冬の食中毒対策~リステリア菌やノロウイルスなど~

NHKジャーナル

放送日:2023/12/06

#医療・健康#カラダのハナシ#たべもの

ジャーナル医療健康、今回は食中毒がテーマです。最近、イベントで販売されたマフィンや駅弁など食中毒のニュースが続いていて、見ていて気をつけないといけないなと思っている人も多いのではないでしょうか。今回は冬の寒い時期に注意すべき食材や料理、そして予防法について専門家に聞きます。(聞き手:山崎淑行ニュースデスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
小西:小西良子さん(東京農業大学 教授、日本食品衛生学会 前会長)

ノロウイルス対策 気をつけてほしいこと

――冬の食中毒と言いますと最初に思いつくのが「ノロウイルス」。このノロウイルス対策についての注意点、どういうことがあるのか教えてもらっていいですか。

小西:
ノロウイルスは加熱で不活化するということが知られているんですけれども、他の菌に比べると、ハードルがすごく高いんですね。
「中心温度が85度から90度で90秒以上の加熱が必要」なんです。これって結構むずかしくて、例えば、揚げ物でもサイズが大きいと、意外に中心温度は上がりにくいことがありますよね。冷凍カキフライの加熱不十分でノロウイルスにり患したという例もよく聞きます。

――中心温度に注意が必要ということですね。

小西:
はい。それから、ノロウイルスというと「二枚貝」が危険だというイメージが強いんですけれども、魚介類に限らず、すべての食材を介して感染することがありえます。例えば、ホタテと接触していた野菜が感染源になった例もありますし、調理した人の手にウイルスが付着していて、それが食品について感染が広がったという例もあります。

――調理の環境も注意が必要なんですね。

シチューなど煮込み料理の「ウェルシュ菌」

――冬の時期、年末年始を迎えていろいろと食べる機会も増えるんですが。特に注意する食品や料理、そしてどんなリスクがあるか教えてもらえますか。

小西:
冬になりますと身体があたたまるシチューとかカレーとかそういう物を食べる機会が増えると思うんですけれども、この「煮込み料理」には注意が必要です。
シチューやカレーっていうのは寸胴鍋で作りますけれども、酸素が少ない環境で活発になる、また酸素が大嫌いという菌である「ウェルシュ菌」という食中毒菌があるんです。このウェルシュ菌は厄介で、高温で加熱されると固い殻に閉じこもった状態になって生き延びて、料理が冷めて45度位になると目を覚まして増殖して、下痢などの食中毒を起こします。

――やっかいですね。

小西:
ですから、カレーやシチューを多めに作って次の日に取っておくというのは、おいしいんですけども、注意が必要です。

――どんなことに気をつけるとよいでしょうか?

小西:
ウェルシュ菌は酸素や空気が大嫌いですので、まず「空気に触れさせること」と、「急いで冷やすこと」が大切です。
まずは鍋ごと水や保冷剤などにつけて粗熱を取りますが、そのときにかき混ぜると、空気に触れることも多くなりますし、それで温度も下がりやすくなります。そのあとは平らな容器や保存袋に入れて、厚さ1センチほどの薄さにして空気に触れる面積を広くして、冷蔵または冷凍します。
そして、食べるときも注意が必要なんですけれど、「中心温度75度で1分以上加熱」してください。中途半端な加熱でぬるい温度で食べるのは危険です。

洋風おせちなどで注意「リステリア菌」

――そのほかにも気をつけるべき調理や食材はありますか?

小西:
最近のおせち。もうそろそろお正月ですから、おせちのことを気にされている方も多いと思いますけれども。“洋風おせち”ですと、「お肉のパテ」や「スモークサーモン」などが多く出回っていますよね。それにも注意点があります。
食品を塩漬けにしても冷蔵庫保管しても増えてしまう「リステリア菌」という菌があるんです。リステリア菌は加熱には弱いので食べる前に加熱して食べれば大丈夫なんですけれども。食品には“Ready to eat”といって、食べるときにはそのまま食べられるよということをうたった食品があります。例えば、「スモークサーモン」「お肉のパテ」「生ハム」「ナチュラルチーズ」などですね。こういうものは、リステリア感染症になるリスクが高いです。
通常の食中毒と違ってリステリア食中毒は、風邪に似た悪寒や発熱、筋肉痛などの症状が一般的で、重症化することは少ないんですけども、妊婦さんは流産などのリスクがあるので、リステリア菌の汚染の可能性があるものは食べないことをお勧めします。また、免疫機能が高齢の方は落ちている方が多いので、髄膜炎につながって命に関わることもありえるので、注意が必要だと思います。

――リステリア菌の食中毒の対策は、どんなことをすればいいでしょうか。

小西:
リステリア菌は低温に強いので、まず「冷蔵庫を過信しない」ということが大事です。開封後してすぐに食べきることが大切です。最近は人数の少ない世帯が多いですし、スモークサーモンなどをパックで買ってくると1回で食べきれないとは思うんですけども、パッケージに書かれている賞味期限内であっても開封後は空気に触れることで菌の増殖が進むので、冷蔵庫を過信してしまうのは危険です。
そして、「開封後すこし時間がたった場合には、加熱をしてから食べる」のがオススメです。例えば、パスタにするとかリゾットにするなんていうのもおいしいです。

ごはんにも注意が必要「セレウス菌」

――ほかにはどうですか。まだまだありそうですが、注意する点。

小西:
冬は気温が低いので食中毒が起こりにくいと思ってしまう方も多いと思うんですけれども。おにぎりとか炊き込みご飯などを室温で放置してしまうという方が結構いると思いますね。

――放置しますねえ。

小西:
今、おうちの中が暖かいということもあるんですけれども。炊きたてのものを置いておけばだんだん冷めていくだろうと思っている間に食中毒菌が増えちゃうということがあります。
お米の中とか、それから穀類ですね、小麦なんかにいる「セレウス菌」という菌がいるんですけれども。これは、先日の駅弁の食中毒の原因にもなったものなんですけど。先ほどのカレーとかシチューのウェルシュ菌の話をしましたが、これと似ていて、高温でも殻に閉じこもって生き延びるという菌の種類なので、温度がぬるくなると元気を取り戻して増殖し始めます。
また、たちが悪いことに、このセレウス菌は加熱しても壊れない毒素を作ります。ですので、セレウス菌が増殖してしまったご飯とかパスタは再加熱してもダメで、嘔吐などの食中毒を引き起こすことがあります。予防法としては、「きちんと急激に温度を下げて冷蔵する」か、または「温度を下げないで、63度以上の保温ジャーの中で保温する」というのがオススメですね。

<番組に寄せられた質問にお答えいただきました>

★埼玉県40代男性
お酢を使った料理は安心して冷蔵庫でついつい長期に保存してしまいますが、大丈夫でしょうか?

小西:
お酢自体は殺菌効果がありますけれども、その濃度が大事なんですね。食品というのは野菜にしろお肉にしろ水分を持っていますから、お酢を使ったあとで食材から出てくる水分でお酢が希釈してしまう・薄まってしまうという危険というか、そういうことを十分考えて、この「長期」というのがどれくらいかわかりませんけれども、なるべく早く食べることが大事だと思います。過信しないことが大事だと思います。

★砂糖や塩の使用と保存性の関係

――今お酢について話していただきましたけれども。砂糖とか塩を調理に使うじゃないですか。これ濃度を濃くしていたらすこし菌とか抑えられるのかなと思うんですけど、どうなんでしょうか。

小西:
その通りですね。お砂糖とか塩も食品中の水分と結合してくれて、それによって、菌が生きながらえるために必要な水分が減少して、菌が増えることができなくなるということで保存効果があるんですね。ですから、適度な濃度を守らないといけない。
コロナ禍以降、おうち時間で自分で手作りのジャムを作ったりお菓子を作ったりというふうにして楽しんでいらっしゃる方も多いと思いますけれども、そのときに、ヘルシーだからといって塩の量を減らしてしまったりだとか、このあいだのマフィンの事件のように砂糖の量を減らしちゃったりしますと、菌が増える環境を与えてしまいますので、日持ちがしなくなってしまいます。

――あまり薄くしすぎるのもよくないということですよね。

小西:はい。

★台所でつかう除菌スプレーの落とし穴

――台所についてなんですけれど。わたしも食中毒が怖いと思って、まな板とか包丁とかスプレーをして除菌をけっこうするんですけれども。注意点はありますか?

小西:
スプレーには次亜塩素酸ナトリウムというのが入っていて、これが殺菌効果が非常に強いんです。ノロウイルスなんかにも効果があるといわれていますね。ただ、次亜塩素酸ナトリウムの欠点は、有機物というか、たんぱく質だとか脂肪だとか食品のカスがあると効き目が全然なくなっちゃうんですね。まな板にスプレーをするとおっしゃったんですが、まな板に食品のカスが残っている状態でスプレーしても無意味なので、一回洗剤で洗い流したあとにスプレーをするということが効果的です。

★SNSから
うちの父親はステーキはレアで食べるのが好きなんだけど、これって大丈夫なのかな?

小西:
ステーキ肉として売っているものであれば、普通は中は無菌なので、表面さえしっかり加熱していただければレアでも大丈夫だと思いますが、「結着肉」とか「サイコロステーキ」のような、半端な肉を集めてひとつのステーキのように見せているもの、または、もともと硬くて食べられないものを前もって処理して柔らかくしているような肉は、レアで食べるのはやめてください。

<放送内で回答しきれなかった質問にも答えていただきました>

Q:職場に持参したお弁当を電子レンジに3分かけたらノロウイルスや食中毒菌は大丈夫?

小西:
出力ワット数や弁当の体積で異なり一概に回答できないが、ノロウイルスは全体温度85~90度で90秒以上加熱で不活化、他の多くの食中毒菌は75℃以上60秒以上加熱で死滅する。しかし、ごはんをぬるい状態で長時間置いてセレウス菌が増殖して発生した毒素は加熱しても不活化しない。要注意。

Q:炊いてすぐのご飯を冷凍庫に入れて良い? 冷凍室の他の食材が痛みそうで…

小西:
「急速冷凍機能」がある冷凍庫なら問題ない。その機能がない場合は、手で持てるくらいまで粗熱を取ってから入れるとよい。炊いてすぐのご飯は60度以上に保温するか急速に0度以下にすることで、ゲル化(デンプンの老化)を防げて、おいしく食べられる。

Q:刺身の保存方法は?

小西:
当日中に食べてほしいが、翌日以降に保存するなら冷凍庫へ。解凍は冷蔵庫で、室温での解凍はNG。しょうゆ漬けにするなら、刺身の水分を十分とってから身の全部をタレに浸して、空気に触れさせないで。肉や魚類から出てくる液体(ドリップ)は菌の巣窟なので、ほかの食材との隔離の徹底を。万が一こぼれても触れないように、生で食べる野菜やそのまま食べる作り置き料理とは離して置く。

Q:おせちを重箱からとるとき口をつけた箸ではなく菜箸などを使うべき?

小西:
もちろん! 口腔内には菌がいっぱい。食中毒菌でなくても腐敗が始まるので、絶対に菜箸などを使用して。年末年始は焼肉、すき焼きなどの機会が多いが、生肉用の箸と焼けた肉をとる箸は違うものを使い、こどもなどが生肉用の箸をなめないよう注意! 腸管出血性大腸菌O-157の危険が。

Q:ノロウイルスに感染してしまった場合、家族への感染防止でするべきことは?

小西:
トイレや、吐しゃ物で汚してしまった床は、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤で清掃を。床は紙おむつで包み込むように拭き取って、吐しゃ物に含まれる食材などの有機物を取り除いてから塩素系漂白剤を使うと、次亜塩素酸ナトリウムの働きが良くなる。
ノロウイルスは乾燥して空気中に舞うと2週間から20日近く感染力があるといわれている。入念な掃除が大事。


【放送】
2023/12/06 「NHKジャーナル」

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