知っていますか? 「肺MAC症」

24/02/14まで

NHKジャーナル

放送日:2024/02/07

#医療・健康#カラダのハナシ

放送を聴く
24/02/14まで

放送を聴く
24/02/14まで

「肺MAC症」という病気、聞いたことがあるでしょうか? 結核によく似た症状がでる肺の病気で、今、国内で患者数が増えています。肺MAC症とはどんな病気なのか、専門家に伺います。(聞き手:山崎淑行ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜樹キャスター)

【出演者】
尾形:尾形英雄さん(医師 結核予防会複十字病院 安全管理特任部長)

中高年・やせ型女性に多い!

――尾形さん、肺MAC症、マックというのはアルファベットでMACで肺MAC症、一体どういう病気なんでしょうか。

尾形:
MACというふうに略称で呼んでいますけれども、実際には、「マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス」という言葉の略です。2種類の菌、「マイコバクテリウム・アビウム」、これトリ型抗酸菌という意味なんですけども、その菌か、ないしは「マイコバクテリウム・イントラセルラーレ」、覚えられないと思いますけれども、細胞内増殖菌という、この2つの菌のどちらかに感染している方を肺MAC症というふうにいっています。
この菌は、結核菌によく似た菌なんです。むしろ結核菌より前に生まれた“先祖”です。この菌が注目を浴びるようになってきたのは、結核が徐々に減ってきた昭和50年以降からですね。そして、結核を今はもう大きく超しています。結核の方は今、2万人弱になっているんですけども、このMAC症のほうは、10年前のデータでも、15万人くらいいるという推定値があります。

この肺MAC症の大きな特徴は、中高年の女性で、BMIが18.5未満のやせた方たち、食のいわゆる細い方たち、こういう方が感染しやすいということが分かっていまして、そして、10年以上かけてじわりじわり進むという肺の病気です。

初期に出る“血たん”がサイン!

――気になるのは、肺MAC症の症状なんですが、どういった症状がでるのでしょうか。

尾形:
せきやたん、そして“血たん”ですね。かなり軽症のうちから血たんがよく出ます。徐々に進行してきますと、呼吸困難、それから微熱の継続、食欲の低下といったようなことが起こってきまして、中には酸素療法を必要とする方がでてくるという病気です。

――血たんが出るというのが、ひとつのサインということで、血たんがでたらほんとにあわてて病院に行くと思うんですが、せきやたんだと他の病気でもでることがありますよね。ちょっとわかりにくいなと思ったんですが、どう診断されるんですか?

尾形:
2週間以上続くというのがひとつの原則にしています。2週間以上、せきやたんが続いた場合には、なんらかの疾患が肺にあるという可能性がかなり高くなりますので、まずはレントゲン写真をとって、肺の中に異常があるかどうか、そして肺に異常があれば、胸部CTスキャンをとって、かなり特徴的な影がでますので、それがあれば今度はたんの検査をします。たんの中からこの菌が2回連続検出されると、まずこの病気だということになります。それから治療をするかどうかというのを考えることになります。

治療には2~4年かかる

――尾形さん、治療はどのように行うのか教えて下さい。

尾形:
治療はですね、自然に治る方も1割から2割くらいいるので、経過を最初みるということはしばしばあります。ただ、進行している場合には、もうすぐに治療をはじめます。その場合には3種類のお薬、それをあわせて服用してもらいます。少なくとも、2年、場合によっては4年間飲み続けるというような方たちも出てきます。結核のほうは、結核菌を殺すいわゆるキードラッグというのがうまく開発されて、必ず治る病気になったんですけども、この肺MAC症というのは、結核でいえば、まだ昭和30年代、40年代くらいの強さで、必ずしも完治する方ばかりなわけではないです。

人にはうつらない肺MAC症

――キーとなる薬がない。根本的な治療がなかなかできないということだというふうに捉えたんですけども、なぜこういうお薬の開発などが進んでいないんでしょうか?

尾形:
結核と違って、人から人へうつらないという特性をもっています。社会的ないわゆるニーズということにはならないからなんです。遅れてしまっている。ただし、最近は世界的にもどんどんこちらのほうが増えてきていますから、これからは薬の開発がどんどん行われていくというふうに思います。

風呂や腐葉土にすむ“MAC菌”

――人から人への感染はないということですが、そうすると、肺MAC症を引き起こすMAC菌の感染ですね、どんなところでおきるんですか?

尾形:
このMACの菌というのはもともとは土の中とかにいて、水の中にも流れていって、そういう自然環境に菌はもともと住んでいます。居住環境の中にもけっこう入ってきてまして、最近問題になっているのは“風呂”。なぜ風呂が問題になるかというとですね、MACの菌のかたわれであるマイクロバクテリウム・アビウムという菌が、風呂の温度である41、42度で非常に増殖しやすいんです。そういう温度設定をしたお湯が出てくるような便利な時代になったんで、便利になったところに入り込んでくるというようなことが問題になっています。
もうひとつのかたわれであるマイコバクテリウム・イントラセルラーレというのは、土、よくガーデニングで使う腐葉土とかそういったところにはまずいるんです。ですから、患者さんに聞いてみるとガーデニングをしてらっしゃる方もかなりいて、そういう環境にいる方がこの菌を吸い込んで感染するということが多いです。

――お風呂場にしても、土にしてもね、ほんとに身近にあるものですからね。マック菌をさけるというのは難しいでしょうね。

尾形:
その通りです。ただ、例えば、同じ風呂に入っていても、感染するのは先ほどいった中高年のやせ型の人といったところが感染しますけれども、同じように風呂を使っている夫が同じ病気になるかといったら、まず普通はならないです。ですから、一度感染した方に対して気を使っていただければいいのであって、そうでない他の方たちが、風呂に菌がいるといって大騒ぎする必要はこれ、ないと思います。

――とはいえ、亡くなるケースもあるんですよね。

尾形:
そうですね。2022年のデータで2,000人をちょっと超えているくらいの方が亡くなっています。ただそれは、いわゆるがんとか結核のように急に命を落とすわけではなくて、やはりいろいろ治療を尽くしてやってみた結果としてうまくいかなかった方が亡くなられて。多くの方はこの菌によって寿命が短くなるというのはないんじゃないかなと思っています。

――しっかり知識をもつことが大切になりそうですね。

尾形:
そうですね。はい。

――ここまで、結核予防会複十字病院の医師、尾形英雄さんに聞きました。
尾形さん、どうもありがとうございました。

尾形:
はい、どうもありがとうございました。


〈番組に寄せられた質問にお答えいただきました〉

★愛知県60代女性
中高年、女性、やせ型、食が細い人がかかりやすいとのことですが、体質改善は効果ありますか?

尾形:
やはりこの病気は、やせ型というところに大きな特徴があってですね、それは、こういう結核も含めた非結核性抗酸菌のうちのMAC症、 栄養状態というのが非常に関係します。ですから可能であれば、高たんぱく食、そういったものをしっかりとって、運動をして筋力をつけるというようなことができると、おそらくこの疾患そのものにかかりづらくなるし、かかったとしても、免疫を高めるという意味で有効だと思います。

★SNS
肺MAC症、肺に何か基礎疾患があるとかかりやすいということはないでしょうか。

尾形:
多くのMAC症にかかる方はもともと肺には基礎疾患がない方が多いんですけれども、そういうのを「一次MAC症」と言っています。一方で「二次MAC症」といいまして、結核の傷跡を持っている人、それから喫煙者のいわゆる肺気腫を持っている方、それから気管支拡張を持っている方、こういう何らかの基礎疾患を持っている方たちがMACになる場合もあります。ただ、それはどちらかというと少数派ということに今はなっています。

★SNS
肺結核だと感染をおさえるのに隔離されますが、肺MAC症だと人から人への感染がないのですね。肺MAC症が引き金となって肺がんに移行することはありますか?

尾形:
基本的にMAC症と肺がんとの関係はないと思われています。もともと肺がんは喫煙者に多い疾患ですし、このMAC症の方の多くは非喫煙者で、その点ではむしろ肺がんになりにくい方がいらっしゃいます。もちろん、非喫煙者の肺がんもありますので、偶然、そのMAC症に肺がんが出てくるということがありますけれど、それは頻度的にはまれなほうにもなると思います。

――尾形さん、まだあまり知られていない病気なので、インターネット上などには間違った情報も流布されているということなので、しっかり確認して診断につなげるということ、大事ですよね。

尾形:
そうですね。やはりどうしてもインターネット上では個人の意見的なものが結構出てきてしまって、薬に対しての否定的な意見というのが結構あるんですけど、やはりそれは実際に治療している側からすると、ちょっとそれは間違いだと思うようなことも書かれています。そういった情報をあまり信用しないほうがいいと思います。

この内容は2024年4月5日までポッドキャストでもお聞き頂けます。


【放送】
2024/02/07 「NHKジャーナル」

放送を聴く
24/02/14まで

放送を聴く
24/02/14まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます