NHK「政治の現場」 日本版DBS 子どもをどう守るか

24/04/03まで

政治の現場

放送日:2024/03/27

#政治

放送を聴く
24/04/03まで

放送を聴く
24/04/03まで

NHK「政治の現場」――政治の最前線で取材する記者などが最新情報をお伝えするコーナーです。
子どもに接する仕事に就く人などに性犯罪歴がないか確認する制度、「日本版DBS」を導入する法案が先週(3月19日)、国会に提出されました。今回は、この「日本版DBS」についてお伝えします。
取材にあたっている政治部・三藤紫乃(さんとう・しの)記者の報告です。

  • 掲載内容は、NHK「マイあさ!」で放送した令和6年3月27日(木)時点の情報です。

【出演者】
三藤記者:三藤紫乃 政治部記者

――まず、「DBS」という言葉。どういうものなんですか?

三藤記者:
はい。英語の「Disclosure and Barring Service」の頭文字なんです。
イギリスなどで導入されていまして、直訳すると「開示して、禁止するサービス」という意味ですが、よくわかりませんよね。おおまかな言い方をすると、学校など子どもに接する職業につく人に性犯罪歴がないかどうか調べるというものです。
日本では、政府の有識者会議で去年(令和5年)議論されまして、その会議の報告書に「性犯罪の5年以内の再犯率13.9%という数値は看過できない」としまして、「日本版DBS」の必要性が盛り込まれたんです。そして、今回の法案提出に至ったというわけです。

――学校や塾などで子どもが性被害にあうケース、ニュースでもお伝えしています。防げないかと思っている親もいます。実際はどんな制度になりそうなんですか?

三藤記者:
法案の審議はこれからですので、まだ具体的には決まっていないんですが、政府の説明では、学校や幼稚園、保育所などで働こうとする人、あるいは、働いている人に性犯罪歴がないかを確認するという仕組みを描いていまして、その確認を義務づけるということなんです。学校などの施設側が、本人に知らせた上で、こども家庭庁に申請して、法務省に照会できるようにします。ただ、戸籍情報などの必要書類は、本人がこども家庭庁に直接提出することになります。照会の結果、犯罪歴がなければ、施設側に「確認書」が交付されるということなんですが、「確認書」が交付されれば子どもを通わせる親としても安心ということになるのかもしれません。

――学校などで働く人はどれくらいいるんですか?

三藤記者:
これは、おととし(令和4年)の時点の数字なんですが、学校や幼稚園などで働く職員は140万人以上、保育所などで働く職員は70万人以上います。さきほどの確認の対象となる人が、全員なのか一部なのかも、これから決めていくことになります。

――犯罪歴は、どれくらいさかのぼって調べられるんですか?

三藤記者:
はい。禁錮刑以上の場合は20年で、これが最も長いケースになります。また、執行猶予と罰金刑の場合は10年となっています。
照会の対象となる性犯罪は、▽強制わいせつなどの刑法犯だけでなく、▽痴漢や盗撮といった地方自治体の条例違反も含まれるということなんです。

――しかし、性犯罪歴があったとわかる場合もあるわけですよね。その場合、情報の扱いも慎重さが求められると思うんですが、どうなんですか?

三藤記者:
おっしゃる通りだと思います。人権問題にもつながりかねませんので、犯罪歴があったことがわかれば、学校などの施設側ではなくて、本人に先に通知されます。本人が辞退したり、辞めたりすれば、施設側に通知されることはないとしています。辞めなければ、子どもと接触しないように配置を変えることになるとしていますが、そんなに簡単な話ではないという指摘もあります。また、配置をかえたとしても、子どもの安全確保が難しいというケースも考えられると思うんですが、その場合は「解雇も許容される」という考えを政府は示しているんです。
一方で、施設側は情報を適正に管理する必要がありますね。漏えいがあった場合も想定して、罰則が設けられています。

――でも、大人と子どもが接するところは、学校などだけじゃなくて、学習塾やスポーツクラブなど、さまざまですね。そこはどうなるんですか?

三藤記者:
そうですね。たとえば、放課後児童クラブ、いわゆる学童クラブ、認可外の保育施設などもありますよね。そうした施設は、公的な機関のように、監督や制裁の仕組みが必ずしも整っていないところもあったり、提供を受ける性犯罪歴を適切に管理できるのかという懸念もあったりするとして、確認は義務づけないことにしたんです。代わりに、子どもに対する性暴力の防止に取り組んでいるかが利用者にも分かるように、新たに「認定制度」を設けるということなんです。

――「認定制度」ですか?

三藤記者:
はい。一定の規模以上の施設が研修を行ったり、子どもからの相談体制を整備したりするなどして条件をクリアすれば、政府が認定して公表するという制度になります。そうすることで、利用者にも分かるという仕組みです。

――関係者はどう受け止めているんですか?

三藤記者:
はい。首都圏を中心に展開する塾の経営者は「一民間企業の取り組みだけでは限界がある。保護者の立場で考えると、認定を受けている施設の方が安心して通えると思うので、積極的に活用したい」と話していました。
一方で、長年、性加害者の治療にあたっている医師は「DBS制度の運用とともに、加害者が再び犯罪を起こさないように、治療につなげたり、子どもに接触しない職業をあっせんしたりするなど支援が必要だ」と指摘しています。

――法案の審議はこれからということですが、課題もありそうですね。

三藤記者:
おっしゃるとおり課題は少なくないと思います。政府は、いまの国会で法案を成立させることを目指しています。そして施行されるまでの間に、さきほどの民間施設が対象の「認定制度」の詳細や、情報の管理体制などをガイドラインで示すとしています。
ただ、学校などで働く人たちの犯罪歴の確認作業、たとえば、それに対応するこども家庭庁の人員は足りるのかとか、確認にかかる費用は確保されるのかといった課題もあります。
また、たとえば、犯罪歴の照会期間について申し上げると、もっと延ばすべきだという意見がある一方で、加害者の更生や社会復帰の観点から一定の期限は必要だという指摘もあるんです。

――なかなか難しい問題。法案も成立したらそれで終わりというわけにもいかないのでは?

三藤記者:
そう思います。社会情勢などを踏まえて見直せるように、法案の付則には、施行後3年をメドとする見直し規定が盛り込まれているんです。こども家庭庁のある幹部に話を聞きますと「すべての人が満足できる完璧な制度ではないかもしれないが、まずはスタートさせることで、守れる子どもたちがいる」と話していました。
法案審議では、子どもたちのためになる議論を期待したいですし、法案が成立すれば、実際の制度の運用がどうなっていくのか、しっかり見ていく必要があると思います。


【放送】
2024/03/27 「マイあさ!」

放送を聴く
24/04/03まで

放送を聴く
24/04/03まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます