長期闘病の子どもと家族に居場所を(香川)

NHKジャーナル

放送日:2023/11/21

#ローカル#香川県#家族#医療・健康

もし子どもが重い病になったら、学校生活や友だちと遊ぶ時間をあきらめて、闘病に専念しなければなりません。そんな子どもや家族をサポートする香川県の取り組みを、高松放送局の堀越葉月(ほりこし・はづき)アナウンサーが取材しました。

“第二のおうち”開設

堀越:
小児がんや心臓病のような、長期にわたる治療や入院が必要な子どもの病気を「小児慢性特定疾病」といいます。その医療受給者証を持つ子どもは昨年度末の時点で、全国でおよそ11万5,000人にのぼります。自宅と病室を往復する生活を余儀なくされた家族は不安や悩みを抱え、孤立しやすく、精神的な負担も大きいそうなんです。そんな家族を支える活動をしているNPOの施設が香川県丸亀市にあります。2023年5月に設立された「みらいキューブ」を訪ねました。

(堀越アナ現場リポート)
丸亀駅から10分ほどの住宅街にある一軒家、失礼します。
室内は鮮やかな黄色のカーペットに、ソファやテーブル。横になれるくらい大きなソファがある個室スペースがあります。そして、カウンターキッチンでは…。

♪いれたてのコーヒーを提供する音

店員:どうぞ。
スタッフの方がいれてくれたコーヒーを飲みながら、相談にのってもらうことができます。

――安心してリラックスできそうな雰囲気ですね。

堀越:
はい。「支援施設」ではなく「第二のホーム」を目指したというこの場所。スタッフは全員、子どもの病気と長期にわたって向き合ってきた親たちです。同じ悩みを抱える当事者同士の横のつながりを生み出し、よりどころにしてもらおうと作られました。

わが子を亡くした母親の経験

堀越:
設立したのは「未来ISSEY」というNPO法人です。代表を務める吉田ゆかりさんは今から8年前、次男が10歳のときに小児がんと診断され闘病生活を経験しました。吉田さんです。

吉田さん:
もう本当にいっぱいの不安。なによりも、自分が悪いことしたかなと思いました。自分が悪いことしたから…こんな言い方は変かもしれませんが息子に罰が当たったのかなとか。だから自分の仕事も子どもたちの学校のこととかやりたいこととか、すべてをとりあえずいったん諦めて治すことを一生懸命考えるしか方法がないっていうふうに思っていましたね。

堀越:
必ず良くなると信じ治療に専念しましたが、願いはかなわず2年半後、次男は旅立ちました。
精神的負担が大きかったのは、わが子が副作用や痛みの強い治療に苦しむ姿を目にすることでした。そんな吉田さんが県外の病院に転院したときに、イメージが変わる出来事があったといいます。案内された大部屋では子どもたちがおしゃべりをしたり、学生ボランティアたちとゲームなどで盛り上がったりと笑顔で過ごしていたんです。なかには子どもを任せて買い物に出かけるお母さんも。ひとり、部屋で耐えつづけ孤独と我慢の連続だというイメージが覆りました。再び吉田さんです。

吉田さん:
あれ、何か全然違うなあって。人の言葉で元気になったりとか助けてもらったりすることもあるし、同じ環境のお母さんだからこそ分かり合えたり辛い話もできたり。いいなあって思いましたね。

「普通のことができるように」

堀越:
香川でも同じようなサポートができれば、と吉田さんは5年前にNPOを立ち上げました。
病室に楽しみを届けようと、学生ボランティアと協力してレクリエーションをしたり、家族のための電話相談窓口や病室で使える便利グッズを届けたりしてきました。なかでも好評なのは、この活動です。

♪イベントの様子
学生:「『食べると安心するケーキ』ってなんだ? わかるかな?」
子ども:「ホットケーキ!」
学生:「おお~正解。すごーい!」

――ゲームでしょうか、にぎやかですねー?

堀越:
これは病室の子どもたちが「分身ロボット」を使ってリモートで参加した、ハロウィーンイベントのようすです。吉田さんのNPOではヒト型や犬型のロボットを無料で貸し出しています。小さなぬいぐるみくらいの大きさのロボットには、カメラやマイク、スピーカーが搭載されていて、インターネットを通じて遠隔操作できます。
子どもたちは、タブレットを手にロボットを操作して、実際にその場にいるかのような気分になれるんですよ。ほかにもこれまでに、遠足や卒業式など学校行事の現場とインターネットでつないで臨場感を病室に届けてきました。

――当事者目線だからこそ気づけることもあるでしょうね。

堀越:
まさにその通りで、この分身ロボットはアバターの姿で交流することが可能なんです。治療などで変わってしまった自分の姿を見られるのは嫌だというお子さんの思いに配慮してのことなんですが、吉田さんは自身の経験から患者の立場を最大限尊重してさまざまなサポートに取り組んでいます。
さらに、この夏から将来を見据えたプログラムも始めました。それは、パソコンを使ったリモートでの「就労に向けたスキル獲得講座」です。入院で学習が遅れ進学の希望を失ってしまった子ども、さらには看病で仕事を離れた親にも、将来へ踏み出す後押しをしたいと考えました。例えば…。

♪コンピュータを扱う講座
講師:「これを全部補助線に沿った形でレイアウトし直すと・・・こんな感じで。」

――うーん? これは何の講座ですか?

堀越:
これは「チラシのデザイン講座」です。ほかにも、パソコンでの事務作業のスキルを身につける講座などもあり、7~8回の講座を受けてみなさんは技術を習得していきます。
さらに、地元の企業や行政とも連携して習得した技能を活かせる仕事と受講者を結びつける橋渡しも行っています。過度な負担を強いることなく社会との接点を構築してもらえるよう心掛けていると吉田さんは話していました。この取り組みに賛同している企業経営者は、受講者のスキルの高さに強い関心を示しています。

企業経営者:
すごくいい試みで、みなさん作ってるものがプロ並みでびっくりしました。本当に素晴らしいものができているなあっていうので。

堀越:
フルタイムで働くことに不安があった講座の受講者にも話を聞きました。

受講者:
実際、自分が外(社会)と関わる際に間に入ってくださるところがあると、サポートしてくれる方がいるっていう心強さを感じて、(気持ちの面で)全然違うなっていうふうには思っています。

堀越:
吉田さんは今後、動画編集など時代に即した技術を身につけられるような講座を増やし、病気と闘う親子に対して支援を広げていきたいと考えています。

吉田さん:
お母さんたちが悩みを話したり自分も介護をしながら外の世界とつながりたいって思う普通のことが、こんなに難しいんだなっていうふうに思っていなかったんですよね。一緒に寄り添って少しでもその普通のことができるように活動しています。

堀越:
病と闘う子どもとともに、家族の立場にも立って将来まで含めた支援をする吉田さんたちのような活動は、全国的にまだまだ少ないのが現状です。ベッドの上で孤立する人たちを減らすために、私自身これからも考えていきたいと思いました。

高松放送局
堀越葉月アナウンサー


【放送】
2023/11/21 「NHKジャーナル」

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