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24/03/14まで

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NHK「政治の現場」―― 政治の最前線で取材する記者などが最新情報をお伝えするコーナーです。
今回は、議員みずからが申し出て弁明を行う政治倫理審査会=政倫審についてお伝えします。
取材にあたっている政治部・矢島有紗(やじま・ありさ)記者の報告です。

  • 掲載内容は、NHK「マイあさ!」で放送した2024年3月7日(木)時点の情報です。

【出演者】
矢島記者:矢島有紗 政治部記者


――2月29日と3月1日、衆議院の政倫審が開かれ、岸田総理大臣が現職の総理大臣として初めて出席しましたけども、どう受け止められたのですか?

矢島記者:
永田町では想定外のことで、衝撃が走りました。
自民党の国会対策委員会の幹部も、岸田総理から表明直前に電話を受けたそうなんですが、「びっくりした。」と話していました。与野党は、安倍派の幹部らが出席して政倫審を開くことで合意はしていたんですが、公開するかどうかなどをめぐっては調整がつかず、当初予定していた日程で開催できない異例の事態になっていたんです。
実は、自民党は総理が出席を表明する直前まで議員傍聴のみ認める案で押し通すしかないと考え、現場からは「交渉で切れるカードがない」とため息も聞こえていたんです。それが、岸田総理がマスコミにもフルオープンで出席すると表明したことによって一気に流れができたというわけです。政倫審に出席した議員の1人は「総理が公開と言っているんだから、自分も公開するしかない」と話していました。

――岸田総理、どんな狙いがあったのですか?

矢島記者:
政権幹部の1人は「総理は当初から全面公開が必要だと考えていたが、出席する議員の意向を尊重したいという思いもあり、ギリギリまで推移を見極めていた」と説明しています。さらに「なかなか決断しない安倍派の幹部らに総理が不満をにじませる場面もあった」とも明かしています。当時は、与野党問わず、「総理が指導力を発揮し、公開を指示すべきだ」という声が強まっていました。
岸田総理としては、これ以上待ちの姿勢を続けるのは得策ではないと判断し、みずから開催に道筋を付ける狙いがあったようです。

――もともと安倍派の幹部らはどう考えていたのでしょうか?

矢島記者:
安倍派の事務総長を務め、去年(令和5年)、問題が発覚した当時、官房長官だった松野氏は「正式な依頼があれば、理由や対象なども踏まえて総合的に判断したい」と述べていました。
しかし、政倫審出席に向けてじわりじわりと外堀が埋まっていったと言えます。派閥の幹部を務めた議員らとしては"出席は不可避"と思っていた節があります。最終的に、森山総務会長らが調整にあたり、出席者が固まりました。

――岸田総理以外の出席者は5人でしたね?

矢島記者:
そうです。
安倍派からは松野氏のほか、西村・前経済産業大臣、高木・前国会対策委員長、塩谷(しおのや)・元文部科学大臣が、また二階派からは武田・元総務大臣が出席することになりました。いずれも閣僚などを歴任し、派閥では事務総長を経験しています。自民党は、この5人が政倫審に出席する意向だと野党側に伝え、日程を調整していました。
しかし、野党側がテレビ中継も含めた全面公開を求めたのに対して、自民党は当初、原則通り非公開での開催を主張しました。その後、冒頭のみ撮影を認める案を提示し、直後に取り下げるなど、"迷走"した感は否めませんでした。
政倫審の野党側の筆頭幹事、立憲民主党の寺田氏は自民党の対応を「党のガバナンスがほぼ機能していない状態だ。このような自民党は見たことがない」と批判していました。

――そんな中で、岸田総理がみずから出席を表明したというわけですね。

矢島記者:
そういうことなんです。
事態を打開したのが岸田総理の一手だったことは間違いありません。ある政府関係者は「総理が指導力を発揮し、控えていた新年度予算案の衆議院通過にも道筋をつけた」と話しています。
しかしその一方で、党内の余波は大きいものがありました。調整がなかなかつかず、岸田総理自身が動いたことを、ある自民党国対の幹部は「総理をひっぱり出すことになってしまった。国対としては決してよいとは言えない結果だ」とこぼしていました。また、出席のあり方をめぐる調整が、本人たちと緊密に意思疎通しながら行われたのか、疑問を口にする議員も少なくないんです。
政倫審に出席した安倍派の塩谷氏からは、「前提として非公開だからそれで手を挙げたのに、どんどん条件か変わってくるようでは、本当にどうなってるのかなという思いだ」と、恨み節とも取れる言葉が聞かれました。

――岸田総理の判断が思わぬ余波を生んでいるということですね。

矢島記者:
そうなんです。
自民党内では、党幹部が前面に出て党内の調整にあたらなかったという批判の声も上がっていますし、岸田総理自身への不満も聞かれるんです。
自民党幹部の1人は「総理みずから出席しなくても、直接、5人を説得すればよかったのではないか」と漏らしていました。
また、ある閣僚経験者は「突然、派閥解消を表明した時と同じで、パフォーマンスにすぎない」と話しています。
自民党は、派閥の政治資金問題でぎすぎすしていますが、政倫審開催までの一連のてんまつで、党内の"不協和音"が強まったように見えるという指摘も少なくありません。

――2日間にわたる政倫審の内容については、どう評価されていますか?

矢島記者:
自民党内の一部には、全面公開したことで「一定の説明責任は果たしたといえる」という受け止めがあります。
一方で「記者会見などで聞いた話ばかりだった」という指摘も出ています。
公明党の山口代表は5人の説明について「関心に沿うような説明がなされたかというと、必ずしもそうではない点があった」と厳しいコメントをしています。
野党側は「実態解明にはつながらなかった」と批判を強め、関係議員の参考人招致や証人喚問を求めるなど、さらに追及する構えです。

――政治とカネの問題、今後の焦点は?

矢島記者:
1つは、参議院側の対応です。
参議院では来週(3月10日の週)にも政倫審を開催する方向で与野党が調整していまして、安倍派の世耕・前参議院幹事長が開催されれば出席する意向を明らかにしています。
参議院でも、誰が出席するのか、公開されるのか、今後、調整が本格化する見通しでして、実態解明につながるような説明が行われるのかがポイントになりそうです。
政治とカネの問題が、今後も尾を引くのは間違いありません。引き続き説明責任や実態解明に向けた取り組みとともに、政治資金規正法の改正など抜本的な再発防止策が求められることになると思います。


【放送】
2024/03/07 「マイあさ!」

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