タイトルが最初に決まっていた『瑠璃色の地球』の作曲秘話
23/12/25まで
眠れない貴女へ
放送日:2023/12/17
#インタビュー#音楽#なつかしの名曲#J-POP
平井夏美名義で数々の名曲を世に送りだしたレコードプロデューサーの川原伸司(かわはらしんじ)さんに、松田聖子が結婚後に歌ってヒットした「瑠璃色の地球」の作曲を依頼された経緯や当時の音楽制作について、また曲に込めた思いなど興味深いお話を伺いました。
【出演者】
川原:川原伸司さん(レコードプロデューサー)
和田:和田明日香さん(ご案内)
川原伸司さん
【川原 伸司さんのプロフィール】
1950年、東京生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、レコード会社に入社。ピンク・レディー、杉真理、松本伊代などのレコード制作を経験し、プロデューサーとして、大滝詠一や中森明菜など数多くのアーティストを担当。レコード会社で制作の仕事をしながら、1981年にペンネーム平井夏美として、松田聖子「風立ちぬ」のB面曲「Romance」で作曲家デビュー。1990年には井上陽水との共作で「少年時代」も作曲。
「瑠璃色の地球」っていうタイトルで作曲してね、と依頼されて
和田明日香さん
和田:
今回は、松田聖子さんの名曲「瑠璃色の地球」についてお話を伺います。この曲は1986年リリースのアルバム『SUPREME』に収録されています。まずは、アルバムのプロデュースと作詞を担当された松本隆さんから作曲を依頼された当時のお話を伺いました。
川原:
曲の発注って普通は、曲を先に作って作詞家さんにお渡しして詞をつけてもらうっていう形と、まず詞が先に上がってきて、それにメロディーを作曲するっていう二通りあるんですけどね。松本隆さんの場合、結構あの人はなんかイメージが固まった場合はタイトルが先にくるんですよ。曲はもちろん先に作ったんですけど、「瑠璃色の地球」っていうタイトルでバラードで書いてねって発注だったんです。タイトル先って珍しいパターンだと思うんですけど。昔、松任谷由実さんで「赤いスイートピー」のデモテープ聞いた時もあれもタイトルが先だったんですよね。だから松任谷さんが歌ってらして「赤いスイートピー」のところだけは詞が、要するにタイトルがのってるっていう。だからタイトル先っていうと、曲の一番最後にタイトルが出てくるっていう、そういうのが特徴的なところだと思いますね。
その「瑠璃色の地球」ってタイトルを聞いた時に、アルバムでいうと一番最後なのか、たぶんそういう壮大なテーマなので、まさかこういう曲でダンスチューンを作るわけにはいかないし。たぶん壮大で普遍的な曲を作らなきゃいけないんだなぁと思って。
最初にイメージしたのは、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』っていう名作があるんですけど、そのエンディングシーンを思い浮かべて。ああいうトーンの曲ってどうなんだろう、どんな曲なんだろうっていうことを考えながら作ってましたね、この曲は。あとは普遍性みたいなことでいうと、たぶん人類愛とかを詞に盛り込んでくるんだと思うので、たとえばジョン・レノンの「イマジン」とか、ああいう永遠に歌い続けられるようなものを作らなきゃいけないなっていう、すごいそれは結構プレッシャーだったんですけど、やりがいのある仕事でしたね。
和田:
先にタイトルが決まっている、そこからどういう曲でどういう詞なのかっていうイメージを広げていくというか、探っていく作業。すごく面白そうではありますけど、先にタイトルをつけた松本隆さんとの意思の疎通とかも難しそうですが、そういう経緯で作られた曲だったんですね。
松田聖子さんが歌えば、どんな曲でもポップスになる
和田:
松田聖子さんが歌う曲、そしてタイトルが「瑠璃色の地球」、ということだけが決まっている中で、川原さんはどのように曲を作り上げていったのでしょうか。
川原:
本業はレコードプロデューサーですから作曲家ではないんですね。レコードプロデューサーっていうのはいかに作品をきちんと世の中にスムーズに送り届けてヒットさせるかっていう仕事なので、ただ自分がその作曲家になる時にヒットソングを作るというのはすごく苦手なんですね。人には平気でこういうふうにしましょう、ああいうふうにしましょうって提案するんですけど、自分はやっぱりヒットソングが書けるような作曲家ではなくて。
とは言ってもまぁ何に自信があるかといえば、皆さんが喜んでくれるいい曲っていうのはどうなのかっていう、なんか漠然としたその基準はあるんですね。で、そこに近づけるために、決してそれがシングルヒットしたとか商業的なヒットではなくて、人の心に残るものをどうやったら、っていうことに関してはなんか作れるかなって気持ちがあるので、そこはだから…でも半分楽しんでましたね。松本さんがよく言ってたんですけど、「松田聖子が歌えば、どんな難しい曲でもポップスになるから大丈夫だよ」って言っていて。松田聖子さんの声がいわゆる万人受けするポピュラリティーそのものの声なんですよね。だから彼女が歌えば、どんな難しい歌でも彼女の声でポピュラーソングになるからっていうことは松本さんがよく言っていて。そこは僕もすごく同感できたので。
だから最初に曲を持っていった時に松本さんにこんな曲っていったら、すごくいい曲じゃないと褒めてくれたんですけど。「でもここさ、もっと難しくしてよ」って。普通は、ここは難しいからヒットさせるためにもうちょっとリスナーにわかりやすいメロディーにしようよっていうのが大体の発注なんですけど、松本さんの場合逆で、「川原、あんまりリスナーに気を遣うことないから、もっと難しくしようよ」っていうことは言われて、複雑な方にどんどんメロディーを展開していったのを覚えています。それは聖子さんが歌えば、どんな曲でもポップスになるからっていうのがあって、ああいうアイコンがないとこういう曲が生まれないです、やっぱり。漠然とこういう曲で誰かに歌ってもらうから作ろうよって言われても、やっぱり歌い人知らずの場合だったらもっと予定調和的なものになっちゃったかもしれないですけど。この曲の中には細かく部分転調とかややこしいテクニックが多少織り込まれているんですが、そういうことはたぶんなかったと思いますね。
それではお聞きください。松田聖子さんで「瑠璃色の地球」。
♪ 瑠璃色の地球 / 松田聖子