【国語辞典サーフィン】人間にクズはいるけどゴミはいない?

24/02/24まで

国語辞典サーフィン

放送日:2024/02/17

#学び#勉強#お笑い

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突然ですが、もしも車に乗るなら、あなたはどんな車を選びますか?  街乗りが中心なら、コンパクトカー。アウトドアやレジャーを楽しむならワゴンやSUV。子育て世代はファミリーカー。ライフスタイルや用途によって選ぶ車は変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか? 実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー


タツオ:
ごきげんよう、東北芸術工科大学所属のお笑い芸人、サンキュータツオです。

柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。

タツオ:
きょうも国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。
恒例の街頭インタビューです。今回は似ている二つの言葉の違いについて聞きました。
街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典なら、「ごみ」と「くず」の違いをどう説明しますか?

柘植:
違いを考えたことありますか?

タツオ:
僕はずっと考えていますが、街行く人たちはどう説明したのかお聴きください。

  • くずは小さい感じのもの。ごみはちょっと大きめのもの。
  • くずは軽く、ごみは実態がはっきりあるもの。
  • 何かをしたときに出るちっちゃいやつがくず。ごみはペットボトルのような大きなやつ。
  • ごみはとても大きく自分にとって不要なもの。くずはごみが細かくなったもの。
  • くずはもともと使えない。ごみは使えたが、今になっては使えないもの。

柘植:
大きさで比較する人が多かったですね。

タツオ:
国語辞典くんたちはどう説明しているのでしょうか。
岩波国語辞典 第八版の「ごみ」は、使って役に立たなくなった紙くずや食物のくず、その他の廃棄物。「ごみみたいな(=価値の乏しい)論文が多い」という用例が載っています。たまに岩波くんはこういった毒舌を放り込んできますね(笑)。「使って役に立たなくなった」ということは、前は使えていたことで、粗大ごみはその典型ですね。「紙くずや食物のくず」と書いてあるので「くず」の集合体が「ごみ」なのかな?

柘植:
「ごみ」の説明に「くず」が入っていますね。

タツオ:
では「くず」はどう説明しているのか。①物のかけら・切れ端などで、何の役にも立たない物。②比喩的に、役にも立たず価値も無いもの。「人間のくず」。③良い部分を選び分けた、または、使った残り。「くず繭」「野菜くず」。
三省堂国語辞典 第八版の「ごみ」には、①土・砂・紙切れなどの細かい、きたないもの。ちり。塵芥(じんかい)、「目にごみがはいる」。目に「くずがはいる」って言わないよね。でも目に入るのは小さいものですよね。細かいものという意味で「くずがはいる」って言えないのか不思議ですね。②〈使えなくなって/いらなくなって〉すてたもの。僕は家にたくさん国語辞典があります。もちろん僕は使っています。でも母親は「こんなごみは早く捨ててよ」って言います。人によって捉え方が違うんですよね。

柘植:
いる/いらないがね(笑)。

タツオ:
だから捨てた瞬間に「ごみ」になるけど、家にあれば「ごみ」じゃないということなんです。③価値のないもの。「ごみ同様にあつかわれる・データのごみ〔目的外の不要部分〕」。価値がないということですね。そして、三省堂国語辞典 第八版の「くず」には、①細かく割れたり、粉状になったりして、使えないもの。と書いてあります。「ごみ」の細かいきたないものと比較した場合、「細かく割れたり、粉状になったりして、使えないもの」と書いてありますよね。つまり、もとは使えたものの一部だった「くず」はきたなくないんです。①の用例では「材木のくず・パンくず・くず 米(まい)」と書いてあります。②使ったあとに残る、役に立たない部分。「野菜くず」。 ③箱などに捨てられる大きさの、いらなくなったもの。ごみ。③でようやく箱に入れられるくらいの小ささに触れています。「紙くず・くずばこ・くず入れ・くずかご」という用例が書いてあります。そして、④役に立たないもの。かす。「人間のくず」。

柘植:
「人間のくず」の用例はよく出てきますね(笑)。

タツオ:
本当は役立てようと思えば役立てたはずなのに、結果的に劣化とかでなく役に立たなくなったんですね。
明鏡国語辞典 第三版の「ごみ」は、自然にたまるきたないもの。ほこり。また、不要になって捨てられるもの。「ごみ箱」「生ごみ・粗大ごみ」と書いてあります。そして「くず」は、①ちぎれたり砕けたりして役に立たなくなったもの。つまり「くず」が先で「ごみ」が後かもしれないですね。 そして、②には、役に立たない、つまらないもの。「人間のくずだ」とあります。

柘植:
出ました! 人間のくず。

タツオ:
この「ごみ」と「くず」の違いをわかりやすく紹介しているのが、小学生向けの国語辞典、小学館 例解学習国語辞典 第九版です。ここに「ごみ」と「くず」の違い分け表が出ています。例えば、「目に~が入る」だと「ごみ」はあるけど「くず」は入りませんね。また、「パンの~」に「くず」は使えるけど「ごみ」はないよね。「道のごみをはく」とは言うけど「道のくずをはく」とは言いませんよね。で、最後に「あいつは人間のくずだ」と書いてあります。人間のくずは安定していますね(笑)。

柘植:
でも、こうやって「使える/使えない」と表になっているとわかりやすいですね。

タツオ:
「ごみ」は自然にたまるから道にもあるけれど、「くず」は人の手が入っているということなんですね。もちろん細かさもありますし、残ったものであって、きたなくないんです。各国語辞典が「ごみ」と「くず」の違いにめちゃくちゃ苦労しているのがわかりましたね。

おたより紹介

私は60歳。孫がいてもおかしくない年齢です。しかし、接客業の仕事なので、老若男女のお客さんから「おねえさん」と呼ばれます。「おねえさんはどう思いますか?」「おねえさんのオススメは何ですか?」「おねえさんに聞きたいんですけど」。手をあげて「おねえさん、ちょっと」など、還暦を迎えた身には違和感をおぼえます。私は「ご自身」「スタッフさん」「ちょっとお願いします」などが適当なのではと思います。(京都府・女子会やめてお茶会さん)

タツオ:
これは難しい問題で、三省堂国語辞典の「おねえさん」は、(見知らぬ)若い女性を〈親しんで/なれなれしく〉呼ぶ言い方。「ちょっと、そこのおねえさん・レジのおねえさん」と用例が載っているので、ここでは若い女性だと言っているんですね。
新明解国語辞典の運用(3)でも、若い女性に呼びかける(を指して言う)のにも用いられる。例「ちょっとお姉さん/あのお姉さんにきいてみよう」と引用しています。
しかし、明鏡国語辞典では、姉や若い女性を親しんで、また高めて呼ぶ語。と書いてあるので、若い女性と限定する必要ないと思いますが、つまり丁寧語ということなんですね。
僕が漫才で出演している演芸場では、年上の女性の芸人さんに対しては、かならず「おねえさん」と呼ぶ習わしがあるんですよ。

柘植:
“〇〇ねえさん”ですね。

タツオ:
お名前で呼んでもいいんですけど、そこはファミリーとして、自分より上の人に敬意を表すということで「おねえさん/おにいさん」って呼んだりしますね。でもいまさら「若い女性」という言い方も国語辞典どうなんだ? と僕はひと言申し上げたい。59歳から見て60歳は「おねえさん」じゃないですか?

柘植:
そうですよね。

タツオ:
でも呼ぶ人の年齢と、呼ばれる人の年齢差について、もうちょっと注目してもらいたいです。あと「おばさん/おじさん」という呼び方が、少し失礼な感じになってきている。むしろ自嘲気味に自分を「〇〇おじさん/〇〇おばさん」って呼ぶような、以前番組でも取り上げましたけど、そういう文化が広まってきてる中で、そういうニュアンスを避けるために、「おにいさん/おねえさん」って言う人もいらっしゃるのかと思いますけれども。本当に苦しんだときは「ちょっとそこの方」って言うしかないんですけれども、それを受け入れてもいいんじゃないでしょうか?
それが本当に「おねえさん」を出した“いい大人”ということなのかもしれないですね。

柘植:
親しみと高める気持ちが相手にあるということですもんね。

タツオ:
明鏡国語辞典ではそう言っていますね。
岩波国語辞典 第八版の②の意味では、女性を指す、言い方。㋑旅館・料理屋等の女中。㋒芸者等が先輩を呼ぶ言い方。もちろん㋐の意味に(見知らぬ)若い女性を呼ぶ言い方。という説明もあるのですが、接客とかの女性については、㋑の「女中」という意味合いを広げて使っているのかもしれないし、そこに年齢はあまり関係ない。そのことにいち早く気がついた岩波国語辞典を僕は高く評価したいと思います。


タツオ:
国語辞典サーフィンいかがでしたでしょうか? 柘植おねえさん。

柘植:
なんだか漫才師みたいですね(笑)。

タツオ:
それではまた国語辞典を開いて言葉の波を一緒に楽しんでいきましょう。

柘植:
お相手は柘植恵水と。

タツオ:
サンキュータツオでした。ごきげんよう。

国語辞典サーフィン

ラジオ第1
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2024/02/17 「国語辞典サーフィン」

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