戦闘激化から半年 ~パレスチナ ガザ地区 過酷な現状と心のケア~

24/04/12まで

けさの“聞きたい”

放送日:2024/04/05

#インタビュー#世界情勢#戦争

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イスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突が激化して、4月7日で半年です。戦場となっているパレスチナのガザ地区にある保健当局は、4月3日時点で、死者が3万2,975人にのぼったと発表しました。食糧不足も深刻で、栄養失調や脱水症状で亡くなる子どもも出てきています。このガザ地区で20年以上子どもたちの心のケアにあたってきた日本のNPOがあります。神奈川県にあるNPO法人「地球のステージ」というところで、心療内科医の桑山紀彦さんが代表理事として活動しています。市民たちはどんな状況に置かれ、どのような支援をしているのか、桑山さんに三好正人デスクが取材しました。(聞き手:田中逸人キャスター)

【出演者】
桑山:桑山紀彦さん(心療内科医 NPO法人「地球のステージ」代表理事)
三好:三好正人デスク

桑山紀彦さん

【桑山紀彦さんのプロフィール】
岐阜県出身。61歳。心療内科医・精神科医。海外でも学びを深め、心理社会的支援の専門家として活躍している。30年以上にわたって、戦争や紛争、大地震などの自然災害に苦しむ国々で医療支援を継続して行っている。パレスチナのガザ地区には2003年から支援にあたり3,000人もの子どもたちの心のケアにあたってきた。海外での経験を日本国内にも伝えるために、音楽や写真などを活用したステージも精力的に行っている。

飢餓状態で精神的にも極限状態に

――まず改めて、「地球のステージ」とはどんな活動をしているNPOなんでしょうか?

三好:
この団体は、紛争や災害で困窮する人たちの医療や教育の支援を行っています。ガザ地区は周囲が高い壁に囲まれています。長く緊張状態に置かれてきました。人や物資の行き来も厳しく制限されています。そうした中で、特に子どもたちの心のケアをしようと21年前から取り組んできました。

――どうやって、遠く離れた日本から支援をしているんでしょうか?

三好:
戦闘が激しくなる前は、たびたび桑山さんが直接訪れて活動していました。そして3年前に、現地に支援センターを作ったんです。日常的に支援できるようにするためです。日本から行けない今はオンラインで毎日、現地スタッフとやりとりをしています。生活状況を聞いて支援の方針を考えたりしているということです。

――生活状況ですが、戦闘の激化から半年になる現地ではとにかく食料が不足しているようですね?

三好:
物資はガザ地区の南部にあるラファの検問所から入りますが、いまだに規制が続いていて、食料を積んだトラックはなかなか入れません。1日分の食料について、現地スタッフから桑山さんには次のような情報が届いています。

桑山:
本当にいま危機的な状態で、分かりやすく言いますと、1人に一日水は500ccぐらいしか手に入らないのと、1食分のみならず半食分しかごはんが食べられていないという状況ですね。3食食べなきゃいけないところが0.5ってことですね。 つまり通常の6分の1の食料でなんとかギリギリ持たせている感じです。もう人間として全てが壊れてしまったと。人として機能していないという発言をする人が増えてきていて、1日もう何もせずぼ~っとして、ただ飢えを、そして死を待つのみっていうような状況の人も増えてきています。

三好:
しかも、著しく物価が上がり、貧しい人ほど苦しい状況だと言います。

桑山:
不思議な事にやっぱり戦争状態になるとどこからか物が入ってくるという、いわゆる闇マーケットのようなものはやはりここにも存在していて、例えばハマスのトンネルをお金を払って使わせてもらって物を入れている業者さんとか、あるいは自分の独自の流通ルートを持っていて1日1台~2台のトラックを入れている卸売り業者さんとかいるんですよ。そういう人たちに人々はなけなしのお金を払いながら、なんとか命を保たせている状況ですけれど、物価が大体一番ひどい場合で32倍になっているんですよね。その物価高によって、お金を持っていない方が今、栄養失調になってバタバタ亡くなろうとしている。で、なんとか蓄えのある人はそうやって高いものを買いながら、必死に命をとりとめているような状況です。

過密な生活空間で感染症もまん延

――半年が経って、これほどにも過酷な生活を強いられているんですね。

三好:
はい。ガザ地区の広さは、鹿児島県の種子島ほどです。そこに、220万人が生活していました。北部で戦闘が激しくなると住民は南へと追いやられ、現在、南部には150万人近くの人が集まっていると言われています。そのため、食べ物は少ないですし、住むところもありません。路上は集まった人で埋め尽くされています。生活環境としてもかなり厳しい状況です。

ラファに集まる市民達 通りは過密状態

――感染症などもかなり心配されますね。

三好:
きれいな水を飲めないことで状況が悪化し続け、患者がどんどん増えていると桑山さんは言います。

桑山:
井戸水は出るんですけれど、ひとつは鉄分が強いことと、もうひとつは塩分が高い状況なので、鉄くさく塩臭いんですよ。その水を摂取することによって体調も崩れるし、バクテリアというか、ばい菌もたくさん入っているので、消化器系の感染症が今はやってきているし。 もうひとつは、やっぱりA型肝炎がいまかなり激増している状況ですね。A型肝炎ウイルスというのは、汚れた水や食物の中に入っているので、これもうウイルス感染になるんです。そういった汚れた水・食料に寄生していたA型肝炎ウイルスがヒトの体を、今、痛めつけているような状況です。

子どもの心をケア 大人の心も回復

――食糧不足に感染症。こうした状況で、桑山さん達はどのような支援をしているんでしょうか?

三好:
食料については、2月と3月にラファにある病院の患者、数十人に小麦粉や缶詰など1か月分を届けることができました。NPOの現地スタッフが何週間もかけて良心的な業者を見つけ、交渉して購入できたそうです。また、医薬品も3月に鎮痛剤や消毒液など1,000人分を病院に届けることができました。ただし、食料よりもさらに手に入れるのが難しかったと言います。

桑山:
品不足ですし、途中で例えば太陽にさらされるとダメになるとか、高温にさらされると効能が減るとか、やっぱり管理が難しいところもありましてですね。 そういったところも含めて、かなり難しい仕事ではありましたけれども、これもまあ良心的な卸業者さんが見つかったので、その人たちが入れたばかりのものを分けて頂いて購入することができました。でもこれ1か月ももたないですよ。1,000人分入れたって1か月も持たない。それぐらいに今は大変ですね。

――桑山さんたちの団体では、20年以上子どもたちの心のケアにあたってきたということでしたが、これだけの過酷な状況が続く中で、いま、子どもたちの心のケアという点では活動できているんでしょうか?

三好:
はい、続けています。去年12月から、子どもたちを対象に「心理的応急処置」というプログラムに取り組んでいます。みんなで音楽に合わせて体を動かしたり、歌ったり、輪になってまわるゲームをしたりします。そうすることで、安心感を得たり子どもたち同士のつながりを感じたりすることができます。将来的に、PTSDの予防や軽減に効果があるということです。しかも、この活動をすることは子どものまわりにいる大人の心にも、良い効果があるということです。

桑山:
子どもってほんとありがたいなと思うのは、例えば『この戦争がいつまで続くんだろう』なんて考えると先が見えないじゃないですか。大人はそういうので落ち込むんですけど、でも子どもって、今目の前に例えば縄跳びがあって、5人で飛べたら『やった~!』って感じなんですよね。そういう今楽しいっていうことに対して素直に反応してくれる子どもたちを見ていると、大人の我々が励まされますよね。『そうだよね』って。『確かに考えると暗いことばっかりだけど、今この瞬間の楽しさ、それをも失っているんじゃないか』ってやっぱり気付かされる。だから子どもたちの今が楽しいっていう笑顔や笑い声は、多くの大人たちを励まし続けていると思う。

三好:
この活動を、現在もラファにある4つの学校をまわって行っています。毎回、参加者が増えて、1回あたり250人ほどの子どもたちが参加しているということです。春からは応急処置の段階から、心に残ってしまった傷、トラウマに対するケアを行います。具体的には、感情を絵に表してみたり、粘土を使って表現したりします。なかなか出せない自分の心を形にし、トラウマに向き合い、前を向いて生きていく力に変えていくというものです。

「心理的応急処置」の様子

子どもたちに広がる笑顔

自発的にトラウマと向き合い始めた子どもたちも

――応急処置の段階から次の段階に進もうというところ。春からできそうですか?

三好:
桑山さんによると、子どもたちの中にはNPOの活動をよく理解している子もいて、自分たちの方から「トラウマと向き合うために絵を描かせてくれ」と言ってきたそうです。これまで長く支援活動をしてきた中で初めてのことだと言います。子どもたちの自発的な行動を桑山さんはこう分析します。

桑山:
トラウマに向き合うのってたやすいことじゃないじゃないですか。時に苦しいことじゃないですか。でもそれに対してちゃんと気持ちを向けて、自分たちがどんな思いで生きているのか、空爆の恐ろしさとか、そういったものを絵に描いてくれているんですよ、もう既に。すごいと思います。やっぱり、この困難な局面を生き抜いているからこそ与えられる力なのかなって思うし、もちろんこんな戦争やトラウマなんてあるべきではないんですけど、来たら来たで、そこから人間って何かを吸収して強くなろうと動いていくんだなっていうのを目の当たりにさせてもらった思いです。

自発的に心を描き始めた子どもたち

関心を持ってつながり続ける(日本人にもできること)

――本当に厳しい状況ですけども、その中でも子どもたちの強さを感じさせる出来事もあったんですね。ただし、戦闘に加え飢餓という極限状態が続いています。今後も心をどう守るか、大事な取り組みになりますね。

三好:
そうですね。特に飢餓については食料の支援をするだけでなく、私たち日本人のような立場にいる人たちが関心を持ち、つながり続けることが大きな支えになるということです。

桑山:
飢餓というものは、とにかく人間の生存を否定されているような行動を受けているわけじゃないですか。つまり自尊心をくじき自己肯定感を奪っている。『お前なんか死んでもいいんだ』と、『生きる価値がない人間なんだ』みたいに言われていることなわけじゃないですか。
だから僕らの心のケアの焦点は『あなたには人として生きる価値があり、生きる意味があるんだよ』ってことをお互い同士で感じ合うこと。そこに焦点を当てていきます。 その際にとても大切なのは、外の世界とのつながりがあるということ。笑顔やあるいは苦悩を誰かが理解しているっていうことが、とても必要になってくるんです。つまりこの自己肯定感や自尊心というのは1人ではなかなか得られない。
したがって『我々日本人が見守っていますよ』とか『そちらの発信はちゃんと受け止めているよ』っていうフィードバックをすることによって、彼らの自尊心や自己肯定感というのは保たれていくわけですね。通信状態の悪いガザではありますけれども、世界の人がガザの事をどう見守っているのかすごく気にしているし。情報得ているんですよね。だから今だからこそ、SNSやソーシャルメディアを使ってみなさんがガザに関心を向けていることを何らかの形で発信していただくことは、ものすごい力になる。

――関心を持ったりSNSで発信したりすることだけでも力になる。私たちにもできることがあるということですね。

三好:
そうですね。桑山さんのお話を聞いていると、対立する国々だけの問題ではなく、今を生きる私たちみんなが向き合う問題だと考えさせられます。今後も支援活動を見つめ、伝えていこうと思います。


【放送】
2024/04/05 「マイあさ!」

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