神宮外苑再開発~事業者への単独インタビューで見えてきたこと~

24/04/23まで

けさの“聞きたい”

放送日:2024/04/16

#インタビュー#環境

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これまでもお伝えしてきました明治神宮外苑の再開発をめぐる続報です。NHKの取材班の2年間に及ぶ交渉の末、今回、初めて再開発を行う事業者に対する取材が実現しました。そこから明らかになったことは何か、取材にあたった首都圏局の尾垣和幸記者に聞きます。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
尾垣記者:尾垣和幸(首都圏局)

2年にわたる交渉

――今回、事業者を代表して三井不動産の幹部が初めて取材に応じたということですが、それまでに2年かかったんですね?

尾垣記者:
明治神宮外苑の再開発は、神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て替え、3棟の高層ビルが建設される計画です。ビルは、最も高いもので190メートルに及びます。これに伴い、樹木の伐採計画もあります。軟式野球場は広場と会員制テニスコートになるほか、4列のイチョウ並木は保全される計画です。

こうした計画に対し疑問の声もあったことから、これまで取材を申し込んできました。今回事業者は再開発の意義やねらいをもっと知ってもらう必要があると、取材に応じてくれました。

なぜ? 再開発と高層ビルの必要性

――その取材に基づいた番組『首都圏情報ネタドリ』は今月5日の放送でしたが、その中では、事業者にはどういったことをたずねたのですか?

尾垣記者:
今回、主にたずねたのは「なぜ再開発が必要なのか」、それと「なぜ高層ビルの建設が必要なのか」といったことです。まずは、そもそもなぜ再開発が必要なのか尋ねました。

取材を受けた三井不動産 取締役 専務執行役員の鈴木眞吾さんです。

鈴木取締役:
特に明治神宮におかれては、もともと、内苑の緑を守るということが非常に重要なひとつの目的になっていまして。

明治神宮の意向「内苑の維持管理費」

尾垣記者:
言及したのが、外苑の土地を所有する明治神宮の意向でした。
明治神宮には社殿と広大な森が広がる「内苑」、それとスポーツ施設などがある「外苑」がありますが、明治神宮によると「内苑の維持管理費の多くを外苑の収益でまかなっている」ということです。
そしてその最大の収益源は建て替えが計画されている神宮球場だということですが「築97年と老朽化が進んでおり、今後も安定的に収益を得るためには建て替えが必要だ」ということでした。

――内苑の維持管理費が課題となっているんですね。多くの参拝者でにぎわっているようにみえますが、やはり多くのお金がかかるんでしょうか。

尾垣記者:
宗教法人のため財務状況は公表されてはいないのですが、特に樹木の管理にはお金がかかるようです。ただ、神宮球場の建て替えを含む再開発には多額の事業費がかかります。これが、2つ目の質問「なぜ高層ビルの建設が必要か」の答えにつながるようです。お聞きください…

三井不動産 取締役 専務執行役員 鈴木眞吾さん

鈴木取締役:
一定程度のボリュームのオフィスであったり、これをうまく活用することで、そこで資金を捻出していくという形になるわけですけども、我々が事業をあそこでやらせていただいて、そこでしっかり稼いでいくということも、一方、経済的には必要なのが、これは自明だというふうに思っています。

――事業者の三井不動産としては、事業を成立させるためには、しっかり稼ぐことも必要だと言及されました。そのため、オフィスなどを活用するということですが、仕組みがなかなか複雑そうですね。

明らかになった事業スキーム

尾垣記者:
はい、かなり難しいです。今回、高層ビル建設を必要とする事業スキームがあったことがわかりました。インタビューのほかにも取材を積み重ねてきたので、整理して説明させていただきます。

まずは、3棟の高層ビルの建設などによって新たなフロアを生みだします。そして、このフロアを活用することで収益を得ます。この収益などで神宮球場を含む一帯の再開発にかかる事業費を補填(ほてん)するというのが今回のスキームです。
このことによって、補助金などの公的な資金は必要とせず、事業を成り立たせる仕組みであることを、三井不動産の幹部、鈴木取締役は説明してくれました。

取材では事業者が自治体に提出していた事業計画書も入手したのですが、そこには再開発にかかる事業費として、総額3,490億円あまりと記されていました。一方、事業費にあてる自己資金の欄は「ゼロ」と記されていました。先ほど説明したフロアを活用して得られる収益などをすべての事業費にあてる計画となっています。このような高層ビルの建設が計画の根幹にあることが今回の取材で分かってきました。

高層ビル建設可能にした新たな制度

――ただ尾垣さん、神宮外苑は再開発が制限されている公園でしたよね? 高層ビルは建設可能なのですか?

尾垣記者:
はい。神宮外苑はおよそ100年前、全国からの寄付や献木、勤労奉仕によって整備されました。その後、東京都の都市計画公園に指定され70年近く開発が制限されてきました。これを可能にしたのが、都が11年前に創設した「公園まちづくり制度」という新しい制度です。

――それはどういう制度なんでしょうか?

尾垣記者:
はい。この制度、都が公園として活用しきれていない「未供用」と呼ばれるエリアを整備するために作りました。

――「未供用」…「未」は未だ、「供」は提供の「供」、そして「用」いる、「未供用」ってあまり聞き慣れないことばですよね?

尾垣記者:
そうですね。この「未供用」については都の定義があり、「広く一般に解放されていないエリアのこと」だとしています。そして、このエリアを活用しようと、公園の区域から一部を除外し、民間企業の参入を誘導して、従来は造れなかった高層ビルの建設を可能にする仕組みです。代わりに事業者には一定の割合の緑地の整備などを義務づけることで、公園の機能を持つエリアとして整備を進めることもねらいとなっています。
東京都都市づくり政策部の山崎弘人部長です。

東京都 都市整備局 都市づくり政策部長 山崎弘人さん

山崎部長:
民間開発を誘導していくということによって、当然質の高い民間プロジェクトも期待できますし、公園そのものではもちろんないんですけれども、公園的な質の高い緑地空間というのも整備してもらおうというふうに考えたということですね。

――つまり、一般に開放されていない「未供用」というエリアの整備を、民間の力で進めるのがねらいなのですね。

ラグビー場が未供用 都議会でも議論

――神宮外苑地区でも「未供用」のエリアがあったから公園まちづくり制度が使えたということでしょうか?

尾垣記者:
はい、そうです。そして、今回「未供用」だとされたのは秩父宮ラグビー場です。

――あの、大学や社会人などの試合が行われたりさまざまなイベントも開かれていますよね。

尾垣記者:
そうですね。それでも東京都は「未供用」のエリアだと説明しています。都の山崎部長です。

山崎部長:
現地に行かれれば、秩父宮ラグビー場は周囲フェンスで囲われていて試合がある時などは当然出入りできるのかもしれませんけれども、常時自由に出入りできるような状況ではないですよね。

――ん-、このラグビー場を一般に開放されていない「未供用」というのは、ちょっと実態にあわないような印象を受けますよね?

尾垣記者:
はい。一定面積以上の未供用エリアがあることが制度適用の条件なのですが、神宮外苑の再開発に適用するのが妥当なのかどうかは都議会でも議論になっています。

専門家の指摘「制度適用のプロセスが…」

尾垣記者:
なぜいまになって、問題になってくるのか。専門家は、適用されるまでのプロセスが民主的ではなかったからではないか、と指摘しています。都市計画に詳しい駒澤大学の内海麻利教授です。

駒澤大学 教授 内海麻利さん

内海教授:
人口が減少して、経済が縮小していく、いわゆる人口減少時代、社会においてですね、公園は人手不足や財源不足で維持管理が難しくなってきています。そこで民間の力を借りて、公園をさまざまな形で活用することが促されています。
しかし、東京都の公園まちづくり制度は、公園が公共性の高い空間であるにもかかわらず、都民にその内容があまり知らされていません。またこの制度は、議会の議決を経た民主的なプロセスで制定される法律や条例に定められているわけでもないんですね。つまり不透明な活用を許容するような制度自体に問題があって、この点については都議会で議論をしていただきたいと思っています。神宮外苑の再開発については、そのプロセスを透明にしていくことが必須であるという風に考えています。

内部からも疑問の声

――尾垣さんは神宮外苑の再開発についてこれまで取材を進めてきましたが、その中でこのような指摘というのは、どのように見ていますか?

尾垣記者:
神宮外苑になぜビルを建てることができるのか。このプロセスが不透明だから議論が続いているのではないかと思います。
制度の創設に関わったある東京都の元幹部は取材に対して、「神宮外苑の再開発に適用されるとは思っていなかった」と証言してくれました。このように都側からも神宮外苑に適用することへの疑問の声が聴かれました。

東京都の対応「事業者が説明すべき」

――東京都としての対応はどうなんでしたか?

尾垣記者:
都は法令に基づいた説明会はすでに終えているというスタンスです。そして去年2月、事業を認可してからは、「今回の再開発は民間による事業だから、事業者が丁寧に説明するべきだ」としています。

――それが東京都としての考えなんですね。

尾垣記者:
手続きや法令に基づいて問題なく行われているのは確かですが、その手続き自体が現状にあわなくなっているのではないかという印象を受けました。そしてそもそも、今回の再開発は都がきっかけだったことも考えなくてはいけません。

再開発計画のきっかけは…

尾垣記者:
すでに20年ほど前になりますが、当時、東京オリンピックの招致を目指していた石原都知事はメディアに対して神宮外苑周辺は「大開発になる」と述べました。
そしてその後、国立競技場が建て替えられることが決まり今回の再開発が動き出したのですが、ラグビー場と神宮球場を入れ替えて建て替えるなど、計画の土台となっている案を都が明治神宮に提案していたことが、これまで公開されている資料や関係者への取材でわかっています。
そして、神宮球場の建て直しが必要だと考えていた明治神宮がその提案を受け入れたようです。
明治神宮のある関係者は「外苑の再開発をできるのであれば、神宮球場の老朽化も含めて非常にありがたいことなので、できる限りの協力をしていこうということになった」と証言してくれました。
このような経緯から見ても、都には住民にもっと説明する責任があるのではないかと思います。

今、求められていること

――公園の整備や活用を進めるのは確かに必要なことかもしれませんが、プロセスに疑問も残るなか、公園に高層ビルが建っていくという都市計画、どう考えればいいのでしょうか?

尾垣記者:
まずは神宮外苑のケースについて、専門家の指摘通りきちんと検証することが大事なのではないかと思います。
そして、それ以外にも「公園まちづくり制度」の適応が可能となる公園区域は、東京都によりますと都内に38あるということです。例えば、徳川家ゆかりの「増上寺」があり、森林が広がる「芝公園」はこの制度を適用した再開発の計画がすでに都のホームページでも紹介されています。
住民側もあとで疑問を持たなくてもいいように、早い段階から関心を持つとともに、行政や事業者も説明の場だけではなく対話の機会をつくることが必要ではないでしょうか。

――けさの聞きたい! 首都圏局の尾垣和幸記者とお伝えしました

【参考】

神宮外苑再開発 なぜ再開発が必要? なぜ“公園”に高層ビルが? 事業者の単独インタビュー | NHK


【放送】
2024/04/16 「マイあさ!」

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