備えていますか? “ペットとの避難”(富山)

NHKジャーナル

放送日:2024/03/19

#ローカル#富山県#インタビュー#防災・減災#能登半島地震

元日に発生した能登半島地震で、富山県内では富山市や高岡市、氷見市などで震度5強を観測。住宅などの建物被害は1万5,000棟あまりに及びました。発災直後、避難所には多くの人が身を寄せましたが、ここである課題が見えてきました。富山放送局の岩﨑果歩(いわさき・かほ)アナウンサーが取材しました。

国は「同行避難」を推奨

(講習会での参加者のやりとり)
「犬と猫が一緒で大丈夫ですか?」

「柴犬1匹。ちょっと他の犬にほえるので…」

岩﨑:
2月中旬、富山市で開かれた県主催の講習会の様子です。避難所でペット連れの被災者を安心して受け入れるためにはどうすればよいか、各自治体や動物愛護団体の担当者らおよそ40人が、支援のあり方について考えました。講師を務めたペットの支援に携わっている平井潤子さんの話です。

平井さん:
ペットと飼い主さんはこちら、あるいは(動物が)苦手な方・アレルギーの方はこちらという準備をしていただくことで、飼い主さんが壊れた自宅で暮らしつづける(避難せず壊れた自宅にとどまる)ことを防げますので、支援側にもそういう態勢を整えてもらえればいいなと感じています。

岩﨑:
そもそも環境省は災害の際にはペットと一緒に避難所に行く「同行避難」を推奨していて、富山県も同じです。ただ避難所では基本的に人間が生活するスペースとペットの飼育場所は切り離されます。アレルギーのある方や動物が苦手な方に配慮するためです。

避難所ごとに対応差あり

――避難所生活を送る方への配慮は大切だと思いますが、今回の地震では、避難所でのペットの受け入れはどうだったのでしょうか?

岩﨑:
富山県内すべての15市町村に電話取材をしました。どの自治体も具体的な受入数については把握していなかったのですが、少なくとも8つの自治体で実際にペットを連れて避難してきた人がいて、避難所の中には飼い主と同じ部屋で過ごせるよう対応したところもあれば、屋外での飼育に限って許されたところもありました。

――対応はまちまちだったんですね。

岩﨑:
ただ、ペットも家族の一員。私も実家で犬を飼っている経験からとてもよくわかるのですが、飼い主としてはペットとできるかぎり同じ空間で過ごしたいという思いもあります。
能登半島の付け根にある氷見市で避難所生活を経験した子浦幸子さんを取材しました。築60年の自宅に家族5人で暮らしていた子浦さんは、ポメラニアン2匹とセキセイインコ2羽を飼っています。元日の地震で外壁や天井が崩れ、準半壊の判定。とても住める状態ではないといいます。ペットとともに避難した一次避難所の小学校では一緒に過ごせる部屋を用意してもらえました。しかし、そこが閉鎖され市のスポーツ施設に開設された避難所に移ったところ、ペットはロビーまでしか入れなかったといいます。

子浦さん:
(ペットを入れる)キャリーやケージは持ってきていたんですけど、支援物資が置いてあったりとか(避難所にもスペースに限りがあり)ちょっと置く場所はなかったですね。みなさん被災されて精神的にもめいっているところで犬がほえるのもどうかなと思ったんで。

岩﨑:
子浦さんは寒さに弱いインコ2羽はケージに入れてロビーで飼育することに。しかし、ポメラニアン2匹はほかの避難者に迷惑をかけたくないという思いから施設の駐車場にとめた自家用車の中で飼うことにしました。避難所のロビーと車内を、家族と交代で過ごすこと1週間。子浦さんの疲労はピークに達していました。

子浦さん:
足はすごくむくみました、あのときはずっと座っている状態だったので。ここで車中泊しているときが一番精神的に辛かったですね。この子たちが寒い思いしているっていうのが辛かったですね。

民間で始動“飼い主の受け皿づくり”

岩﨑:
ペット避難を巡って課題が浮き彫りになった今回の地震。こうした状況を何とかしようと、新たな受け皿づくりを始めた人がいます。氷見市の隣、高岡市の動物愛護団体で活動する宮腰千景さんです。地震発生後、自ら運営するカフェの一角を急きょ、ペットを連れた人の避難所として開放したのです。

宮腰さん:
被災なされた方とか動物のことを思うといってもたってもいられなくなって。すぐ自分に置き換えて考えると離れたくないっていうかね、やっぱり不安だろうなと思って。すぐ提供しなくちゃいけないかなと。

岩﨑:
子浦さんも同居する母親と一緒に犬とインコを受け入れてもらいました。

子浦さん:
わらをもすがる思いでしたね。とにかく早く1部屋でいいから一緒にいられる場所があるんだったらって思って。あの子たちも常に私とか母が一緒にいられるし安心したと思います。

岩﨑:
子浦さん家族の様子を見た宮腰さんは「飼い主とペットがともにより気の休まる空間が必要だ」と感じ、いま専用施設の開設に取り掛かっています。

――専用施設ですか?

岩﨑:
準備しているのはペット同伴で宿泊できる「民泊」施設です。地域の空き家や中古物件を3棟ほどリノベーションし、鍵のかかる個室を設けて、災害時にはおよそ10世帯を受け入れられる避難所として開放する計画です。行政の指導を受けながら2~3か月のうちに開設したいということです。

宮腰さん:
部屋が分かれていることによって保温とかあるいは涼しさとか、動物にも応じた空間がうまく確保できていくんじゃないかな。『あそこにはすぐに動物と一緒に受け入れてくれる施設がある』というふうに分かっているだけでも、何かあったときには安心感を持っていただければいいかなと思います。

岩﨑:
今回はペット避難を取材しましたが、いざというときすべての人が避難所に避難することをためらわない工夫が必要だと感じました。また、能登半島地震では今も自宅を離れて暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。長期的な支援の在り方など、災害対策について今後も取材を通じて向き合っていきたいと思います。

富山放送局
岩﨑果歩アナウンサー


【放送】
2024/03/19 「NHKジャーナル」

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