なくならない“男らしさ”への苦悩 実態とこれから

23/12/05まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/11/28

#インタビュー

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11月19日は国際男性デー。男性の健康や生き方の観点からジェンダー平等を目指すという日でした。
ジェンダーについての男性特有の課題といいますと、「男性はこうあるべき」というアンコンシャス・バイアス、つまり無意識のうちの偏見や思い込みが挙げられます。例えば、「男なら人前で泣くな」とか「結婚して家庭を持てば一人前」というようなことです。
内閣府が2022年度に行った調査研究でも、女性よりも男性自身がこの“男らしさの価値観”を重視しているということが明らかになりました。その結果、弱音や悩みを話せない男性は孤独に陥って、いま、全国の相談所に多くの電話がかかってきているといいます。どんな実態があるのか、相談員にうかがい、今後どうすればいいのか、解決のヒントを探します。(聞き手:野村正育キャスター)

【出演者】
福島:福島充人さん(一般社団法人「日本男性相談フォーラム」代表理事)


【福島充人さんのプロフィール】
1983年生まれ。2013年甲南大学大学院修了。臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラー。
30歳の時に重度の病を発症し、一時、仕事から離れる。その際に男性相談に救われ、病状回復後に自らも相談員に。2019年から、「日本男性相談フォーラム」の代表理事になり、各地の相談所をまとめたポータルサイトの運営にも携わっている。

男性の相談 その実態は!?

――いま、男性からの相談はかなり多くなっているんですか?

福島:
そうですね。私たちのところは(電話相談を)月に3回ですね、夜の2時間ほど受け付けているんですけれども、結構、電話が鳴り続けている状態です。多くの男性が話を聞いてほしいというふうに思っておられるのかなというふうに感じます。
昔は相談する場所そのものがほとんどなかったんですけれども。いまは、男性の相談窓口の開設を国が進めている状況で、私たちが1995年に最初の男性相談窓口を設立しているんですけれども、今は84か所になっています。それだけ需要が増えてきているのかなというふうに思っています。
年代で言うと40歳から70歳ぐらいの方が電話を使ってかけてこられていることが多いのかなという印象を持っています。

――具体的にどんな相談が寄せられているんですか?

福島:
そうですね。 例えば、「男は大黒柱で弱音は吐かない」というふうに我慢しているんだけれども、「稼ぎが悪い」というふうに妻になじられていると。で、ある日限界に達して大声でどなり返してしまったら、子どもを連れて出て行かれてしまう、というようなこともあります。それで孤立というか、孤独になってしまって生きる意欲がなくなってしまって休職しているとか、そんなご相談もありますし。「好きな女性がいるけれども、自分は非正規雇用なのでつきあったり結婚したりしていいのだろうか」というふうに言われる方もおられますし。「今すごくしんどいんだけれども、こういうのは男らしくないんだと思うんだけど、どうすれば男らしくなれるでしょうか」というようなご相談もあります。

――本当につらい切実な声ですけれども、現在はそういう「男はこうじゃないといけない」という考えに苦しんでいる相談が多いんでしょうか?

福島:
そうですね。多くなっている印象はあってですね。もともと、私たちは性自認が男性の方からご相談をお受けしているんですけれども、その悩みごとの内容によって、「仕事」とか「家族」とか10個くらいのカテゴリーで分類しています。
昔は「性」に関する悩みというのがすごく多かったんですけれども、そこから今は「性格」とか「生き方」といった分類の相談がすごく多くなって、一番多い状態になっています。

根深い「男らしさ」 弱さを見せられる場所の必要性

――なぜそうした生き方に関する相談が今多くなっていると、福島さんは考えていらっしゃいますか?

福島:
そうですね。誰かに頼りたくても頼れないですとか。話したくても、救いを求めたくても相手がいなかったりですとか、そういった「望まない孤独」っていうんですかね。そういうのが、社会全体に広がっているような背景があるんじゃないかなと想像しています。そもそも男性自身があまり悩みを語り合う場所がなかったりですとか、悩み事そのものを話していいというふうに思っていない方もおられたりとか、そういったことですかね。
無言電話もすごく多くて、 話し始めるまでを例えば飛行機の滑走路に例えたりするんですけれども、悩み事を話すまでがとても長い方がおられる。

――迷ったり、しゅん巡されたりするわけですね? 男らしくないと思って。

福島:
そうですね。電話をかけるまでにも「相談していいんだろうか」という葛藤があって、かけてみると、かかってしまって「どうしようか、話していいんだろうか」ということで、結局、切ってしまうみたいなことも起こっているのかなっていうことは想像したりしています。

――そこにもね、生きづらさが表れているように思いますが、福島さん自身もかつてその男らしさについて悩んだご経験があるそうですね?

福島:
そうですね。
30歳ぐらいの時に病気で仕事を辞めないといけなくなった時があって、当時結婚を考えている人がいたので、それはすごく苦しんだということがありました。「男性は収入とか職業があるということが女性と一緒にいる条件」っていうふうに、その当時は思い込んでいたので、仕事がなくなってかなり落ち込んだということがあったんですけれども。それこそ当時、私たちの相談員が話を聞いてくれてすごく救われたということがありました。

――そういったご自身の経験も踏まえて、相談を寄せてきた方々には、どういうふうに接しておられるんですか?

福島:
相談員として聞いて差し上げるというよりは、社会で生きている一人の男性として一緒の立場でという感じで。
その人の生き方であったりあり方をそのままを支えて、というようなイメージを大事にしています。
男だからといって、力を見せ合ったりですとか、相手を打ち負かしたりっていうことではなくてですね。お互いに弱さを見せあってもいいんだよって、そういう気持ちが伝わればうれしいなあなんて思ったりすることもあります。

――先ほどおっしゃったその「望まない孤独」に寄り添うという形だと思います。その原因になる「男らしさ」から解放される、自由になるというのは、なかなか簡単ではなさそうですね。

これからを生き抜くために

――男性からの相談たくさん受ける中でですね、どうすればこれからの時代を生き抜くことができるようになるとお考えですか?

福島:
そうですね。そもそもまず、いまある「男らしさ」っていうこと自体が、すべて必ずしもだめだとは私は思っていません。 男らしくあろうとすることで生き残ってこられたとか、頑張れたんだとか、ふんばれたという一面もあるんじゃないかなというふうに思います。 なので、そういった成功体験はすべて否定しなくてもよくて、それで生きていられるっていうことはすごく大事なので。
とはいえ、気をつけたいこととしては、そんな価値観、自分自身が大切にしている価値観そのものを目の前にいる人に押しつけてしまうと、ハラスメントやDV・虐待につながってしまう、相手を傷つけてしまうということがあるので、そこはお互いに共通理解として持っておく。周りの人たちと折り合いをつけながらつきあっていくということが大切なのかなというふうに思います。

大事なことは、いまある「男らしさ」っていうのを1つの基準として、自分自身はどうなのかとか、他の人とどう同じで、どう違っているのかというような立ち位置を気にして確認していくことが大切かなと思います。一番お願いしたいのは、「しんどいな」と感じたら我慢せずに手放すといったことをね、相談していただくということを意識していただくのがいいのかなと思っています。

――社会や世間ではなくて自分がどう感じるかどうかに、もっと目を向けるということでしょうか?

福島:
これまでの価値観を、自分の生き方を考える材料とすればいいのかなというふうにも思います。周りに無理に合わせる必要もないし、新しい男性像を追い求めることもしなくていいのかなと。いろんな男性像があっていいんだと。今からの時代、そういうのがあっていいんだと思います。
だから「一つの価値観に縛られると、これだけしんどい思いが生まれてしまうんだぞ」っていうことは忘れないようにしていきたいなというふうに思います。「新しい男性はこうあるべき」という縛りが今後生まれないということも、一つ大切にしていきたいことになるのかなと思っています。

男性に向けた発信の必要性

――リスナーの方からもいろいろ反響がありますが、その中の一つ。
「そんな伝統的な男らしさなんかにとらわれず、それぞれ自分なりの男らしさを追求していけばいいんじゃないか? 愚痴を言ったりメソメソしたりしたっていいじゃん」といただいています。
社会全体で見ますと「女性の活躍」が叫ばれて、これまでのあり方は変わっていこうとしています。男性についても価値観・生き方が変わっていってもよいということが、もっと広がって浸透していくといいですね。

福島:
そうですね。女性の活躍というのはとても大切なことですし、間違いないことだと思います。
ただ、そればかりを強調されてしまうと、男性からすると何か奪われたり失われたりっていう感覚が、多分強くなるのかなと思うんですけれども、それはすごく自然なことで。

だからこそ「男性にとって女性が活躍することでどんないい社会がやって来るのか」ということを積極的に発信されていくということが、これからすごく大切になるのかなと思っています。

例えば女性が働きやすくなることで収入が増えて、男性は家庭を支えるというところから解放されるようになったりするでしょうし、子育てについても経済的な理由で今までは男性が支えていたところが、男性が子育てをするという選択肢も出てくるかもしれないというふうになると、男性自身にも女性が活躍することで、「生き方の幅が生まれてくる」ということがあるんじゃないかなと思うので。

社会の枠組みとか影響を与えられるようなリーダーにこそ、こういったことを発信していただけたらうれしいなと。男性が置き去りにされない施策だと分かれば、男性も安心して受け入れられるようになるんじゃないかなと思います。

【福島さんたちの相談先】
一般社団法人「日本男性相談フォーラム」 『男』悩みのホットライン(相談料は無料 通話料は相談者負担)
06-6945-0252(毎月 第1・第2・第3月曜 夜7時~9時)
全国各地にある男性専用の相談所は、ポータルサイト「オトココロネット」で閲覧可能。


【放送】
2023/11/28 「マイあさ!」

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