2023年本屋大賞・大賞受賞! 凪良ゆう著『汝、星のごとく』

23/05/15まで

著者からの手紙

放送日:2023/04/16

#著者インタビュー#読書

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2023年本屋大賞の大賞受賞作『汝(なんじ)、星のごとく』は、瀬戸内の島で出会った10代の男女が、ひかれ合い、すれ違いながら過ごす15年あまりを描いた長編小説です。著者の凪良(なぎら)ゆうさんに、お話をうかがいます。(聞き手・畠山智之キャスター)

【出演者】
凪良:凪良ゆうさん

恋愛を軸にした人生の物語

――凪良さん、2023年本屋大賞、大賞受賞、おめでとうございます。

凪良: ありがとうございます。

――本屋大賞は書店員の投票によって決まりますが、凪良さんは3年前の本屋大賞でも大賞を受賞しています。書店員の方々の支持を得ている理由、ご本人としては、どう思われますか。

凪良: そうですね……どこが支持されているのかというのは、ほんと自分ではわからないんですけれども、本当にありがたいです。本を読まれる読者さんたちと、一番リアルタイムで毎日接しておられる書店員さんたちが選ばれる賞というのは、作家にとって心強いし、ありがたいし、直接読者さんに届けていただけるというのが、本当にうれしく思います。

――作品についてうかがっていきます。舞台は、愛媛県今治から近い瀬戸内海の島と東京です。物語は、主人公の青埜櫂(あおの・かい)と井上暁海(いのうえ・あきみ)という同じ年の男女が、17歳から30歳を過ぎるまでの時間を描いています。このふたりが交互に語り手となって物語が進行していきますが、ふたりの対話のような形をとったのはなぜなんですか。

凪良: この物語は、恋愛を軸にして、今の時代のいろいろな問題を周囲に絡ませている、そういう構成になっているんですけど、以前から、一度男女の恋愛というものを書いてみたいと思っていました。男女の物語なので、男からだけの視点、女からだけの視点ではなく、両方の視点でつむいでいかないと、物語がどっちか一つにかたよってしまうというのもあって、いろいろな今の時代の問題も絡めているので、それも男側から見たらどうなのか、女側から見たらどうなのかっていう、決めつけはしていないんですけど、両方向から書いていければいいなと思っていました。

――なぜそんなに恋愛を書きたかったんですか。

凪良: もともと私はBL(ボーイズラブ)というジャンルから出てきた作家なんです。BLというのは男性どうしの恋愛を描くことが多くて、ことしで私はデビューして15年になるんですけれども、今まで一度も男女の恋愛を正面から書いたことがなかったんです。だから一度ちゃんと正面からストレートに取り組んでみたいなという気持ちがありました。

――前回、本屋大賞をとられた『流浪の月』、あれは恋愛がテーマじゃなかったですか?

凪良: あれは違うんです。恋愛だとおっしゃる方もいらっしゃるんですけれども、「関係性に名前を付けない」という物語だったので。

――「恋愛」でもない、「友情」でもない、ということですね。

凪良: はい。

――となると今回は、凪良さんが本格的に取り組んだ恋愛小説、というふうに読めばいいですか。

凪良: 恋愛を軸にした、人生の小説だと思って読んでいただけるとうれしいです。

いたみを分かち合い深まる心

――物語は、島で生まれ育った暁海と、京都から島の高校に転校してきた櫂が初めて言葉を交わすところから動き始めます。このとき、とっさに暁海は櫂を連れて、暁海の父の浮気相手のもとへ向かいます。ふたりが関係を築いていくスタートが、親の浮気現場に一緒に乗り込むという場面ですが、ここから、ふたりは離れられなくなっていきます。こういうきっかけというのは、どんな着想から生まれたんですか。

凪良: うーん……。人間って、衝動的にそういうことをしてしまう、自分でも思ってもみないことをしてしまう瞬間というのは、誰しも経験があると思うんです。たぶん、このときの暁海というのはそうだったんだろう、と。でもそのベースには、島の中で浮き上がっている自分と、櫂も島では、親の問題とかもあって浮いている存在で、お互いに島から、ちょっとみんなから浮き上がっている存在として、言葉にしなくても、この人ならわかってくれるみたいなものが、どこかにあったのかもしれないですね。それがああいう行動につながったのかもしれないです。

――“島”っていうのは非常に狭い世界ですから、どういう家庭環境なのかをみんなが知っているという暮らしが営まれていますよね。シングルマザーであったり、あるいは父親が浮気をしていることを、みんなに知られてしまっている、と。

凪良: それはつらいと思います、まだ10代の心の柔らかな子にとっては。

――そういう状況の中で、ふたりの関係性が深まっていきます。かくして暁海と櫂はつきあうようになり、常に一緒にいるようになります。プロの漫画家を志していた櫂は連載を持つようになり、高校卒業後に東京に出ると、作品がアニメ化されるなど人気漫画家になっていきます。一方、暁海は、父の浮気でしょうすいしきった母を置いてはいけず、地元の会社に就職をします。暁海は時折、東京の櫂に会いに行きますが、ふたりはすれ違い、25歳のときに別れることになります。それ以降、ふたりは離れ離れになりますが、お互いの存在を色濃く感じながら時間を過ごしていくとも読み取れます。凪良さんは、ふたりをつなぎとめているのはどんなことだと思いますか。

凪良: 10代の一番多感な時期に同じいたみを分かち合った人というのは、すごく心に残るんじゃないかなと。それが恋人だったらなおさらだと思いますし、恋愛以外のところでも、お互いにいろんなものが絡み合って、忘れられない存在になっているんだろうなと思いますね。

――そこがたぶん凪良さんの、恋愛という部分の原点なんじゃないですか?

凪良: 原点?

――つまり、顔がかっこいいとか、つきあっていて楽しいとか、そういうものではないっていうのが読み取れたんですけれども。

凪良: ありがとうございます。たぶんお互い、顔とか容姿では恋をしていないと思っていて、もっと深い心の底にあるものでつながったふたりなんだろうなと思います。

――凪良さんご自身はどうでした?

凪良: 私もそうですね。ルックスよりも心のつながりとか、あと話をしていてどれだけ通じ合えるかというところで、恋とかそういう気持ちは深まっていく。恋だけでなく友情もそうです。

――そういった部分も含めてですよね。

凪良: はい。

覚悟して決めたそれぞれの幸せ

――そしてこのあと、櫂は漫画家としての仕事がうまくいかず自暴自棄な生活を送るようになり、一方で暁海は趣味の刺繍が仕事になり、頑張っていくようになります。ふたりに対照的な運命を背負わせたのは、どんな意図があったんですか。

凪良: 人生は波があるので、一度成功してもその成功がずっと続くとは限らないじゃないですか。お互いの人生の中で起きる大きな上下する波も書いていきたかったし、その波が、恋愛においてはどうしてもかみあわないふたりというのも、書きたかったことですね。

それでやっぱり女性が自由に生きていくってどういうことかというと、まず最初に基本的に経済力がないと、どうしても誰かに依存してしまったり、そこで縛られてしまったりというのがあると思うんですけど、自分で自分を食べさせていけるという、そういう力を持つのは大事なことだと思って、それは結構、この本の中でも大きいテーマとして書いたつもりです。

――このあと、暁海と櫂がどんな道をたどるのか。それは読んでからのお楽しみですが、凪良さんはふたりがたどり着いた場所について、どうお感じになっていますか。

凪良: それは……読んでくださった方、一人一人が感じることだと思うので、私のほうからはちょっとこうだという明確な言葉は言わないようにしようかな、と。たぶん皆さん感じることは、お一人お一人違うと思うので。

――確かに読んでいると、こうあるべきだという方向性は書いていないですよね。

凪良: そうですね。ずっと、そういうことばっかり書いているような気がします。みんな、“正しさ”だけで生きてはいないというのは、私が昔から小説の中で書いていることで、一人一人、幸せのかたちも違うと思うし、周りの人がどう言おうと、本人たちが「これが私の幸せだ」と一人一人が覚悟して決めていくんだったら、多大なる迷惑を他にかけないかぎり、みんな好きに生きていていいじゃないか、って。選択の自由がもっと広くていいじゃないかということを、ずっと書いていると思います。

――きっとこの本を読まれた方も、ぐっと心にそれぞれがしみている……。

凪良: そうだとうれしいです、すごく!

――凪良さんは、この本を書き終わったあと、自分の胸のどこに何が一番刺さりました?

凪良: えー、もう、とにかくこの本を書いているあいだ中、すごく苦しかったので……。今まで書いていて一番苦しい本だったかもしれない。主人公ふたりがなかなか幸せになってくれないというか、幸せを模索していく物語なので、苦しかった。でも、それぞれふたりが納得した人生を歩んでいると思うので、最後は穏やかな気持ちになりました。前半、すごく苦しかったんですけど、この子たちなりの答えをちゃんと見つけたなと思えて、そこは本当に心から安堵(あんど)しました。

――『汝、星のごとく』の著者、凪良ゆうさんにお話をうかがいました。凪良さん、ありがとうございました。

凪良: こちらこそ、ありがとうございました。

【放送】
2023/04/16 マイあさ! 「著者からの手紙」 『汝、星のごとく』凪良ゆうさん

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