ひっ迫する現場の救世主 「機動的救急隊」とは?(三重)

24/02/13まで

NHKジャーナル

放送日:2024/02/06

#ローカル#三重県#医療・健康

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今、全国的に救急医療体制がひっ迫しています。一人でも多くの命を救うため対策に乗り出した三重県内の取り組みを、菊田一樹(きくた・かずき)アナウンサーが取材しました。

出動の対象は「救急空白域」

(津市消防本部職員らによる訓練の様子)
80歳の男性、心肺停止状態。救急、津、北1了解しました

♪サイレン

菊田:
津市消防本部が去年8月から試験運用を始めた「機動的救急隊」、通称「M.O.A(モア)」の訓練の様子です。一言で言うと、管轄の垣根を取っ払い「救急空白地」の現場にいち早くかけつける、いわば“特別部隊”です。

――「救急空白地」ですか?

菊田:
はい。救急車とともに救急隊員が出払ってしまい、一時的に地域内での救急要請に対応することができなくなってしまうエリアを、関係者の間で「救急空白地」と呼んでいます。その地域では最悪の場合、助かるはずの命が救えなくなる可能性が高くなる心配がありますが、こうしたケースが徐々に増えているそうなんです。
その対策として生まれたのが「機動的救急隊」。専用の救急車1台と、救命救急に携わる10人のメンバーで編成され、普段は市内のほぼ真ん中に位置する消防署で待機しています。現場を取材しました。

(消防本部 通報入電)
指令室:
「はい。119番消防です。火事ですか、救急ですか?」
通報者:
「救急です!」

菊田アナリポート:
消防本部の指令室です。ここで119番通報を受けています。大きな画面が目の前には設置されていて、たくさんのモニターがあります。市内すべての救急車の出動がわかるようになっています。例えば、赤なら出動中、青なら待機というように、1台ずつひと目で確認できるようになっています。ここで空白地の状況に応じて、「機動的救急隊」を出動させるということです。

菊田:
「機動的救急隊」は、救急車の活動状況などを総合的に見極めて“救急空白地”を判断。いつでも現地に直行できるよう備える、救急業務の補完的な位置づけです。
実働する時間帯は朝8時30分から夕方5時30分まで。通報が多く寄せられる日中に限定した運用です。限られた人員でギリギリのやりくりを続ける中、一人でも多くの命を救いたいと試験運用の期間を経て去年12月から本格的に運用を始めました。
津市消防本部・消防指令の奥山和司さんは、従来の救急体制に限界を感じ「機動的救急隊」の結成に至ったと話します。

奥山さん:
今後高齢化が進み、さらに救急需要は高まることが想定されています。それに対して救急隊の台数は限られていますので、助けられない可能性も出てくる危機感はとても感じております。

菊田:
背景には「救急出動件数」の増加があります。総務省消防庁によれば、おととし(令和4年)の出動件数は全国で700万件を超え、過去最多を更新。津市消防本部でも前年に比べ20%も増加し、何らかの手を打たなければ地域の救急医療が崩壊する瀬戸際だと感じていたそうです。

“1分1秒”を争う現場をバックアップ

――「機動的救急隊」結成から半年ほどが経つわけですが、どんな成果がありましたか?

菊田:
例えば、昨年10月のケースですが、救急車が不在の署で60代男性から高熱・悪寒を訴える119番通報が入ったものの、隣接する署でも救急車が出払っていたため、「機動的救急隊」が出動しました。通報から到着までの時間を検証したところ、本来であれば、さらに遠い署から15分かかる現場に、「機動的救急隊」は9分で到着。6分の時間短縮になりました。

「機動的救急隊」の隊長を務める救命士の小野麻衣さんは、補完的とはいえ市内全域をカバーし柔軟に動くことができるこの体制に手ごたえを感じています。

小野さん:
我々救急隊の姿を見て取り乱していた方が落ち着かれたり、通報者やご家族の少し「ホッ」とした顔を見た時は安心していただけたのだと感じたことがありました。1分1秒でも早く到着して、なおかつ1分1秒でも早く処置を開始するというところがとても重要だと思っております。

――手ごたえを感じているということですが、隊長は女性ですか!

菊田:
そうなんです。地方の限られた体制の中で一人でも多くの命を救いたいと考えていた小野さん。実は、小学生の2人の娘さんを育てる母親でもあります。育児をしながら、救急の現場での活動をずっと希望してきました。日中の活動が中心となる補完的なチームである「機動的救急隊」を通じ、今、小野さんは、子育てとの両立を図りながら、市内あちこちの現場で命と向きあっています。
隊長としての思いを聞きました。

小野さん:
日中帯に1隊、救急車が増えることにより、ほかの救急隊の負担軽減になることと、自分たちが活躍できる新しい場になると思っております。救えるはずの命を救えない状況になるのを防ぎたいっていうところを目標にしています。市民の方に少しでも早く安心してもらえるように活動していこうと思います。

求められる『体制の柔軟性』

菊田:
さて、「機動的救急隊」を含め、救命救急を巡っては予期せぬ災害への備えも考えておかないといけません。消防指令の奥山さんは、先日発生した能登半島地震の被災地で活動したことを念頭に、次のように話します。

奥山さん:
輪島市の方に行っておりまして、被災状況を見て感じたことは、救急車の台数も限られていましたので、ひと事ではないっていうのを改めて感じました。大災害時には「機動的救急隊」を24時間体制で運用し、救急要請に対応する必要があると考えております。訓練等も含めて今後対応していく必要があると感じました。

菊田:
将来起こりうる南海トラフ巨大地震では、津市も大きな被害が想定されています。予期せぬさまざまな事態に対応するには、今後も「機動的救急隊」のような、これまでの運用にとらわれない、より柔軟な救急体制のあり方が求められます。

津放送局
菊田一樹アナウンサー


【放送】
2024/02/06 「NHKジャーナル」

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