放送500回記念スペシャル~拘置所の中で感じた“信じてくれる人たちがいる”ことの強さ

23/11/20まで

眠れない貴女へ

放送日:2023/11/12

#インタビュー#家族

元厚生労働事務次官の村木厚子さんに、2009年に身に覚えのない郵便料金不正事件で164日間勾留された際に、支えになったこと、拘置所での生活の中で見えたこと、そのときの経験から得られたことなど興味深いお話を伺いました。

【出演者】
村木:村木厚子さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)
和田:和田明日香さん(ご案内)

村木厚子さん

【村木厚子さんのプロフィール】
1955年、高知県出身。高知大学卒業後、1978年、厚生労働省に入省。障がい者支援、女性政策などに携わり、雇用均等・児童家庭局長などを歴任。2009年、身に覚えのない郵便料金不正事件で逮捕。ほぼ半年にわたる勾留の末、無罪が確定し、復職。2013年、厚生労働事務次官に就任。2015年退官後、生きづらさを抱えた少女や若い女性へ支援をする「若草プロジェクト」を立ち上げ、代表呼びかけ人として活動。企業の取締役や、団体・学校の理事、津田塾大学客員教授なども務めている。

無実を“知ってる”信じてくれていた思いが支えに

村山由佳さん

村山:
まずは2009年に突如降りかかったえん罪事件について。当時は大きなニュースにもなりましたが、身に覚えのない郵便不正事件に関連する容疑者として逮捕・起訴されてしまい、検察による不当な取り調べなど、無実を証明することが困難な状況のなか、村木さんは諦めず、ついには検察側の矛盾点を見つけ、無罪を勝ち取りました。そんな過酷な状況でも自分を見失わずに耐えて立ち向かうことができた、その原動力はなんだったのでしょうか?

村木:
まあ初めてのことですからね。取り調べがあるって言われて、あ、じゃあこれでちゃんと説明できると思って、地検に出かけていったら、もうその日のうちに逮捕されて家に帰れないという状況になっちゃったので、本当に驚きましたし、どうしたらいいか全然わからなかったんですよね。でもたぶん一番大きかったのは、信じてくれてる人はいるっていう、その思いがやっぱり一番支えになったんじゃないですかね。

村山:
実を言うと、うちの父もえん罪事件で10日間、村木さんに比べたら本当に短い勾留だったんですけれども、その間やはり勾留されて。で、話すこともできなかったので、家族には全然情報が入ってこなかったわけなんですね。なので、村木さんのこの事件の時には本当にもう待ってらっしゃるご家族の気持ちの方にシンクロしてしまって。
先ほど、信じる人たちがいるっていうふうにおっしゃってましたけど、家族としては信じるというより“知ってる”っていう感じでした。絶対こんなことしないってことを私たちは“知ってる”。だけど証明するその方法がないっていう。それはつらかったので、拘置所の中にいらっしゃる間の村木さんとご家族とのその気持ちのね、また違う苦しみがきっとおありだったと思うんですよ。

村木:
そうですね。その“知ってる”っていう言葉、いいですね。そう言ってもらえるとなんかとってもうれしいですよね。私は、家族は自分のこと200%信じてくれてるっていうふうに自信があったんですけど、やっぱり友人とかね、職場の人たちは「国会議員に言われてしかたなくやっちゃったのかな」とかそういうふうに思う人がいるんじゃないかと思って、それはとっても不安だったんですよ。でも、弁護人の方が面会に来てくれた時に紙を見せてもらって、その紙に「真実を貫け」って書いてあって。で、その下に友人とか職場の仲間の名前がダーッと書いてあったんです。あ、まだ信じてくれてる人がいるって思って。それでとってもなんか気持ちが強くなった気がします。

和田明日香さん

和田:
気持ちが強かったとしても、何も悪いこともしてないのに、いきなり名前を奪われるというか、もちろんプライバシーの観点からっていうこともあるんでしょうけど、番号で13番っていうふうにつけられて、寒いお部屋で、好きに横になることも許されずっていう生活を強いられてしまうわけじゃないですか。
村木さんの著書の中で本当に強い方だなと思ったのが、そのご自身の好奇心に驚いたっていう。「拘置所の中はこんな風になってるんだ!」みたいなのを、わりと冷静に、好奇心を持ってその場をこう向き合ってたっていうのは本当に強い方だなと。

村山:
多くの人は周りのことなんて入ってこなくなっちゃうんじゃないかしらって。

和田:
なんで私が! って。

村木:
そうなんでしょうかね。あの、本当に1日目、生まれて初めて拘置所に連れて行かれて、就寝時間21時なので、21時過ぎてたんでもう真っ暗なんですよね。で、廊下を刑務官に引率されて歩いて、自分の部屋まで連れて行かれたんですけど、その時に頭の8割・9割は「どうしよう、逮捕された、拘置所に連れて来られた」って思ったんですけど。頭の1割、2割ぐらいで「ここってどんなとこなんだろう?」って思って。

村山:
すごい(笑)。

村木:
こう辺りを見回してる自分がいて、自分でやっぱりすごくびっくりしました。
人間ってこんなに好奇心が強い生き物だったのかと思って、すごくびっくりしました。でも本当にその好奇心が結構その後の生活を助けてくれた、楽しみを与えてくれた部分がたくさんありました。

村山:
本もたくさん読まれたそうですね。

村木:
他にすることがないんです(笑)。
7時半起床で21時就寝ぐらいかな。で、食事は全部作って運んできてくれるし、家事も一切しなくていいし、仕事もないし、あと全部自由時間なんですよ。でも外に行けないし、勝手にラジオ聞いたりテレビ見たりもできないので。結局できることって本当に本を読むことしかなくて。ですから一日中本を読んでて。たぶん一生の中で一番たくさん本を読んだ164日間でした。

村山:
でもその間もね、外ではご家族の皆さんが、弁護士どうしようとか、やきもきと、何をしてあげようとか思って。拘置所の中の時間とのその、中は“なぎ”というか、外は“荒海”みたいな感じですよね。

村木:
そうですね。

村山:
あと、お父様がとても強い言葉をくださったんですよね?

村木:
父からは電話がかかってきて。まだ逮捕される直前でマスコミで報道されて、もう大騒ぎになってる時だったので、電話をかけてきて「おいやったのか」って聞かれて、「やってない」って。「わかった、じゃあ徹底的に闘え」って。

和田:
まさに“知ってる”ですね。村木さんはやっていないっていうことを“知ってる”。

村山:
そうですね。うちの娘がするわけがないって。

村木:
でもまあやっぱりね、家族の方が私以上につらい日を過ごしたんじゃないですかね。私はあの本当に拘置所っていう、外からの情報とかが入らない、とっても静かな環境にいたわけですけど、その間に家族は弁護士さんといろんな相談をするとか。あと、私が経験せずに家族だけが経験したのが、家宅捜索。

村山:
ああ、同じ(笑)。

和田:
あ、村山さんのお家にも?

村山:
はい。そのときはどなたがいらしたんですか?

村木:
娘しかいなかったんですよ。で、娘が立ち会って。でも私の職場の仲間が聞きつけて立ち会ってくれたので。

和田:
娘さんはまだ高校生でいらしたんですよね?

村木:
そうなんです、高校3年生だったので。娘が家宅捜索に立ち会って、いろんなものを動かしたりすると、「元に戻しておいてくださいね!」って強気な(笑)もう対抗心むき出しだったんです。

村山:
強い強い、さすが!

和田:
いいぞいいぞ!

村山:
いや、でもこうして後からだから振り返って笑い話にもできるけど、当時は必死でしたでしょうね。

村木:
そうですね。

和田:
あと、なんかこう明確に「敵」じゃないですけど、誰々のせいでお母さんがこんな目にあってる、みたいなのが家族の中ではあるじゃないですか。私だったら本当にもう怒りで、無罪が確定したとしても許せない! みたいな気持ちになると思うんですけど、そこをどう乗り越えたというか、向き合われてきたのかっていうのもお伺いしたかったです。

村山:
なんであんなうその証言をしたんだとかね。

村木:
そうですね、私自身はなんかあんまりこう怒りっていうよりは、やっぱり彼らも公務員で自分も公務員だったので、なんていうのかな、怖さみたいなのはあったんですよね。真面目なはずの人たちが、なんでああいう間違った方向にいっちゃうのかとか、間違いを修正できないのかっていう、そういう意味ではすごくこうなんていうか、分析対象っていうか、観察対象みたいな部分があって。娘なんかの方はもっと素直に怒ってたみたいですね。

村山:
やはりでも密室で取り調べを受けて、向こうは勝手にストーリーを作ってきて、この調書にハンコ、ぼ印か何かを押せ! みたいなことを言うわけですよね。あれは本当に怖いですね。

村木:
怖いですよね。私も取り調べで一番最初に言われたセリフが「僕の仕事はあなたの供述を変えさせることです。」だったので。

村山:
信じられない…。もうだって結論ありきなわけですよね。

和田:
そんな人と話したくないですよね。

村木:
話したくないですよね(笑)。だからその時は、じゃあ真相解明は誰がやってくれるの? って思って、そこからどういうふうにして自分がやってないことを証明すればいいんだろう、っていうのを考え始めたっていう感じですよね。

和田:
まだまだお伺いしたいことはたくさんあるんですが、ここでいったん、村木さんにお選びいただいた曲をご紹介したいと思います。どんな曲ですか?

村木:
忌野清志郎さんの『Oh! RADIO』なんですけど、これ実は拘置所のラジオで聞いてた曲なんです。
お昼前後と夕方から就寝時間まで、たぶん編集されてるんですけど、ニュースとか歌番組とかプロ野球の中継とか、そういうのを編集して拘置所の中に流してくれるんですよ。で、歌番組とか結構流れてくる中で、清志郎さんの声にすっごい癒やされたんです。

♪ Oh! RADIO / 忌野清志郎

番組からのメッセージ

  •  ♪ 困難を乗り越えられたのは家族の支えが何より大きかったという村木さんですが、仕事と家庭の2本の“くい”があることで、どちらもぐらつかずに支えあって両立してこられたのではないかと感じているそうです。そして、仕事をする上でも普段の生活でも「背伸びをせずに率直であること」が重要だともおっしゃっていました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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23/11/20まで

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  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    11月のテ-マは引き続き「習いごと」です。収穫の秋になりました。自分や家族の「習いごと」の経験談や、こんな習いごとをしてみたい! というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2023/11/12 「眠れない貴女へ」

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