地域防災の要の「消防団員」をどう確保?

けさの“聞きたい”

放送日:2024/03/28

#インタビュー#防災・減災#能登半島地震

元日に発生した能登半島地震。いま改めて、全国各地で頻発している災害にどう備えるかが課題となっています。ところが、身近な地域で防災力の要となる「消防団員」は減少し続けています。担い手となる消防団員を確保するにはどうしたらいいのか? これからの消防団はどうあるべきなのか? 総務省消防庁で消防団の振興を担当している地域防災室長の志賀真幸さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
志賀:志賀真幸(まさき)さん (総務省消防庁 国民保護・防災部 地域防災室長)

元日に発生した能登半島地震

――能登半島地震は、多くの人が家族とくつろいで過ごしていた1月1日の夕方に発生しました。消防関係者の皆さんもいきなり対応に追われたかと思いますが、志賀さんご自身はどうでしたか?

志賀真幸さん

志賀:
私も家族と過ごしていましたが、非常に大きな地震が起きたので、すぐに消防庁に参集し、しばらく情報収集などの任務に当たっておりました。
その後は消防庁の連絡要員が必要だということでそのまま石川県庁に1週間弱派遣され、県庁や関係省庁の方、自衛隊や警察の皆さんと一緒に活動させていただきました。お互いそこで初めて顔を合わせたメンバーでしたが、「とにかく一緒に頑張ろう」と連携して対応する姿に非常に感銘を受けましたし、特に私ども総務省消防庁の呼びかけで全国の消防本部から応援に駆けつけてくださった緊急消防援助隊は本当に心強かったです。

――「緊急消防援助隊」は、大規模災害が発生した時に全国の自治体から派遣される消防職員の部隊ですね?

志賀:
はい。広域的な応援部隊で、これまでは被災地から出動要請を受けて我々からお願いすることが多かったんですが、「これは非常に大規模な災害だ」ということで、今回初めて要請を待たずに消防庁長官の判断で出動をお願いしたケースとなりました。

随所で力を発揮した消防団員

――その一方で、身近な防災を担う消防団の皆さんは、各地でどんな活動をされていたのでしょうか?

志賀:
消防本部や消防署などで専門で働いているプロの消防士と違い、消防団の皆さんというのはサラリーマンであったり自営業であったり、それぞれ別に本業を持ちながら“いざという時”に備えて活動されている方々で、まさに住民の組織です。
そうしたこともあり、発災直後はなかなか我々からは消防団の方の動きが見えなかったんですけども、あとで関係者の方にお話を伺うと、能登半島の各所で地元のために大変なご尽力をされていたという話を本当にたくさん聞きました。

消火活動を行う消防団員(輪島市消防団)

具体的には、やはり発災直後から周囲の皆さんに避難を呼びかけたり、建物が倒れて下敷きになっている方々の救助に当たられたり、けがをした方の搬送とか、輪島などでの火災への対応、さらに住民がどんどん集まってくる避難所の運営の支援など、消防団の皆さんはご自身も被災されていた中で本当に懸命に対応されていたそうです。

避難所の運営支援をする消防団員(珠洲市消防団)

特にやはり消防団ならではだなと思ったのが、たとえば「壊れた家の下に○○さんがまだいるはずだ」などの情報が地域の中に溶け込んでいる消防団に集まり、それが救出の手がかりになったりしていました。ほかにも「いつものように消防団のメンバーみんなで集まれなくても、団員それぞれが一人でもできることをしていた」という声をたくさん伺っており、消防団の方々の強い使命感を感じました。

亀裂が入った道路を補修する消防団員(輪島市消防団)

あれだけの大規模な災害になると専門的な応援部隊も入るんですけれども、その一方で同時多発的にさまざまな被害が起こり悪条件も重なってくるので、やはりあのような大規模災害の時こそ消防団を中心とする地域の住民どうしの助け合いがとても大事だと改めて思い知らされました。

――実際に、輪島の火災現場でも消防団の皆さんが活躍されました。消防活動がなければ消失面積は倍以上になっていた可能性があるそうですね?

志賀:
そうですね。輪島の火災現場も本当に条件が悪く、なかなか水をとれない大変な状況だったんですが、消防団も一生懸命駆けつけて試行錯誤しながら消火活動にあたり、非常に大きな貢献だったと思います。

団員減少の中での取り組み

――そうした消防団員の活躍が伝えられて、消防団の大切さというのは皆さん再認識されているかと思います。ただ、その消防団員は全国で減少し続けていて、東日本大震災があった13年前(2011年)と比べても団員の数は13%も減ってしまっています。消防団員の確保に向けて、どういう対応が求められるのでしょうか?

志賀:
年々、団員数が減少する中で、我々としてもこれまでもさまざまな対策は取ってきました。全国的な広報活動を行っていますし、消防団員の報酬の改善、企業や事業所との連携強化、消防団活動の機能強化のための資材や機材の充実など、まさにできることは何でもやろうという思いで取り組んできました。

それでもなかなか手応えが得られないところもありましたが、実は今回の能登半島地震を契機に、私どものトップである総務大臣から全国の都道府県知事や市区町村長宛てに「消防団のさらなる充実に向けて」というお手紙を出させていただきました。

――その手紙は、どんな内容だったんですか?

都道府県知事や市区町村長に送られた書簡(※一部)

志賀:
まさに消防団の充実に向けて我々総務省消防庁がやっている取り組みを紹介したりですとか、地域においてもさまざまな対応をお願いしたいと呼びかける内容だったんですけれども、その手紙のワンフレーズで、私が特に印象に残ったのは、これだけ災害が頻発していて消防団員も減っていくという危機的状況の中で、いま一度原点に立ち返って団員の方の思いに寄り添い、やりがいを高めたり負担感を軽減したりしていく施策が必要ではないかというメッセージが入っていた点です。

これまではどちらかというと報酬を上げるとか資材や機材を配備するなど、形に見える対策が中心だったんですけれども、今回の大臣の所感を見て、私自身もハッと気付かされたのは、これだけいろんな対策を打ってもまだ解決できない難しい部分というのはより本質的なところであって、人の内面というか心の領域の課題に正面から向き合う対策をしていかないといけないのかなと改めて思っているところです。

――実際、消防団を敬遠してしまう理由として、「上下関係が厳しい」とか「世代間ギャップがありそう」などという声が聞かれることもあります。

志賀:
私もそういった声を聞くことがあります。ただ、消防団の姿も時代とともにかなり変わってきていると感じております。消防団の幹部の皆さんとお話しすると、最近の幹部の方々は若い団員にかなり気を遣っておられる方が多く、「若手や女性団員にどう話しかけたらいいか分からない」と悩んでいる幹部の方もたくさんいらっしゃるようです。
そういう中で、お互い歩み寄ろうという気持ちから、たとえば団によっては日ごろからLINEでスケジュールや今後の活動方針などを意見交換しながら活動しているところもあります。お話を伺うと、みんな本当に気兼ねなく上下関係なども気にせずに参加できているということだったので、ひとつの姿としてそういう取り組みもあるのかなと思っています。

我々、総務省消防庁では来年度(令和6年度)、消防団の入団促進に向けて改めて「マニュアル」のようなものを作成したいと思っているところです。その中で入団促進のさまざまな事例も紹介し、できれば若者や女性が入りたいと思うような今の時代に合った「消防団の姿」を描き出せたらいいなというふうに考えております。

地域に合った「操法大会」を

――番組をお聴きの方から、こんな声が届きました。

【つみさん】さん
操法、出初め式の廃止はマストだろ。

――消防ポンプの操法大会に向けた練習が厳しすぎるとか、時間的な負担が大きいという声もあるようですが、いかがでしょうか?

全国消防操法大会

全国女性消防操法大会

志賀:
はい。操法大会についても本当にいろいろなご意見をいただいております。
消防の基本的動作をまとめたのが「操法」で、災害現場に行くことを考えるとやはり基本が大事だということなんだと思います。その技術を披露する場として全国大会があり、都道府県大会があり、市区町村の大会がありますが、我々消防庁でも操法大会が過度な負担になってしまってはいけないと以前から検討してきていて、実は最近、全国大会の審査基準から、かつての形式的あるいはパフォーマンス的な動きを採点から外しました。それで実際、操法大会がかなりシンプルな動きで行われるようになってきています。

それで各地方の大会も、全国大会に準じてきているのかなというふうに思います。いろいろ教えていただくと各地方の大会でもいろいろ工夫されていて、単に技術だけを競うということではなくて、住民の皆さんにもお集まりいただいて消防団と住民がふれ合えるような集いの場を作っていたり、もう全く点数をつけずに発表会形式にしたりするなどし、まさに「消防団活動のやりがい」と「負担感の軽減」の両面からいろいろな手法で取り組まれています。今回初めて、そうしたいろいろな操法大会の事例を全国に周知しているところです。

消防庁では、地方で開催される操法大会は全国大会の予選というだけの位置づけではないと考えていて、消防団が地域から感謝されるよう地域に合った大会の姿を模索していただけたらありがたいなと思っております。

消防団に参加しやすい制度も

――そのほかにも、団員確保のために「機能別団員(分団)制度」も取り入れているそうですね?

機能別団員(バイク隊)

機能別団員(水上バイク隊)

志賀:
はい。お住まいの地域の消防団に興味を持たれている方がいらっしゃると思いますが、やはり大変そうだなという印象も同時にあるかと思います。そうした消防団活動の中でこの「機能別団員」は、あらかじめ役割を限定している参加しやすい仕組みです。
たとえば災害時の対応はしないで平時の啓発・防災教育だけをやるとか、逆に大規模な災害の時だけ応援に駆けつけるとか、その人の好みやライフスタイルに合った参加のしかたもできる制度です。

――このようなご意見も届いています。

【菜の花咲いた】さん
居住地と勤務先が異なるようになっているこの時代。企業と連携して消防団員を確保する必要があると思います。

――志賀さん、どのようにお聞きになりましたか?

「消防団協力事業所」の表示証

志賀:
大切なご指摘で、確かに勤務先のエリアで消防団に所属されている方もかなりいらっしゃいます。
私どももやはり団員を組織的に確保していくためには企業や事業所との連携が非常に重要だと考えていて、「消防団協力事業所」という制度を設けています。これは一定の人数の社員の方々に消防団員になっていただけたら、国が認証をして、各地方自治体のほうでたとえば入札の時に少し加点したり、表彰したりするなどし、さまざまなメリットを生み出すような仕組みがあります。
最近ですと、この「消防団協力事業所」の仕組みと、役割を限定した「機能別消防団員」の仕組みを使って、たとえばある事業所で10人ぐらいまとめて機能別団員になってもらって一定の活動だけをしていただくなど、そのような形の参加もかなり増えてきていると思います。

――総務省消防庁の地域防災室長、志賀真幸さんに聞きました。どうもありがとうございました。


【放送】
2024/03/28 「マイあさ!」

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