“好きという気持ちにウソはない”ということを、身をもって子どもたちに伝えたくて

24/04/15まで

眠れない貴女へ

放送日:2024/04/07

#インタビュー#音楽#ライフスタイル

生まれつきソプラノの声を持っているソプラニスタ(男性ソプラノ歌手)の岡本知高(おかもとともたか)さんに、難病で養護学級で過ごした子ども時代のこと、そのころから音楽が好きだったこと、押しつけられることが嫌だった経験から子どもたちにも押しつけずに音楽の楽しさを伝えようとしているライフワークのことなど、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
岡本:岡本知高さん(ゲスト)
和田:和田明日香さん(ご案内)

岡本知高さん

【岡本知高さんのプロフィール】
1976年、高知県出身。国立音楽大学を卒業後、フランスのプーランク音楽院を首席で修了。帰国後、生まれつきの美しいソプラノボイスで、宗教曲やオペラ、ミュージカル、唱歌やポップスなど、多岐にわたるレパートリーで活躍。また、スポーツ大会での国歌独唱なども多数担当し、そのほか、大学時代からライフワークとして全国各地の学校を訪れてコンサートを開き、音楽を通して子どもたちとふれあう活動にも力を注いでいる。

子どもたちに「ただただ好きなだけで歌ってる」っていうことを伝えたい

和田明日香さん

和田:
天性のソプラニスタの声でさまざまな活動をされている岡本さん。ライフワークのひとつに学校でのコンサートがありますが、その活動はどんな思いでやっていらっしゃるのでしょうか。

岡本:
音楽のね、楽しさを子どもたちにも伝えたいとかっていうのが、僕言われるのがとても嫌いな子どもだったんですよ、これおいしいから食べてごらんって言われるのとか。嫌いなもんだったらイヤじゃないですか。で、だんだん好きになったりもしますしね。だから押しつけられるのがすごくイヤで。だから押しつけるのも、ものすごくイヤなんです。で、クラシックとかね、ちょっとアカデミックな面もあるから、音楽の喜びを子どもたちに伝えたいっていうのは、ふつうお手本なんですけど、僕はちょっと違うなと思って。音楽が好きで好きで楽しくてしょうがない大人なんです、僕は、っていうのを見てもらって。大人ってね、僕もそうだったけど、子どもの時から見たら、みんなお金持ってて、自由で、失敗もないし、完璧なものだって思ってたんですけど。大人にもね、こんなに頼りなくてね、ただただ好きなだけで歌ってる人もいるんだよって。こんな大人なんですっていうのを子どもたちに見てもらいたいっていうのがひとつありますね。

あとはやっぱり、仲よく楽しく、音楽の時間の一環みたいな感じ。で、「岡本さん、どうしてこんな派手な服着てると思う?」って言って、「みんなこの体育館のステージの両サイドにさ、でっかいさ、布がぶら下がってるじゃん」って、「岡本さんは子どものころから、このね、体育館のステージの布にくるまって遊ぶのが大好きだったの」って、「それが歌手になったことと重なって、こんな形になっちゃったんだよね」っていうこと話したりとか。「だから好きっていう気持ちはウソがないんだよ」みたいなことを熱弁してちょびっと歌ってるみたいな感じです。もういい加減!

和田:
すてきですよね! 子どものころに、こんなお話聞けてたら「あ~好きなことって、好きでいいんだな」ってすごく思える、ホッとすると思うし。大人になるって、なんかこう、特別な何かにならなきゃいけないってことじゃなくて、好きなことを続けてることって、う~ん、いいことなんだなってすごく思えそうですよね。やっぱりそういう、大人が本気で好きで楽しんでる姿を見せるって、私も、大人としてすごく意識してることだったので。なんか子どもってやっぱりすっごく鋭いし、結構見抜いてくるから、なんか教えよう、伝えようってするよりも、やっぱりこっちが本気で楽しんでるところをただただ見せるっていうのが一番伝わるなという実感があるので、すごく共感できました。

そのコンサートではですね、低学年の子でも、涙を流しながら聞いてくれることがあるそうです。舞台から見ている岡本さんは「あれ! あの子、おなか壊して泣いてるんじゃないかな」って、歌いながら心配になるそうなんですが、あとから先生に聞くと「理由はわからないけれど涙が出てきた」と話していたそうで、子どもたちも僕の歌をしっかり感じ取ってくれていると、いつもコンサートで実感されるそうです。すてきですね。

養護施設で育った子ども時代

和田:
さて、こうして幅広く活躍されている岡本さんですが、実は子どものころ、股関節の病気である「ペルテス病」を患い、治療をされていました。小学1年生から4年間親元を離れて、治療のために特別支援学校が併設された養護施設で生活をされていたそうです。施設に入った当初はどんな思いだったのか、伺いました。

岡本:
最初の1週間は、ベッドの中でね、お布団にくるまって泣いてたそうです。やっぱり自分がなぜ親元を離れてまで、そういった障害児たちがたくさんいる施設でね、生活をしなきゃいけないのか全く理解ができていなくて。で、仲間たちっていうのも、みんなもう施設っていうのは、例えば手術のために入ってくるメンバーもいれば、長い間何年間もそこで暮らすメンバーもいて、出入りが結構あるんですよ。僕の病気なんかは4年間かかりましたけど、3年ぐらいで出てく人もいるし、そういう出入りがあるもんですから、みんなわりとウェルカムで迎えてくれて。

で、僕自身も1週間でそこの生活にやや慣れ始めたんですけども、でもやっぱりその例えば足がね、片方ない人がいたりとか、車いすに乗ってる人がほとんどだったりとか、それから見たこともないような装具を足とか手とかに付けていたり、目が見えなかったり。でもそれがね、みんな子どもなんですよ。で、自分と同い年ぐらいの子どもたちがそういう障害と闘ってる姿っていうのが、最初は怖かったです、正直に言うと。でもなんだかね、1週間、10日、1か月ってたっていくと、何かそのね、たくましい彼らがかっこよく見えてくるもんで。で、僕自身も負けじと、松葉づえをついて装具を付けて、自分の足2本と装具の足が1本と松葉づえが2本ですから5本足になったぞと。なんだかね、みんなと共に戦いながら生活していくんだっていうのが、1か月ぐらいでようやく慣れ始めましたかね。

和田:
最初は泣いてた、怖かったとおっしゃっていましたが、その施設では、たくさんのイベントがあって、生活はどんどん楽しくなっていったそうです。どんな様子だったのか、伺いました。

岡本:
例えばお茶の教室があったりね。僕はお菓子が食べたかっただけなんですけど。お茶の教室で先生に習ったりとか、そういうのもこうね、腕が無い人もいますから、お茶をたてることはできないけど、仲間たちが飲ませてあげたりとか、ふくさのお作法をね、一緒に学んだりとか。あと刺しゅう教室があったりとか。あとは子どもたちで勝手にマラソン大会とかね、施設の中でやったりとか。イベント事が多かったですね。

養護施設っていうとどうしてもね、かわいそうにって言われちゃうんですけど。本人たちはね、本当に楽しくて満喫してるというか、その子どもたちの楽園をね、満喫して。例えば雑誌の“ジャンプ”をまわし読みしたりだとか、キン肉マンの消しゴムで遊んだりとか、普通の小学生が普通に遊ぶようなこともしたり、一緒にテレビの時間にね、夜見たりとか。普通の小学生がただ障害を持ってるっていう、その障害の重さは結構重度な子たちが多かったんですけど、だけど何か障害を持ってるっていうことが、自分たちにとってのちょっと誇りみたいな部分もあって。その装具だとか松葉づえを身に付けているのが、ちょっと超合金のロボット化をしてるみたいな部分もあって。で、その姿っていうのはね、ときどき施設から先生と一緒にお散歩に外に出かけたりとかした時に、同い年ぐらいの小学生とかから指をさされてね、「なんか変な格好しちゅう」って。「変な格好って言われるんだ」って、「あ、ふ~ん」って。自分たちにとっては、もうそれがすべて当たり前になっていたことが、元気な健常者の子どもたちから見たら「あ! 変な格好って言われるんだ、こんなにカッコいいのに」って僕は思ってました。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 施設にいるころから大好きだった音楽を続けているうちに、世界で数人という珍しい声の持ち主であることを運よく見いだされ、その出会いに感謝しているという岡本さん。高知の自然の中で泥んこになって遊んだことや大人からかけられた優しい言葉、コンプレックスや差別のまなざし、失恋も含めて経験したことがすべて歌の表現に反映するので、これからも自分のテンポで歩いていって、さきざきどんな表現になっていくのかとても楽しみとおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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24/04/15まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    4月のテ-マは「マイルール」です。新年度が始まって作った新しい決め事や、長く続けているルーティンなど、あなたならではの「マイルール」にまつわるエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

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【放送】
2024/04/07 「眠れない貴女へ」

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