楽しみながら備える“防災パーク”(長野)

NHKジャーナル

放送日:2023/10/31

#ローカル#長野県#防災・減災

長野県北部にある小布施町に防災力を高めようと設けられた民間の施設が、今、注目されています。
長野放送局の柴田拓(しばた・ひらく)アナウンサーが取材しました。

柴田アナ 重機&バギーに挑戦!

柴田:
今年7月に長野県北部の小布施町の郊外にオープンした、防災パーク「nuovo(ノーボ)」。
3,700㎡の敷地で、災害時の支援活動で役立つスキルを体験しながら楽しく学ぶことができます。地域の企業や団体、自治体などの支援を受けて開設されました。ここでは、実際の災害現場で力を発揮する乗り物の操縦体験ができます。全長3mの「四輪バギー」に乗ってみました。

♪(エンジン音)「ブオーン」
「あ、2m近い高さの小山ですね。山の近くに近づいてきて、さあ、前輪が山に……。
おっ、難なく登りましたね!!」

柴田:
土砂やがれきの山も軽々と乗り越えられ、悪路をもろともしません。私、四輪バギーに初めて乗ったんですが、車体が多少傾いても、車輪が大きくしっかりしていて、安定感があると感じました。
バギーは、自動車ではたどり着けないような場所にも急行できるのが利点です。水や食料など、支援物資が積めるトランクを備えているので、被災地にいちはやく届ける際に活躍が期待されます。
さらに「パワーショベル」の操縦も体験しました。左右のレバーの役割が違って、おぼえるのが大変でした。

スタッフ:
掘削はですね、左手をゆっくり手前に引いて下さい。

柴田:
はい。左手をゆっくり・・・。おお! 地面に入っていきましたね。

スタッフ:
バケットがどんどん地面に入っていきます…OKです。

――柴田さん、パワーショベルも動かしちゃったんですか?!

柴田:
私のような初心者も、専門家の指導のもとで操縦の体験ができるんです。さらに講習を受ければ、運転免許などの資格を取得可能なメニューもあります。
これだけじゃありません。タイヤのついた移動可能な「トレーラーハウス」もありました。災害現場の指揮を執ることができるよう、移動式の事務所になっています。なかには、テーブルやいす、ホワイトボードも備わっています。支援計画を立てたり、被災現場の情報共有を行ったりするなど、災害訓練でも、いざとなれば実践でも使用することができます。
ほかにも、ドラム缶風呂や井戸を使った水くみなども体験できます。
こうした重機や設備などにまずは触れて体験してもらう、そして災害現場で役立つスキルを持つ人材に育ってもらうというのが施設のねらいです。

――身近にこういった専門スキルを持っている人がいれば、いざというときの安心につながりますね。

柴田:
実は体験ができるのは、大人だけではありません。さきほどの四輪バギーやパワーショベルは、施設の敷地の中でなら、子どもも操縦体験が可能なんです。この日は、小学校低学年の男の子が操縦していました。土を盛った中に石や丸太などが隠れていて、それを重機を使って探し出すという体験。操作の資格を持ったスタッフ付き添いのもとで挑戦です。

スタッフ:
何があった?
男の子:
なんか『ギーッ』て音したから…コンクリートみたいな。

スタッフ:
あったね。あれなんだろう?

男の子:
石だ!

柴田:
災害が起きた時どう行動したらいいか、子どもたちにも考えてもらうきっかけにつなげたいというねらいがあります。

災害復旧で痛感「人間の力の限界」

――この施設は民間なんですよね。開設したいきさつは何があったのでしょうか?

柴田:
きっかけは、長野県に大雨特別警報が発表され記録的な豪雨に見舞われた、2019年10月の台風19号災害です。この施設を開設した災害支援団体の代表・林映寿さんは当時、ボランティアとして地域の災害復旧に取り組んだ自身の経験を通じて、重機の必要性を実感したと話します。

林さん:
4年前の台風19号の災害の時に、千曲川が決壊して、たくさんの土砂が民家や農地に流れ着きました。その時にボランティアとしてスコップを持って現場に行ったんですが、人間の力でできる限界を感じまして、重機の活用を考えました。災害時に従事できる、重機を使ったオペレーターを育成しておくことは、災害からの教訓としては必要なことなんじゃないのかなと、そんなことで立ち上げました。

柴田:
このとき、県内6つの河川で堤防が決壊。このうち、長野市郊外の穂保(長沼地区)では、千曲川の堤防が決壊したことで、JRの車両センターに停車中の新幹線120両が水に浸かったほか、県内のあちこちで多くの住宅が浸水するなど甚大な被害が発生しました。
しかし、重機を操作できる作業員不足から地域の復旧作業は思うように進みませんでした。林さんは、自ら重機を扱うことができれば被災した地域の力になれると感じ、パワーショベルなどの免許や指導資格を取得。災害の翌年からは、地元・小布施をはじめ各地の住民を対象に、重機の取り扱いの指導にも力を入れてきました。

林さん:
重機オペレーターの資格者はですね、1,500名を超えております。この長野だけでなく、こういった『nuovo』の取り組みを、全国各地に広めていきたいと思っておりますので、全国展開も視野に入れながら活動しております。

――災害から得た教訓を、他の地域にも伝えたいという強い思いを感じますね。

柴田:
さらに林さんは、冬の信州の防災対策にも動き出しています。
高速道路の「NEXCO東日本」とこのほど、冬に向けた支援調整の会議も行いました。パーク内の設備は豪雪の際にも十分に活用できると考えています。

林さん:
万が一、雪で車が滞留したときに、ドライバーさんの安否確認だったり、そのドライバーさんが長期的に車の中に閉じ込められたりした時にですね、支援物資を届けるというような活動もさせていただいております。雪害に対しても備えをしているというような状態です。

柴田:
災害など非日常の時に役立つ防災スキルを平時に身につけ、備えを図る。
誰もが取り組めるプログラムを目指して、小布施町の防災パークでは、楽しみながら学ぶ場の提供を続けていきます。

長野放送局
柴田拓アナウンサー


【放送】
2023/10/31 「NHKジャーナル」

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