森永卓郎著『ザイム真理教』

24/02/12まで

著者からの手紙

放送日:2024/01/14

#著者インタビュー#読書

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『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』は、国の会計について税収の範囲内で支出するという財政均衡主義の問題点を指摘した森永卓郎さんが、日本経済を好転させる方法を提案した経済解説です。森永さんにお話を伺います。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
森永:森永卓郎さん

財政均衡主義を守り続ける財務省

――森永さんは、この本で展開される自身の主張に賛同が少ないことを嘆いていますが、この本は発売から版を重ねて、現在、ベストセラーになっています。どんな手応えをお感じですか。

森永:
あの……ただですね、アンケートを見ると7割くらいの国民が、「日本は借金で首が回らなくなって財政赤字が大変だ」という財務省の主張を理解しているというか賛同しているので、それに疑いを持っている人は2〜3割しかいない、というのが現実だと思います。

――私も、財務省が言っている「収入と支出はバランスしたほうがいい」という考え方は、「そうだよね」とずっと思っていました。

森永:
それは、家計だとか企業経営ではそうなんですけれども、国の場合は全く違うということなんです。

――ここまでラジオをお聞きになった皆さん、「そんなことはないだろう」と思っているかもしれません。ここから具体的に、この本の内容を伺っていきますが、森永さんの訴えは、「財政均衡主義は間違っている」です。「税収の範囲内で財政支出をしなければならないという政策は、大きな弊害をもたらす」というふうに書いていますね。どんな弊害があるんですか。

森永:
これはマクロ経済学の基本中の基本で、どの教科書にも書いてあるんですけれども、例えば不況で需要が足りない・お金を使ってもらえない、でも生産設備は十分にある・供給力はあるというときに、需要を刺激してあげる・政府が国債を発行して消費を増やす、あるいは投資を増やすということをやらないと、景気がどんどん落ち込んでいってしまいます。だから経済の状況がよくないとき、特にデフレのようなときは、借金を増やしてでも需要を増やしてやれば、そこから経済が立ち直っていく、と。

世界恐慌のときに、アメリカで実験が行われて大きな効果を発揮しているわけですね。今、世界中でそれは常識になっているにもかかわらず、日本の財務省はかたくなに財政均衡主義というものを守ろうとするんです。その結果、国民生活が今、非常に厳しい状況になってしまっているということが、現実として起きていると思います。

――そうすると、入ってくるお金を超えてお金を使ってもいい、ということになると思いますが、これだと1,000兆円を超える借金が返せないとも思うんです。でも、借金は増やしていいんでしょうか。

森永:
国の場合は、国債を発行して歳出をするというのが出来るんです。自国通貨で国債を発行している場合は、例えば国債が暴落をしようとしたとします。そうしたら中央銀行、日本でいえば日銀が全部買っちゃえば、暴落なんかしようがないわけですね。日本も実は太平洋戦争のときに、戦費としてとんでもない量の国債を発行したんです。でも、デフォルトしていないですよ。

――ええ。

森永:
例えば2020年度は、コロナで大変な事態が起きましたよね。80兆円も赤字を出したわけです。でも、国債が暴落しましたか、ハイパーインフレがきましたかというと、何も起こらなかったんです。私の感覚で言うと、1年間に100兆円くらいずつ永久に赤字を出し続けても、恐らく大丈夫。

――ええっ!?

森永:
そうなんです。イメージとして言えば、「返せません」という前にお金を刷って、刷ったお金で返しちゃえばいいだけの話ですから、国際的な信用を失墜させるデフォルト、債務不履行というのは、起きようがないという構造になっているんです。

資産や通貨発行益を活用せよ

――一方で、総額がGDPの倍以上という国の借金の額は本当に気になります。ただ森永さんは、「そもそも日本はそんなに大きな借金を抱えているわけではない。日本政府は世界でも類を見ないような大きな資産を持っている」と指摘しています。つまり今の借金を返せる余力がある、ということなんでしょうか。

森永:
そうです。日本政府直接ではなくて間接部門、例えば国立大学とか国立病院は、登記上、民間扱いになっているんですが、あれはどう見ても国立なんですね。それを含めて連結ベースで見ると、ざっくり言うと1,600兆円の借金があるんです。ただその一方で、1,100兆円の資産を持っているんです、日本政府は。ということは、実質的な借金は500兆円くらいしかないんですね。

――でも、その資産は売れるんですか。

森永:
全部売れます。私、1つ1つ全部チェックしたんですけれども、売れないのは国際機関への出資金などごくわずかで、ほぼ全部売れます。例えば、日本の高速道路は株式会社になっているんです。政府が株式を持っているんだから、すぐ売ればいいんです。イタリアはEUに加盟するときに、借金を減らせと言われて高速道路を民営化して株式を放出してそれで借金を返したんですけれども、何も困らない。例えば国鉄を民営化してJRになって、何か困りましたか? むしろ、トイレはきれいになったしサービスもよくなったと私は思いますけどね。

――さらに森永さんは、「自国通貨を持っている国は、財政均衡に縛られなくていい。財政赤字は、ある程度拡大させ続けて大丈夫」というふうに指摘しています。この本に繰り返し登場する「通貨発行益」というキーワードを使って、解説をお願いしてもよろしいですか。

森永:
通貨を発行すると、政府にお金が転がり込んでくるんです。イメージとしてわかりやすいのは、「1万円札」というのは単なる紙切れなわけです。あれは原価が1枚20円くらいですけれども、そこに日本銀行券と書いてはんこを押すだけで、1万円で通用するようになるわけです。原価20円が1万円に“化け”て、9,980円は政府のものになる。紙切れがお金に“化ける”というのが、通貨発行益です。だから権力を持っている人が、紙切れをお金に出来るわけです。今は直接引き受けは法律上禁止されているんですけれども、いったんマーケットを経由して日銀が国債を買えば、その瞬間にお金が無から生み出されるというしくみになっているわけです。

――なるほど。でもそれが、財政均衡に縛られなくていい理由になるんですか。

森永:
これを今、政府が500兆円くらい持っているので、純粋な借金の500兆とこの通貨発行益をぶつけると、借金がゼロになる。つまり、借金を1円も抱えていない国が、財政均衡に縛られる必要なんか全然ないわけですよね。

ハイパーインフレはまず起きない

――ただ森永さんは、「通貨発行益を得るために貨幣を乱発するとハイパーインフレが起きる」とも指摘しています。これはどう考えればいいですか。

森永:
ハイパーインフレが起きるのは、ものすごい財政赤字を出してとんでもない借金を抱えればもちろん起こるんですけれども……

――「ハイパーインフレ」というのは、物価が極端に上昇して通貨の価値が下がってしまうことですよね。

森永:
そうです。インフレ率が1,000%とか2,000%とかいうのがハイパーインフレですけれども、日本は過去に1度も起こしたことがないんです。例えば2020年度に80兆円の赤字を出しましたが、全く物価は上がらなかったんです。ですから今までの、「ハイパーインフレを恐れないといけない」というのが真っ赤なウソだというのは世界が見ていて、経済学自体が大きく変貌したんです。

――ハイパーインフレは起きない、ということですか。

森永:
起きないです。例えば1年間に、1,000兆円赤字を出したら起きるかもしれない。でも100兆円ぐらいだったらびくともしないと思います。

好転の秘策は個々のクリエイティブ

――森永さんが、日本経済を好転させるために経済対策を打つとしたら、どこから始めますか。

森永:
消費税を即時全廃するのが、第一弾。その次に、1人当たり月額7万円のベーシックインカムを給付します。「そんなことしたら勤労意欲がなくなるぞ」と言う人もいるんですけど、これはもう世界で社会実験が行われていて、勤労意欲への影響は全くないというのがこれまでの実績でわかっているんです。何が変わるかというと、みんなが好きな仕事をできるようになる。そうすると、みんながクリエイティブになるんですよ。これからの知的創造社会の中で、日本の経済成長がより力強くなっていくと思います。

――『ザイム真理教』の著者、森永卓郎さんにお話を伺いました。森永さん、ありがとうございました。

森永:
ありがとうございました。


【放送】
2024/01/14 「マイあさ!」

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