2024年本屋大賞・大賞受賞! 『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈著

24/05/13まで

著者からの手紙

放送日:2024/04/14

#著者インタビュー#読書#文学

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2024年本屋大賞大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』は、滋賀県大津市を舞台に、主人公の少女、成瀬あかりの奇想天外な奮闘を描いた青春小説です。著者の宮島未奈(みやじま・みな)さんにお話をうかがいます。(聞き手・田中逸人キャスター)

【出演者】
宮島:宮島未奈さん

戦国武将みたいな口調でいつも変な主人公

――宮島さん、2024年本屋大賞の大賞受賞、おめでとうございます。

宮島:
ありがとうございます。

――この本は宮島さんのデビュー作で、発刊は去年の3月です。それから作品の主人公・成瀬あかりのファンが増え続けて、ついに本屋大賞の大賞受賞となりました。宮島さんはこの本の成長ぶり、成瀬あかりの成長ぶりを、どのようにお感じになっているでしょうか。

宮島:
自分が書いた本なんですけれど、作者の手を離れていろいろな人に読んでいただいているので、自分は生みの親ではあるんですけれども、子どもが巣立っていくのと同じような感じでちょっと少し引いた目線で見ている部分もあります。そうやって多くの人に読んでいただき、本屋大賞の大賞という栄えある賞をいただきまして、とてもうれしく思っています。

――この作品は、滋賀県大津に暮らす成瀬あかりが、中学2年生から高校3年生になるまでを描いています。何といっても特別なのは、成瀬あかりの奇想天外なキャラクターです。「いつだって成瀬は変だ」と幼なじみの島崎みゆきは語っていますが、読者の誰もがとりこになる成瀬あかりは、どんなふうにしてできあがったんでしょうか。

宮島:
最初からこのようなキャラクターに固まっていたわけではなくて、こんなことをしたらおもしろいかなとか考えながら、書いていました。ですから特定のモデルがいるわけではないんですね。こういう女の子がいたらおもしろいかな、というような観点で書いていました。

――成瀬のキャラクターを語るうえで欠かせないのが、戦国武将のような話し方です。自己紹介で「いかにもわたしが成瀬あかりだ」とか、両親に対しては「いってきます」ではなくて「それではいってくる」だったり、警察官に対しては「よろしく頼む」といった感じです。成瀬はかわいい少女ですが、キャラクターを楽しむうえではこの口調もまた重要ですよね。

宮島:
そうですね。小説技法的に、ちょっと変わった話し方の人がいると、地の文で「○○が言った」と書かなくていいということはあるので、ちょっと個性的な話し方にすると読者に伝わりやすいというのがあるんです。

だとしたら、別に戦国武将のような話し方でなくてもよかったわけです。でもどうしてそういう話し方になったかと言えば、書きながら、成瀬の声が浮かんでくるんです。成瀬の声が聞こえることがあって、その聞こえた声がこういうしゃべり方だったので、そういうふうにキャラクターを決めました。成瀬あかりという人物は、たぶん私の中で生きているんだろうなと思っています。でも日頃から成瀬の行動に気を配っていると日常生活が大変なので(笑)、小説を書くときに、成瀬が何をしているかに意識を向けるという感じです。

――成瀬はいつ頃からいたんですか?

宮島:
それはわからないですねぇ(笑)。

巻き込まれて変わっていく周囲の人の物語

――成瀬の行動で印象深いのは、夏休みにプロ野球・西武ライオンズのユニフォームを着て、閉店を目前にしたデパート、西武大津店に通いつめて、滋賀県のローカル番組が西武大津店から毎日放送している中継に毎回映り込むという企てです。この行動は成瀬の何を表しているとお考えでしょうか。

宮島:
成瀬は何かにチャレンジすることをとてもよしとしている人物で、どんなに小さいことであっても全力でチャレンジするのが成瀬のモットーなんです。「映り込み」というのもその行動なんですけれど、特にこのときは2020年のコロナ禍で他にやることがなかったというのは、作中でも言っているんです。部活動が中止になったり学校行事が中止になっていた時期なので、その中でもできるのがローカル中継の映り込みだと思って、成瀬はローカル中継の映り込みにチャレンジしたということだと思います。

――このあと、成瀬は島崎みゆきとお笑いコンビを結成して、漫才コンテストのM-1に出場します。さらに、けん玉でチャンピオンになり、高校生になったのを機に丸刈りにして、かるたに没頭し、大津の夏祭りで総合司会をつとめるなど、快進撃を続けます。ただ宮島さんは、この作品は成瀬の周囲で成瀬に影響を受けていく人たちの物語だ、とおっしゃっています。このあたりについてお話しいただけるでしょうか。

宮島:
私は漫画の『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』が好きなんですけれど、「こち亀」も、両津勘吉という主人公に巻き込まれていく人のお話なんですよね。両津1人では、実はそんなに話が動かないのではないかと私は思っていて、両津に巻き込まれる中川とか麗子とか部長とか本田とかがいて、はじめて「こち亀」という世界が生み出されていると思うんです。それと一緒で、成瀬という主人公がいて、それに巻き込まれていく世界を書いた話ではないかなと私は思っています。成瀬は変わらないんですけど、成瀬に影響を受けていく人がいる。成瀬がちょっと変わった人物なので、それに触れることによって新しい価値観に気づくという話なのかなと思っています。

――実際、章ごとに語り手となる人物が変わっていきますよね。

宮島:
そうですね。島崎は成瀬をすごく肯定的に捉えているんですけれど、島崎以外にも、小学校から高校まで一緒の同級生である大貫かえでや、広島からかるた大会のために来た西浦航一郎がいます。例えば大貫かえでは成瀬のことがあまり好きではなかったり、西浦に関しては成瀬のことが好きだったりという、そういう立場の違いがあるわけです。立場の違う人間から成瀬を見ることで、成瀬という人物がより輝くのではないかなという感じで書いています。

大津に行けばそこで本物の成瀬に会えそう

――この物語で重要なのは、滋賀県大津市に地域密着をしているということです。成瀬の“大津愛”には並々ならぬものがありますが、宮島さんは、滋賀県大津市とこの作品はどんな関係にあるとお考えでしょうか。

宮島:
なぜ大津市を題材にしたかと言えば、私が住んでいたからというのが一番の理由です。大津にしかないもの、ミシガンクルーズもそうですし、近江神宮とかそういう地名も出てきますけれども、そういうようなことで成瀬と大津が深く結びついたお話になっているとは思います。成瀬の目には、たぶん大津に住んでいる人にはわからないような大津が映っていると思うんです。それを含めて、例えば大津に住んでいる人には、大津はこんなにいいところなんだと思ってもらえる効果もあると思いますし、全国各地で読んでくださっている方からは大津に行ってみたいという声をよくいただくので、成瀬が大津をPRしていることは間違いないと思います。

――読むとやけに大津に詳しくなっちゃいますよね。

宮島:
そうですね(笑)。「膳所(ぜぜ)」という駅があって難読地名なので読めない方が結構多いんですけれど、膳所に住んでいる方が、成瀬のおかげで膳所が有名になったと喜んでくださっているので、本当にそれは私としても意外な効果だったなと思いますね。

――宮島さんは今、成瀬と島崎が組んだ漫才コンビ「ゼゼカラ」のユニフォームを着ていらっしゃるんですけれども、実在する地名であったりお店であったり、そういうのと物語が密接にリンクしていく。その不思議な感覚がおもしろいですよね。

宮島:
ゼゼカラというコンビ名は作中で島崎が思いつきでぱっと言うんですけど、実際にこれは私が思いつきで付けた名前なんです。ですからSNSなんかでゼゼカラの名前を出してくださっている方がいて、ゼゼカラが本当にいるかのような感じになっているのがとても興味深いなと思って見ています。

――大津に行ったら、本当に成瀬がいるんじゃないかという錯覚にも陥りますよね。

宮島:
そうですね。

――この成瀬あかりが引っ張る物語はシリーズ化されまして、すでに2冊目が出ています。2冊目では大学生になった成瀬が、小学生の弟子と地域のパトロールをし、びわ湖大津観光大使になって、アルバイト先のクレーマーを味方につけ、万引き犯を撃退します。周囲をだんだん幸せにし始めているな、とも感じますが、今後はどんな天下取り、どんな活躍を見せてくれるでしょうか。

宮島:
成瀬の行動の根底には、世のため人のためになることをするという意識がもちろんあると思うんですね。ですけれど、天下取りと言っても敵に攻め入るというようなことはなくて、自分のできる範囲で、自分のできる場所から、本当に少しずつやっていくというようなことではないかなと思います。2冊目のタイトルは、『成瀬は信じた道をいく』なんですけれど、その道も、一歩一歩、着実に歩んでいくのではないかなと思っています。

――200歳まで生きるために、毎日ちゃんと歯磨きをしているんですよね。

宮島:
そうなんですよね。そういう身近なことからコツコツやっていくタイプの人間なので、これからも成瀬はそうやって生きていくのではないかなという想像が膨らみます。

――『成瀬は天下を取りにいく』の著者、宮島未奈さんでした。宮島さん、どうもありがとうございました。

宮島:
ありがとうございました。


【放送】
2024/04/14 「マイあさ!」

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