会食に使われる多額の【飲食費】 「政治はカネがかかる」を認めるな!

けさの“聞きたい”

放送日:2024/01/11

#インタビュー#政治#経済

去年11月に明るみに出た自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で高まる政治不信。「平成の政治改革」から30年、繰り返される《政治とカネ》の問題を田中秀征さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
田中:田中秀征さん(福山大学客員教授・元経済企画庁長官)

論議に欠けている党の責任

――自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件。田中さんは今回の“政治とカネ”の問題をどのようにご覧になっていますか?

田中:
昔、リクルートの事件とかいろいろありましたね。今回の特徴は、違法性を知りながら、集団で、長期間にわたっているということ。そうしたことから非常に悪質だったと言えると思うんですね。ですから、今までの責任の取り方とは違ってくる。
それで今回は岸田総理が「政治刷新本部」をつくりました。総理大臣が提示したのは、▽再発の防止、▽政治資金の透明性の拡大、▽派閥をどうするか? ということが論点なんですが、今回の問題で「党がどういう責任を取るのか?」という一番大事なものが欠けているんですよね。

――きょう(1月11日)から政治刷新本部で論議が始まりますが、ポイントは「党の責任の取り方」ですか?

田中:
そうです。国民・有権者に対して、「これからはもうやらないようにします」っていうことでは済まない話だと思いますね。

――田中さんはどういうふうに責任を取るべきだとお考えですか?

田中:
だから二度とこういうことが起きないようにするという「▽再発の防止」についてですが、起こしてしまった派閥や政治家個人がそれなりの責任を取らなきゃいけないと思います。
たとえば非常に明快に「自分はこの件については議員辞職に値すると思っているから辞職する」ということでもいい。とにかく党も政治家も、国民・有権者に対して責任をとらないままでは済まされない。一部の議員は摘発されていますが、摘発を免れて残ったとしても何らかの形で責任を取らなければいけないと思います。「もうやりません」「今度はこうします」っていうことだけで済むのかっていう疑問がわいてきますよね。
だから総理が3つの論点を掲げたけれど、最も欠けているのは、今回の件について「どういう責任をとるのか議論してくれ」という指示。それが必要だと思いましたね。

――田中さんご自身は、自民党の衆議院議員だった時期に、政治資金パーティーのパーティー券を売ったことはありますか?

田中:
自分のパーティーを東京でやったことはありません。長野の選挙区でやった時はお金をいただくっていうのは非常に気が引けることだったんですけども、宮沢喜一さんが総理になる前、対論という形で話をした時にお金をもらいました。かなりの時間を論じてそれを聞いていただくということでお金をいただきました。それ以外は思い浮かばないからやってないですね。
新党さきがけのときは、一度、党のパーティー券を売った覚えはありますね。そのくらいです。

カネをかけずに政治はできる

――ということは、それほど政治資金パーティーが必要ではなかったということですか?

田中:
そういうことですね。まあ、お金をかけようとしても無かったということもあるんだけれども、お金をかけないようにすれば、やれるんですよ。実はね。
だから今回の議論で一番痛感することですが、有権者の側の責任を考えると、政治の側が「選挙や政治にはカネがかかる」と言っても、それを認めてはいけません。

――たとえば選挙には費用がかかり、運動員やいわゆるウグイス嬢を雇ったりするのにお金がかかると言われますが、それを認めてはいけないと?

田中:
そういうことをしちゃいけないという意味じゃなくて、「カネがかかる」っていうことを認めるから費用が膨張しちゃうんですよ。
選挙や政治活動などについては、税金を使った公的な仕組みがもう整っているんですね。たとえば国会図書館であるとか衆議院事務局にある各調査室、それから政策秘書。さまざまな政策研究や議員立法のための仕組みは既にできているんですね。
それなのに、政治家が「政治にカネかかるんだ」って言うと、有権者たちは「それは仕方がない」ってみんな認めちゃうんですよ。私はそこがいけないんだと思います。それでどんどんどんどん費用を膨張させていく。だから今回のことで言えば、有権者の責任はそこにあり、「政治にカネがかかるから、こんなことをしちゃった」という議員を、「そうですよね」って許しちゃだめだと思いますね。
だからそういう意味では、私なんかは最もカネのかからない形で政治活動をやってきたと思うんですが、誰でもそれはできると思いますね。

会食カネを使い政治は劣化

――政治資金に関しては、“政治とカネ”の問題が議論されて政治腐敗をなくそうと1994年に政党助成法が成立し、以来、国庫から政党に対して毎年多額の交付金が配られています。そのお金の範囲内で活動するようにということですか?

田中:
総額300億超(2023年は315億円)もの政党交付金を出しているんですから、それでやっていけるはずです。「政党交付金のほかにもっと政治資金がなければ、政治活動をやっていけない」って話じゃないですよね。

――その枠内でできないのはどうしてなんですか? 政治家のどこにお金がかかっているんですか?

田中:
1つは「印刷費」で、無駄な印刷物がいっぱいあるんですよね。正直、自分の場合もある程度そうだったんですが、いろんな機関誌を作ったり無理やり本を出したりすることで印刷費がかさみます。
それから「人件費」もあるでしょうね。とにかくスタッフの人数を多くしようと地区別に秘書を置いたら、もうべらぼうなお金がかかりますからね。
それから非常に大きいのは、やっぱり「飲食費」「会食費」でしょうね。

――そんなにお金がかかるんですか? そんなに会食をしなければいけないのですか?

田中:
そう思いますよ。だから私は、政治資金の支出として「飲食費」は認めないという方向を打ち出してもらいたいですね。
岸田総理が尊敬している池田勇人総理は、とにかくお金をかけないようにしようと言って「カレーライス」を推奨して、自分もそうされていました。やっぱり政治家同士の会食に使うお金って、本当にすさまじいと思うんですよ。実は。

――ただ、やっぱり会食をしないと情報が手に入らないということはあるんじゃないですか?

田中:
そうでしょうね。だけど情報というのは、会食をすれば得られるというものじゃない。何かいろいろ余計な話をしながら飲食して過ごしている時間を、「これが政治だ」って錯覚しちゃうところがあるんじゃないですか。

――田中さんは会食には行かなかったんですか?

田中:
私はほとんど行かなかったですね。ほかの人から見ると本当に僅かだったと思います。
やっぱり情報というのは発信力があれば自然に集まってくるんですよ。私はずっとそう思っていました。
政治家は「情報交換のため」と言って会食を重ねて大量のお金を使っているのに、日本の政治は劣化して、日本の経済も劣化して今日に至っている。そうなってしまったということじゃないですか。
そう考えると、本当に志のある人が国政にどんどん出ていけるような環境を、この際につくるっていうことじゃないでしょうか。こんな大きな転機はないと思いますよ。

現行の小選挙区制でいいのか

――リクルート事件や東京佐川急便事件などを受けて、“政治とカネ”の問題をなんとかしようと、30年前に「平成の政治改革」が行われました。田中さんたちが当時、国政の場で議論した政治改革。今こういう状態になっているのを見ると、あの政治改革の成果は何だったんでしょうか?

田中:
当時の政治資金の問題に私は関わっていませんが、政党助成金については個人的に賛同していませんでした。
そして、政治改革の焦点は「政治資金」をめぐる問題ではなく、「選挙制度が悪いんだ」というところに行っちゃったんですね。
当時、東京佐川急便事件やリクルート事件など構造汚職といわれたいろんな問題の原因は「中選挙区制で候補者同士がサービス競争をやるからだ」といって、選挙制度のせいにしちゃったことが大きな間違いだったんです。
それで「中選挙区制を小選挙区制にすれば同士討ちがなくなる」といって選挙制度が変わりましたけれど、それなら中選挙区連記制という方法もあるんですね。
中選挙区で2人あるいは3人の名前を書くという方式にすれば、サービス競争はなくなりますから。これは30年前にも主張していたことですが、やっぱり私も細川護熙元総理もそういう考え方ですね。

1994年1月28日 河野洋平自民党総裁と細川護熙総理大臣のトップ会談

ところが小選挙区の流れがそれこそ熱病みたいになって、ああいう形(小選挙区比例代表並立制)になっちゃった。しかもそれは私たちが出した政府案が参議院で通らなかったあと、最終的に河野洋平さんと細川護熙さんが会談をして本当にもう一瞬にして決まり、審議もされずに施行された。それが今やっているこの現行制度ですよね。

――そうすると30年前のことを振り返り、改めて反省すべきは反省して考え直さなきゃいけないと?

田中:
そうです。今の選挙制度の一番根本的な問題は、「党」より「人」で選出されていないということなんですね。やっぱり政治家として見識のある個人を1人でも2人でも多く国政に送れるような制度にしていかなきゃいけない。現在のように政党に飲まれていく制度じゃだめだと思います。


【放送】
2024/01/11 「マイあさ!」

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