「お別れホスピタル」の原作者が語る、漫画を通して描きたかったこと

24/02/05まで

眠れない貴女へ

放送日:2024/01/28

#インタビュー#マンガ・アニメ

「透明なゆりかご」や「毎日やらかしてます。」など、自らの体験を元にした作品で人気の漫画家・沖田×華(おきたばっか)さんに、漫画家になったきっかけ、母の勧めで看護師を目指している高校生の時にアルバイトをした産婦人科病棟で感じたこと、さらには「お別れホスピタル」で描いた療養病棟のことなど、興味深いお話を伺いました。

【出演者】
沖田:沖田×華さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

沖田×華さん

【沖田×華さんのプロフィール】
1979年、富山県生まれ。母親の勧めで看護師を目指し、22歳まで看護師として勤務。ほかの仕事を経験したあと、2008年に漫画家デビュー。NHKでドラマ化された、産婦人科の見習い看護師の物語「透明なゆりかご」のほか、終末期のケアを行う療養病棟を舞台にした「お別れホスピタル」、自身の発達障害のことを描いた「毎日やらかしてます。」シリーズなど、個性あふれる作品を発表している。

沖田が描いた絵ってわかるから、もうお前は漫画家になれる!

村山由佳さん

村山:
まずは、沖田さんに、漫画家になったきっかけを伺いました。もともと沖田さんは、漫画を読んだり、絵を描く事が好きだったそうですが、漫画家になるとは全く思っていなかったそうです。当時知り合いだった、漫画家である今の旦那様に勧められたことで、漫画家としての道が開いていきました。

沖田:
今の夫なんですけど、最初、話がおもしろいから、「文章を書いたら?」っていう話になって。ライター志望だったんですよね。でも、ことごとくダメで。その時にイラストを書いたら、夫に「お前、絵も描けんじゃん!」ってなって、「いい絵だからもう漫画家になれ」って言われて。「えっ? 漫画家って、なれって言われてなるもんなの⁉」って。それまで私、漫画家ってどういう職業かもわからなくて。漫画は好きだったんですけど、漫画家になるために資格がいると思ってたんです、ずっと。その看護師みたいな感じで。専門学校あるじゃないですか。そこで絵の勉強して、「はい! あんたもう合格しましたよ」って証書もらって出版社に行ってそれ見せたら、仕事もらえるって思ってたんですね。なんか全然違ってて(笑)。

その時、夫はもう何十年も仕事をしてるから、「こいつ、なる」ってわかってたみたいで。「私、全然絵描けないよ」って、「すごい簡単(な絵)だし」って言ったら、その時に夫が言ったことばがあって、漫画って、漫画見たときに、「あ、これ、この人書いてる」ってわかる人ってすごく長続きするんですって。「だからお前の絵は、これ、沖田が描いた絵ってわかるから、もうお前は漫画家なれる」って言われたんです。で、「へえ~こんな簡単にいってもいいの!?」と思って。でも、まあなっちゃったので。賞とか持っていったりとかしてたんですけど、やっぱりすごい評価はしてもらったので。すごい漫画のことなら何でも知ってる先生みたいな感じだったんで、なんかつまずいた時は結構いつも夫に相談したりとかしてました。

村山:
導いてくれる人は大事ですね。さすがプロの目ですね。この絵を見て「ああ、この人描いてる」ってわかる人は長続きするっていうのは、なるほどなと思いました。私は小説書いてますけど、小説家にとったら、それ文体みたいなものなんでしょうけど、パッと見て、「文体、この人のだ!」ってわかるのって、村上春樹さんくらいじゃないですかね。“やれやれ”って書いてあったら村上春樹だなとか思ったりはするんだけど、そういうケースはすごく少ないので。漫画家さんのそういうね、見分け方というか、続く漫画家さんの見分け方って、なるほどな~。手塚治虫の絵や、あと永井豪さんの絵も、みんなそれしかない絵だなって思いますね。

「透明なゆりかご」が描く産婦人科の現実

村山:
そうして漫画家となった沖田さんの代表作のひとつが、2014年から連載された「透明なゆりかご」です。2018年に、NHKでドラマ化もされました。これは、産婦人科医院を舞台にした見習い看護師の物語ですけれども、沖田さん自身、高校の看護学科に通っていた時に、産婦人科でアルバイトをしたことがあって、その経験が基になっています。幸せなお産だけでなく、中絶など、過酷な現実も描かれているこの作品には、沖田さんのこんな思いが込められています。

沖田:
高校生の時に母からの紹介で、たまたま産婦人科の方が看護実習生とかも入れたりとかで、見学って言ったらあれなんですけど、実習みたいな事をよく入れてたので、じゃあ私も一緒に大丈夫だよっていうので入れてもらったんですね。で、その初日からすぐ中絶の処置が始まった。その事もすごく衝撃だったんですけど。あの時代って、なんかできちゃった婚みたいなのが、すごくはやりだしたんですよね。先に妊娠しても結婚できるみたいな流れになった時に、同じぐらい産まないっていう選択をしてる人もたくさんいて。それは産婦人科から見るとすごく日常的なことなんですよね。で、私、妊娠とかの経験はないんですけども、中絶ってすごくマイナスなイメージがあるじゃないですか。で、私、書くんだったら、絶対にこれを女性が悪いことにはしたくないので、そういう目線からの中絶っていうのを私も書きたかったので、書かせていただいたんですけど。そしたらやっぱり、女性の反響がすごくて、私がすごく驚いてしまったっていうことがありました。

あと、今までの産婦人科のドラマとかはたくさんあったんですけども、いざ自分がバイトして、どうしても違和感がひとつだけあって。みんな、なんか妊娠しました。すごい困難なことありました。生まれました。で、終わるんです。で、そのあとから大変なんですよ、なんか子どもって。で、そのことを書かないまま、子ども産んでみんなハッピーみたいなラストもあるんですけど、なんかそうじゃないケースもたくさんあったので。どうせ書くんなら、そこの先まで、もっと踏み込んだものを書きたくて。やっぱり、子どもが生まれてしまったけども、パートナーの人と連絡つかない、もしくは逃げる、DVする、だけど周りに相談したら、そんな男を選んだあんたが悪いっていう風になっちゃうんですよね。だから誰にも相談できなくって、自分でひとりで育てなきゃっていうのが強すぎて、手が出ちゃったりとかっていうのもよくわかるので。それを、どうやって女性が悪くないように書こうか、みたいなのをすごい悩んでた時がありました。

村山:
ん~、今、ふっと思い出したのが、この間亡くなってしまわれた八代亜紀さんのお話でね。八代さんが、女の人たちの刑務所に行った時に、「あんたたち、みんなここにいるのは男のせいよね」って言ったら、みんな泣いたっていう話があるんですよね。この子どもの話も、やっぱりいつも女の人って責められがちなんだけれども、必ず、だって子どもはひとりで生まれてこないですからね。相手の男の人が必ずいる。それがどうしても女の人が責められるっていうことは、本当に言われて見ると、それを書いてくれる×華さんみたいな方がいらしてよかったなって思います。

作品には、中絶の場合も、相手の男性がいなくなってしまって、中絶をせざるを得なかった女性の話とか、旦那さんから経済上のことで産まないでほしいって言われて、やっぱり中絶せざるを得なかったっていうふうな、そんな話とか、産んだはいいけどそのあとどうするってみたいな話もあって、女性の苦しみやつらさが本当にしっかりと描かれてます。そのほかにも、さまざまな状況のお話を通して、産婦人科医院の現実を描いていて、中絶したそのお部屋で普通のお産も行われるわけですからね。新しい誕生もあるということで、“命とは何か”ということを幅広く問いかける作品です。

終末期の患者の最期を丁寧に描く「お別れホスピタル」

村山:
ほかにも沖田さんはさまざまな作品を書いていて、「透明なゆりかご」とはまた別の形で命について考えさせられるのが「お別れホスピタル」です。この作品は、病気が重症化して在宅が望めない方や、病状に加え認知症などで日常生活が困難な方など、終末期のケアを必要とする方が入院する療養病棟での患者さんと看護師さんのやりとりを描いています。この漫画を原作にしたドラマが、来月、NHK総合テレビで放送されます。知り合いの看護師さんから聞いた療養病棟のお話をきっかけに、沖田さんはこの漫画を書こうと思ったそうですけれども、どんな思いが込められているんでしょうか。

沖田:
いろんな事情があって、この病棟ってやっぱりお見舞いに来る家族とかがいないんですよね。で、結構ひとりぼっちで寝たきりでポツンとしてる。認知症の方もすごく多いので、問題行動をする患者さんがやっぱりものすごく多いんですって。で、初めなんか「ん?」と思ったのは、若い時にすごいしっかりされた方とか真面目な人が認知症になると、結構激しくなってしまうっていうのがあって。そういったパターンの患者さんを聞いていると、なんかいつの間にか、漫画のキャラクターにモヤモヤってできてしまって。

ただ死んでいくだけじゃなくって、死んでいく中でも、その人の過去の話だったりとか、夢みたいなのをかなえたいからみんなで協力して「ペットに会わせよう!」とかって言って頑張ってるのも、なんか自然に漫画のストーリーになっていったので。暗い話っていうか、あんまり聞きたくないじゃないですか、老後どうやって死ぬのかなっていうのは。それでもどうしても病院の中で死ななきゃいけないっていうか、最期を迎える時に、患者さん1人1人にどうやって穏やかな最期をみたいな、描こうかなっていうので、1人1人の患者さんにストーリーを与えて作ってたりとかするんです。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 小学生のころから親や先生に言われることが理解できず、社会人になっていよいよ困ったと思った時にたまたま見つけた発達障害のチェックリストで、自分の行動パターンが性格ではなく脳の特性だということがわかり安心したという沖田さん。毎日やらかしながらも、少しずつ対処法を自分で見つけることができ、穏やかに生活できるようになってきたそうです。大変なことはいろいろあるけれども、「いっぱいちっちゃい幸せを見つけておくこと」が、人生を楽しむコツだとおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

放送を聴く
24/02/05まで

放送を聴く
24/02/05まで

  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    2月のテ-マは「心にしみたひと言」です。お礼も言えないままだけれども、いつまでも心に残っている何気ないひと言など、「心にしみたひと言」にまつわるエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2024/01/28 「眠れない貴女へ」

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます