変わる子宮頸がん検診

NHKジャーナル

放送日:2024/03/27

#医療・健康#カラダのハナシ

ジャーナル医療健康、子宮頸(けい)がんの検診について取り上げます。国の指針で推奨されているがん検診は5種類あり、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、そして子宮頸がんの検診です。この5種類はがん検診を受けることにより早期に発見でき、がんによる死亡率が減少することが分かっています。4月から子宮頸がん検診の指針が変わり、自治体が行う子宮頸がん検診に新たな検査が加わります。どんな検査が加わるのかなど、専門家に伺います。(聞き手:山崎淑行デスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
川名:川名敬(かわな・けい)さん (日本大学医学部主任教授・産婦人科医)

子宮頸(けい)がんって、どんながん?

――子宮頸がんとは、どんながんなのか教えてもらえますか?

川名:
子宮頸がんは子宮の入り口にできるがん。膣の一番奥にできるがんです。
30歳代から40歳代で多く発症するがんでして、20歳代後半で発症する場合もあり、若い人も注意が必要ながんなんですね。年間1万人以上の方が発症して、その内の3分の1、3,000人弱が亡くなっている病気です。
原因は「ヒトパピローマウイルス」=HPVというウイルスに感染して起きるということが分かっていて、このウイルスは性交渉で感染します。
このがんができてしまうと子宮や卵巣を摘出しなければいけない事が多くありまして、その場合は、がんが治ったとしても妊娠をすることができないということで、女性や家族にすごく大きな影響を与えてしまう病気なんです。ですから、早期発見することで、仮になりかけても、子宮を残してあげるような治療をしなければいけないので、そのためにはがん検診、子宮頸がんの検診によって早期発見することが非常に大事な病気なんです。

4月から始まる 新しいがん検診

――この4月から自治体が行う検査ですが、これは準備ができた自治体から始めるということで、すべてではないということですが、具体的には4月からの子宮頸がんの検診、どのような内容が変わるのですか?

川名:
はい。今までやっている子宮頸がんの検診は「細胞診」といって、子宮頸部の入り口のがんができる場所から細胞を採取してそれを顕微鏡でみる、そういう検査です。この検査は、今20歳以上の方が対象になっているのですが、2年に1度というシステムです。
この4月から導入されることが決まった検査は「HPV検査」といって、がんの原因となっているウイルスを検出する検査です。このウイルス、原因となるウイルスそのものをチェックできるわけですので、非常に感度が高いというわけで、先ほどの細胞の変化をみるよりはよりダイレクトに原因がある人ない人を区別できるという点があります。ただ対象は、30歳から60歳の方が、そのHPVの検査をできるようになっています。

負担が少ないHPV検査

――HPV検査、いわゆるウイルスそのものを調べる検査、どのようなメリットがあるのでしょうか?

川名:
はい。陽性になることももちろん1番大事なのですが、メリットとして1番大事なのは陰性だった場合なんですね。このHPVが陰性、つまり陰性だった場合というのは、これはほぼ子宮頸がんのリスクが少ないということで、次の検査が5年後でいいことになります。
今までは2年に1度だったがん検診が、人によっては5年に1度でいいということで、検査をする方も受ける方も負担が軽くなるという点が大きなメリットです。

――確かに2年ごとから5年ごとになれば楽ではあるんですが、一方で5年間も間を空けて大丈夫なのかなって不安にも思うんですが、問題はないんでしょうか?

川名:
はい、HPVが陰性という意味はですね、HPVに感染していないという意味ではなくて、おそらく感染は誰でもしているんですけども、その感染したウイルスをつぶしている、ま、抑えているという証拠になります。そうすると、HPVに感染してもまた抑えられるという、実質的に実力を持っている方ですので、その方々は5年に1度でも大丈夫だよということが、もうすでに疫学調査でも証明されています。

子宮頸がん発症のメカニズムは

――その30代以降で陰性であれば、子宮頸がんの発症リスクが下がるということですが、より具体的には、それはどうしてなんですか?

川名:
はい。HPVというのは、一度感染したらずっと子宮頸部に潜んでいるウイルスでして、ただその潜んでいる状態だけではがんにはならないんですね。ところが、そのウイルスが増殖して常にウイルスが増えてくるよう状態が続いていくと、その中の一部ががん化するというしくみになっています。ですから、その持続的な増殖「持続感染」というものは、このHPVの検査によって検出できる、プラスになる、陽性になるということなんですね。

一方で隠れている状態、「潜伏感染」といいますけども、潜伏感染はHPV検査が陰性になります。ですから、HPVが陽性な場合は注意、陰性の場合はあなたは実力があって抑えているということを意味しています。実際、HPVの持続感染という陽性が続いている人の中から、がんが出てきてしまうと言われていますが、そのような状態になっている方っていうのは、HPVに感染している人の中で10%から20%程度ということです。
で、20代の間は、みなさん感染していて陽性になってしまうんですけども、30歳の段階でまだ陽性が続いているとすると、それは結構弱い人だという事になるので注意が必要なグループになります。

――でも、なぜウイルスが潜伏する場合としない場合があるのですか?

川名:
これは、明らかに我々人間の方の免疫の問題になります。そのウイルスをすぐにつぶしてしまう方と、なかなかつぶせない方、ここの差でありまして、HPVを抑え込めない方の場合には、ずっとウイルスが出続けてしまうと、そこの免疫力の差になると思います。決して性行動が激しいとかですね、多感とかそういうことではないんですね。

――つまり感染をしたからと言ってもがんになる訳ではなくて、その表面の方でウイルスが活動的になっている持続感染の場合に、このウイルスの検査によってそれが判明できると。がんになる可能性が高いので注意してくださいね、ということが分かると、そういうことですね。

川名:
はい。

HPV検診はどの自治体が始めるのか

――4月から検査を始める自治体はすべてではないということなんですけれども、どの自治体で、また自治体以外でも検診が受けられるのか、最後に教えてください。

川名:
これはあくまでも「対策型検診」といって、自治体が主体となってやる検診のことを言っているのですけれども、5年に1度でいい人、もしくはすぐにまた来年受けないといけない人、という区別を検査によってつけるわけですので、受診する方々によって次の受診間隔が変わってきます。そうすると、その検診結果と、その方の次の受診のタイミングのアナウンスが非常に複雑になりますので、そこの管理体制が整っていないと非常に混乱をするということが分かっています。ですので、そうした管理体制が整った自治体から始めてくださいというふうに厚労省は言っています。

自治体の検診以外では

――自治体がやらないところは、個人や職場などでHPV検査を受ける事はできますか?

川名:
はい、例えば人間ドックとか、会社の職域の検診などでこれを採用している所もありますので、そこはご確認いただいてそういうところを選ばれていくことができると思います。ただ、ちょっと普通の産婦人科の先生のところへ行ってやってくれと言っても、おそらくそういう制度がまだないのでそこは場合によるのではないかと思います。

リスナーのメッセージ・質問から

――放送中にたくさんのメッセージや質問をありがとうございました。一部エンドコーナーで紹介させていただきました。

<SNS>
子宮頸がんワクチンは、HPV陽性、陰性にかかわらず受けてもいいのでしょうか?

川名:
はい、HPV検査はワクチンで予防できるウイルス以外のウイルスが感染していたとしても陽性になります。ですので、HPV検査が陽性だからといって、ワクチンが無駄とか害があるとかいうことは全くなくて、どのウイルスかわからない状況ですので、考えずにHPVワクチンを打つということになっています。

ワクチンは、いろいろな副反応疑いの話で一時期メディアで取り上げられましたけれども、そこは全て、もう安全性が8年間の間に保証されたということが分かりましたので、2021年から厚労省が積極的な接種の呼びかけを再開したという状況です。現在は12歳から16歳の女の子の定期接種と、17歳から、生まれでいくと、平成20年生まれの女性までの、ワクチンを打ち損ねた方に対して無料で接種できることになっていますので、それぞれお住まいの市町村から接種券が届いているはずですので、それを使っていただければと思います。

――そのほか、予防という観点では、何か対応の仕方がありますか?

川名:
予防としては、今は、ワクチンが感染を予防しますのでベストになります。で、HPVの検査が陽性だった場合に、何か治療法があるかというと、これは今のところ残念ながらウイルスの薬がありませんので、病気が進むかどうかを検診しながら見守るという形になってきます。

――原因が性交渉ということなんですけど、避妊具の使用などはどうですか?

川名:
性交渉の時のコンドームなどの使用はかなり有効な予防法になりますけども、それだけで100%感染しないとは言い切れないと。コンドームをつけていない状態での接触があるとそれはうつってしまいますので、それだけでは絶対ではないと思います。

<愛知県 60代女性>
HPV検査が陽性であって、子宮頸がんになっていない場合、どのような治療をするんでしょうか?

川名:
さきほど申し上げましたように、ウイルスの感染を薬で治すという方法は、今のところ世界中で開発されていない状況です。そのHPVの検査が陽性で、でも病気でない場合は、また1年後にこのがん検診を受けるというようなルールになっています。病気が出てきたところで、がんになる手前の段階、前がん病変というところで手術を受けるという方法しか今はない状況です。


【放送】
2024/03/27 「NHKジャーナル」

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