侵攻開始から2年 ~ウクライナ軍の今・国内に広がる感情は?~

けさの“聞きたい”

放送日:2024/02/20

#インタビュー#世界情勢#戦争

ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって2年。ウクライナ東部を中心に激しい戦闘が続き、戦いが終わる気配は見られません。ウクライナ政府は、死傷者の数を正式には発表していませんが相当数の兵士や市民が亡くなっています。そうした中で、ウクライナでは兵士の不足が深刻化し、軍による強引な動員が行われたり、政府関係者が徴兵を逃れる人たちからの賄賂を受け取る汚職も問題になったりして、政治に対する不信感が広がっています。戦いが長引く中、ウクライナ軍は今どんな状況なのか、そしてウクライナでは、2年が経つこの戦いにどんな世論が湧いているのか、戦地に赴き兵士達のナマの声を発信してきた記者に、三好正人デスクが取材しました。(聞き手:野村正育キャスター)

【出演者】
寺島:寺島朝海さん(ウクライナの独立メディア「キーウ・インディペンデント」記者)
三好:三好正人デスク

寺島朝海さん

【寺島朝海さんのプロフィール】
2000年、大阪府出身。7歳から10歳までロシアで暮らし、その後はウクライナのキーウ在住。大学在学中の2020年にウクライナの英字新聞「キーウ・ポスト」で記者に。2021年、オンラインの英字紙「キーウ・インディペンデント」の創立時から現職に。学生と記者活動を両立させながら、侵攻開始後もキーウに留まり、発信を続けた。大学を卒業し、2023年からは毎月、東部の戦地を取材している。

戦地で取材する、23歳の日本人女性記者

――かなり長期化していますが、戦いは今、どんな状況なのでしょうか?

三好:
一言で言うと、「こう着状態」と言われています。実際に、この2月に解任されましたが、ウクライナ軍の総司令官だったザルジニーは「こう着状態に陥った」と言及していました。ただし、ウクライナのゼレンスキー大統領は「こう着しているとは思わない」と否定しています。では、戦地では、実際のところ、どんな状況なのか、今回は、現場を取材している、ウクライナのジャーナリストに、お話をうかがいました。

――砲弾などが飛び交う戦地で取材している方ということですか?

三好:
そうなんです。ウクライナは、2023年の6月から反転攻勢を始めました。領土の奪還を目指して戦ってきたんです。特に東部、ドネツク州・ルガンスク州のあるドンバス地域。ここでの戦いが激しくなっています。
そのドンバスで、この1年取材をして、戦地の状況や兵士の心情を伝えてきた記者がいるんです。特定の権力に左右されない独立メディアと呼ばれる報道機関があります。その一つ、「キーウ・インディペンデント」に所属する寺島朝海さん、23歳の女性記者です。この方に、お話をうかがいました。

――日本人の記者が、ウクライナの前線で取材しているんですか?

三好:
はい。出身は日本ですが、10歳からウクライナの首都キーウで育っています。日本語、英語、ウクライナ語と、語学が堪能です。4年前、大学に通いながら記者として働き始めました。現在、寺島さんが所属する「キーウ・インディペンデント」は、インターネットを使って英語でウクライナの今を伝える媒体です。寺島さんの記事も、世界中の人が読んでいます。

――戦地の取材を、日本人で、23歳の若さで、女性でというのは驚きましたね。

単独で前線の兵士に取材

三好:
確かに驚きました。しかも、複数ではなく、たった1人で取材をしているんです。戦地でも身動きを取りやすくするため。また、人数が多いと、ロシア軍に誤って攻撃される恐れもあるためです。
そのドンバス地域への取材は、1回あたり数週間から1か月にわたります。兵士たちのナマの声を、じっくりと、深く掘り下げて伝えているんです。優れた国際報道で成果を上げた記者たちに贈られる「カート・ショーク賞」というものがあります。去年10月に、寺島さんにもその賞が贈られました。

肉体的、精神的にもギリギリのウクライナ兵

――それで、寺島さんによると、ウクライナ軍はどんな状態なんでしょうか?

三好:
とにかく、ウクライナ軍は現状を維持するのが精一杯な状況です。兵士たちの精神状態もギリギリだと言います。

リモートで寺島さんに取材

寺島:
すごく、何もかも足りないんです。本当にもう、武器も足りないし、ドローンも足りないし、人も足りないし、もう何もかも足りないという状況で。どうにかロシアのすごく激しい攻撃からポジションを守っているって感じだから、本当にもうみんなすごく疲れていて、戦うモチベーションがなくなってきている。終わりが見えないというのが一番難しくて、そのうえ、キーウの政治って、結構、賄賂とか、そういうニュースが出てくる。それを聞くと「何で僕たちは、自分たちの人生を本当にリスクにして戦っているんだ」って。本当にもう難しいと思います。

三好:
実際、去年の秋以降はロシアが攻勢を強めています。大量の兵士を投入する人海戦術をとっています。一方のウクライナは、砲弾が尽きかけ、兵士もなかなか増やせません。今月(2月)17日には、ドネツク州の拠点から撤退するとウクライナ軍が発表しました。全体として、まさに今、踏みとどまっている状況だそうです。

情報が広く共有されなくなっていることが問題

――命をかけている兵士の気持ちを思うと、賄賂のニュースなどはやりきれないですよね。

三好:
本当にそうですよね。しかも、首都キーウは経済活動がどんどん回復し、以前のようにカフェもレストランも営業しています。キーウが攻撃を受けることもありますが、戦いの中に置かれているのを忘れてしまうぐらいになっていると寺島さんは話します。
10年前、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合しました。その時から戦っている兵士は、今、キーウなどに漂っている雰囲気に危機感を示しているといいます。

寺島:
キーウだけに住んでいたら、本当に戦争の事を忘れるぐらいで、普通にもうカフェもレストランもやっている。すごく混んでいるから、ちゃんと予約しないといけないし。天気もよくなったから、もっとみんな外に出てきている気がする。キーウだけにいたら、本当に分かんないです。どれだけ状況が前線で悪化しているかっていうのを。で、結構、最近、2014年から戦ってきた兵士の方達が、やっぱり10年の経験の後で、本当にウクライナはもう戦う人がいなくなって、負ける可能性が高いっていうこと、本当にすごく危険な状況だと言い始めた。もしウクライナに武器がなかったら、ロシアはもっと前に進むということを強調してきた。本当にキーウだけにいたら気付かなくて。私も、結構ドンバスとかに行っているのに、それでも本当に分かっていなくて。すごくリスクがある状況なんだっていうことに納得しました。

――そうした中で、ウクライナでは強引な動員が行われたりして問題になったりしていますが、政府は国民にどのように情報を伝えているんですか?

三好:
寺島さんによると、劣勢に立たされているといったネガティブな情報は、あまり報じられていないということです。犠牲になった人数すら公表されていません。寺島さんのように戦地の実際の声を報じると、「なぜそんな記事を書くんだ」と軍の関係者から言われることも多いそうです。しかし、戦いが長期化する中で、情報が広く共有されないことが大きな問題だと寺島さんは話します。

寺島:
みんな良い言葉を聞きたいじゃないですか。早く戦争が終わるとか、早くウクライナが勝つとか、そういうことを結構、政治家はすごく強調しているから、「ロシアは負ける」「ロシアはこんなばかな間違いをしている」とか、そういうプロパガンダを使っています。
そのせいで、普通の、キーウとか、本当に前線以外のところの人だと、実は「ウクライナは大丈夫で、もうロシアはすぐ葬れて、ウクライナはクリミアとか全部取り返せる」という感じの、本当、そういうプロパガンダがみんなの頭に入っているから、どれだけ状況が本当に悪化しているか、ウクライナが負けるリスクっていうのがどれだけ高いかっていうのを、どれだけの方が毎日亡くなっているかとか、そういうことが本当にもう分かんないっていう感じですよね。
でもみんな、親戚とかに戦っている人がいるから、そこから、きっと「何これ? 全然違うじゃん」っていうことを知る。だからそのせいもあって、ウクライナ人は政府に信頼を置いていない。どれだけウクライナが負けているかっていうのを言うのは怖いっていうことがあると思うんですけど、でも、本当に、私的にはそれは言わないといけないと思います。本当に前線に行かないと分からないことだから。

前線で取材を続ける寺島さん

三好:
こうした状況の中で、寺島さんは、真実を取材して伝える独立メディアが重要だと言います。独立メディアが発信を続けることで、国内や世界の人に、戦地の厳しい情報が伝わります。それによって、ウクライナへの関心が集まり続けると考えています。

誰も「戦争が終わるよ」と言わなくなった・・・

――今後についてですが、ウクライナの世論としては、今、どんな見方がされているんでしょうか?

三好:
今は、誰も答えが見つからない状態です。寺島さんによると、反転攻勢を始めた去年の夏頃は「このまま行ける」という声が高まりました。しかし、徐々にじり貧状態となり、政府への不信感も増す中で、暗たんたる気持ちが膨らんでいるということです。

寺島:
2023年は、反撃の前はやっぱり、多くの方が「今年の反撃で全部戦争が終わるよ。早くウクライナが勝つ。クリミアまで行くよ」とか、まあ、結構ありました。でも、結果はすごく小さいから、そのあとにみんな多分、気付いたんだなと思います。実際に本当に、どの方向にも進むのはすごく難しくて。
ロシアは自分のポジションを守るのがすっごくうまいから、難しいんです。彼らは武器もすごくたくさんあるし、人もむちゃくちゃたくさんいる。それに対し、もちろんウクライナの方は考えていますけど、でも、兵士たちによると、人も本当にいないし、そのせいで、疲れているのにもっとみんな長いこと戦わないといけないし。そうしたら集中力もなくなって殺される確率が高くなるし。今、前に進むのに、もっと戦争が長く続くほど難しいんです。
今年、ウクライナは、集中するのは自分を守る方なので、攻撃するのはロシアだと思います。だから、本当に暗い1年になります。みんなもう、2024年はそんな誰も、『戦争が終わるよ』とか、そんなこと言ってないので、自分の将来が見えない、国の将来が見えないっていう感じです。

自分を育ててくれたウクライナを見捨てて逃げられない 真実を伝え続ける覚悟

――なかなか今後の見通しというものがつきませんね。この2年、寺島さんも取材をする中で、さまざまな思いが膨らんでいるでしょうね?

三好:
そうですね。前線の取材は命の保証がありません。親しくしていた記者も、去年、ウクライナ東部のバフムトで、取材中に爆撃に巻き込まれて亡くなりました。それでも、ウクライナで育った自分がウクライナから逃げることには納得ができない、何が起こっているかを、自分の目で見て、伝えることをやめることができないと、寺島さんは話します。

寺島:
命っていうのは、すごく大切なもので、本当に何が次起きるかっていうのが分からないってことで、どれだけ平和っていうのは貴重かっていうこと。私は小学校の時、日本にいたり、ロシアにいたり、ウクライナにいたりしたんですけど、その時は、空襲警報とか聞いた事なかったし、そんな戦争が始まるとも思わなかったし。平和っていうことを、本当に感じたんですよ。だから、それがどれだけ今になって、すごく貴重だったか。どれだけ今、ウクライナの子どもたちが、すごく怖い目にあっているか。例えば、ロシア軍によって自分のお母さんがレイプされるのを見させられたり、両親が殺されたり。爆発の音が聞こえたり、空襲警報ばっかり聞いたり、どれだけ友達を失ったか。自分の故郷がロシア軍に潰されたか、とか。そういうことを思うと、本当に平和に毎日普通の生活をできるかって、それはすごく大切かっていうのは分かりました。
あと、命っていうのはすごく短いものでもあるので、できるだけ毎日、何かできるよう、自分がどんなことをしたいか、自分の夢のためにもちゃんと働かないと、気付いたらもう終わってしまうことがあるし。できるだけ時間を大切にするっていうことに気づきました。

三好:
23歳の寺島さんが現地で見る光景、取材した出来事は、想像を超えるものだと思います。伝えようとする姿勢に尊さを感じると共に、こうした取材をしなくてすむ日が一刻も早く来ることを願いたいと感じました。


【放送】
2024/02/20 「マイあさ!」

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