『パラサイト難婚社会』山田昌弘著

24/05/06まで

著者からの手紙

放送日:2024/04/07

#著者インタビュー#読書#ライフスタイル#家族

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『パラサイト難婚社会』は、家族社会学の分野で研究を続けてきた山田昌弘(やまだ・まさひろ)さんが、結婚が難しくなった“難婚社会”の今、更新すべき結婚観について提案する社会論です。山田さんにお話をうかがいます。(聞き手・田中逸人キャスター)

【出演者】
山田:山田昌弘さん

結婚の定義をアップデートする必要

――山田さんは冒頭で、結婚の定義をアップデートすることが必要だと指摘されています。その理由が、作品のタイトルにある「難婚」、結婚するのが難しいという現状を受けてということになるでしょうか。

山田:
そうですね。私は大学の先生ですので授業をするんですけれども、授業の冒頭で言うのは、昔はというか、今の80歳とか90歳の人は97~98%が結婚をして、離婚する人は1割くらいしかいなかった。だけど今の若い人、40歳以下の人は、25%は一生結婚をしない。そして結婚した3組に1組が離婚しますので、25%の人が1回は離婚する。つまり、結婚をして離婚しないで老後を迎える人は2人に1人しかいないんだよ、というふうに言っています。そういう現状の中で結婚を考えなければいけないということで、この本を書いたんです。

――時代の変化に合わせて、結婚観もアップデートしなければいけないと?

山田:
今の時代に合った結婚のあり方というものがあるはずだ、という思いで書きました。

――山田さんの基本的なスタンスを確認したいのですが、結婚しなきゃいけないとか、結婚を推奨しているわけではないですね。

山田:
私は社会学の研究者ですので、「○○するべき」とか、そういうふうに言える立場ではないと思っているんです。『「婚活」時代』という本を白河桃子さんと書いたときに、結婚するんだったら婚活をしないとできない時代になった、とは書いたんです。かつ、結婚したら幸せになるというわけじゃないよ、別に結婚しなくても幸せになる人はいっぱいいるよ、とも書いたんだけれども、「婚活」という言葉を作ったんだから結婚を推奨しているんだろうと、世間では思われてしまうかもしれません。

でもそれはもちろん個人の自由ですから、したくない人に無理にさせることはそもそもできないですね。結婚したいんだけれども、社会的な条件があって結婚できない状況になっているんだったら、そういう社会的条件を整えるような環境を作れば、結婚をしたいんだけれどもできないというのを避けられるんじゃないか。そういうふうに思っています。

意外に多い若者の保守的結婚観

――山田さんは、結婚することが難しい状況をいろいろな角度からつぶさに調査されていますが、結婚に対する社会の認識と現状とのギャップについて、若者が驚くほど保守的だと解説されています。結婚したら女性は仕事を辞めて子どもを産んで……といった昭和的な結婚観を持っているのは、意外にも若者たちなんですね。

山田:
学生たちにアンケートをとってみると、自分はまず結婚できるのが当たり前、結婚したら離婚しないのが当たり前で、男性にしてみれば、やっぱり家事は女性がやってくれるんじゃないかなとか、女性だったら、結婚後の生活は男性に稼いでもらうのが普通だろうというふうな結婚観が、まだまだ強く残っています。40歳になったときにどういう家族生活が理想ですか、という問いには、海のそばに家を建てて、朝、夫婦と子どもと犬と一緒に散歩するような生活が理想だ、みたいな人もいて(笑)、「なんだこれは! なんで海岸?」というような回答も出てきましたね。

――そうしたイメージが、結婚を難しくさせている?

山田:
そうですね。今の若者の親はわりとそういう伝統的な結婚生活をしていて、それで子どもを育ててきたというのがあるわけです。親の世代がこうした伝統的な結婚でうまくいっていたんだから、最低限そういう生活はできるだろうし、そういうのがいいと信じていますよね。

親子密着型同居も未婚の理由に?

――本の中盤には「未婚」についての言及があります。50歳までに一度も結婚していない生涯未婚率が上がり続けている理由を、山田さんは、日本特有の親子密着型同居スタイルにあると分析しています。このあたりについて解説をお願いします。

山田:
私が「パラサイト・シングル」という言葉を使った本を出してから25年以上たつんですけれども、成人したのちも親と同居している未婚者は6~7割くらいに及んでいるんです。それで結婚して生活が苦しくなるのは、やっぱり嫌じゃないですか。結婚して親と同居している以上の生活を送るとなったら、ハードルがすごく高くなるわけですよね。かつ、親と同居していると、いい人と出会うまで待てるんです。それでなかなか結婚に踏み切れなくなる人が増えて、そしてどんどん年をとってきたので、親と同居したまま生活をし続けている人たちが中年に達し始めているというのが現状なんですよね。

――大事なのは、未婚で親と同居している人たちが望んでそうしているわけではないという点ですよね。

山田:
さっきの話と結び付くんですけれども、理想的な結婚ができないんだったら、親と同居しているほうがいい。理想的じゃない結婚をするくらいだったら、親と同居したままのほうがいい。そういう状況が、今広がっていると思います。でもその結果、パートナーがいない人が中年でどんどん増え始めていますね。

選択肢のすり合わせが苦手で面倒

――山田さんは本の中で「個人化」というキーワードを繰り返し登場させています。現在はこの個人化が、結婚を難しくしているという面もあるのでしょうか。

山田:
個人化というのは個人主義化とよく誤解されるんですけれども、わがままになったとか、そういうことではないんです。個人化というのは、選択肢が増えたということなんです。つまり、結婚する・しないという選択はどちらでもいいし、結婚したら夫が稼ぐのか妻が稼ぐのか共働きをするのかというのも、選択肢がありますよね。

1人の選択肢だったらまだいいんですけれども、パートナーを選んで新しい生活をするということは、お互いに選択肢を持っているなかで選択肢をすり合わせなければならないんです。昔みたいにデフォルトとして、結婚したら男は仕事で女は家事で仕事を辞めるのが当然だろうということで選択肢がなかった時代には、しょうがないかなということで結婚するんですけれども、今は結婚したら、共働きをするのか夫が稼ぐのか妻が稼ぐのか、それを全部すり合わせなければいけないわけです。

選択肢がたくさんあるなかですり合わせるというのが、日本人は苦手なんじゃないかなと私は思っていますね。今の若者は、とにかく「面倒」って言いますよね。コスパとかタイパというのをすごく重視しますから、そういうのをすり合わせていくなかで、なかなか結婚までたどりつかない人たちが増えている気がします。

経済的生産性で測ることを放棄せよ

――ではその「難婚」の時代に、結婚のイメージをどうアップデートさせればいいのでしょうか。山田さんは巻末で、そろそろ結婚や家族を経済的生産性で測ることを放棄すべきだと指摘されていますね。

山田:
結局、2人の間のお金の関係のすり合わせとか、どっちが得をしている、どっちが損をするということで結婚を考える人が増えたから、結婚が少なくなっていると思います。お互いを必要としてお互いを思いやるような関係を作るためには、経済的なものは少し脇に置いて考えるほうが、幸せが増えるんじゃないかなと思っている次第です。

――私は結婚して15年くらいですが、自分の結婚生活、そもそもなんで結婚したのかなとか、いろいろ考え直す機会になったなと思うんです。

山田:
ありがとうございます。若い人だけではなくて結婚生活を続けていらっしゃる方にも、読んでもらいたい本だと私は思っています。

――『パラサイト難婚社会』の著者、山田昌弘さんにうかがいました。山田さん、ありがとうございました。

山田:
ありがとうございました。


【放送】
2024/04/07 「マイあさ!」

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