し、その美しさを世界に発信しました。そんななか、県内各地の海岸や砂浜を取材すると、打ち上げられた漂着物の中に、同じような形や大きさの物体がたくさん見られることに気づきました。廿日市市の海岸を取材しました。

(河畑アナリポート)
♪穏やかな波の音
「廿日市市の鳴川海岸に来ています…、ありました! 長さ20センチほどのパイプ。そして発泡スチロールが砕けたようなものもたくさん落ちています。」

河畑:
リポートの中で見つけた漂着物の写真がこちらです。

――・・・ストローのようにも見えますが?

河畑:
いえ、ストローではないんです。では、この漂着物の正体はいったい何なのか。取材を進めると、ある“広島名物”と関わりがあることがわかりました。ウインドサーフィンのインストラクターで、廿日市市の海岸の環境を守る活動をしている藤元陽一さんの話です。

藤元さん:
このあたりをパッと見る限り…(細長いパイプが)10個以上はありますね。さらにこれが“いかだ”の下についている発泡スチロール、1mはありますかね。

河畑:
藤元さんが“いかだ”とおっしゃっていましたが、これらの漂着物の多くが広島を代表する味覚「かき」の養殖につかわれる「かきいかだ」から出たプラスチックごみだったんです。

河畑:
養殖かきの生産量は広島県が全国のおよそ6割を占め、地元の水産業を支えています。県内ではどのように生産されているのかというと、1本のワイヤーで複数の貝をつないだものを、大きないかだから、まるで「のれん」のようにつり下げる方法が主流なんです。

――「つるしびな」が海の中にたくさん下がっているイメージですかね?

河畑:
そのとおりです。実は養殖資材の中にはたくさんの「プラスチック」が使われています。
例えば、藤元さんのお話の中にあった“発泡スチロール”は、かきいかだを海に浮かせるための「フロート」と呼ばれるものが欠けてしまった一部分でした。
そして、細長い“謎のパイプ”。その正体は…、通称「かきパイプ」と呼ばれるものです。かきの稚貝をワイヤーで通して連ねる際に、かきとかきの間隔を保つために使われるストッパーの役割があるんです。水中の養分などを全体に行き渡らせ、品質のよいかきを作るために欠かせないものなんです。
ただ、フロートやパイプは漁船などとぶつかったときの衝撃だったり、暴風や高波、さらにカニなどの生物にかじられるなどして破損しやすいそうなんです。するとごみとして沖合を漂い、しまいには岸に打ち上げられます。さらに海岸に漂着したプラスチックごみは紫外線や風雨にさらされることでもろくなり、より細かくなっていきます。再び藤元さんです。

藤元さん:
これがまた細かく粉砕されて海の中に入って流れてきて、またビーチにたまっていく。ここでお昼を食べていると風に舞い上がって(食品の中に)入ってくるんですよね。だから最終的には自分たちの体に入ってくる可能性もありますよね。

――最近ニュースでよく耳にする「マイクロプラスチック問題」ですね。

河畑:
世界的にも関心が高まっていますが、プラスチックは自然界では分解されずに残ってしまい、その影響が心配されています。広島県によると2022年に県内の沿岸に漂着していたごみの総量は推計でおよそ20トン。このうち6割ほどが、かき養殖など漁業関連のものとみられ、その規模は軽トラックの積載量のおよそ40台分にもなります。

――藤元さんたちは海辺の環境を守る活動をされているなかで、限界を感じると…。

河畑:
そうですね。前回は去年12月に地元の海岸の清掃活動を行いましたが、それから3か月後の現地を取材すると、残念ながらさまざまなプラスチックごみが打ち上げられていました。また、かきいかだのものとみられる竹材や針金類が漂着することも少なくないといいます。

プラゴミ 漂流させない技術開発

――これまで地元で対策は取られてこなかったのですか。

河畑:
県や漁業者は定期的に海岸清掃を行ってきたほか、漁協は“かきパイプ”の買い取りを実施するなど、20年以上前から“ごみの回収”を中心に取り組んできました。
そんな中、いま地元漁業関係者の間では、海洋プラスチックごみが出ないようにするための新たな取り組みが行われています。
そのひとつが、プラスチック資材に特殊な樹脂を吹き付けて耐久性を向上させ壊れにくくするテクノロジーを使ったフロート開発です。広島市漁協が地元企業と協力して開発しました。この技術を使ったものとそうでないものは、音でも違いがわかると思います。実際に実物を取材しました。

(河畑アナリポート)
従来の発泡スチロール製。たたいてみると…(♪コツコツコツ)
一方で強化剤を吹き付けた発泡スチロール製のフロート…(♪コンコンコン)かなり硬い音がします。

――言われてみれば確かに硬そうな気が…。

河畑:
たたくと違いがよくわかるんです! 強度はなんとパワーショベルで押さえつけても形が復元するほど。その効果は持続するそうで、もとの素材の寿命を5倍以上伸ばすことができると期待されています。この技術を使ったフロートはいま、漁業者の間で少しずつ利用され始めています。開発に関わった広島市漁協の関係者もこの技術に期待を寄せています。かき養殖担当の黒田直樹さんです。

黒田さん:
漁業関係だけでなく広がっていってほしいと思っています。やはり環境を考えていく中で汚れたものを次の世代に引き継ぐということはやりたくないですし、美しい海を残していきたいです。

河畑:
ほかにも県内では時間とともに海の中で自然に分解される特殊なプラスチックを使ったかきパイプの開発がすすめられるなど、この問題を解決するためのさまざまなプロジェクトが進められています。
私自身、瀬戸内の海が大好きです。今回、かきいかだのプラゴミ問題をきっかけに取材をはじめましたが、今後も海辺の美しさを取り戻すための地域の取り組みや新たな技術を追い続けたいと思います。

広島放送局
河畑達子アナウンサー


【放送】
2024/03/26 「NHKジャーナル」

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