NHK「政治の現場」―― 政治の最前線で取材する記者などが最新情報をお伝えするコーナーです。
今回は、戦闘機を日本から輸出するかどうかをめぐる与党の協議についてお伝えします。
取材にあたっている政治部防衛省担当の唐木駿太(からき・しゅんた)記者の報告です。

  • 記事の内容は、NHK「マイあさ!」で放送した2024年3月5日(火)時点の情報です。

【出演者】
唐木記者:唐木駿太 政治部記者


――日本として戦闘機を輸出したいと考えているのですか?

唐木記者:
戦闘機といっても、今自衛隊が使っているものではなくて、今の戦闘機にかわって開発する戦闘機の輸出を検討しているんです。次の世代の戦闘機ということで、次期戦闘機と呼ばれるものです。
この次期戦闘機、日本では現在のF2(エフ・に)戦闘機があと10年ぐらいすれば役割を終えるので、その後継機となるものなんです。
新しい戦闘機を開発するには、ばく大なコストがかかりますので、少しでもコストを減らすため、イギリス・イタリアとともに開発を進めることにしているんです。

――なぜその次期戦闘機を輸出するという議論になっているのでしょうか?

唐木記者:
何でもそうですが、生産数を増やせば増やすほど、材料の調達費用など、生産コストを下げられますよね。開発・生産する戦闘機も3か国だけで使うのではなく、より多くの国に輸出すればコストを下けることができるという理屈です。
しかし、今の日本のルールでは、他国と共同開発した装備品を直接輸出することは認められていないんです。

――それはなぜなのですか?

唐木記者:
防衛装備品の輸出については「防衛装備移転三原則」というルールがあり、それを変えないといけないのです。
平成26(2014)年に策定された際、公明党の主張も踏まえ、殺傷能力のある装備品を輸出しないようにするために、「歯止め」の一環として共同開発による装備品の輸出を認めなかった経緯があるのです。
これに対し、イギリス・イタリアは、日本に輸出を可能とするよう、ルールの見直しを求めています。
政府と自民党は、日本だけ輸出できなければ、3か国による開発に向けた協議でも不利になるとして、ルールを見直したいと考えています。
きのう(令和6年3月4日)の国会でこの問題について問われた岸田総理大臣は、「輸出は日本にとって好ましい安全保障環境を作る上でも重要だ」と必要性を強調しました。ただ、政府としてはルール変更をしたいのですが、その前の与党の協議が決着していないんです。

――自民党と公明党の間の協議ということですね。

唐木記者:
そうです。
去年(令和5年)4月から自民・公明両党は安全保障に詳しい実務者が協議を続けてきたのですが、難航しているんです。去年夏の段階では容認する方向で一致していましたが、11月に入り公明党が幹部を中心に難色を示し始め、状況は一変したんです。

――なぜ公明党は難色を示しているのでしょうか?

唐木記者:
公明党は「平和の党」を掲げています。殺傷能力のある装備品の輸出については紛争を助長しかねないとして一貫して慎重な立場で、今回、輸出が必要だという明確な根拠がないのに簡単に認めるわけにはいかないというのがあると思います。
実際、公明党の山口代表も「世論調査を見ても、反対が過半数を超えている。これでは国民の理解が得られているとはいえない」と繰り返しています。与党としての公明党のこれまでの対応を振り返りますと、安全保障政策を決定する際にー定の「歯止め」をかける役割を担ってきたと言っても良いと思います。ですので党幹部には、「日本の安全保障政策の大きな転換になるかもしれない。だとすると簡単に認めるわけにはいかない」という思いが強いのだと思います。
政府は、与党に対して令和6(2024)年2月末までに結論を出してほしいとお願いしていました。なので、2月に入ってからは、岸田総理の提案で政務調査会長による協議に格上げされたのですが、結局、2月中に結論は出ませんでした。

――政府はなぜ2月にこだわったのですか?

唐木記者:
令和6(2024)年3月以降に、イギリス、イタリアと3か国による開発の作業分担に関する協議が本格化すると見込まれているためなんです。こう着状態を打開するには、岸田総理が動くしかないと両党から声が上がったのですが、みずから調整に乗り出すことはなかったとされています。自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題への対応に手いっぱいだったからなのか、この期限をそこまで重視していなかったからなのか、そこはわかりませんが、今後、岸田総理が動く場面が来るのか注目されます。また、この問題のキーパーソンが動きを取りづらいことも結論が得られなかった要因という声も出ているのです。

――キーパーソンが動きをとりづらい。それはどういう意味ですか?

唐木記者:
その1人は自民党の元防衛大臣、小野寺五典(おのでら・いつのり)衆議院議員です。実務者協議の座長で、党内でこの問題に最も精通し、岸田総理の側近の1人ともいわれています。
その小野寺さんが去年(令和5)年10月に衆議院予算委員長に就任したのです。予算委員長は、通常国会が開かれれば、新年度予算案を審議しなければいけませんので、連日開催される予算委員会を取りしきる最も忙しい役職のひとつです。このため令和6(2024)年1月の召集以降、動きづらい日々が続きました。
一方の公明党のほうは、浜地雅一(はまち・まさかず)衆議院議員がこの問題を実質的に取りしきっていたとされるんですが、この浜地さんも去年(令和5年)9月に厚生労働副大臣に就任したんです。
それらに加え能登半島地震もあって、決着させようという機運が高まらなかったことも、2月中に結論が得られなかった要因といえます。

――2月中に結論は出なかったということですが、次期戦闘機の開発は今月(令和6年3月)以降に3か国による協議が本格化するということでしたね。その協議への影響はないのでしょうか?

唐木記者:
両党からは、3か国の協議は今月(令和6年3月)下旬ぐらいから始まると聞いているので、そこまでに結論を出せればという声があります。
その一方で、防衛省幹部の1人は、「3か国協議に参加する民間企業からは、交渉で不利になるので何とかしてほしいと言われていた。なるべく早く結論が出るよう見守るしかない」と話しています。政調会長どうしの協議で隔たりは徐々に埋まりつつあるように見えます。政府・自民党からは、合意を目指して、装備品ごとに厳格な審査を行うといった案や輸出対象国を絞る案などで、公明党と一致点を見いだしたいという意見が出ています。それを公明党が受け止めるのか、日本の安全保障政策の転換ともなり得る協議ですので、その行方を今後もしっかり取材していきたいと思います。


【放送】
2024/03/05 「マイあさ!」