正解がないから失敗もない 誰にでもできる“切り紙”がアート作品に

24/03/11まで

眠れない貴女へ

放送日:2024/03/03

#インタビュー#アート

美術家で切り紙作家の矢口加奈子さんに、切り紙に興味をもった経緯や切り紙の世界をどのように広げていったのか、切り紙ならではの特徴と魅力、そして誰でもやったことがありそうな切り紙を美術作品にまで昇華できた理由など、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
矢口:矢口加奈子さん(ゲスト)
和田:和田明日香さん(ご案内)

矢口加奈子さん

【矢口加奈子さんのプロフィール】
1976年、千葉県生まれ。女子美術大学芸術学部デザイン科卒業。在学中に「歓 よろこびのかたち」と題して作品を発表し、「切り紙」という表現方法をさまざまなかたちに展開する活動を開始。切り紙を自らの手でプロダクトに落とし込む制作スタイルで、近年では切り紙の世界観を有田焼で表現するコラボ作品のほか、アパレルとのコラボレーション、店舗や雑誌のアートワーク、ロゴデザインや装丁なども手がけている。切り紙による著書も多数出版、初の著作本『やさしい切り紙』は英訳版も出版されている。現在は個展を中心に作品を発表しながら国内外で幅広く活動中。

自分の手で作って自分で売る、という生き方を模索して

和田明日香さん

和田:
まずは、矢口さんが切り紙の道へ進んだきっかけから伺いました。

矢口:
切り紙を始めたきっかけがとってもアバウトなんですけど、学生の時、誰もやってないことをやりたいけれど、なかなか見つからずにいろいろ模索してた時に、たまたま切り紙ってすごく身近なのに誰も取り組んでいないなっていうことになんとなく気づいて。周りに見せてたんですよ、やってみたものを。そしたら、「へー、おもしろいね」みたいな話になって。で、自分で掘り下げられる分野なんだっていうことに気づいたので、始めました。掘り下げがいがあるというか、自分がとにかく勉強したり、研究したりっていうことで、できることがいっぱいあるかもしれないっていうふうに可能性をすごく感じたっていうのはあると思いますね。
前例がないから難しさもありながら、ただ、自分で道を切り開いて好きなことができるっていうふうに思うので、そこらへんはとても自由さがありますね。“何やってもいい”っていう。自分で作って自分で売って、それをなりわいにして暮らしていければ、どんな形でもいいと思ってたんです。
最初にデザインフェスタってイベントに出たんですよね、若い頃に、学生の時かな。それに出た時に、もうまったく売れなくて、自分がこーだあーだってやってみたものが人の目に全然留まらなかったんですよ。それに悔しさがもう爆発して、“こんなんじゃなんか違う”ってなって。まぁそれが、けっこう原動力にはたぶん最初はなってたと思いますね。
最初の頃は、切り紙よりもそっちの作品ばかり作ってたので、元がこれ切り紙だっていうことに気づいてない人とかも多くて。それは後々自分で気づいたんですけど。あ、だから伝わらないんだってなりました(笑)。ただそれをやってたことによって、たぶん自然に技術の向上だったり、切り紙自体の表現のしかた、掘り下げる時間ができてたと思うんですよ。

和田:
お話の中で、「切り紙よりもそっちの作品ばかり作っていた」とおっしゃっていましたが、その“そっちの作品”というのは、矢口さんのSNSでも紹介されているので私たちも見られるんですけど、切り紙をモチーフにしたバッグなどがあって、確かにそれだけ見るときれいすぎて、というかクオリティが高すぎて、まさかこれが切り紙でできているっていうふうに気づけないぐらいの完成度なんですね。だからみんな切り紙だってことに気づかなかったっていう。まぁそれはそうですね、こんなに完璧だと、なんかそういうデザインをパソコンかなにかで作ったんじゃないの? っていうぐらいの、すごいクオリティの作品です。

折って、切って、そして開くと広がる歓び

和田:
30歳を過ぎた頃、切り紙の本を出しませんか? という依頼をいただき本を出版できたことで、改めて“自分のメインは切り紙なんだ”と思わせてもらえて、切り紙作家への道が明確になったそうです。
さて、この切り紙、皆さんはどうですか? 子どもの頃に折り紙を使って遊んだことありますか? 私はやってたなぁ、なんか適当にパタンパタンと折ってチョキチョキとハサミを入れて広げると、なんとなく模様っぽくなってるみたいな。そんな切り紙ですが、改めてどういうものなのかを伺いました。

矢口:
切り紙って切り絵と違うというか。切り紙って皆さん聞いたことはあるけど、ピンとこないという方も多いと思うんですけど。まず紙を折って切って開くっていう工程をすごく大事にしてまして。それを一応「切り紙」と私が勝手に呼んでるところもありますね。折って切ると、その折ったことによって、ただ平面的なものを切るだけではなくて、広げた時にちょっとこう立体というか空間がそこに生まれていくので、それがすごく特徴的だと思います。平面的な作品だと思いがちなんですけど、すごく空間とか立体とかっていうふうに、ただ一枚の紙なのにそこの空間すら変えてしまうような魅力、威力が意外と紙に、一枚なのにあって、それはたぶん折って切って開くっていうちょっとデザイン的なというか、繰り返しの模様になるっていうことで、すごくこう抽象的になっていくので、そこに空間が生まれる一枚ができるっていうのが魅力かなと思います。
広げた時がわからないっていうのが一番大事なところで、わかったとき絶対“ハッ”てなるんですよ。切り紙ってみんなやったことがあると思うので、みんなの芸術だと私は思ってまして。開いた時に、自分が切ったのに自分が切ったようではないっていう、そのすごい世界が広がるというか。その広げたことによって、いろんなことがつながっていったり、広がったりしていくっていうイメージがとてもポジティブでいいなと思ってまして。皆さんにやってもらってる時とかも「失敗はないですよ、あなたが作ってるのが一番だと思ってぜひやってください」っていう話はいつもしますね。

和田:
例えば4等分に折っていたら、切っている間は1/4の部分しか見えていないけれども、それを開いていくと4倍になる、もうそれだけでも単純に4倍の喜びになるんじゃないかな、ともおっしゃっていました。
私もですね、さっきスタッフに折り紙とハサミを渡されてやってみました。最初はね、ここに切り込みを入れると広げた時にどうなるかな? とか想像しながらやってたんですけど、だんだんわかんなくなってきちゃって、もういいやみたいな(笑)。ただただもう直感でハサミを入れていったんですけど、なんかそれをやってる間すごく「無」になれたし、じゃあまぁこんなもんかなと思っていざ開くとき、本当に矢口さんがおっしゃってたように、もう、わぁーって、自分が作ったはずなんだけど、もうどうなるかわからないから、めちゃくちゃワクワクドキドキしながら開いて、なんか本当に折り紙を折ってハサミで切って広げただけなのに、すごくなんかいい時間でしたね。誰でもできるし、もうぜひやってみてください。なんかすごく自己肯定感が上がるというか。なかなかいいものができたので、スタッフにほめてもらえたからかもしれないんですけど、なんかすごくうれしかったです。

表現は無限、答えはひとつじゃない

和田:
先ほど「失敗がない」と矢口さんがおっしゃっていましたが、ワークショップなどでも「失敗しないのが切り紙のいいところ」と皆さんに伝えているそうです。その意味はどういうことなのか伺ってみました。

矢口:
切り紙ってすごく抽象的なイメージだったりとか、潜在的なイメージとか、人によって変わるものだと思います。みんな最初やった時に「え、これ私切ったの?」ってなるってことは、それは失敗ではないじゃないですか。全部が成功というか、全部が表現のひとつなので失敗がないっていうふうに私が思ってるってところですね。答えはひとつじゃないんですよ。答えがひとつじゃないので、正解もこれっていうものがないので、その時切ったその瞬間を切り取るっていうイメージだと思います、切り紙一枚切るってことは。なのでそれがその時の成功。比較的あんまり途中でやめるってことしないのは、「ここ、なんか気に食わないな」って思ったら、もうそれごとデザインを少しずつ変えていって、あきらめずに最後までたどり着くことが多いので、まあそれも失敗がないということのひとつかなと思いますね。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 旅で出会ういろんな風景や建物だけでなく、身近にあるあらゆるものが発想のヒントになるという矢口さん。始めたころは一人で完結できることが切り紙の魅力のひとつだったけれども、いろんな方とのコミュニケーションツールとしての作品作りや、異業種コラボのように別のフィールドの方と一緒にものづくりをすることの魅力に気づいたので、これからも積極的に世界を広げていきたいとおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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24/03/11まで

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24/03/11まで

  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    テ-マは「心にしみたひと言」です。お礼も言えないままだけれども、いつまでも心に残っている何気ないひと言など、「心にしみたひと言」にまつわるエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2024/03/03 「眠れない貴女へ」

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