アルプスに響くヨーデルが底抜けに明るいワケ

24/02/19まで

眠れない貴女へ

放送日:2024/02/11

#インタビュー#音楽#ワールド

スイスのヨーデルフェストで最高ランクの1級を受賞した経験もあるヨーデル歌手の北川桜さんに、ヨーデルの特徴やヨーデルが生まれた経緯、小学生のころに現地で体験したヨーデルに魅せられたこと、大人になってあらためて本格的にヨーデルを学んで知ったアルプスの人々の歴史や文化など、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
北川:北川 桜さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

北川桜さん

【北川桜さんのプロフィール】
東京都出身。国立音楽大学で声楽を学び、卒業後、オペラやミュージカルなどの分野で活躍。同時にヨーデルに夢中になり、ヨーデルの本場スイスやドイツ、オーストリアに留学。その後、スイスのヨーデルフェストで最高ランクの1級を受賞。現在はスイスやドイツのイベントで歌ったり、日本でもコンサートやビアホールで演奏したりと幅広く活動し、ヨーデルの楽しさを伝えている。

ヨーデルは牛の鳴きマネ!?

村山由佳さん

村山:
まずは、このヨーデルの歌い方の特徴について、北川さんに伺いました。

北川:
ヨーデルの歌い方の特徴は、頭の声、裏声ですね。頭声(とうせい)と言うんですけど。それから地声、胸の声、胸声(きょうせい)って言います、の間を行ったり来たり「♪オ~オ~オ~オ~、オ~オ~オ~オ~」みたいな感じで。サッと「♪オオ⤴(音程が持ち上がる)」っていうのがついているのが価値があるとされています。ここがクラシック、ベルカントみたいな歌い方ですと、上の声と下の声ができるだけ滑らかにミックスボイスを使って「♪オ~オ~(滑らかに音程が下がる)」みたいな感じで、切り替わりがわからないように音色も変えずにいくのが上手とされてるとしたら、価値観が全然違って。このアルプスの歌い方は、上の声を作っておいて下の声を作っておいて、上の声は上の声、下の声は下の声で、ずいぶん違うところに価値があるっていうような感じの考え方ですね。

山の上に行った時に、たぶん牛追いのお父さんが、ひとりでひと夏、センテヒュッテという山小屋で、たくさんの牛をね、管理しなきゃいけないわけ。犬とかはもちろんいるけれども、人間あんまりいないからさみしいじゃない。で、例えばカウベルを鳴らしてみたりとかっていう中に、ちょっと思いついて。これはひとつの説ですよ。牛の鳴き方をマネしてきた。「♪ン~ン~ン~(牛の鳴きマネ)」ってひっくり返るじゃないですか。これをちょっとやって「♪ウ~オ~ウ~、あれ? おもしろいな」「♪ウ~オ~ウ~、あれ? おもしろいな、もっと高い声、俺出るかな?」「♪オ~オ~!」とかやってるうちに、何か男の人でもファルセットで高い声が出るかも、高い声出るんだよな。みたいなのがはやっていったという説がひとつ。もうひとつは、牛を追う時に、牛だから「モ~オ~オ~!」「オ~!」「ホ~!」「ホ~!」とか言って、低いと音飛ばないからちょっと高くしたりしてやったって言われているのも説があります。

村山:
すごくわかりやすい説明でした。それも説っておっしゃってましたけれども、なるほどな! ってなんだか納得しちゃいますね。もうこのヨーデルって、声が前へ、前へ出るというか、こちらに迫ってくる。そんな歌い方だな~と思います。ヨーデルは特別な音楽教育を受けて習得するものではなくて、遊び感覚で「おもしろそうだから私もやってみよう!」という感じで人々の間に伝わってきたものなんだそうです。

子どものころに魅せられたアルプスの文化

村山:
このヨーデルは、スイス、ドイツ、オーストリアのアルプス地方などで歌われている民族音楽です。北川さんは、小学生の時に初めてアルプスの文化に触れ、魅了されたといいます。当時の思い出を伺いました。

北川:
両親にヨーロッパ旅行に連れて行ってもらいました。(小学)1年生ぐらいの時に。ベルギーだとかフランスだとか、いろんな国をまわったんだけど、スイスが1番何か印象に残ったのね。どうしてかって言うと、おうちに花が飾ってあって、少女らしいんだけど、緑の野辺っていう感じでね、もうそれがすっごいいいなと思って。ワ~! って思ったら、夜になったらね、ビアホールみたいなところで観光客相手のショーをやってたんだよね。そこに、なんか左右に揺れて、シュンケルっていう向こうのスタイルなんだけど、腕を組んで隣の人と左右に揺れるアルプスの楽しみ方、「♪1、2、3、右! 左!」みたいに揺れたりとか、手拍子したりとか、みんなで「1、2、3!」の時に立ったりとか。あとアヒルのダンス、何かむこうのアルプスのダンスがあるんですけれども、そういうダンスをみんなで踊ったりして。あとね、クライマックスは前の人の肩に手をやって、これドイツのオクトーバーフェストなんかでもやるし、日本でもよくその辺で最近見るけど、ムカデっていうか、ジェンカっていうか、それで前にクルクルクルクル歩いていくみたいなのが、もう子ども心に楽しくて楽しくて、もう忘れられなかったわけ。で、こんな楽しいことを私はもうずっとやりたいってその時に思ったのね、子どもだから。

で、これのお洋服を買ってもらって、アルプスのように赤い身頃のチロリアンテープが付いていて、お袖が白くてちょうちん袖のさ、よくあるアルプスの格好でエプロンが付いているのを買ってもらって、毎日着てたんですよ。だけど次の年に着れなくなっちゃったわけ。で、それがもう悲しくて悲しくて、いつかこういうことをやりたいなと思ってたのね。

村山:
わぁ~、もうこれは子どもですもの、そりゃフランスやベルギーよりもスイスのそうしたね、ダンスのほうがずっと記憶に残るっていうのわかりますし、自分の夢の1番の原点をそうしてオールカラーみたいな感じで覚えてられるってすごくすてきなことですね!

スイス人が大切にする「ヨーデルマインド」

村山:
北川さんは音大で声楽を学んでいたことから、歌における体の使い方、呼吸のしかたがすでにしっかりとできていたので、ヨーデルのあの特徴的な歌い方も、初めのころからできたといいます。逆に苦労したのは、ヨーデルを歌う上で大切な、現地の文化や歌の背景を知ること。国によってそれは異なりますが、スイスのヨーデルには「ヨーデルマインド」が込められているといいます。このヨーデルマインドとは、いったいどんなものなのでしょうか。

北川:
私はこれがすばらしいなって実は思って。私、マリーテレーズ・フォン・グンテンっていう、スイスではすごく有名な大御所なんですけど、この方についてるけどこの先生はいっつも言うのね。ヨーデルで1番大切なのはヨーデルマインド。ポジティブな歌なのよって。

この意味はね、なんか嘆いたりとか、悲しんだりとか、病気な時に、痛いとかつらいとか言わないのよって。で、何があっても前を向いて時間が解決するわ、とか、何があっても私たちにはこの山があるじゃない、とか、この美しい風景できれいな水があるじゃない、かわいい娘がいるじゃない、いい牛がいるじゃない、春の喜びがあるじゃない、秋の実りがあるじゃないっていう風にあるものを言って、美しいメロディーで歌っていく。それの裏には、本当につらい時っていうのはさ、昼ドラとかさ、見られないじゃない。本当につらい時っていうのは、やっぱり前を向いて生きていくんだっていう歌がほしいよね。みんなそうなの。

で、スイスの人はそういう歴史があるんだよね。なんかスイスのいわゆるきれいな風景っていうところは、みんな開墾されて。スイスに本当の自然ってなかなかないって実は言われていて。あの牛がいるようなところも、みんないろんな石とかいろんな岩とかいろんなものをどかして、そこに草を生やした。そこに牛を飼った。で、ここは肥えた土地じゃないから草ぐらいしか生やせらんなかったりとか、ジャガイモぐらいしか取れなかったりとかっていう、寒いから。で穀物があんまり取れないから、例えばその冬、何か牛に病気がはやっちゃったりとか、何か飢きんみたいになった時にとたんに食べれなくなる。で、年の半分雪が降って山でって、こうね、日本もそういう地域いっぱいあると思うけど、雪で閉ざされちゃうから隣の村に行けない、昔ね。

例えばさ、イタリアとか暖かいじゃない。で、よくカンツォーネとかさ、彼女が冷たいから僕は死ぬ! とか、そんなのんきな歌が、のんきっていうとあれだけどさ、情熱的ともいうけど、そういう歌が多いじゃない。何かスイスではそんなことしてる暇がないんだよね。きょう食べるもの(がないと)本当に死んじゃうみたいな。だから、彼らの思っている事とかを、できるだけ頭で理解するんじゃなくて、一緒にしゃべったりとか、一緒に過ごしたりして、肌感覚でわかって、それを曲の中に落とし込んで伝えたいなっていう風に私は思っていて、そのためにずいぶんたくさん行ってきました。

番組からのメッセージ

  •  ♪ ヨーロッパの中央にあるスイスは、周囲の国々と交わりつつも一線を画すために、“ヨーデル”“旗振り”“アルプホルン”の3つを国技としてひとつにまとまっていくことを国の政策として進めてきましたが、基本は民主主義で「私たちに王様はいない」という精神のもと、みんな違っていい、という考え方で生きているのだそうです。周囲との紛争の不安があったり、山国で食料も決して豊かではなかったりする中で、工夫して生きている彼らの生き方には頭が下がる思いで、北川さんも表現者としてまだまだやれることがあるはずと感じている、とおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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24/02/19まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    2月のテ-マは「心にしみたひと言」です。お礼も言えないままだけれども、いつまでも心に残っている何気ないひと言など、「心にしみたひと言」にまつわるエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

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【放送】
2024/02/11 「眠れない貴女へ」

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