特産の芋焼酎がピンチ(宮崎)

24/02/20まで

NHKジャーナル

放送日:2024/02/13

#ローカル#宮崎県#インタビュー

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宮崎県を代表する特産のひとつ「焼酎」の出荷量は全国一を誇りますが、いまその原料を巡ってある問題に直面しているといいます。宮崎放送局の道上美璃(どうじょう・みり)アナウンサーが取材しました。

感染拡大! 「サツマイモ基腐病」

――道上さん、どんな問題が起きているんですか?

道上:
はい。米・麦・そばなど多彩な原料を活かした焼酎造りが行われている宮崎県。なかでも最も盛んに生産されている「芋焼酎」の原料が危機に立たされています。

――芋焼酎の原料というと…「サツマイモ」ですね。

道上:
はい。その生産現場では「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」という病気がまん延していて、酒造会社では思うように原料が調達できない状況になっています。

――「サツマイモ基腐病」とはどんな病気なのでしょうか。

道上:
この病気に悩む生産者の一人、都城市の米満洋一さんを取材しました。

米満さん:
こっちが健全な芋で、こちらが見ての通り、上の方が茶色くなって腐ってきてます。これが基腐病になっている状態です。

道上:
焼酎用に多く使われるのは「黄金千貫(こがねせんがん)」という品種のサツマイモで、皮も実も“黄色”なのが特徴です。しかし、ひとたび基腐病にかかると茶色く腐ってしまい、それらはすべて廃棄せざるをえません。

――なぜ腐ってしまうんですか?

道上:
カビの一種である糸状菌が原因とされています。芋の傷ついた部分から感染し、つるや茎が枯れてしまうこともあります。この菌に感染すると胞子や雨などを媒介して農場全体に拡散します。菌は土に残りやすく、次の季節もサツマイモ基腐病にかかってしまう可能性が高くなる、非常にやっかいな病気なんです。
米満さんの畑では、この病気による被害が去年、作付面積の10~15%ほどにあたる50アール以上にまで広がり、廃棄したサツマイモは20トンを超え、被害額は100万円以上に及びました。
手塩にかけて芋を育ててきた米満さんが感染拡大に気づいたのは収穫直前の11月。これにはさすがに大きく肩を落としました。米満さんです。

米満さん:
11月になったとたん病気が蔓延したような状況で。もう収穫するだけの状態ですね。最後っていうのはお金になるところなんですよね。それが腐った状態で出荷できないとなればお金が経費だけで終わってしまうんです。収入がなくなるわけやからですね。

――サツマイモ基腐病の被害、どれくらい広がっているんですか?

道上:
2018年に沖縄県と鹿児島県で初めて確認されて、その後まもなく宮崎県でも確認されました。2020年度には県内全体の作付面積の8%以上が被害を受けたとされています。去年2月までに南九州だけでなく東北や北海道なども含めた31都道府県で感染が確認されています。

――防ぐのは難しいのでしょうか?

道上:
国などは菌を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」といった3つの対策を求めています。しかし今のところ感染ルートを絶ったり、病気を完全に抑えたりする方法は分かっていません。

――本当にやっかいなんですね。

克服目指せ! 酒造会社の新施設

道上:
そんななか都城市では去年、大手焼酎メーカーが自らが対策に乗り出したんです。「基腐病」の原因となる菌に汚染されていない健全な苗を育てるための新しい施設をおよそ14億円かけてつくり、10月に開所式が行われました。

♪オープニングセレモニーの様子

道上:
施設の名前は「イモテラス」。広さ8,700平方メートルほどの大規模な農業用ハウスのような建物です。中には、栽培中の苗がところ狭しと並んでいて、菌から苗を守るための対策が取られています。例えば、床はコンクリート張りで徹底的に湿度を管理し、高さ1mくらいの棚の上で苗を育てています。苗は一本ずつポットに分けられていて、万が一菌が見つかっても広がらないように工夫されています。

――酒造会社自らここまで取り組んでいるんですね。

道上:
この会社では過去2年、計画していた量のサツマイモを確保することができませんでした。販売量は5%ほど減少。さらに一部の主力商品が販売休止に追い込まれるなど、サツマイモ基腐病の影響が焼酎の製造現場を直撃しています。そのため自社での苗の栽培は打開策のひとつと考えています。この酒造会社の担当者、坂元裕哉さんの話です。

坂元さん:
病害のリスクが少ない健全な苗を供給することが急務というところで社内でも考えております。おおもとであると。種苗段階で基腐病の拡大を食い止めることができるため、最善の対処法と言えます。

道上:
まずは、この酒造会社の契約農家に苗を供給する計画ですが、将来的には業界全体で広く使ってもらい、病気に立ち向かう決意です。さらに「イモテラス」では病気に強い品種の独自開発に向けた研究にも取り組んでいます。年々変化する生産環境に対応できるよう、農家にとっても育てやすい新品種づくりを目指すとしています。そして将来的にはほかの焼酎メーカーやケーキを作る会社にも苗を供給したいということです。再び、酒造会社の坂元さんです。

坂元さん:
品種改良による生産農家のサツマイモ栽培の省力化と、新品種開発による新たな味わいを持つ芋焼酎の提案ということが期待されております。

道上:
この施設で栽培された苗を使ったサツマイモがはじめて収穫の時期を迎えるのはことし夏ごろ。実際の焼酎になるまでには1年以上かかり、結果が出るのはもう少し先になります。生産にかかわる関係者の本気が、地場産業が抱える課題の解決につながるか、注目されます。

宮崎放送局
道上美璃アナウンサー


【放送】
2024/02/13 「NHKジャーナル」

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