乾燥の季節“アトピー性皮膚炎”最新の治療法は?

NHKジャーナル

放送日:2023/11/01

#医療・健康#カラダのハナシ

空気が乾燥してくる今の時期は、全国に125万人もの患者がいるというアトピー性皮膚炎が悪化しやすい季節でもあります。アトピー性皮膚炎は、かゆみや湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返すことのあるつらい病気。しかし最近は新しい薬の登場で、そうした状況が大きく変わってきているといいます。(聞き手:緒方英俊デスク、打越裕樹キャスター、結野亜希キャスター)

【出演者】
石氏:石氏陽三(いしうじ・ようぞう)さん (東京慈恵会医科大学 皮膚科専門医)

アトピー性皮膚炎の新しい治療薬

――石氏先生、まず聞きたいのは、最近登場した新しい薬、どんな薬ですか?

石氏:
アトピー性皮膚炎の治療薬は、これまでステロイドがありましたが、2018年に、10年ぶりに新薬が登場して以降、次々と塗り薬や飲み薬、注射薬が出ています。そうした新薬の登場で、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールしやすくなってきていて、健康な人と変わらないような生活を送ることができるようになっています。

ぶり返す症状には、まず塗り薬

――私も子どもの頃にアトピーに悩んでいたのですが、当時はステロイドなどを塗っていて、一時的に症状を抑え込んでもまた悪化するその繰り返しでつらかった記憶があるのですが、新しい薬は、そうした状況を改善できるんでしょうか。

石氏:
はい、そうなんです。症状がぶり返さないための薬として効果が期待できる塗り薬が、いくつか出てきています。
例えば、2020年に承認されたデルコチシ二ブや2021年に承認のジファミラスト。これは特徴として、いずれもJAK(ジャック)やPDE4という、免疫細胞の中の炎症をブロックすることで、かゆみや皮膚炎を抑える薬になっています。
これらの新薬は,症状を抑えるという意味では、ステロイドと比べて効果は中等度ではありますが,長期にわたってよい皮膚の状態を維持すること,そして再び悪化することを防ぐことに非常に適しています。

――ステロイドに比べて、効果や副作用はどう違うのですか?

石氏:
効果の面に関しましては、少しステロイドよりも劣る点はありますが、ステロイドは使いすぎると皮膚が薄くなるですとか、毛細血管が拡張してしまうとか、毛が濃くなるといったものが問題点としてありまして、特にお子さんの場合や、成人の場合も顔に使う場合には副作用が起きやすいので、長期には使えなかったんですね。それが、新薬の登場で、副作用が非常に少ないので安心してお使いいただけると思います。

――そうすると、実際の治療法はどんな風に変わってくるのでしょうか?

石氏:
アトピー性皮膚炎の治療方法は、外用薬が中心になりますので、まず患部に薬を塗る、1年を通して保湿剤を塗ってもらうというのは基本であることに変わりはありませんが、症状に応じて使う薬が変わってきています。
これまでは、皮膚の炎症の度合いにもよりますが、まず、強いステロイドでしっかり炎症を抑えてから、ある程度症状が治まった段階で、徐々にステロイドを塗る頻度を減らしたり,もしくは弱めのステロイドに切り替えたりしていました。しかし,最近は,これらの新しい薬が登場したことで、症状がおちついた段階で,新薬に切り替えることが多くなっています。

十分な効果がない場合は 飲み薬も

――塗り薬も進化しているということですが、飲み薬も登場しているんですね?

石氏:
はい、かゆみや湿疹に非常に効果的な飲み薬が出ています。
対象は、ステロイド外用薬による副作用に悩まされていたり、塗り薬で十分な効果がなくて、症状が治まらない中等症以上の患者さんがですね、これらの新薬を服用すると、人によっては、その日のうちにかゆみがなくなる、かゆみが治まる方もいるなど、治療を大きく進めました。中には12歳から使えるものもあって、今まで外用薬がうまく塗れなかった子どもが、飲み薬で症状が落ち着いて再び学校へ行けるようになった、といった症例も経験しています。

――ただ、その飲み薬、副作用など、注意する点はありますか?

石氏:
はい、そもそもアトピー性皮膚炎は、花粉症などと同じように免疫機能に異常が出ることなどで発症するとされています。
新しい薬には、そのアレルギー的な免疫異常を抑制して、アトピー性皮膚炎の症状を和らげる働きがあるのですが、場合によっては、体本来の免疫力を下げ、感染症にかかりやすくなるといった副作用が出るおそれもあります。塗り薬だと免疫抑制の影響は少ないとされているので、医師の指導を受けながら、塗り薬と飲み薬を併用することになります。

赤ちゃんにも使える 注射薬も

――あとは、赤ちゃんですね。赤ちゃんでアトピーの症状が出る子もいると思うんですが、なかなか粒や粉の薬は飲めませんよね。肌も弱いので、お父さん、お母さん、お世話をする人たちにとっては、副作用のあるステロイドを使うのは心配ですよね。

石氏:
新しい塗り薬で症状が改善しなかった場合には、最近、注射という手段もできました。
2018年に登場し、今までは大人にしか使えなかった注射薬「デュピルマブ」が今年9月に、生後6か月以上のお子さんにも使えるようになりました。注射をすると炎症やかゆみを非常に効果的に抑えることができます。注射するときは少し痛いかも知れませんが、かゆみが強いと赤ちゃんはぐずって泣き続けてしまいます。赤ちゃんも体力を消耗しますし、お世話をするほうも大変になることがあるので、こうした場合にも効果が期待できます。

普段のケアは

――塗り薬に飲み薬、そして注射と新たな選択肢も生まれているということですが、アトピー性皮膚炎の普段のケアですね、どのようなことに気をつけたらいいですか?

石氏:
はい、アトピー性皮膚炎は、皮脂の汚れや汗、雑菌が皮膚に付着することで悪化するため、皮膚を清潔に保つことは大切です。あとは、熱すぎない温度で入浴やシャワーをして、終わったらすぐにですね、特にこの季節は保湿して、皮膚の乾燥を防いでください。そのときに、できれば皮膚科医の指導を受けながら、新しい塗り薬をしっかりと使ってもらえれば、より効果的かと思います。

――さきほど入浴のご指摘もありましたが、具体的におすすめの入り方、何度くらいのお湯がおすすめなどありますか?

石氏:
はい、42度以上に温度を上げてしまうと、実はかゆみが悪化するということがわかっています。冬場あたたかいお風呂に入りたい方もいらっしゃると思うんですけども、42度以上にすることはあまりおすすめできません。41度以下のぬるま湯で、ちょっとぬるい方がいいですね。ただ、お風呂に入っただけでそのまま出てしまうと、より皮膚は乾燥してしまいますので、入浴後はしっかりスキンケアをしていただくのが重要かと思います。

――保湿をしっかりということですね。

石氏:
やはり入浴直後に外用していただいた方が効果的と言われています。

リスナーのメッセージ・質問から

――放送中にたくさんのメッセージや質問をありがとうございました。一部エンドコーナーで紹介させていただきました。

SNSから
なぜ温度の高い風呂だと、皮膚炎が悪化するのでしょうか?

石氏:
温度が高いお風呂ですと、皮脂が溶け出し皮膚バリアが悪化してしまいます。また、温度が高いことによって、カプサイシンといって唐辛子の成分と共通する受容体があるのですが、それが活性化されてしまったり、アーテミンというものが活性化したりして、よりかゆみを感じやすくなって皮膚炎が悪化してしまいます。
石鹸や洗剤についてもよくご質問を受けるのですが、できれば色素や香料などの添加剤が少ないものがおすすめで、使用するときはよく泡立てて、皮膚への刺激の少ない方法で優しく洗っていただくといいと思います。

熱いお風呂に入っていたという 静岡県 40代男性
皮膚疾患に悩むときは、1日に何度もお風呂に入っていいのでしょうか? かゆい時は楽になりたくて、朝、昼、夜と3回もお風呂で洗っていましたが、洗いすぎということはないでしょうか?

石氏:
やはり一時的にお風呂に入るとかゆみが治まることもあるのですが、入りすぎてしまうと、皮膚は乾燥してしまいます。なので、入浴後は必ず保湿剤を塗っていただいて、スキンケアしていただければと思います。

SNSから
アトピー性皮膚炎は、割と知り合いにも発症する人が多いせいか、世間では、たいしたことのない病気だと思われているように思います。この誤解は、どうしたら解くことができるでしょうか?

石氏:
重症のアトピー性皮膚炎の方は、ひどいかゆみで夜眠れなかったり、睡眠障害を起こしたり、中には自殺企図を思ってしまうこともあるんですね。それだけ重症の方もいらっしゃいますので、決して軽い病気だとは私は思っていません。やはり、世間の方も含めて、そういった方がいらっしゃるのだということを啓蒙することが重要だと思っています。

――放送中にご紹介できなかったご質問にも、石氏先生にお答えいただきました。

SNSから
新しい薬、よくなる薬であっても免疫が落ちる副作用はつらいですね。

石氏:
現在の注射薬では免疫が落ちる作用はほとんどありません。しかし、JAK阻害薬という内服薬は、免疫が下がる可能性があります。しかし、定期的にしっかりと血液検査や画像検査を行いながら治療を行いますので、過度にご心配なさらないで大丈夫です。

愛知県 60代女性
子どもは布団の中に入ってしばらくして身体が温まってくると痒みが増してくるそうです。どうしたらよいのでしょうか?

石氏:
温かくなるとかゆみが増すのは、アーテミンという物質やカプサイシンにも反応する TRPV1という温度感受性 TRPチャネルが原因です。2021年ノーベル医学・生理学賞受賞研究で話題になったので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。また、かゆみが増してしまったときは、保冷剤をくるんだタオルなどで患部を冷やしていただければと思います。

福岡県 40代
今、新しい内服薬をやっと使えて、保湿剤や外用薬を併用しながらとてもよい状態に落ち着いています。よい状態を保ちながら、お薬との付き合い方が難しいです。また、今後も新しいお薬は登場するのかな? と気になります。よくなりたいです。

石氏:
新薬をお使いいただいて、よい状態でいらっしゃるとお聞きしうれしく思いますし、今後の維持にご不安になられますよね。2023年9月にトラロキヌマブというアトピー性皮膚炎の原因として重要なIL-13というサイトカインを抑える注射薬が登場しました。今後さらに、別のIL-13を抑制するレブリキズマブという注射薬やアレルギー性免疫を調整しているOX40-リガンドに作用する注射薬などが登場予定です。また、今後の数年間で更なる新薬が登場する予定です。


【放送】
2023/11/01 「NHKジャーナル」

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