『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』大西広著

23/12/04まで

著者からの手紙

放送日:2023/11/05

#著者インタビュー#読書#経済

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『「人口ゼロ」の資本論』は、マルクス経済学の専門家である大西広さんが、少子化、人口減の原因は資本主義にあるとして、その解決の道筋を示した政策論です。大西さんにお話をうかがいます。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
大西:大西広さん

このままでは日本の人口がゼロになる

――この本はタイトルに「人口ゼロ」とありますが、「このままでいくと日本は人口がゼロになる」という指摘が何度も出てきます。その理由を解説していただけますか。

大西:
2023年1月1日の時点で日本の人口は1億2,242万人余りなんですけれども、すでに昨年より80万人減っているんです。減少は14年連続で、減少数・減少率とも、統計開始以来最大値です。2022年の日本の合計特殊出生率は1.26で、これも過去最低で7年も続けて前年を下回っています。したがってこれを続けていく限り、いずれゼロになると。

例えばこういう計算があるんです。今世紀末に6,000万人になるだろうといわれているんですけれど、それを100年延長すると2,800万人、さらに100年延長すると1,300万人、さらに100年延長すると600万人になるんです。ですので、合計特殊出生率で計算して2.07はないと、人口を維持することはできないんです。合計特殊出生率が2.07まで戻るという構想ができない限り、日本民族はそのうち死に絶えるという話です。

――そこのところに注目してこれからは考えていかなければいけないというのが、この本ですね。

大西:
はい、そうです。

資本主義でヒトは搾取の対象になった

――大西さんは、専門のマルクス経済学の視点から日本の人口減を論じています。人口問題を考えるのにどんなかたちでマルクスが役に立つのか、端的にお答えいただけますか。

大西:
マルクス経済学ですから、貧困の問題・格差の問題が最も重要な研究テーマです。それが現実に人口減の主要な原因になっている。ここなんです、ポイントは。貧困というのは、やっぱり資本主義が生んでいるわけです。マルクスの『資本論』は、まさにそのことを解明したわけです。ですので人口減を考える際には、やはり資本主義の不都合から始めなければならないわけで、その意味でマルクスは大変大事だと思います。

例えば、ことしノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディンさんという女性がいるんですけれど、ある種この専門だといいながら、韓国の若者から激しい批判を受けているんです。なぜなら韓国の若者から見ると、「俺たちがどれぐらい苦しい生活をしているか、マンション代にどれくらい苦労しているか、それが全然わかっていない。結婚できない若者の実態を全くわかっていない」と。こういう問題に最も焦点を当てるのが、マルクス経済学であるという理解なんです。

――お話にあったように、現在の人口減・少子化は、資本主義が引き起こしているということがこの本のテーマです。では、どんなかたちで資本主義が少子化の後押しをしているのか。大西さんはさまざまな事例を挙げて述べていらっしゃいますが、まず資本主義が用意する「ヒトの軽視」が、少子化を加速させているという指摘があります。これはどう理解すればいいでしょうか。

大西:
今までなんだかんだいっても、人口なんていうものはどこかから湧いて出るものだという考えがあったと思うんです。そういう意味で、はっきり言って資本主義は人口の再生産の問題に関心がなかったんです。したがってヒトというものは、そういう意味で重要なものとはされていませんでした。産業革命によって、機械というのが非常に大事になる社会がやってきたんです。大事なのは資本=機械。機械にどう資金を回すかということで社会システムが整えられて、ずっとそうやってきたんです。そうすると人間のほうは大事ではない。ところが、ヒトを産み育てるのはヒトですよね。それが、搾取の対象としてしか見なされなくなって、人口減を加速させているわけです。そこがやっぱり根本的な問題だと思いますね。

貧困自体の解消、その真剣さを問う

――こうしたかたちで起きている人口減は、今、打たれているような少子化対策では止められないとも指摘しています。日本の少子化対策にはどんな問題点があるとお考えですか。

大西:
ヨーロッパの政策と比べて、まず日本の少子化対策の規模は非常に小さいんです。これももちろん問題なんですけれど、私が特に強調したいのは、貧困の問題をちゃんと考えられているのかということなんです。例えば、最近ジェンダー差別の解消とかがあって大卒女子の出生率は上がっているんです。これは上がっているんだけれども、全体は下がっている。どういうことかというと、結婚できない層や子どもができない層が増えているということです。つまり貧困者が増しているわけです。この問題にちゃんと向き合えなければ、人口減というものは解消できない。貧困自体の解消が課題なんです。少子化対策といって全国民から平均して税金を取ると、消費税とかで貧困の人も払うわけでしょう? そうすると彼らはよけい貧困になるわけで、それでは全然少子化対策にならないというふうに思うんです。

――大西さんはこの本の巻末で、グーグルの勤務形態にも触れています。「経済よりもヒトが大事」とする事例がたくさん出てきますが、人口減の歯止めのヒントになるということでしょうか。

大西:
要するに、機械が大事・資本が大事で、ヒト(が大事)ではない時代が長く続いたわけです。その意味ではグーグルの変化は大きいと思います。グーグルでは“20%タイム”の勤務ルールがあるんです。勤務時間の20%は、業務外の自分のプロジェクトに充てることができるというすばらしいシステムです。すなわち、労働者をこきつかう働き方ではなくて、ヒトを大切にする考え方が根づこうとしている。これをちゃんとやれば、人口減は止まると思うんです。資本だけを重視するという時代は、終わらなければならない。そういう契機は、世の中にいろいろあらわれ始めていると思っています。

――大西さんは、「人口減を食い止めるためには資本主義を克服すべき」と指摘しています。どこから手をつければいいのかなんですけれども、方策の1つとして、格差の廃止を挙げていますね。

大西:
繰り返しになりますが、主要な原因は貧困なんです。格差のことをおっしゃいましたけど、その原因は、やっぱりマルクス的には搾取なんですね。搾取をなくさないと格差をなくせない。ということは、貧困を放置せずに、それ自体をなくす。そこだと思うんですね。

――具体的には、どうすればいいですか。

大西:
普通には、所得再分配といわれますよね。国が関与します。しかし所得再分配というのは、搾取というものをおいたうえで、あとでなんとかしましょうというものです。ですからマルクス経済学的にいうと、やっぱり現場での、つまり資本家と労働者の労働分配率ですね。そこの次元での変化が大事かなと思います。

――精神論はわかるんですが、具体的にはどうすればいいですか。

大西:
グーグルの話をしましたが、あれは労働分配率を上げているということになりますよね。

――20%の自分の時間を作ってあげるということですか?

大西:
そうですね。ちゃんとした賃金を払って、働く人々の労働能力が開花することが大事です。そのためには、労働条件の改善、そこがやっぱり現場の次元でなければならないと思います。

――こうした視点を日本政府は持っているんでしょうか。それとも持っていなかったんでしょうか。

大西:
「異次元の少子化対策」と言っていましたね。でもどう考えても、あれで2.07に戻ると思っている人は誰もいません。真剣に考えていないんだと私は思うんです。年代層によって真剣さが違うんですよ。私は大学の教員ですから、つきあっている学生たちは20歳くらいです。彼らは2080年くらいまで普通に生きるんですよ。今世紀末までかもしれません。彼らはそういう視野で考えているんです。ところが岸田総理もわれわれも、世代的にはそんなことを考えていないですね。2050年までも考えていないですね。真剣さが足りないのは、やっぱりそこからきていると私は思うんです。

――だからこそ、この本なんですね。『「人口ゼロ」の資本論』というのは、人口ゼロに達するところまで長期に見たら、今、何が必要なのかを考えろということですね。

大西:
そうですね。

――『「人口ゼロ」の資本論』の著者・大西広さんにうかがいました。大西さん、ありがとうございました。

大西:
ありがとうございました。


【放送】
2023/11/05 「マイあさ!」

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