NHK「政治の現場」―― 政治の最前線で取材する記者などが最新情報をお伝えするコーナーです。
今回は、女性初の委員長がかじ取りを担うことになった共産党についてお伝えします。就任1か月を前に、田村智子・新委員長にインタビューした政治部の森田あゆ美(もりた・あゆみ)記者の報告です。

  • 記事の内容は、NHK「マイあさ!」で放送した2024年2月13日(火)時点の情報です。

【出演者】
森田記者:森田あゆ美 政治部記者


――どうして今回、新委員長の誕生となったのでしょうか?

森田記者:
共産党はことし(令和6年)創立から102年を迎えますが、女性委員長は初めてで、党のイメージを刷新して支持拡大につなげたい狙いがあると思います。
前任の志位委員長が23年あまり務め、ことしで70歳になるため「新しい世代にバトンタッチするのがいいと考えた」ということです。

――今回、田村さんに実際に委員長の話があったのはいつだったのですか?

森田記者:
実は、去年(令和5年)の秋なんです。党の最高幹部らでつくる「人事小委員会」で、委員長の打診を受けていました。「えー! 私?」というのが率直な感想だったそうですが、「3分ほど集中して、家族にも相談せず決めた」と話していました。

――田村さんは、どんな人なのですか?

森田記者:
長野県出身の58歳で、早稲田大学在学中に共産党に入党しました。初当選は平成22(2010)年の参議院選挙です。それまで国政選挙に5回立候補しましたが、いずれも落選した苦労人でもあります。
そんな田村さんの知名度が上がったのは令和元(2019)年、記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、総理大臣主催の「桜を見る会」の追及でした。国会でも大きく取り上げられました。
そして、前回4年前(令和2年)の党大会で政策委員長に就任し、先月(令和6年1月)の党大会で委員長に抜擢されたんです。党内や他党の議員からは、田村智子を略して"タムトモ"とも呼ばれているんです。

――取材の時の田村さんはどんな感じなのですか?

森田記者:
国会で政権を追及する姿とは違ってソフトな印象でした。「根が楽天家で、大きな失敗をして落ち込んでも世界は終わらないと思って立ち直るようにしている」と自己分析していました。

――新委員長の就任で、狙い通り共産党のイメージは変わるのでしょうか?

森田記者:
もちろん、そう簡単なことではありません。
共産党と聞くと「革命」や「闘争」といった言葉が浮かぶ人も少なくないと思います。戦前は、天皇制のもとでの「専制政治」からの変革を掲げ、弾圧の対象になりました。
戦後、合法政党として再出発しますが、旧ソ連や中国による干渉が行われ党が分裂した時期もありました。その後、共産党は他国の干渉を許さない「自主独立」の路線をとり、天皇制についても、現在は憲法を守る立場からなくさないとしています。
イメージ刷新のため「共産党」という党名を変えたほうがいいという声もありますが、田村さんは、むしろ「戦前の女性党員の活動など、誇るべき歴史を受け継いでいくことの大切さを語っていきたい」と話していました。

――共産党にとって、いま何が課題となっているのでしょうか?

森田記者:
最大の課題は、党員の減少や高齢化です。共産党の党員数は、平成2(1990)年におよそ50万人に達しピークを迎えましたが、その後30年あまりで半減し、今はおよそ25万人です。

――ずいぶん減っていますね。

森田記者:
そうなんです。田村さん自身も「大きな課題だ」と認めていました。
要因としては「90年代にソ連の崩壊があって『社会主義はもう終わった。資本主義が勝利した』と言われ、社会主義・共産主義に対するマイナスのイメージが定着してしまった」と分析していました。
田村さんは「進んだ資本主義の国である日本が社会主義・共産主義になれば、全然違う社会が実現できるということを、もっと押し出していきたい。
今の資本主義は、気候危機や貧富の格差、長時間労働など人間の自由を奪っている」と話していて、今後は50代以下の若い党員を増やす努力をしていくということです。

――次の衆議院選挙には、どう臨もうとしているのですか?

森田記者:
共産党が呼びかけているのが「野党共闘」です。与党に対抗するため、野党側の候補者を一本化するなど協力しようという考え方です。
ただ、思うように進んでいるとは言えません。立憲民主党の中には前向きな議員もいますが、日本維新の会や国民民主党は、憲法や安全保障で価値観が異なるとして、共産党との協力はありえないとしています。また、立憲民主党を支持する労働組合の中央組織・連合も、共産党から支援を受ける候補者は推薦できないという立場を明確にしています。

――では、田村さんは、野党共闘をどう進めようとしているのですか?

森田記者:
「困難に直面している」と認めながらも、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題などを受けて、共闘の必要性は高まっているとしています。
田村さんは、「自民党の政治は行き詰まっていて、『こんな政治でいいのか』という思いは国民の中にいっぱいある。野党が共闘して、自民党の政治を変えるという旗を示していくことが求められている局面だ」と強調していました。事件の真相解明とともに、政治改革を一致点に、国会で野党が共闘し、追及していきたい考えです。

――共産党として、次の衆議院選挙の目標は?

森田記者:
議席を増やすため、比例代表の得票に力を入れる方針です。
具体的には、比例代表で650万票を獲得することを目標に掲げています。この数字は前回の1.5倍余りにあたります。
共産党は、国政選挙で議席が減少傾向にあり、前回・令和3(2021)年の衆議院選挙の比例票は416万、比例代表で獲得した議席は9議席にとどまりました。これを平成26(2014)年の比例で20議席獲得した600万票以上に回復させるという目標ですので、ハードルは高いと言えます。

――目標を達成するためにも、田村さんはどういう党を目指しているのですか?

森田記者:
党の内外で進めたいとしているのが「ジェンダー平等」です。
田村さん自身、2人の子どもを育てながら政治活動を行ってきた経験があります。田村さんが委員長に就任したとき、思い浮かんだのは「女性のエンパワーメント」という言葉だったそうです。「女性や若い人の力をもっと生かしていけるような党に改革していかなければならない」と話していました。
新たな党の姿を打ち出して、目標に掲げる議席の増加を実現できるのか。田村委員長はこれから難しい課題に挑むことになります。


【放送】
2024/02/13 「マイあさ!」