もはや食料品価格は下がらない! 日本の食料確保は大丈夫か?

23/03/20まで

けさの“聞きたい”

放送日:2023/03/13

#インタビュー#経済#たべもの#世界情勢

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23/03/20 7:40まで

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食料品の値上げが止まりません。価格高騰はいつまで続くのでしょうか。また食料安全保障の問題も注目される中、改善されない日本の食料自給率はどうすればいいのでしょうか。元東北大学教授の盛田清秀さんに聞きました。(聞き手・野村正育キャスター)

【出演者】
盛田:盛田清秀さん(元東北大学教授)

価格は、もう元には戻らない

――気になる食料品の値上げが止まりません。この価格高騰はいつまで続くのですか?

盛田: 世界の食料需給というのは21世紀に入って≪過剰から不足へ≫抜本的に転換しました。食料価格は今、歴史上かつてない最高水準になっていて、この値上げがいつまで続くのか? 確かな見通しは難しいんですけれども、一度上がったこの食料品価格が以前の水準にまで下がることはないでしょう。私自身は、これは20年、30年と続いていくのではないかと見てみます。

――価格上昇の動きが止まれば、それまでの反動で価格が下がるということにはならないですか?

盛田: 20世紀には、FAO・国連食糧農業機関とかIMF・国際通貨基金などの国際機関がおしなべて「世界はもう食料不足に陥ることはない」とか「世界の食料問題は解決した」と考えていて、そうした認識が一般的だったんです。実際に何らかの原因でいったん価格が上がることがあっても、せいぜい数年で元の水準に戻っていました。

ところが21世紀になり、2006年・2007年にオーストラリアで大干ばつが起きたことがきっかけで穀物価格が上昇して食料価格が上がった時に、最初は「これは時々起きていることなので、そのうちまた元に戻る」と考えられたんですが、しかしそうはならなかった。それで現在では「価格はもう元には戻らない」というのが国際社会の共通認識になっています。

この点については、「円安」とか「ウクライナ戦争」が原因だと思っている方もいると思います。確かにそれは食料価格がこのように極端に上がった原因の1つです。しかし、この戦争が終わったとしても、価格が大幅に下がるとか元の価格に戻ることはないと考えていいと思います。

食料品価格が下がらない背景

――価格高騰は一時的、一過性のものではないと。では、その食料品の価格が下がらない背景はどういうことなんですか?

盛田: それまで当然だと思われていた前提が劇的に変化してしまったんです。それを私たちは「パラダイムシフト」であるとか「枠組みの転換」っていうふうに捉えておりますけれども、その原因は主に3つあります。

第1は「世界人口の増加」です。人口が増えれば食料需要が増えていくのは当たり前ですね。それに加えて世界人口の4割近くを占めるインド・中国などの新興経済大国の経済成長があります。経済成長すると一人一人が豊かになりますから、食料需要もそれに合わせて増えるんですね。これがかなり大きく作用しているわけです。ただし、この点は20世紀に予想されていたことで想定内だったんですね。

ところが近年、想定外の要因も出てきました。
1つは「バイオ燃料」の登場で、トウモロコシなどの穀物類がバイオ燃料に使われるようになったんです。例を挙げると、トウモロコシの世界最大の生産国であるアメリカは1国で世界のトウモロコシの3分の1を生産していますが、その4割近くが今やバイオ燃料に使われています。つまり食べるのではなく、燃料に加工して燃やしてしまっているから影響が大きい。これが第2の原因です。

それから想定外のもう1つは、「地球温暖化」です。干ばつとか洪水とか台風とか激甚災害が頻発していますけれども、この地球温暖化というのは食料生産にも脅威になっていて、生産を抑制する方向に作用しています。これが第3の原因です。

IMF・国際通貨基金がまとめた穀物・肉・野菜・果物などの食料と飲料を含めた「食料飲料価格指数」は、30年で2.54倍に上昇した。

盛田: こうした固定的要因はもう元に戻らないってことを意味するんですが、需要は増大する一方で、供給は減少・停滞する。したがって食料不足が起きる、食料価格も上がるということです。ちなみにIMF・国際通貨基金が「食料飲料価格指数」を公表していますが、1992年と2022年の30年間で食料の総合価格指数が2.5倍以上になっているんですね。こうした理由があり、この21世紀になって高騰した食料価格が元に戻ることは、もはやないと見られています。

――日本にも大きな影響がありますよね?

盛田: あります。食料価格の高騰というのは日本経済の動向とも密接に関係しています。わが国の経済力は相対的に後退していますけれども、日本が食料調達で他国に買い負けてしまうという状況が起きています。日本の買い負けというのはエビやマグロから始まって少し前から話題にもなっていますが、それがいろんな食料に広がって、近年では穀物類などの基礎食料の調達を心配するほどにまでなっています。

あまり意識されていないかもしれませんが、食料は比較的「単価」が高いんですね。そうすると、食料輸入による赤字が、日本の貿易赤字全体を拡大するという負担にもなってきています。これは実は100年前にイギリスが経験したことで、当時イギリスは「パックスブリタニカ」と言われて超大国だったんですが、経済力が衰退してきて食料輸入のための貿易赤字が大きな問題になったことがありました。日本も徐々にそういう段階になってきているということですね。

で、そうなってくると食料安全保障の問題もあり、日本の農業をこのままの状態にしておいてよいのかということになる。世界の食料需給が≪過剰から不足へ≫と転換しているので、自給率問題はいよいよ本格的に考え直さなければいけない時代になっていると思います。

日本は食料を確保できるのか

――世界的な食料問題が顕在化した今、大量に外国に依存している日本は今後も必要な食料を確保できるんでしょうか?

盛田: トウモロコシ、小麦、大豆、米といった穀物の国際価格は、20世紀後半と比べると2倍に高騰しています。こうした中で、日本はこれまで「輸入」「備蓄」「国内生産」という3つの方策で対応してきたんですね。

このうち「輸入」は、これまではけっこう安上がりだったんですが、その結果として自給率が37~38%になってしまった。それで現在は円安ということもあり、輸送費が上昇して輸入コスト全体が上がってしまったので、外国頼みの輸入というのは苦しくなってきているというのが実情です。しかも、食料不足が起きるとどの国も自国優先になりますから、輸出規制を簡単にかけてしまうんですね。だから、いざという時に輸入は当てにできないのでリスクが高いと言えます。ウクライナ戦争が始まって、現在まさにそれを実感しているところですね。

2番目の「備蓄」ですけれども、現在、米の100万トンをはじめ、小麦やトウモロコシを数か月分程度備蓄しています。これは2011年の東日本大震災のときには大きな助けになったんです。しかし、備蓄というのは保管などでかなりコストがかかるので、過度に依存できるものではないんですね。

3番目の「国内生産」は、実はこれまで不利といわれて輸入を拡大してきたんですが、現在ではコストも含めて、あるいは安定性も含めて、一番頼れる存在となってきています。

水田でカロリー作物の増産を

――日本の食料自給率は低く、現在38%ですが、具体的にどうすれば改善できますか?

盛田: 国は「食料・農業・農村基本計画」というのを2000年以来、5年ごとに策定していて、現在は2020年に策定した5回目の基本計画というものがあり、7年後の2030年で「食料自給率45%」を目指しています。

しかし、このままの状態では2030年に45%まで引き上げるというのは難しいかなと思われます。ではどうしたらいいかということになりますが、食料自給率を引き上げるということで言うと、米・麦・大豆などの穀物類を中心とした「カロリー作物」の増産がカギになり、そこで考えられるのは、日本の伝統的な食文化である米の消費を拡大する。それから水田の機能を生かした食料の増産を図ることが挙げられると思います。

米は、現在まで消費量の減少がずっと続いてきています。でも皆さんが毎日感じられていると思うんですが、国内生産に支えられた米価は上昇していないんですね。スーパーに行くと5kgを2000~3000円で買え、割安で家計にも優しいんです。ですから米粉を含めて米の消費拡大を図ることが大切だと思います。そのためには、やはり消費者の意識も変わる必要がありますし、そもそも日本型の食生活は健康にもいいので、それを見直してほしいなと思いますね。

それから水田というのは、実は優秀な生産装置です。現在は減反政策によって水田で57%しか米を作っていませんけれども、その残りの43%でもっと麦類とか大豆などのカロリー作物を作っていくことが必要なのかなと思います。現在、小麦の自給率はたったの16%、大豆は6%なんですね。こういったものを水田で増産していくと、かなり事態は改善されるのではないかと思っています。また、二毛作を行うことも考えていく必要がありますね。

日常生活で食品ロスの削減を

――「食品ロス」の問題もあります。増産しつつ、使う分を減らしていかなければいけないという課題もあるかと思うんですが、どうでしょうか?

盛田: さきほど申し上げた長期的な対策のほかに、国民一人一人が取り組めるのが「食品ロスの削減」です。自給率というのは、1年間の消費量のうちの国産の割合なんですね。つまり1年間の消費量自体を食品ロスを減らすことで抑えれば、それがそのまま自給率の向上につながっていくことになるわけです。だから長期的視点に立った取り組みを強力に実行していくことと、国民一人一人が日常生活でできることをする。その両面で取り組んでいくことが大切だと思います。

【放送】
2023/03/13 「マイあさ!」 けさの“聞きたい”「止まらぬ食料品価格の高騰 食料自給率を上げるカギは」盛田清秀さん(元東北大学教授)

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