環境が変わる新年度は要注意! 知られざる便秘対策

NHKジャーナル

放送日:2024/04/10

#医療・健康#カラダのハナシ

ジャーナル医療健康、今回のテーマは「便秘対策」です。新年度になって環境が変わった人はストレスによって大腸の働きに影響が出て便秘になる人もいるそうです。今夜は予防策のほか知られざる便秘対策を専門家に聞きます。(聞き手:山崎淑行ニュースデスク、野村優夫キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
正岡:正岡建洋さん(川崎市立川崎病院 内視鏡センター所長、慶應義塾大学医学部 内科学客員教授、消化器内科医)

便秘を軽くみてはいけない

――「たかが便秘、されど便秘」という言葉を聞いたことがあるんですけど、便秘ってあまり甘くみてはいけないと聞いたんですが、そのへんはどうなんでしょう?

正岡:
慢性の便秘で悩まれている方では脳卒中や心筋梗塞などの発症・死亡リスクが増え、慢性腎臓病などのリスクも高まることが分かっています。慢性便秘症の方は生命予後が便秘のない方に比べてよくないというデータもありますので、まさに「たかが便秘、されど便秘」だと思います。

――女性に多いイメージがあるんですけれども、このへんはどうなんでしょうか?

正岡:
確かに、ある年齢までは男性よりも女性の方が便秘の方が多いんですけれども、ご高齢になりますと男性の方が女性よりも便秘に悩む割合が高くなることが分かっております。逆に、これまでになかった便秘が生じることで悩まれている男性の方も少なくないというところです。

新年度に必要な便秘対策

――とくに今は年度替わりですよね。この環境が変わることがストレスになって便秘になることもあるそうですね。

正岡:
はい、おっしゃるとおりでして、やはりストレスは便秘の原因にもなりますし、便秘を悪化させたりもします。その新年度の環境変化がストレスになりまして便秘になってしまうと。
私もよく分かるんですけれども、たとえば新しい職場や学校ではトイレへの行き来も含めていろいろなことにかかる時間が読みにくかったりすることがあると思います。それでトイレを我慢しがちになってしまって、排便のタイミングを逃してしまう。そうすることを繰り返しますと便秘がちになってしまうので要注意です。

――そうした新年度の変化にともなった便秘、予防するためにはどうしたらいいですか?

正岡:
環境変化がストレスになっているということですので、変わらない部分・つまり今までの日々のルーティーンと申しますか、今までと変わらないところは変えないようにするということだと思います。
どうしても職場とか学校の関係で変えないといけないこともあると思いますけれども、変えなくてもよい部分ですね、たとえば起床時間や就寝時間、食事の時間といったところはできるだけ変えないようにして、さらに今後も一定でバラつきがないようにすることを心がけるとよいと思います。

――とくに意識しておいたほうがいいことってありますか?

正岡:
とくに朝食ですね。食事というところでいうと朝食が大事だと思います。
新年度を機に親元を離れた学生さんですとか、単身赴任を始められた方などは仕事の関係で朝食を抜いてしまう人がいらっしゃると思うんですけれども、やはり食事というのは胃腸を動かしはじめる大事なスイッチになっていますので、朝食は抜かないということを心がけてほしいと思います。

――その大事な朝食、どんなものを食べるのがいいですか?

正岡:
特定の何かがよいというわけではなくてですね。やはり1日を通して日々いろいろなものをバランスよく食べることが大切です。便秘対策という点で申しますと、食物繊維が豊富なプルーンやキウイフルーツ、さらに玄米や雑穀米、全粒粉のパンなどをメニューに取り入れるのはよいかと思います。

水溶性食物繊維を摂取しよう

――いま先生から「食物繊維」という言葉が出ましたけれども、この食物繊維についてもう少し詳しく教えてもらってもいいですか。

正岡:
食物繊維には、水に溶ける「水溶性の食物繊維」と、水に溶けない「不溶性の食物繊維」の2種類があります。「水溶性の食物繊維」は消化のスピードを遅くしたり便の水分量を高めたりする作用があります。「不溶性の食物繊維」は便のかさを増やして腸の動きを促すという作用があります。
この2種類をまんべんなく摂取することが大切なんですけれども、どうも偏りがちになってしまうことがあります。

――私はですね、葉物の野菜とかゴボウが好きで自分で料理して食べるんですけれども、これは偏ってますかね?

正岡:
いまおっしゃった食材は“いかにも繊維質”という感じの食材なんですけれども、不溶性の食物繊維が多いかなというふうに思います。やはりどちらかと申しますと、食物繊維は不溶性のものをとる方が多いので、水溶性が不足しがちになってしまうんですよね。
水溶性と申しますと、海藻やコンニャク、里芋などのヌルヌルした食材とか、大麦・オーツ麦などに含まれていますのでそういったものをとっていただくとよいです。例えば一人暮らしを始めたばかりで料理が苦手というような方でも、最近「もずく」や「めかぶ」といった水溶性の食物繊維のものもコンビ二エンスストアでも買えるし、調理もそれほど時間がかからないのでよろしいのではないかと思います。

――たしかに、「めかぶ」なんかは納豆ですとかキュウリとか冷やっこなど、いろいろなものと混ぜ合わせられるので、そうすると飽きずに食べられていいかもしれませんね。

正岡:
はい、そうです。

水不足、油不足に要注意

――便秘がちだというと、水を飲むといいですよとアドバイスを受けることがあるんですが、やはり水って大事なんですか?

正岡:
そうですね、水分は大事です。ただ水分だけではなくて、先ほども申し上げた食物繊維と一緒にとることが大事でして、食物繊維25gとあわせて(1日当たり)水を2リットルとると排便の回数が増えるという研究結果が出ております。

――水は2リットルが目安なんですね。ほかにも便秘の人が不足しやすいものってあるんですか?

正岡:
「油」がひとつ挙げられるかなと思います。
肥満などを気にして、どちらかというと油は健康によくないイメージがあるんですけれども、実は油は腸の動きをよくしてくれるという働きもありますので、たとえば病院のなかで保険適用の便秘の薬として「ヒマシ油」という油を出したりすることもあります。バランスということを先ほど申したんですけれども、油も減らし過ぎない。もちろんとり過ぎはよくないし、減らし過ぎもよくないというところかと思います

有酸素運動を積極的に

――いま食べ物に関することを教えていただいたんですけれども、ほかにも便秘対策のアドバイスがあったら教えてください。

正岡:
ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は便秘改善につながると分かっておりますし、生活のなかでこまめに動く、階段の上り下りなど、そういったところで積極的に体を動かしていただければと思います。

便秘として対処が必要な場合

――どんな症状であれば自分は便秘だと自覚するべきなのか。毎日出すっていうのが大事なんですかね?

正岡:
毎日出ていれば便秘ではないと思っていらっしゃる方は結構いらっしゃるんですけれども、「毎日」にこだわる必要はなくてですね。たとえば週3回・2日に1回程度しか出ていなくても、スムーズに出ていれば便秘としての対処は不要とされています。一方、毎日出ていましても便が残っているような「残便感」や、いきまなきゃいけないという「いきみ」があったりとか、そういう場合には便秘として対処したほうがよいと言われています。

――病院に相談したいなとなった場合は、どの科に行けばいいんですか。

正岡:
消化器内科とか内科といった科が中心になってくると思います。便秘外来という外来を開設している医療機関も最近では出てきています。


<番組に寄せられた質問にお答えいただきました>

東京都50代女性
下剤などの薬に頼るのはどうなのでしょうか?

正岡:
下剤・便秘の薬に頼ることに抵抗がある方、便秘の薬はクセになると思っていらっしゃる方もいらっしゃるんですけれど、クセになるのは、便秘の薬のなかでも「刺激性」といわれているものでして、そういったものはクセになって、さらに効かなくなったりすることがあります。一方、そうではない「非刺激性」の薬はクセにはならないといわれていますので、そういったところは安心して薬を飲んでいただければと思うんですけれども。
さらに、いま申しあげた「刺激性の薬」と「非刺激性の薬」のうちの酸化マグネシウムなど便の水分を増やすお薬、この2つが長らく便秘の治療で使われておりまして、薬局でも購入可能なお薬なんですけれども、それ以外の薬が最近、医療現場で新たに使えるようになってきております。この新しい薬は、腸への作用のしかたや効き方が今までと異なっておりますので、従来の薬が効きづらかった方でも新しい薬はよく効くという方もいらっしゃいます。例えば、腸の中の水分を増やす浸透圧性下剤のポリエチレングリコールや、腸の細胞から水を引き出すお薬、ある種の消化液が腸の中に入るのを増やすようなお薬がありますので、そういった薬を飲まれたことがなければ、試してみるのもいいのではないかと思います。

――下剤を毎日飲むのはどうなんですか。

正岡:
下剤・便秘の薬を出ない場合に飲むのは仕方ないんですが、先ほど申し上げたように「毎日でる」ということにこだわらなくても大丈夫ですので。効果があれば2日に1回とか調整することも可能だと思います。

愛知県60代女性
便秘解消の体操などはありますか?

正岡:
お通じ・排便には、お尻の肛門のほかにも最後に押し出す・いきむ際に「腹筋」など全身のさまざまな筋肉を使いますので、筋力の維持というのは非常に大事です。ですから、お尻まわりの筋肉以外にも全身の筋肉を鍛えるということが大事ですし、運動によって交感神経を刺激しますと、大腸は副交感神経という神経が動かしているんですけれども、そのバランスがよくなって腸が動き出すということもいわれております。

東京都60代男性
必ず朝食を食べ、その後、便意がなくてもトイレで座る習慣をつける。そして昼間は多めの水分補給をすることも大切です。水分が少なければ硬くなって出にくくなるのです。食べる・出す・動く・寝るのが4拍子かな。

――と頂きましたが。トイレに注意点があると先生おっしゃっていましたよね。

正岡:
いま洗浄機がついているトイレが多いと思うんですけれども、それで刺激して出すこともときどきはよいとは思うんですけれど、それがないと出ないというのはよくないかなと。それこそ先ほどの「刺激性の下剤」と同じでして、あまりそういう刺激に頼るのはよくないと思います。
一方、ご高齢の方はのどの渇きを感じにくくて水分補給を怠りがちになるので、積極的に水は飲んでいただくようにしてほしいですし、とくにこれからは暑くなってきますので、より多くの水分をとっていただきたいと思います。

――1日2リットルの水分が目安ということでしたよね。

正岡:
はい。


【放送】
2024/04/10 「NHKジャーナル」

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