『コモンの「自治」論』 斎藤幸平・藤原辰史ほか著

24/02/06まで

著者からの手紙

放送日:2024/01/07

#著者インタビュー#読書

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『コモンの「自治」論』は、7人の有識者が、戦争など分断の温床となっている資本主義を克服するために実践すべき、『コモンの自治』の必要性を解説した社会論です。共著者の藤原辰史(ふじはら・たつし)さんにうかがいます。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
藤原:藤原辰史さん

現代の諸問題を乗り越えるのに必要なもの

――この本のタイトルにある『コモンの「自治」』、ですが、これがなぜ今必要なのか、教えていただけますか。

藤原:
はい、その前にやはり「コモン」というカタカナの3つの文字と、「自治」という漢字2文字が、いったいどういう意味なのかということを説明したほうがいいと思いますので、まずそこからお話を進めていきたいと思います。

「コモン」というのは、「みんなの、共有しているもの」という意味でして、たとえば太陽光とか、空気とか、水とか、大地とか、川とか海とか、そこから生まれてくる食べものとか、本来なら私たちが平等に享受できるはずのものですね。

それから「自治」というのは「自分で治める」という、政治の「治」という字を書くんですけども、これはまさに地方自治体とかよくそういう言葉で私たちは使うんですが、そっち側というよりはむしろ、誰かにお任せしたり、何も考えないでそれに従っていったりするのではなくて、「自分たちのことを、自分たちで考え、自分たちで進めていく、運営していく」ということを「自治」と考えていただければ大丈夫かなと思うんですね。

で、その「コモン」の「自治」、つまり“みんなの共有物”を通じて、“自分たちで自分たちのことを運営していく”ということが、どうして今考えなくてはならないのかといいますと、これにはいま私たちが直面している問題ですね、戦争とか環境破壊とか経済格差のようなさまざまな問題が起こっているんですけども、その問題をとりあえずこの本では、「資本主義」というものがその原因になっているのではないかという前提でお話をしていまして、それを乗り越えるものがやはり「コモンの自治」だということなんですね。

じゃあ「資本主義」ってなにかということなんですけど、簡単に言ってしまえば、私たちの生きているときに必要なものとか、私たちの関係性とか、私たちの机の上にあるものとか、あらゆるものがどんどんどんどん「商品」になっていて、その商品をどんどんどんどん作っては捨て、作っては捨てしながら富が蓄積されていく、そういう風な社会を「資本主義社会」と呼んでいいと思うんですけども、そういうふうなものが本来私たちが共有すべきさまざまな自然とかエネルギーとか、あるいは教育とか医療も含めていいと思いますけれども、どんどんどんどん商品化していく。

それが私たちのとりわけ環境問題とか経済格差の問題と深くかかわっているものなので、もう一度私たちが「商品」になってきているものを「コモン」に取り戻すことがすごく問われているんですね。やっぱり環境にしても政治の問題にしても、誰か偉い人がやってくれているっていうふうな感覚がすごく広がっていて、お任せすぎじゃないだろうか、それがこの本のひとつのメッセージだと思っています。

資本主義を体現する「食」と「農」

――藤原さんは「食」と「農業」にまつわる「歴史と思想」の専門家でいらっしゃいますけれども、その藤原さんが「コモンの自治」を実践するためにどんな道筋を描いたのかうかがいます。まず「食」や「農業」がどんなふうに「コモンの自治」につながるのか、このあたり解説をお願いしてもいいですか。

藤原:
はい、わかりました。
「食」と「農」というのはこの「共有物」とすごく関わりがあります。
食べ物というのは地球上に存在しているさまざまな物質ですね、水とか炭水化物とか、いろいろなものがグルグルグルグル回っている中で、たまたま私たちの目の前に現れた、いわば“共有物の結晶”のようなものですし、農業というのも、植物、あるいは種というみんなが本来ならば共有して大事にして守っていくべきものを利用することを「農業」あるいは「農」と呼んできてますけども、そういうことを考えるならば、「食」と「農」というものは、本当にまさにここで取り上げたいと思っている「共有」とか「コモン」ということと深くかかわっているんですね。

ところがその「食」や「農」というものが企業の所有物になって、腐らせないようにプラスチックのパッケージとかで包んでですね、それを無理やり商品のような形にして売って、そして余ってしまったら、賞味期限切れたら、はいもう捨てます、という感じで回っているものですから、たくさんのゴミが捨てられダイオキシンが発生している現在を考えるならば、私たちが生きていくうえで欠かせない「食」と「農」というものこそ、資本主義化の最前線であると思うので、そういう意味で私はこの「食」と「農」というテーマをしっかり考えていこうと思いました。

食べることから民主主義を考える

――「コモンの自治」を深く考える試みとして、藤原さんはある試みをされているんですけれども、「食堂付属大学」、これはどんな試みなんですか?

藤原:
まだ道半ばなんですけども、自分たちで自分たちのことをやっていくっていうことを考えるときに、やっぱり食べ物って大事だと思いまして、私は京都大学に勤めているんですけれども、学問の中心にあるのは、実は食べることではないかと思ってですね。食堂は大学に付属するものではなくて、食堂にこそ大学が付属すべきじゃないかというちょっと過激な考えをもってですね、それを実践してみようと思って大学の外に出まして、まずみんなでご飯を持ち寄って食べて、その食べた後にみんなが議論をしたり、あるいは大学で学んだり大学で研究したりしていることをみんなと共有しあったりというふうに、順序を変えてまず「食べるという行為」を中心にした“おまけ”として学問があるというふうに考えて、それを実践してやっているという、そういうふうな試みなんです。

京都のお隣の滋賀県で環境や保育をめぐる運動を試みている人たちがいて、そういった人たちと一緒に食卓で交わされるような言葉を土台にしながら、政治とは何だろうかとか、あるいは自治とは何だろうかということを考えていく。で、お子さんを育てている方たちも多いので、子どもたちがお隣で遊んでいたり、それから楽器を弾ける人たちがいたりするので、歌を披露してくれたりですね。「ご飯を通じてさまざまな芸術活動や文化活動が、ピュッとひとつにまとまっていく」ような、そういうふうな大学、集まりのことなんですね。

それはやっぱり、いま大学がどんどんどんどんと国の意図に沿って変えられていくというふうな現状があるわけですけれども、もっと私たちの生活に根ざしてやりたいことができるような大学のありかたというのを、こういう小さな場所でもできるんじゃないか、そういうことをみんなでゆったりと考えながらやっている、そういう集まりです。

――そこに参加されている方がどういうふうに考え方を変えていくのかについて伺いたいのですが、藤原さんはこうした「コモンの自治」の実践の先には、どんなことがあるとお考えですか。

藤原:
はい、ご飯を食べた後みんなで輪になって、たとえば原発についてとか戦争についてとか議論するんですけれども、女性たちが多いんですが、話をするときにみんなが「ふんふん」と聞いてくれるだけで涙をこぼされる方が結構多いんですよね。これはおそらく、すごく心配だと思っている女性たちが初めて自分たちの考えをストレートに吐露して、みんながちゃんと聞いてくれて、しかもそれが議論になっている場所に出会うことによって、「あ、もっと自分の思っていることを口に出していいんだ」ということを気づき始めるということが大きな変化かなと思います。

――そのみんなが大切にしなければいけないことを、みんなでどう守っていくかということを議論していく、これが「自治」で、それが生まれる場になっている、ということですね。

藤原:
そういうことですね。

――今のお話をうかがっていて頭の中にイメージできた小さな例かもしれませんけども、たとえば食べているご飯が本当においしいご飯だったと。それを作るためにどうやったら安心安全なお米を守れるか自分で行動してみようと考える、こういう順番で物事を考えられるようになる、ってことですよね?

藤原:
まったくそうですね。
「食堂付属大学」だとできるだけこのおいしいご飯をみんなと食べられるようになっていったらいいなと思うわけですから、たとえば農薬をできるだけ使わないで琵琶湖に負担がかからないようにしようとか、化学肥料をあんまり使わないで土壌に負担がかからないようにしようとか、そういうふうなことをみんなで話しあいはじめるわけですね。
そうしてくると、じゃあどういうふうにして、たとえばオーガニック有機農業を推進していくかということを考え始める。ですからすごく自分たちの生活実感に根ざした農政の課題っていうのが浮かび上がっていき、そこに農政を実際にやっている方を巻き込んでいくという。

おっしゃった通りで順番が変わってくる、「上から降ってくる」んじゃなくて、「下からわき起こってくる」という順番になってくるというのがおもしろいと思います。で、それはまさに「おまかせ民主主義」という公表して終わりというのではなくて、自分たちのなかに政治を取り戻していくような「コモンの自治の始まり」というふうに私は考えています。

――『コモンの「自治」論』の共著者、藤原辰史さんにお話しを伺いました。藤原さん、ありがとうございました。

藤原:
どうもありがとうございました。


【放送】
2024/01/07 「マイあさ!」

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