突然ですが、もしも車に乗るなら、あなたはどんな車を選びますか? 街乗りが中心なら、コンパクトカー。アウトドアやレジャーを楽しむならワゴンやSUV。子育て世代はファミリーカー。ライフスタイルや用途によって選ぶ車は変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか? 実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!
【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー
タツオ:
ごきげんよう、東北芸術工科大学所属のお笑い芸人、サンキュータツオです。
柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。
タツオ:
きょうも国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。
恒例の街頭インタビューです。今回は似ている二つの言葉の違いについて聞きました。
街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典なら、「ごみ」と「くず」の違いをどう説明しますか?
柘植:
違いを考えたことありますか?
タツオ:
僕はずっと考えていますが、街行く人たちはどう説明したのかお聴きください。
- くずは小さい感じのもの。ごみはちょっと大きめのもの。
- くずは軽く、ごみは実態がはっきりあるもの。
- 何かをしたときに出るちっちゃいやつがくず。ごみはペットボトルのような大きなやつ。
- ごみはとても大きく自分にとって不要なもの。くずはごみが細かくなったもの。
- くずはもともと使えない。ごみは使えたが、今になっては使えないもの。
柘植:
大きさで比較する人が多かったですね。
タツオ:
国語辞典くんたちはどう説明しているのでしょうか。
岩波国語辞典 第八版の「ごみ」は、使って役に立たなくなった紙くずや食物のくず、その他の廃棄物。「ごみみたいな(=価値の乏しい)論文が多い」という用例が載っています。たまに岩波くんはこういった毒舌を放り込んできますね(笑)。「使って役に立たなくなった」ということは、前は使えていたことで、粗大ごみはその典型ですね。「紙くずや食物のくず」と書いてあるので「くず」の集合体が「ごみ」なのかな?
柘植:
「ごみ」の説明に「くず」が入っていますね。
タツオ:
では「くず」はどう説明しているのか。①物のかけら・切れ端などで、何の役にも立たない物。②比喩的に、役にも立たず価値も無いもの。「人間のくず」。③良い部分を選び分けた、または、使った残り。「くず繭」「野菜くず」。
三省堂国語辞典 第八版の「ごみ」には、①土・砂・紙切れなどの細かい、きたないもの。ちり。塵芥(じんかい)、「目にごみがはいる」。目に「くずがはいる」って言わないよね。でも目に入るのは小さいものですよね。細かいものという意味で「くずがはいる」って言えないのか不思議ですね。②〈使えなくなって/いらなくなって〉すてたもの。僕は家にたくさん国語辞典があります。もちろん僕は使っています。でも母親は「こんなごみは早く捨ててよ」って言います。人によって捉え方が違うんですよね。
柘植:
いる/いらないがね(笑)。
タツオ:
だから捨てた瞬間に「ごみ」になるけど、家にあれば「ごみ」じゃないということなんです。③価値のないもの。「ごみ同様にあつかわれる・データのごみ〔目的外の不要部分〕」。価値がないということですね。そして、三省堂国語辞典 第八版の「くず」には、①細かく割れたり、粉状になったりして、使えないもの。と書いてあります。「ごみ」の細かいきたないものと比較した場合、「細かく割れたり、粉状になったりして、使えないもの」と書いてありますよね。つまり、もとは使えたものの一部だった「くず」はきたなくないんです。①の用例では「材木のくず・パンくず・くず 米(まい)」と書いてあります。②使ったあとに残る、役に立たない部分。「野菜くず」。 ③箱などに捨てられる大きさの、いらなくなったもの。ごみ。③でようやく箱に入れられるくらいの小ささに触れています。「紙くず・くずばこ・くず入れ・くずかご」という用例が書いてあります。そして、④役に立たないもの。かす。「人間のくず」。
柘植:
「人間のくず」の用例はよく出てきますね(笑)。
タツオ:
本当は役立てようと思えば役立てたはずなのに、結果的に劣化とかでなく役に立たなくなったんですね。
明鏡国語辞典 第三版の「ごみ」は、自然にたまるきたないもの。ほこり。また、不要になって捨てられるもの。「ごみ箱」「生ごみ・粗大ごみ」と書いてあります。そして「くず」は、①ちぎれたり砕けたりして役に立たなくなったもの。つまり「くず」が先で「ごみ」が後かもしれないですね。 そして、②には、役に立たない、つまらないもの。「人間のくずだ」とあります。
柘植:
出ました! 人間のくず。
タツオ:
この「ごみ」と「くず」の違いをわかりやすく紹介しているのが、小学生向けの国語辞典、小学館 例解学習国語辞典 第九版です。ここに「ごみ」と「くず」の違い分け表が出ています。例えば、「目に~が入る」だと「ごみ」はあるけど「くず」は入りませんね。また、「パンの~」に「くず」は使えるけど「ごみ」はないよね。「道のごみをはく」とは言うけど「道のくずをはく」とは言いませんよね。で、最後に「あいつは人間のくずだ」と書いてあります。人間のくずは安定していますね(笑)。
柘植:
でも、こうやって「使える/使えない」と表になっているとわかりやすいですね。
タツオ:
「ごみ」は自然にたまるから道にもあるけれど、「くず」は人の手が入っているということなんですね。もちろん細かさもありますし、残ったものであって、きたなくないんです。各国語辞典が「ごみ」と「くず」の違いにめちゃくちゃ苦労しているのがわかりましたね。