さまざまな要素に優先順位をつけながら、芝居の内容をグルーヴとともに伝える舞台手話通訳

23/11/13まで

眠れない貴女へ

放送日:2023/11/05

#インタビュー#舞台#演劇

舞台手話通訳家で脚本家の米内山陽子(よないやまようこ)さんに、舞台手話通訳とはどんな役割なのか、始めたきっかけ、そして字幕と手話通訳の違いやどのような要素をどんな風に伝えるとお芝居を楽しんでもらえるか、など興味深いお話を伺いました。

【出演者】
米内山:米内山陽子さん(ゲスト)
村山:村山由佳さん(ご案内)

米内山陽子さん

【米内山陽子さんのプロフィール】
1978年、広島県出身。14才のときに子役として演劇活動を開始。1999年に作・演出に転向し、2011年に自身で脚本を手がけた作品の公演で自ら舞台手話通訳を行ったところ、多くのろう者から大きな反響があり、次第に舞台手話通訳の機会も増え、現在では後進の育成も行っている。2012年にはユニット「チタキヨ」を立ち上げ、作・演出を担当。その他にも、舞台・テレビ・映画などの脚本、演出など幅広く活動中。

多くの情報の中から取捨選択して作品の本質を伝える舞台手話通訳とは

村山由佳さん

村山:
まず、舞台手話通訳とはどんなお仕事なのか伺いました。

米内山:
舞台手話通訳というのは、舞台作品、演劇、ミュージカル、ダンス・パフォーマンスなどの進行に合わせて、セリフや音の情報を手話で伝えるというお仕事です。舞台手話通訳って、パフォーマンスと捉えていただくことが多いんですけど、あくまでその作品のインフラというか、アクセシビリティの一部であって、作品を伝えるための装置としての側面もあると思うので、自分たちが主役じゃなくて作品が主役なんだっていうことの考え方はちゃんと持ってないと、どんどんやりすぎちゃう。

なので、やりすぎないこと、正確に伝えるというか、何が必要な情報かっていうことと、このお芝居とか、この作品の本当に一番大事なことは何だということを、すごく早めにつかむ。で、それを正確に伝えるということをやっています。

村山:
米内山さんがEテレの「ハートネットTV」に出ていらしたのを見たんですけれども、いやぁもう全身を使って表現されるんですね。舞台の演者は何人も何人もいますけれども、それを全部お一人で、手話で、手話と言っても手だけじゃないんですよね。身体中を使って通訳されている。
だけれども、見ればわかること、通訳しないでもわかることは、とにかく舞台の方を見てほしいので、自分はそれを言ってみれば引き算をして、何もしないでおくっていう風な、その取捨選択が見事だなというふうに拝見していました。

日本ではまだあまり浸透していない舞台手話通訳ですけれども、多くの場合は舞台の端っこの方に位置して行われますが、時には場面に応じて位置を変えて行われたり、舞台の上で役者と絡むこともあるので、どうしても視線を独占してしまいがちなのだそうです。

ですけれども、本来見てほしいのは作品それ自体なので、できるだけ翻訳通訳しなくていい場面はしない。多くの情報を伝えなければならない一方で、なるべく作品の本質を、その作品自体を見ることで感じてもらえるように様々な気遣いをしながら、伝えるべき情報を選りすぐっているそうです。

日本でも、耳が聞こえない人に舞台を楽しんでもらうために

村山:
日本で最初に舞台手話通訳が紹介されたのは1996年。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『夏の夜の夢』の来日公演の時だろうということなので、まだまだその歴史は浅いんですね。
米内山さんが舞台手話通訳という仕事をすることになったきっかけを伺いました。

米内山:
お芝居はずっと、14歳ぐらいからやっていたので、それと私は両親が耳が聞こえないので、手話はずっと生活に密着している言葉で。
まあ、それとこれはずっと別だと思っていたんですけど、2006~7年ぐらいに、イギリスの『グレイアイ』という障害のある当事者で作った劇団があって、そこの芸術監督のジェニー・シーレイさんという方を日本に呼んで、日本の障害のある俳優ない俳優、いろんな人と一緒にお芝居を作ろうという企画に、稽古場の手話通訳で呼ばれたんですよ。

その時に、稽古場で手話通訳していると、手話ができない俳優のセリフは、耳の聞こえない観客に伝わらないから、私も出演者として出て、手話ができない俳優のセリフは手話にするというような役割を仰せつかって。それを舞台手話通訳と言うのだと聞いて、じゃ、自分たちでもできるようになっていかないかな、というのが一番最初のきっかけですね。

村山:
こうして伺うと、手話のできない俳優のセリフが耳の聞こえないお客さんたちには伝わらないっていうと、なんかうまく今言葉にできるかどうかわかんないのですけれど。その耳が聞こえないということをマイナスに捉えてしまうことを、私たちいわゆる健常者はよくあるのかもしれないんですけれど、手話という言葉を持っていないことで、私たちが失っている世界というか、誰かとつながれないという、私たちの方がマイナスを抱えているっていうこともあるんだなっていうふうに思いながら、今のお話を聞きました。

舞台手話通訳で、字幕では表せない感情の動きやグルーヴなどを表現する

村山:
日本ではまだ浸透していなかった舞台手話通訳のついた舞台作品の上演を、米内山さんはここから積極的に開拓されて、ご自身が脚本を担当された作品で、自ら舞台手話通訳を付けたところ、ろう者の観客がいつもより多く来場し、大きな反響を得たのだそうです。
一方で、舞台芸術をろう者が鑑賞するときに、字幕でのサポートという方法もありますが、字幕と舞台手話通訳ではどのような違いがあるでしょうか?

米内山:
すごくわかりやすく言うと、外国の映画の吹き替えと字幕ぐらい違うんですね。外国の映画の吹き替えって、やっぱり声優さんが声を当てていて、お芝居に合ったトーンでセリフを話される。それが舞台手話通訳と多分近いこと。で、字幕は文字ですよね。聞こえる方は多分その言語の音のイントネーションとかで、感情とかの補完をしながら見ていらっしゃると思うんですけれど、字幕自体には感情とか、お芝居とかは載っていないので、そこが多分大きく違うところかなと思います。

舞台作品で何を見せるかというと、多分感情の動きだったり、そこのグルーヴだったりとか、字幕では表しきれない非言語の何かというものを表現で。たぶん観客は感じに来ているから、舞台手話通訳はできるだけそのいわゆるノリと言いますか、グルーヴみたいなことは外さないように、一緒に表現していくっていうことは大事にしたいなと思っています。

番組からのメッセージ

  •  ♪ 「聞こえないお客さんと聞こえるお客さんが、一緒のタイミングで反応して笑ったり、グッときたりしてくださっているのを感じたときが一番うれしかった」とおっしゃる米内山さん。舞台公演の客席にいろんな人たちが気軽に来られるようになって、いろんな色が混ざっているようなカラフルな舞台の世界を作っていきたい、と夢を語っておられました。
  •  ♪ この番組は、らじる★らじるの聴き逃しでお楽しみいただけます!
    放送後1週間お聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

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23/11/13まで

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23/11/13まで

  •  ♪ 番組では皆さんのおたよりをお待ちしています。
    11月のテ-マは引き続き「習いごと」です。収穫の秋になりました。自分や家族の「習いごと」の経験談や、こんな習いごとをしてみたい! というエピソ-ドをリクエスト曲とともにお寄せください。

眠れない貴女へ

NHK-FM 毎週日曜 午後11時30分

おたよりはこちらから


【放送】
2023/11/05 「眠れない貴女へ」

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