人口急増で“憩いの場”廃止…そのわけは(埼玉)

23/12/05まで

NHKジャーナル

放送日:2023/11/28

#ローカル#埼玉県

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さいたま市は人口の増加数が福岡市、大阪市に次いで全国で3番目に多く、特に子育て世帯の転入が増え続けています。ところが、それによって地域の中では気になる影響も出始めているそうなんです。さいたま放送局の吉田一之(よしだ・かずゆき)アナウンサーが取材しました。

県都・さいたま市 トップクラスの人口増加数

――さいたま市はそんなに人口が増えているんですか。

吉田:
そうなんです。都心へのアクセス、電車で30分のさいたま市では転入超過が続いているんですね。11月1日時点の人口は134万人余りです。この10年間で10万人も増えました。なかでも、0歳から14歳以下の子どもの転入超過数が8年連続で全国1位です。子育て世帯から大きな注目を集めているんですね。広告代理店などが行ったアンケート調査でも暮らしやすさが高く評価されています。
今回まず取材をしたのは南区のJR武蔵浦和駅周辺です。ここはタワーマンションの建設が続き、子育て世代の転入が相次いでいるところです。

「沼プー」廃止し新校設置へ

吉田:
ただ、近隣ににぎわいや活気が生まれている影で、いま失われようとしている地域のシンボルがありました。駅から歩いて10分ほどのところにある、さいたま市「沼影公園」です。広さは2ヘクタールほどでスポーツ関連の施設が充実した市営の運動公園です。子どもから大人まで、半世紀以上にわたって親しまれてきましたが来年の春に廃止されることになったんです。なかでもこの公園を象徴する施設がこの夏、一足先に幕を下ろしました。

♪プールのウォータースライダーを流れる水の音

吉田:
この音は、屋外プールのウォータースライダーを人が滑り落ちる音なんですね。夏に開放されてきた市営プールで、通称「沼プー」と呼ばれ愛されてきたところなんです。全長100メートルのウォータースライダーから260メートルもある流れるプールなどがあります。「『海なし県』の埼玉にプールを設置しよう」と52年前に開業しました。年間およそ10万人の利用客が訪れていましたが、ことし8月に営業を終了しました。屋外プールの最終日、利用客からは惜しむ声が聞かれました。

利用客:
「小学校のときはほんと毎週友だちと来たり家族と来たりしていました。」
「ひと通り写真撮って歩いて回りました。」

のびのび遊びたい…児童の胸のうち

――なぜ廃止されることになったんですか。

吉田:
新しい小中一貫校を公園の敷地に設置することが決まったためなんです。実は、子育て世代の急増でいま、既存の小学校ではスペースが限界に達しているんです。武蔵浦和駅から500メートルほどの場所にあるさいたま市立浦和別所小学校は、10年前800人余りだった全校児童数が、現在1.5倍の1200人あまりにのぼっているんですね。1学年あたり6から7クラスもあります。おととし仮設校舎を設置して、教室を増やして対応してきています。

――かつてのベビーブームのころを思い起こさせるような状況なんですね。

吉田:
ですから昼休みの子どもたちからはこんな声が聞こえてきます。

男子児童:
遊びたいです。走り回りたい!

吉田:
しかし、もう一人の児童は反対に…。

男子児童:
久しぶりに遊べたのでうれしいです。

吉田:
正反対の声が聞こえました。
これは昼休みの遊び場、校庭についての子どもの声です。どういうことかといいますと、この学校は児童数に見合う校庭の広さがないんですね。児童1人当たりの校庭の面積は、さいたま市の小学校の平均と比べておよそ4分の1です。昼休みに校庭で全校児童が遊ぶための広さが十分とは言えません。このため学校では、週のうち火曜日と木曜日の2日は校庭で遊べる学年を定めていて、その曜日に校庭で遊べない学年は、教室や図書室などで過ごすことになるんです。

沼影公園の廃止はこうした市内の小学校の現状の中で行った、さいたま市の難しい判断でした。さいたま市の都市公園課・川名啓之課長です。

川名さん:
人口増加に伴いまして、学校等の規模が不均衡になってきている状況が発生しています。子どもたちの教育環境という部分で学校が必要になり、今回、沼影公園を廃止して学校を作っていくという決断に至ったところでございます。

影響は小児医療にも…再開発の課題は?

吉田:
人口の急激な増加により、さらに根本的に解決が難しい問題も実は出てきているんです。それは「病院の診察」です。特にこの時期、埼玉県でもインフルエンザが大流行し、深刻な影響が出ています。都内からゆとりある環境で子育てをしたいと、さいたま市に移り住んだ3人の子どもを育てている女性の声です。

さいたま市民の女性:
発熱外来も大体すぐ埋まっちゃって。予約が始まる7時ちょっと前ぐらいに待機していたいんですけど、ちょっと時間がずれるともう全然予約が取れないみたいな感じで…。いつも大体そんなふうに予約できずにいます。

――いざ幼い子どもが体調を崩して、すぐに医療につながらないと親としては心配になりますよね。

吉田:
お医者さんも頭を痛めているんですね。市内の小児科の医師、「にしむらこどもクリニック」の西村敏さんは、発熱外来の対応もあって、1日何人も診察を断らなくてはならないのが現状だと話をしています。

西村さん:
今はインフルエンザや溶連菌、プール熱など発熱を伴う感染症が流行しています。診られる人数が決まっているので自分たちの体が2つあるわけじゃないですから、みんな診たいんですけど診てあげられないんです。
町を再開発していただけるのであれば、私の方も再開発業者だけではなくて、それに携わる保育園や小学校、小児科医などと連携したり相談したりしていただいたほうが『子育てするならさいたま市』と言えるような住みやすいまちづくりができるのではないかと思っています。

吉田:
今回の取材では人口急増地域で起きている公園の廃止、小児医療のひっ迫という影の部分をお伝えしました。
都市政策が専門で明治大学教授の野澤千絵さんに取材をしました。野澤さんは日本の都市開発の問題点について「日本の再開発は都市全体の住宅数やそのバランスをコントロールするという長期的視点が足りない。新しく開発することだけではなく経済優先の都市計画になっていないか、住民も意見を出していくことが重要で、将来にわたって豊かな暮らしができる町づくりのために、ぜひ一緒に考えてほしい」と話をされていました。
人口の増加によりさいたま市の税収はこの10年で500億円あまり増加しています。住民の納得や満足につながるまちづくりに向けて、行政の手腕もさることながら市民も参加して、将来像を地域一丸となって考えていくことが求められそうです。

さいたま放送局
吉田一之アナウンサー


【放送】
2023/11/28 「NHKジャーナル」

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