ジャーナル医療健康は、がん治療にともなう「経済毒性」について。あまり聞きなれないことばですが、最近、医師などの間で注目が高まっているそうです。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク・打越裕樹キャスター・結野亜希キャスター)
【出演者】
黒田:黒田ちはるさん(患者家計サポート協会 代表・看護師FP)
ジャーナル医療健康は、がん治療にともなう「経済毒性」について。あまり聞きなれないことばですが、最近、医師などの間で注目が高まっているそうです。(聞き手:緒方英俊ニュースデスク・打越裕樹キャスター・結野亜希キャスター)
【出演者】
黒田:黒田ちはるさん(患者家計サポート協会 代表・看護師FP)
――そもそもなんですけど、「経済毒性」とはどういうことをいうんでしょうか?
黒田:
簡単に言うと、経済的な負担が患者さんにもたらす悪影響のことになります。
なかなか、お金のことを周りに相談するのは難しいですよね。お金の不安ってそもそも表情に出ないので、本当に困ってからでないと気づきにくいという特徴があります。ただ実際には、患者にお薬を処方しても、薬局で受け取らなかったり、治療や検査を断ったりするケースが多く見られるようになっています。
なので医療者も「あ、これは経済的な事情のせいなのかな」と気づいてきまして、どうにかしなければと動き始めた状況です。
――経済的な問題の相談にのる、患者サポート協会ですね。黒田さんが立ち上げたのはどんなきっかけがあったんですか?
黒田:
はい。もともと私は看護師として働いていまして、がんの患者さんの看護に携わってきました。その中で、患者さんが治療費のやりくりに苦労している姿を目の当たりにしたんですね。なんとかしたいと思って、ファイナンシャルプランナーの資格を取りまして、個人事務所で相談を行っていたんですが、今年の3月にがんの専門医から、がん患者さんの相談にのれるファイナンシャルプランナーってどこにいるんですか?と質問を受けました。
全国にはおよそ18万人ファイナンシャルプランナーがいるんですが、国内でも患者さんの対応が出来るのは10人もいないんですね。なので増やして全国対応していかないといけないと思いまして、協会を立ち上げました。
――これまで具体的にはどのような相談があったんですか?
黒田:
例えば40代の女性で乳がんの方をご紹介します。
ご主人と大学受験を控えたお子さんの3人暮らしでパートをしていました。抗がん剤治療の副作用で体がつらくなりまして、今までどおり働けなくなりました。パートなので、仕事を休むと収入が減ってしまうんですね。
そうしたなかで、治療費やお子さんの教育費をどうやって賄っていくのか悩んでいました。
高額療養費という健康保険の制度があるんですが、それがあったとしても治療費は毎月10万円~15万円かかってしまうんです。なのでご主人の収入に頼らざるをえず、お子さんの進学のための費用をどうやって賄っていったらいいのか悩んでしました。
――その先どうなんですか、解決法はあったんですか。
黒田:
私はファイナンシャルプランナーとして相談にのったんですが、当然ですが治療費は下げられないので、命に関わることですので。ですからポイントとしては、治療費以外の支出をどうやって全体的に見直していくのかというところになります。その時に、食費や光熱費は生きていくために大切なことですので基本的には減らしません。
ファイナンシャルプランナーの視点では固定費ですね、毎月かかっている生命保険料だったり、住宅の費用だったり、あまり使用していないけど毎月固定でかかっているお金、こういった大きいお金に関してまず調べて、洗い出して見直しをした結果、生活を安定させることができました。なので安心してがん治療にも臨めるようになったとおっしゃっていました。
――なるほどね、さきほど治療費は下げられないということでしたけど、治療費でそもそも困ったときにはどうすればいいんでしょうか。
黒田:
お金って毎月毎月かかってくることですので、ポイントは早めに動くこと!一日も早く動くことです!がん治療中の悩みは一人で抱え込まないことが大事になってきます。
――どこに行けば、相談に乗ってくれるのでしょうか。
黒田:
第一には、病院の中にある「がん相談支援センター」で相談できます。無料で相談できます。
――がん相談支援センターというのがあるんですね。
黒田:
あります。専門の看護師さんや、医療ソーシャルワーカーさんが相談にのってくれますので、治療のこととか、治療に対する向き合い方とか、家族のこととか色んなことが相談できます。
――病院の中にということですが、どこの病院でもあるものなのですか?
黒田:
がん診療連携拠点病院という、例えば、がんの専門病院だったり、大学病院にはあります。もし自分の通っている病院になかったとしても、他の病院でがん相談支援センターがあればそちらを利用できます。
ただ、予約が必要なので、必ず電話をしてからの方がいいと思いますね。
――料金はかかるのですか?
黒田:
かからないです。
――無料で相談できるのですね。
――それから、ふだんから備えておくことも重要なのかなと感じました。
黒田:
そうですね。普段の生活って大事で、医療費も含めて何にお金がかかっているか、書き出して現状を確認しておくのが大事かなと思います。
あとは、がんのお金というと、がん保険とか医療保険と気にされるかたがいますので、保険に入っていれば、給付がどれくらいなのかも調べておくといいと思います。
あと備えというと保険に偏ってしまいがちなんですが、生活に大きく関わってきますので、家事育児とかに関しては、ご家族の協力体制だったり、自治体のサポートも知っておくといいかなと思います。
本当にきつい方に関しては、福祉の制度を利用することもできますので、病院で生活保護など自治体の助けも必要かなという事も相談されるといいなかと思います。
――まずは命ということですよね。本当にがん治療をお金の面で諦めないということは重要ですよね。
黒田:
そうですね、高額療養費制度があるから大丈夫と思われがちなんですけど、毎月かかってくるのは本当に大変なので、大変だったら「つらいんです」、と周りに声をだしてほしいと思います。
――「経済毒性」ということば、だんだん理解が深まっているということですけど、今後はどうしていきたいと思っていらっしゃいますか?
黒田:
自分からは言い出しにくいがん患者さんの悩みですので、医療従事者がそこをどうやって早めに気づいて、説明などをして不安を和らいであげるかということが大事だと思います。私たちも連携してお金の相談とか対応していけたらいいなと思います。
――経済毒性という言葉の理解を深めて、対応していくということですね。
黒田:
そうですね。
エンドコーナーでリスナーからの質問や感想についてもお答えいただきました。
埼玉県 30代 男性
がんになってお金がない場合は、一時的に借金をするなどしてしのげるものでしょうか?
黒田:
借金の相談はすごく多いです。返せなくなって困っている方が多いので、借金はおすすめしません。そうなる前に、まずは病院などに相談することをおすすめします。
――一時的に借金はしないほうがいいですね。
黒田:
はい、しないほうがいいです。
神奈川県 40代 男性
友人のご主人が、がんになって本当にお金がかかるといっていました。がん保険は、やはり可能なかぎり手厚い保険に入っておいたほうがいいでしょうか?
黒田:
はい、入っていて助かったという患者さんはとても多いです。ただ手厚くしすぎると保険料が高くなってしまって、今の生活が大変になってしまうので、その辺を注意した方がいいのかなと思います。
あと大事なのが、今の治療に合った保険に定期的に見直しをすることですね。治療ってどんどん進歩していますし、10年前の保険などは古くて使いこなせなかったという方もいますので。
あと、がんになったあとは、がん保険の給付金を使いこなせるような家計にしていって、なるべく給付金をとっておけるような家計にしていくのがいいかなと思います。
――そして、SNSでも質問です。
病院が専門診療科目ごとに細分化されているのですから、がん等の病気に苦しむ人々の生活問題の解決を目指して、アドバイザーの細分化も必要ですね。ところで、このような問題を解決する行進スタッフの育成等には、国や自治体からの支援はあるのでしょうか?
黒田:
いま、まさに法人を立ち上げて行っているのが、スタッフの育成、ファイナンシャルプランナーの育成なんです。全国的に必要で、全国の都道府県に1人か2人ずつは必要かなと思っています。病院と連携していけたらいいなと思っていますが、国とか自治体の協力はまだないので、これからお願いしたいと思います。
――メッセージも寄せられました。
経済毒性、初めてききましたが、お話をきいて、もしもの時には早めに相談をしようと思います。相談は無料というのも安心のひとつですね。
――病院で、無料で受けられるんですよね。
黒田:
はい、無料で受けられます。病院でファイナンシャルプランナーに無料で相談できることも、病院によってはありますので、そういったところでお話を聞いていただくのもいいかなと思います。
――大きな病院の中に「がん相談支援センター」というのがあるんですね。今日とても勉強になりました。
【放送】
2023/11/15 「NHKジャーナル」
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