求む! 消防団員 あの手この手で獲得を(和歌山)

NHKジャーナル

放送日:2024/03/05

#ローカル#和歌山県#インタビュー#音楽#防災・減災

地震や火災など、地域防災の要となる「消防団」。和歌山県内では団員の募集を図るためにユニークな取り組みを行っています。和歌山放送局、神谷一鷹(かみや・かずたか)アナウンサーが取材しました。

『音楽隊』で親しみやすさを

♪マーチングバンドによる演奏(YOASOBI「群青」)

神谷:
先月(2月)26日、和歌山市内の小学校で行われた演奏会「みんなの消防コンサート」の様子です。1曲目を飾ったのは若者に人気の、YOASOBIの『群青』。子どもたちは聴き入っていました。

――消防署の人たちによる演奏会なんですか。

神谷:
「和歌山市消防音楽隊」による演奏会です。楽器はマーチングバンドの編成で、現在45人で活動しています。ただユニークなのは、その大半の35人が「消防団員」。いわば“消防団によるオリジナル音楽隊”なんです。この日は全校児童およそ140人を前に、Adoの『新時代』など、子どもたちに人気の楽曲が披露され子どもたちは終始笑顔、会場は手拍子に包まれていました。
ただこの消防音楽隊は演奏の合間に、こんな「出し物」もあるんです。

♪訓練の実演を見た子どもたちの歓声

――なにやら力強い掛け声が聞こえますね。

神谷:
これは「消防訓練の実演」です。高い場所からロープを使って安全に降りる訓練をしている様子です。ほかにも命綱の固定に使うロープの早結びを見せたり、消防出初式でもおなじみのはしごを上ったりしていました。子どもたちは訓練の様子を見て、この日一番の歓声を上げていました。
演奏会は防火への啓発とともに、“男性社会”で“堅い”といった消防団のイメージを変え、だれもが参加しやすいことをアピールすることを目的に、月1回ほど行われています。この音楽隊は、消防団の広報活動の一環で12年前に編成されました。「消防署」や「警察」の音楽隊は聞いたことがあると思いますが、「消防団の音楽隊」があるのは全国でも珍しいそうです。

――なぜ、消防団の音楽隊が結成されたのですか?

神谷:
背景には消防団員の全国的な担い手の不足があり、全都道府県で条例に定められた人数を満たしていないんです。和歌山市の消防団員数は現在1526人。定員を100人ほど下回っていて、活動を維持するのにギリギリの状況です。音楽隊の広報活動を通じて、消防団への理解を浸透させ、なんとか消防団員の減少を食い止めようというねらいがあります。

――「音楽隊」の取り組み、実際に成果はあったんですか?

神谷:
はい。新たに仲間に加わった女性隊員がいます。サックスを担当する芝本直子さんです。普段は事務員をしているかたわら、去年から音楽隊をはじめとした消防団活動に従事しています。消防団入団のきっかけを次のように話します。

芝本さん:
以前からこんな活動があるって知っていてやってみたいなと思っていて、ちょうど募集があったので受けてみようと思って。もともと音楽はずっとやっていて、やっぱりこういう地域貢献というか、防火防災の啓発とかそういう興味があったので、やってみたいと思って入りました。

――消防団の音楽隊の活動は地域に浸透しているんですね。

神谷:
そうですね。芝本さんは中学生から吹奏楽部。社会人になってからも音楽を続けていました。入団して消防団のイメージがガラッと変わったと言います。

芝本さん:
実際自分も消防団への理解が深まったと思います。もっと堅いところなのかなと思ってたんですけど、やってみたらみんな親切で。 アットホームな感じでいつも演習訓練をしている、印象がすごく変わりました。

神谷:
団員確保の取り組みに力を入れる和歌山市消防団班の松田修亮さんは、地域に住む若い人たちの意識に訴えることが今、求められていると話します。

松田さん:
消防団が超高齢化になっていって、技術も落ちた、知識も落ちたっていうふうなことがないように、若い人たちの力は非常に大事になってくるかなっていうふうに思います。

『広告収入』で装備の充実図れ

神谷:
さらに和歌山市の消防団では、人手だけでなく予算面の確保でも全国的に珍しい取り組みを行っています。消防車の写真から何か普通の消防車両と違う点、気付きましたか?

――側面のドアの部分に、企業の広告が貼ってありますね。

神谷:
そうなんです。去年10月から消防団の車両に広告を掲載し、収入を得る取り組みを始めました。開始から3か月で、5つの企業から契約があり、32万円の収入が確保できました。

――新たな収入源はどう活用するんですか?

神谷:
装備の充実です。例えば「最新の防火服」。防火性能を高めながら軽い素材でできているため、現場で体力が消耗するのを抑えられます。しかし価格は一着12万円! 今のところ目標のわずか8%しか配備できていません。新たな収入を得ることで、こうした現場の負担の低減を図り、女性や学生などに幅広く参加してもらえる環境を整えようとしているのです。
能登半島地震をはじめとした地震や風水害など全国で災害が相次ぐなかで、和歌山県は南海トラフ巨大地震の発生による影響が懸念されています。和歌山市消防団班の松田さんは、消防団の機能強化はもはや待ったなしの状況だと話します。

松田さん:
道路が寸断される可能性も当然あります。応援部隊がやはり和歌山まで入ってこれないっていう事になると、なんとか自分たちで食い止めないといけないっていうところにやはり至るので、消防団の力っていうのはすごく必要な存在なのかなというふうに思います。

神谷:
こうした取り組みの成果もあり、和歌山市では女性や学生の団員も徐々に増えてきているということです。
今回の取材を通じて消防団の大切さを改めて感じました。災害から命を守るため自分に何ができるか、これからも考えていきたいと思いました。

和歌山放送局
神谷一鷹アナウンサー


【放送】
2024/03/05 「NHKジャーナル」

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