金沢発! 進化する工芸の世界(石川)

23/12/19まで

NHKジャーナル

放送日:2023/12/12

#ローカル#石川県

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輪島塗や九谷焼、加賀友禅など伝統工芸が盛んな地域として知られる石川県では、工芸の世界が新しい形で花開こうとしています。金沢放送局の守屋瞭(もりや・りょう)アナウンサーが取材しました。

展示のなかに…ポテチを発見!

――“工芸の新しい形”…どんな変化が起こっているんですか?

守屋:
工芸といいますと漆器や焼き物、竹細工など、生活の中に取り入れる実用的なものという印象があると思います。しかし今、金沢から強く発信しているのは、アートとしての新しい工芸です。古くから受け継がれるものづくりの技術を生かしつつ、新たな表現に挑戦する動きが生まれています。

12月1日から3日間、金沢市内で工芸に特化したアートフェア、展示販売会が開かれました。現場を取材してきました。

守屋リポート:
「ホテルの客室です。壁紙に刺しゅうの作品。ソファーの上から洗面台の上まで多くの作品が並んでいます。」

――客室が展示会場ですか?

守屋:
そうなんです。JR金沢駅のすぐ近くにあるホテルの、3つのフロアを貸し切って行われました。40の客室を展示会場として、200点以上が並びました。この展示販売会はことしで7回目を数え、来場者は過去最多の3,200人以上を記録、年々注目が高まっています。

焼き物や漆塗り、織物など、さまざまな技法を用いた展示作品は、実用の域を超えたユニークなものばかりでした。例えば…、スナック菓子が好きな私の目を引いたのが、福井県出身の作家の作品です。みなさん、「袋に入ったポテトチップス」を想像してみてください。パッケージの大きさは実物大。袋の封が開いている状態を表現した造形作品です。

――たしかに、よく見る「ポテチのうすしお味」のパッケージですね。袋の見た目からは柔らかな印象を受けますね。

守屋:
でも実は素材が「磁器」なんです。作家の方が手にもつと…。

♪硬質な磁器がこすれる音
「カチャカチャカチャ…」

守屋:
これを見た来場者からはこんな声が。

男性来場者:
「ポテトチップスみたい。匂いしそう。」
「斬新ですね! ビックリです!」

新進の漆芸作家 「美は変化」

守屋:
もうひとつ作品を紹介しますね。

このアートフェアには石川県ゆかりの作家も数多く参加しました。その一人で36歳の漆芸作家・池田晃将さんの作品は…。

守屋リポート:
「おびただしい数の数字が光っています。コンピューターグラフィックスのような不思議なオブジェです。」

守屋:
1辺がおよそ3cm四方、手のひらサイズの小さな漆塗りの箱。黒を基調としていますが、見る角度によって無数の数字が七色に浮かび上がります。漆塗りの伝統技法のひとつ「螺鈿(らでん)」が使われています。螺鈿は真珠貝の内側の光沢がある部分を切り出して漆で貼りつける、日本古来の職人の技です。

――確かにパソコンのプログラミング画面のように小さな数字が、縦横びっしり並んでいますね。

守屋:
1つ1つの数字の大きさはわずか0.5mmと、人の手では生み出せない小ささです。どのように創作しているのか、金沢市内にある池田さんの工房を訪ねると、こんな音が聞こえていました。

♪機械が発する音
「ザーーーーー」

守屋:
使われていたのは「レーザー光線」。これで小さなパーツを作っていたんです。

――伝統の技法と現代のテクノロジーの融合ですね。

守屋:
そうなんです。池田さんは、真珠貝が本来もつ美しさを極限まで引き出すことを追求しています。パーツを漆塗りの木箱に慎重に貼りつけ、ここからは池田さんの手作業で限りなく薄く磨いていきます。失敗しても修正がきかず、匠の技でしかできない繊細な作業です。こうして完成した池田さんの作品は、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」の記事に掲載されるなど、世界からも注目されています。

池田さん:
伝統工芸の世界は、「伝統」という言葉のとおり、しっかり技術が守られてきた、そして僕らがそれを享受できている。その時代その時代で美しさの概念が変わっていくと思うので、今、この時代に生きている人が美しいと思うものを作らないといけない(と考えています)。

見直される“手仕事の技”

守屋:
金沢で開かれた工芸の展示会。開催の背景には、工芸への世界的な関心の高まりがあります。例えば、スペインのファッションブランドは2017年から世界の工芸作品のコンペティションを開催しています。ファイナリストには、資金面のサポートなどを受けながら技術を磨き、世界の都市の名だたる展示会に出展できる支援制度を設けました。3,000人近くの応募があった今年のコンペでは、日本がファイナリスト最多の国となりました。

――世界から視線が注がれているんですね。

守屋:
そうですね。金沢美術工芸大学准教授の金島隆弘さんは、手仕事などで形あるものを生み出す工芸の価値が改めて見直されている表れだと指摘しています。

金島さん:
人間の手で作っているものへの評価というものが、以前よりもさらに注目されるようになっているのかもしれない。おもしろい作家というものが増えていると思います。

守屋:
アートとして花開く新しい工芸。その背景には、今の時代だからこそできる表現や、美しさを追及する作り手たちの思いがありました。手仕事の技が残る金沢発の新たな工芸文化の発信から、これからも目が離せません。

金沢放送局
守屋瞭アナウンサー


【放送】
2023/12/12 「NHKジャーナル」

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